黄氏暗殺指令…韓国艦沈没と関連?! 日本の拉致問題にも波及
4月29日12時59分配信 産経新聞
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元朝鮮労働党書記の黄長ヨプ氏(写真:産経新聞) |
[フォト] 北朝鮮は「北関与説は捏造」と韓国側を非難している
■「黄氏の首を取れ!」エリート工作員への極秘指令
「北朝鮮偵察総局の金英徹(キム・ヨンチョル)総局長から直接、『黄氏の首を取れ』との命令を受けた」
国家安保法違反や殺人予備陰謀容疑で今月20日に逮捕されたキム・ミョンホ(36)、トン・ミョングァン(36)両容疑者は韓国の情報機関「国家情報院」(国情院)と検察当局の調べにこう自白したという。
聯合ニュースや朝鮮日報、中央日報など韓国主要メディアの報道によると、2人は昨年11月に偵察総局から「韓国潜入指令」を受けた。中国に偽装脱北して吉林省延吉に密入国し、工作資金や携帯電話を受け取った後、タイ経由で今年1〜2月に韓国に入国した。
2人の自白によると、「黄氏の住居や黄氏が通う病院を探り、命令が下れば殺害しろ」と指示され、「任務が失敗すれば第三国の北朝鮮大使館に入り、次の命令を待て」との指令も受けていたという。その一方で、「暗殺に成功しても現場で投身自殺するつもりだった」とも供述している。
2人は10代で朝鮮人民軍に入隊、党建設に貢献したとして国旗勲章を授与されるなどし、少佐まで昇進したエリート。1992年に軍傘下の工作部隊に抜擢(ばってき)。素手で2、3人を殺害できる特殊要員教育をたたき込まれたという。
■空の玄関から堂々入国…逆利用される脱北ルート
韓国潜入では、徹底して脱北ルートが逆利用された。
まず、韓国ドラマを見せられ、韓国の英語教材で学び、自動車整備工の技術も習得した。脱北者の身分で速やかに韓国社会に定着するためだ。英語教育は北朝鮮出身者が定着の際に韓国にあふれる外来語に悩まされるためだろう。
北朝鮮北部の鉱山の運転手の身分で中国に“脱北”し、その後も現地の運送会社で働くなど、入念な身分偽装が施された。次に脱北者が利用する「脱北ブローカー」を通じてタイに渡ったが、みすみすタイ警察に拘束される。
実は「脱北者本人の意志を確かめて韓国に引き渡す」という脱北者が度々用いるタイの難民対策を逆手にとったものだった。こうして2人は韓国の空の玄関、仁川空港から堂々と入国に成功した。
だが、国情院などによる脱北者審査で落とし穴があった。
2人は「黄氏の親類という理由から昇進できず、韓国行きを決めた」などと脱北理由を説明したが、不審に思った審査官が、2人が自称した地域出身の脱北者と面会させたところ、ボロが露呈。「黄氏に接近しやすい」と安易な身分偽装を選んだことが命取りとなった。
■金賢姫元工作員訪日に影響 黄氏「全く気にしない」
2人に対する裏付け捜査が進展していた今月4日、黄氏は米国に続いて日本を訪れ、中井洽(ひろし)拉致問題担当相らと会談していた。
黄氏訪日では、日本の警察当局が厳重な警備を実施。その日程は非公開とされ、黄氏は一切、メディアの前に姿を現さなかったため、訪日の効果を疑問視する声が聞かれた。
だが、中井氏によると、具体的な事件内容は知らされなかったものの、今回の事件に絡み、韓国政府から警備に対する強い要望が寄せられていたという。
韓国で北の民主化を訴える「北朝鮮自由週間」に合わせ、拉致被害者の家族会メンバーや中井氏が25〜26日、韓国人拉致被害者団体や脱北者団体の集会に参加するため韓国入りしたが、急遽(きゅうきょ)黄氏が集会参加を取りやめ、会場も変更されるなど、暗殺計画発覚の余波が続いている。
家族会などが最も懸念するのは、1987年の大韓航空機爆破事件の実行犯、金賢姫(キム・ヒョンヒ)元工作員の日本招聘(しょうへい)への影響だ。
田口八重子さん=拉致当時(22)=と暮らした経験のある金元工作員は最近になって、横田めぐみさん=同(13)=にも「会ったことがある」との新証言を始めたため、訪日が拉致事件解決の糸口になると政府や家族らが期待していた。
しかし、27日に韓国の柳明桓外交通商相と面談した中井氏は「5月訪日の希望を伝えたが、厳しい状況だ」と語った。
暗殺計画発覚を受け、黄氏に加え、金元工作員という北出身者の重要人物の警護問題が拉致事件をめぐる日韓連携の障壁として立ちはだかっている。
ただ、渦中の黄氏は暗殺未遂発覚直後の韓国紙のインタビューで「さまざまな兆候はあったが、私は全く気にしない」と強気の構えをみせた。
■韓国艦沈没とも関連? 統一工作機関の野望
黄氏暗殺未遂に韓国当局が警戒を強めるのには、現在、韓国を揺るがしている“大事件”とも関連がある。
韓国軍哨戒艦「天安」が3月26日、北朝鮮との軍事境界線近くの黄海上で船体が突如(とつじょ)、真っ二つに割れて沈没。死者・行方不明者46人を出したが、韓国国内で北朝鮮による攻撃疑惑が日々高まっている。
今月25日には「外部の爆発が原因」との調査報告がなされたため、韓国メディアは、魚雷などによる北朝鮮の攻撃を疑う報道一色に染まっている。
哨戒艦沈没をめぐり、李明博大統領は「断固として対処する」と涙ながらに演説。「すぐ隣に世界で最も好戦的な北朝鮮という国があるという事実を改めて認識すべきだ」と国民に向けて訴えるなど、対北対決姿勢を強めている。
この哨戒艦沈没について国情院が「北朝鮮の仕業とすれば、偵察総局によるものだ」との見解を示した。さらに黄氏暗殺計画が偵察総局の指令によるものと明らかになったことで、この組織への注目が一気に高まった。
偵察総局は、朝鮮労働党作戦部と、日本人拉致を実行したとされる「35号室」(党対外情報調査部)といった党の対南、対外工作機関を軍の人民武力部偵察局のもとに一本化する形で昨年2月に発足した。
脱北者を装った韓国潜入では、2008年に逮捕された女スパイ、元正花(ウォン・ジョンファ)受刑者が知られるが、その所属は北朝鮮の秘密警察である国家安全保衛部だった。
元受刑者も組織の指示によって黄氏の居場所を探っていたとされるが、北朝鮮ではそれぞれの機関の工作員が個別に同じような任務に当たっていたことになる。この縦割り式の弊害を打破し、軍統括下に主要工作機関を再編強化したものが偵察総局だった。
工作機関統合の動きについて「軍中心体制の一層の強化の表れだ」と韓国の北朝鮮専門家はみる。中央日報によると、金正日総書記が軍創建78周年の今月25日、偵察総局を訪問して黄氏暗殺を命じたとされる金総局長の出迎えを受けたという。金総書記の偵察総局重視がかいま見える。
■暗殺計画は脱北者への宣戦布告
そもそもなぜ黄氏は暗殺の標的とされ続けるのか。
1997年に韓国に亡命した黄氏は、金日成・金正日父子2代にわたる重鎮で、北朝鮮の中心思想「主体思想」の創始者とされる。亡命者の中では、並ぶ者がない最高位者だ。
その一方で、亡命から13年もたち、金正日政権にとって暴露されて困る秘密はもはやないと言ってもいいはずだ。
今回の暗殺未遂について、北朝鮮情勢に詳しい荒木和博・拓殖大海外事情研究所教授は「親北政策をとる金大中、盧武鉉両政権で発言を押さえ込まれていた黄氏が、李明博政権になって再び金政権批判を強めていたことと関係がある」と指摘する。
北朝鮮は最近、ウェブサイトで「決して無事ではいられない」と黄氏を名指しで脅迫するなど、威圧を強めていた。
さらに黄氏が韓国在住の脱北者の象徴的存在に位置することが挙げられる。韓国在住脱北者は2万人に上り、北朝鮮国内の情報ルートを使って脱北者がもたらす内部情報が金政権に脅威を与えているとされる。
黄氏自身、自分に対する一連の攻撃に「いまや脱北者も金正日に対抗できるほどの勢力を持ったということだ」と応酬していた。
脱北者団体によると、最近、中国に一時出国した脱北者が行方不明になるなど、中朝国境地域で北朝鮮当局による脱北者掃討策の強化がうかがわれる事態が進行しているという。
荒木教授は「黄氏は主体思想をつくった人であり、金元工作員のように『韓国当局のでっち上げだ』と一方的に主張して済ませられない存在だ」と説明。「暗殺が成功しても失敗しても『脱北すれば、いつやられるか分からない』というメッセージを脱北者に送ることで、経済難に揺らぐ北朝鮮国内の引き締めにつながるとみているのではないか」と話している。
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最終更新:4月29日18時32分
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