Artist KREVA × Director 大喜多正毅 特別対談
曲を聴いた瞬間にミュージックビデオの企画がバッと頭に浮かんだ
──「BEST MALE VIDEO」の受賞おめでとうございます。先程KREVAさんが「撮影が終わった瞬間から『これはいけるねー!』という感覚を2人とも持った」とお話されてましたが、それはどんなところが?
KREVA アイデア出して1回撮ってそれを観てという、制作過程すべてですね。正確に言うと「これが何か賞を獲らないんだとしたらちょっと日本やばいな」って思った(笑)。これをちゃんと評価できないんだったらちょっと嫌だなって。そんぐらいなんか、キテたんですよね。
大喜多 僕は、最初に「瞬間speechless」を聴いた瞬間に、歌詞の内容とこのビデオの企画自体がバッと頭に浮かんだんですよ。恋に落ちる一瞬、世の中が止まるあの瞬間を映像化したら、曲がすごくよく聴こえるだろうなと思って。で、最初の打ち合わせでKREVAくんのところにアイデアを持っていったときに「それやろう! 面白そうだからやってみよう!」ってノってくれて。それから本番までずっと問題なく、次から次へといろんなアイデアが膨らんでいく感じで進みましたね。
──このMVでは、KREVAさんが大喜多監督をご指名されたとのことですが。
KREVA ポイントポイントで「これは大喜多さんだね」っていう話が俺やうちのスタッフから出るんですよ。艶がある画が欲しい曲ではそうなるのかな。
「どうやって撮ってんの!?」と聞きたくなるのは、いいミュージックビデオ
──この「恋に落ちる瞬間」を具現化するというアイデアが監督から持ち込まれたときに、KREVAさんはどう思われました?
KREVA どうだったかなぁ……ミュージックビデオで“止まる”っていうのは前からやってみたくて。あと「ホームパーティ感が出せるといいな」って俺が監督に言ったのは覚えてんですけどね。
大喜多 (A4用紙に写真とテキストで構成されたラフを見せながら)たぶんこの企画書が最初のやつかな、絵コンテになる前の段階の。
KREVA でももうほぼ完成型が見えてますね。すごい。
──風船がつり下げてあるイメージとかシャンパンの泡が止まっている画とか、もう原型ができてますね。ところで、監督がこのビデオを作るにあたって一番こだわった部分はどこですか?
大喜多 人の力を生かすことかな。今はデジタルな時代だから、例えばこの企画をすごいキレイにしたり映像的にクオリティを上げたりすることは、意外と簡単だと思うんですよね。ただ、僕が今一番大事にしたい点であり、このビデオが面白いって思ってもらった部分は、人の力の部分だと思ってて。撮影のときには、KREVAさんや50人ぐらいのエキストラが「よーい、はい」の合図で瞬きもせず止まってくれるわけですよ。そういう、人の力で全部やりきるのが、僕が一番大事にしたかった部分。
──ちなみに、1カットをどれぐらいの長さで撮影したんですか?
大喜多 イントロから1番の終わりまで。
──それはフリーズするには長い時間ですね!
KREVA でも「こう映るからここはしっかり止まってくれ」っていうのをみんながキッチリ守ってくれて。オンエアされた動画コメントでも「見どころはみんながガッチリ止まってくれてるところ」って答えたんですけど、まさにそれだと思うし。しかもただ止まってるだけじゃなくて、風船みたいな小道具やライブシーンみたいなカットを取り入れたことで躍動感が出てるのがでかいよね。
──このMVを初めて観たときに「どうやって撮ったんだろうな、まさか自力で止まってるはずないよな」と思ったんですが、まさか本当に人力だとは。
KREVA 「あれどうやって撮ってんの!?」って人が聞きたくなるのは、いいミュージックビデオの条件のひとつだと思うんですよね。
大喜多 そうそう。企画を出した時点で「このビデオはこういうビデオだ」と言えたり、観終わった後に「あのビデオはこうだったね」ってはっきり言えたりするビデオは、やっぱり良い企画なんですよね。このミュージックビデオだったら「あの止まってるビデオね!」って言えるし。また、「止まってる」って言葉と「瞬間speechless」って言葉はくっつきやすいものだと思ってて。企画としてうまく絞れたなと。
KREVAの目の配り方はさすが
──これはスタッフの方に伺ったんですが、撮影中にKREVAさんが頭をぶつけてしまったそうですね。
KREVA ロケをした場所の2階の天井がすごい低かったんですよね。で、2番でカメラの後ろにダッシュで回ってラップするっていう撮影シーンがあって、そこで天井にガンッて頭打っちゃった(笑)。俺が頭ぶつけた音が、下で待機してる人にも聞こえたらしいね。
大喜多 だから俺、このビデオを観るたびにそのことを思い出す(笑)。そのカットにくると「あっあの瞬間!」って思っちゃう。
KREVA あれは結構痛かったなぁ。
大喜多 後ろ向きで歩くところだよね。「そこで10歩下がって振り返ってダッシュでポイントBまで行って!」って言ってたら……。
KREVA 痛かったなぁー。
大喜多 もうあそこのパート観るたびに……(笑)。
──これからはファンも「ここだ!」って思っちゃいますね(笑)。他に何か印象的だった出来事などありましたら。
大喜多 撮影では、現場の雰囲気が大事だと思って制作したんですね。ちょこっとしか映ってない後ろのほうにいる人まで含めて、どれだけ一生懸命“止まって”くれるかとか。その場にいる人全員が参加するべき企画だと思ってたんです。で、KREVAくんのおかげで一番助かったのが、現場でのプレビューですね。撮影して、1回観てみましょう、と40人ぐらいでちっちゃいモニターを覗きこんだとき、KREVAくんが奥のエキストラの表情を褒めるんですよ。「あの子いいね!」って。すると周りの子はみんな「よし、次のテイクはこれの倍がんばろう」と思う。そうやって現場がどんどん盛り上がって、「じゃあ次こうしよう」「あそこはもうちょっとこうしよう」って意見が出てくる。最終的に編集の段階でも同じことが起きて、最後の仕上げまでいろんな人が参加するムードのまま制作できたんですよ。
KREVAさんって、リーダーシップがあるだけでなくムードメーカーでもあるんですね。
KREVA ずっと学級委員やってたましたからね。転校したその学期に新しい学校でもう学級委員になってたぐらい(笑)。
大喜多 あはは(笑)。でもKREVAくんの目の配り方は、さすがだと思いましたね。前に映ってる子は必然的にがんばるんですけど、KREVAくんは後ろのほうの人までちゃんと見てる。「あの手の伸ばしっぷりいいよねー!」みたいに。そしてその子たちががんばると、全体の雰囲気が変わるんですよね。
人力でやり切って、さらにひと手間加えるのがプロ
──撮影はどれぐらいの期間で行ったんですか?
KREVA 半日かな。結構早かったですよね。
大喜多 動きもその日にあわせただけですね。僕らスタッフが朝の4時に現場に入って、午前中いっぱいかけていろんなパートの人の動きをつけていって。歩くコース、カメラが通るコースが決まったぐらいで、KREVAくんに現場に入ってもらって。その後は実際動いてみて無理が出てきた部分を修正して……撮影自体は4時間で終わりました。
──濃密な撮影だったんですね。
KREVA うん、楽しかったですよ。すごく。
大喜多 こういう企画って、詰めていけば詰めていくほど、あれもやりたいこれもやりたいって欲が出ると思うんですよね。今回のビデオで言えば、静止しているべきなのに誰それがほんの少し動いているカットがあった。それをどうしようかって現場で考えてたときに、KREVAくんが「でもそこが良いところでもあるよね」って言ってくれて。そう考えれば突っ込みどころにもなるし、人が作っている温もりの表れでもあるから。最後の最後まで全部をキッチリ詰めるんじゃなくて、面白い画が撮れたらOKを出そうっていう感じになれたんですよね。
KREVA やっぱりこのビデオの肝は、人力でやってるところだと思うんですよ。それはもう間違いなくて。だけど、それをさらにいいものにするには、これだけ技術が進んでる時代だからしっかり仕上げることも大事だと思うんです。ただ人力で全部やればいいってわけじゃなくて。それでいいって言っちゃうのは、なんか投げてるっていうか。人力でがんばってやり切って、最終的な仕上げ段階ではデジタル処理なりほかの技術なりで手を加えるっていうのが、今のプロがやるべきことなんじゃないのかな。それは映像だけじゃなくて音楽でもそうだと思うし。例えば、美味い野菜取ってきて「はいどうぞ」って出すこともできるけど、ちょっと火を通すとか、ひと手間加えることはできるでしょ。このビデオは、そういう仕上げまでちゃんとやったから「BEST MALE VIDEO」を受賞できたんだろうって俺は思ってて。みんながんばって演じた映像を、監督が最後にちゃんと整えてるのが評価されたんだと思う。
──人がやってるならではの、ほんの少しのユルさもあり、でもきっちりまとめてもあり。
KREVA そうなんですよ。決めの塩はちゃんと振ってあるっていうか。
大喜多 それは全体の小道具とかもそうで、例えばシャンパンが出てくる部分だけはもうすっごいこだわろうと思ってさ(笑)。あれだけは上がってきた小道具にダメ出しして、もう1回作ってもらったりして。
──ラベルが「speechless」になってて、凝ってますよね。
KREVA あ、それね、今日になって気付きました(笑)。
一同 (爆笑)
画が揺れてるようなライブ感のある映像が作りたい
──今後、また2人で何かやるとしたらチャレンジしてみたいこととか、この2人だったらこれができそうとか、何かアイデアがあったら教えてください。
KREVA 俺は今……あぁでもこれ、次やりたいと思ったことそのまんまだからなぁ(笑)。少しだけばらすと、バーンとキレイな画を撮るために固定したカメラを使うよりは、人物にくっついて回ってるような感じが俺は好きなんですよね。画が揺れてるっていうか。そういう、面白いチャレンジを監督とやりたいんです。あと、監督は英語しゃべれるんで、海外行きたいな(笑)。結構、自分は海外イケると思うんで(笑)。
──どんな国で撮ってみたいですか?
KREVA 雑多な街みたいなところに行ってみたいですね。あんまメジャーじゃないとこ。もしかしたら海外に限定するんじゃなくて、福岡とかでもいいし。ミュージックビデオが撮られたことないような街で、監督とライブ感のある映像を作ってみたいかな。
大喜多 面白い雰囲気を持った、その“場”に力がある街でね。
──では最後に、一言ずつメッセージをいただけますか。
KREVA 大喜多監督はね、撮影の時はいっつも履いてるこだわりの靴があって。あははは!(笑) 勝負靴っていうんじゃないんだけど、ユニフォーム的な、スパイク的な靴があって、それ見ると俺も盛り上がるんですよね。
大喜多 撮影って、自分のテンションを上げていかないといけないんで、自分の好きな靴を必ず履いていくんですよ。それにまた、KREVAくんが毎回気が付く。「あれ!? 前と色変わってるけど、これ同じ型だよね。あっこれ3代目!?」みたいな。それで盛り上がるんですよね。
KREVA あははは!(爆笑)そうそう、それでね、俺もアガるんですよ。そんな感じで楽しくやれてるんで。今後も、大喜多監督と一緒に仕事していきたいです。
取材・文/野口理香(ナタリー)
写真/山内聡美