東京医大八王子医療センターの生体肝移植で死亡例が相次いだ問題をめぐる内部文書を入手
東京医科大学八王子医療センターの生体肝移植で、死亡例が相次いだ問題をめぐる内部文書をFNNが入手した。
文書には、危機感を持った現場からの疑問や対策を訴える声にもかかわらず、移植が続けられた経緯など、驚くべき実態が記されていた。
最後の治療手段である生体肝移植で相次いだ患者の死亡、疑問を抱いた現場スタッフの声を黙殺した病院幹部たち、大学病院が伏せてきた実態を取材した。
東京・多摩地区の基幹病院となっている東京医科大学八王子医療センターでは、2000年に先端医療のプロジェクトとして、生体肝移植をスタートさせた。
生体肝移植は、B型やC型肝炎などが進行した患者の肝臓をすべて取り出し、健康な人の肝臓の一部と入れ替えるもので、手術の難易度が極めて高く、移植後の管理も知識と経験を要求される。
東京医大八王子医療センターでは、52例の生体肝移植を実施したが、そのうち23例が術後、1年以内に死亡していたことが表面化し、東京医大は生体肝移植を一時中断することを決定した。
東京医科大学八王子医療センターの高澤謙二センター長は、「これは医療過誤とか、何か医療行為を逸脱したことをやって起こってしまったことではなく、非常に難しい症例の方が多かったという」と話した。
東京医大は、外部の専門家を交えた検証委員会を設置し、その報告を受けて、生体肝移植の責任者である第5外科教授を停職3カ月、センター長らを厳重注意の処分にして、事態の収拾を図った。
しかし、今回、FNNは東京医大の内部資料を入手した。
資料には、記者会見では明らかにされなかった事実が記されていた。
八王子医療センターの看護師の話として、「肝移植をした患者さんが少し亡くなり過ぎているのではないかというようなことで、何年か前に『肝移植の死亡率を調べてください』と」と書かれていた。
また、生体肝移植チームの医師Aの話として、「教授とか准教授に『ちょっとこのまま続けていけるのか』と、そういう疑問は投げかけたことはありますけれども」とあった。
さらに、生体肝移植に関係した医師Aの話として、「大量出血が数例続いた段階で、改善すべきものは改善する必要があるということで、第5外科への働きかけを危機管理の責任者に複数の麻酔科医がお願いしたが、『放っておけばいい。いずれ墓穴を掘るから』と言って、取り合ってくれなかった」と書かれていた。
現場スタッフは、相次ぐ患者の死亡に危機感を募らせ、上司や担当教授に対策を訴えていた。
しかし、八王子医療センターの病院幹部の話として、「余りに亡くなる方が多いんで、どうしましょうかって相談、何回もありましたんで。『でもまあ、様子見ていいんじゃないか』って言っちゃった私が悪いんですけど。もっと早く手を打っておけば、こんなことになんなかったかもしれません」と書かれていた。
東京医大の内部文書の1つ、生体肝移植を受けた患者52人のリスト。
そこには、手術中に起きたトラブルや、出血量が3万cc、5万ccと、体内の血液が何回も入れ替わるほど、おびただしい量が記され、厳しい手術の状況が伺える。
この東京医大八王子医療センターの生体肝移植を指導していたのが、元京都大学教授・田中紘一医師。
生体肝移植の世界的な権威として、手がけた手術は2,000例余りで、国内35の病院でも、生体肝移植の指導を行ってきた。
神戸国際医療交流財団・理事長で元京都大学教授の田中紘一医師は、「京都大学の移植も週2回やって、しかも京都大学での責任がある、そういう中で私の限られた時間内でのサポートというのをやってきた」と語った。
52例すべての手術に田中医師側の協力を得ていた東京医大八王子医療センターだが、生体肝移植の成功を示す術後1年の生存率は55.7%と、全国平均の82.5%を大きく下回っていた。
1年生存率の低さについて、田中医師は「いろんな複合的な因子があり、それに参加した自分としても、それはやっぱり責任はあると思います」、「できたら、そこ(指導先)の病院の人たちを育てたいわけですよ。育てるには、ギリギリ、その人たちの手術を見てあげないといけない」と話した。
田中医師は、指導者としての責任を認める一方で、東京医大が一度も単独で生体肝移植を行えなかった理由を語った。
田中医師は「通常はさ、学びながら育つという、自ら自立していく、それがまあ通常の姿でしたけど。一番、トータルの意味で欠如しているのは、やっぱりチームワークにもう尽きるわけですね」と話した。
これに対して、東京医大の幹部らは、田中医師についてある発言をしていた。
裁定委員会・第3回議事録には、「死亡例の17例は、術者(執刀医)は田中先生。田中先生自身の手技(テクニック)の中で問題になっているところがある」とある。
また、裁定委員会・第2回議事録には、「より小さい肝臓を移植する、それをうちは実験的にやられていたのではないか」とある。
このことについて、田中医師は「うーん、そういうとらえ方ですかという、ちょっと寂しい思いはする」、「(東京医大に対して)検証委員会でやる時には、わたしにもどうぞインタビューしてくださいという、そういうお願いはしていたんです」、「(しかし、結局は?)わたしには、何もインタビューもなかった」と話した。
状況を最もよく知る田中医師に対して、まったく調査を行わず、事態の収拾を図ろうとしていた東京医大。
理事長の伊東 洋氏に説明を求めたが、取材には応じてくれなかった。
東京医大は、FNNの指摘を受け、内部資料の存在を認めたうえで、これまで放置してきた事実関係の調査に乗り出し、5月までに結果をまとめるという。
生体肝移植で相次いだ死亡ケースは、未然に食い止めることはできなかったのか、大学側の安全管理が問われている。
(04/30 00:19)