県の受動喫煙防止条例が1日、施行された。民間も対象にした屋内施設での喫煙を規制する、全国初の取り組み。条例を提唱した松沢成文知事は「歴史的な一日」と胸を張り、子ども連れの母親らからは、条例を歓迎する声が相次いだ。ただし、県の調査では条例の内容を把握している県民は1割に満たず、制度の周知が課題となっている。【木村健二、松倉佑輔】
「本日4月1日から受動喫煙防止条例がスタートいたします。みなさんで健康的で空気がきれいな素晴らしい神奈川県をつくっていきましょう」。松沢知事は1日、横浜市港南区の京急上大岡駅前でのイベントで、条例のスタートを宣言した。「今日は日本にとって歴史的な一日になると思う。全国で初めての挑戦だ」と高揚感に満ちた表情で語った。
だが、県が昨年11月に実施した調査では、「条例の内容まで知っている」と答えたのは県民の9・5%、施設の31・8%にとどまっていた。松沢知事は「まだまだ条例の内容を知らないという人がいる」と述べたうえで、「ぜひとも条例の目的や内容を理解していただき、神奈川から受動喫煙のない『スモークフリー社会』を実現していきたい」と協力を呼びかけた。
同駅周辺では、条例の趣旨に賛同する「条例応援団」となった京急の社員と県職員が啓発グッズを配った。
友人と買い物に訪れた同市磯子区の女性看護師(36)は「規制した方がたばこをやめやすくなる」と歓迎した。男児2人を連れて会食に来た横浜市南区の主婦(30)も条例施行について「たばこの煙に近付かないようにしているので、大歓迎。できれば歩きたばこも全面規制してほしい」と語り、一層の規制強化を望んだ。
一方、JR関内駅前の喫煙所でたばこを吸っていた同市港南区の無職男性(61)は「世の中が禁煙の方向だから、しようがない。たばこは人生の間をつくるもの。まったく吸えなくなるわけじゃないので、吸える場所を探して吸うしかない」と半ばあきらめ顔だった。
罰則の対象ではないものの、条例で努力義務を課された小規模な飲食店やパチンコ店など「特例第2種施設」(約3万3000カ所)でも、対策が広がる。「県遊技場協同組合」に加盟する618店は、第2種施設に準じ、喫煙や分煙の状況を店頭に表示する取り組みを始める。だが、大半は喫煙店舗のままで、過去には全面禁煙にした途端に倒産した店もあったという。上原昭次専務理事は「規制は死活問題だが、受動喫煙による健康被害の認識は当たり前になっており、県にも協力していきたい」と語った。
横浜市中区宮川町の居酒屋「たくみ」は、3月から座敷部分だけ禁煙に。店主の小林正市さん(49)は「煙を嫌がるお客さんも多いので、条例をきっかけに分煙とした。ただ、お酒を飲みながら、たばこを吸う人は多く、全面禁煙となると客足が遠のきそう。仕切りで個室を作るほど内装にお金をかけられない」とこぼした。
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【第1種施設(約10万3000カ所)】=禁煙
学校、病院、薬局、映画館、集会場、神社、寺院、教会、運動施設、公衆浴場、百貨店、金融機関、公共交通機関、図書館、博物館、美術館、動物園、遊園地、老人ホーム、保育所、官公庁施設
【第2種施設(約8万カ所)】=禁煙か分煙を選択
飲食店、ホテル、旅館、ゲームセンター、カラオケボックス、場外馬券発売所、場外車券売り場、場外舟券発売場
【特例第2種施設(約3万3000カ所)】=努力義務
パチンコ店やマージャン店など風営法対象施設、調理場を除いた床面積100平方メートル以下の飲食店、床面積700平方メートル以下のホテルや旅館
毎日新聞 2010年4月2日 地方版