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希望みつけた:基町小・世界なかよし教室/下 多文化共生担う地域 /広島

 ◇統廃合に反発「教育環境守れぬ」

 外国にルーツを持つ子どもが約4割を占める中区の広島市立基町小(児童133人)。きめ細かく日本語が学べる「世界なかよし教室」のほかに、もう一つ、子どもたちにとっての「安心基盤」がある。多文化共生を目指す「地域」の存在だ。

 72年の創立当時から学校を見守ってきた基町地区社会福祉協議会会長、徳弘親利さん(68)。旧満州(中国東北部)で生まれ、4歳で終戦を迎えた。混乱の中、母とはぐれないように体を縛って貨物列車の屋根に飛び乗った。日本人が旧ソ連兵に撃ち殺されたのも見た。逃避行の末、46年に帰国。当時、中国では多くの日本人の子が家族と死別・離別し、「残留孤児」となった。

 徳弘さんは、基町に来た中国からの帰国者や外国人たちに温かい手を差し伸べてきた。原爆犠牲者を追悼する8月の盆踊りでは浴衣を貸し出して一緒に踊る。「あなたたちも基町の水を飲んだんだから、一緒にやってくれ、いうて誘うんです」。将棋大会、本川でのハゼ釣り大会、高齢者による子どもたちの見守り活動……。国籍や世代を超えた交流が生まれている。

 基町小の佛圓弘修(ぶつえんひろのぶ)校長(54)は「日本人と、帰国者・外国人が40年かけて歩み寄ってこられた結晶がここにはある」と表現する。「こうした関係性が学校現場で生かされる。逆に学校での国境を超えた『学び合い』が地域をも豊かにする。この『まちぐるみの教育』は基町でしかできないもの」。徳弘さんは「学校あっての地域、地域あっての学校なんです」。

 その基町に1月、衝撃が走った。基町小を北東400メートルの白島小(児童398人)に統廃合するという市教委の計画素案が明らかになったのだ。徳弘さんたちは「統廃合の白紙撤回を求める会」を結成。「学校がなくなれば、きめ細かい日本語指導などの機会が失われる。地域と学校の結びつきも薄まる」と危機感を募らせる。一方、市教委は基町小の児童は将来的にも減少すると試算し、「小規模化した学校では児童が切磋琢磨(せっさたくま)する機会が少なくなる」と理由を説明する。

 徳弘さんはある時、地域の子どもから「学校なくなるんね」と泣きながら聞かれた。徳弘さんは「おいちゃんたちが頑張るから大丈夫。一生懸命勉強せえよ」と返した。異国から不安を抱えて来た子が、日本語を身に着け「生きる希望」を手にしていった学びの場。いま統廃合に揺れている。【樋口岳大】

 ■プラス1

 ◇子どもの安心感奪うな

 昨春まで阪神支局(兵庫県尼崎市)で約3年、中国残留孤児を取材した。そこで、多くの人が悩んでいたのが子どもの教育問題だった。日本語が話せないために、いじめを受けたり、進学や就職で苦しんだりする若者たちを見た。「せめて来日時に、きちんと日本語が学べていれば」。こう思ったのは一度や二度ではない。

 広島で基町小の「世界なかよし教室」を取材し、目からうろこが落ちる思いがした。こうしたきめ細かい、まちぐるみの教育が全国のあらゆる地域で受けられるようになってほしいと願う。子どもが「言葉の問題」でつまづくリスクが格段に減るだろう。

 行政は統廃合などを「適正配置」と表現する。適正な教育環境とは何だろうか。学校の規模や児童数で決まるのではなく、子どもが安心して学習内容を理解しながら学べることが、最も重要ではないのか。関係者は一度、「世界なかよし教室」をのぞいてほしい。子どもの表情や声、仕草の中に、きっと答えが見つかるはずだ。【樋口岳大】

毎日新聞 2010年4月30日 地方版

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