「ついに出た」とうれしそうに報じた不謹慎なメディアもあった。兵庫県尼崎市に住む50歳代の韓国人男性が先週、554人分(8642万4000円)もの子ども手当を申請していた。市役所は「制度の趣旨に合わない」と門前払いしたが、マスコミは「予想されたトラブルが早くも出た」と大喜び。「それ見たことか」「言わんこっちゃない」と鬼の首を取ったようである。
まったく、この国のメディアはどうかしている。たとえこの男性がどれだけ窓口で粘ろうとも、都内で一戸建てを買えるほどの金額は右から左に支給されないのだ。子ども手当には受給要件がある。厚生労働省のホームページでも、「母国で50人の孤児と養子縁組を行った外国人については、支給要件を満たしません」と書かれている。どれだけ大金を要求されても、「条件を満たさない」と突き返して終わりなのである。それを「大変だ」「とんでもないことになる」と大騒ぎすれば国民は混乱する。
「子ども手当をめぐっては、早くから養子縁組を使った不正受給の可能性が指摘されていました。だからこそ、政府は基準を設けた。受給には『子どもと親の間に生活の一体性があること』という要件があり、基本的には子どもと親が同居していないとダメなのです。ただし、仕事や学校の都合で別居はOK。在日外国人の場合も同じですが、来日前に同居していた事実があり、帰国後は同居すると認められる必要があります」(政府関係者)
この男性が不正受給を計画したのかどうか分からないが、シレッとして常識外れの“要求”をする感覚は理解に苦しむ。普通だったら「トンデモ申請に待った」と報じられておかしくない。だがそれも、民主党嫌いのメディアの手にかかると、「子ども手当は欠陥制度」という論調になるのだ。内閣支持率が落ちるのもムリはない。
(日刊ゲンダイ2010年4月26日掲載)