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平成17年12月2日

曲がり角の欧州福祉・人口政策 −フランスからの報告

 先進国の福祉・出生率で何かとモデルとして引き合いに出されるフランス。移民の暴動でそのほころびが見えたが、もともとモデルとするには疑問の多い制度が背景にある。フランスを通して欧州福祉先進国が直面した課題を追った。
(パリ・安倍雅信)

高出生率の背景

白人は激減、移民は3人以上 事実婚、一人親家庭増える

 フランスの最新の合計特殊出生率は、一・九一六人と、日本の一・二九人(二〇〇四年)に比べ、はるかに高い数字だ。この数字は、欧州連合(EU)二十五カ国中でも保守的カトリック国アイルランドに次ぐ二番目の数字で、日本でもその高さが注目されている。出生率の伸びの背景には手厚い家族手当、行き届いた育児サポート制度などが指摘されている。

 フランスは、今やアイルランドのような保守的な家父長制を重んじる国でもなく、ドイツのように母親の子育て義務を重んじる国でもない。二十五歳以上、四十九歳以下の女性の80・7%が仕事を持つフランスでは、決して女性の社会進出が、出生率の圧迫にはつながっていないとの指摘も聞かれる。

 だが、フランスの出生率を高く保っている要因の背景には、日本とは比較できない複雑な社会背景が存在することも無視できない。その一つは、結婚形態の多様化だ。フランスは、欧州内でも事実婚の同棲カップルの比率が最も高く、子供の内訳を見ても、パリ首都圏では45%が婚外出生で、非嫡出子の数が多い。

 同性愛カップルに社会的地位を与えて、世界で有名になった連帯市民協約(PACS)は、事実婚家庭も法律婚同様の法的権利が確保されるという協約でもあった。フランスでは、事実婚と法律婚の違いは社会的にはほとんどなく、会社で事実婚が問題になることはあり得ない。さらに離婚率も高く、一人親家庭も多い。

 このほとんどが、白人フランス人カップルといわれ、同時に彼らの出生率は高くない。特に高学歴、高収入の妻がいる家庭ほど子供は少なく、実際、白人の子供は激減している。ただ、白人の子供だけの出生率の数字は表に出てこないが、小学校を訪れるならば歴然としている。

 一方、今回、国内で暴動を起こしたアラブ系・アフリカ系移民の存在は出生率に大きく貢献している。日仏フォーラムの日本側座長を務める橋本龍太郎元首相が二年前に訪仏した折、シラク大統領との会食の席上、議員から「わが国は移民によって、少子化の加速を回避できました」と告げられ、その実態が明らかになった。

 旧植民地アルジェリア、モロッコ、チュニジアなどの北アフリカ・マグレブ諸国からの移民の多いフランスでは、移民家庭に子供が多い。シラク大統領はパリ市長時代、ミッテラン政権の移民政策を批判し「三人の妻に二十人の子供がいて、国から約四十万円の家族手当を毎月受け取り、夫は仕事もせずに暮らしている」と指摘したことがある。

 マリ、セネガルなど一夫多妻制を認めている国からの移民は、数人の奥さんと大勢の子供たちを引き連れて、フランスに移住し、手厚い社会保障手当を受給して生活している。フランスの制度では、三人以上の子供を持たなければ、手当のメリットが薄いため、皆、三人以上の子供を持とうとする。

 無論、高い出生率を支える社会保障の延長線上には、教育費の無料化は見逃せない。戦後、フランスは社会的平等の実現のために、大学院までの授業料の無料化を徹底した。血縁などによる階級社会の打破には、教育の機会平等が最も有効との考えは、フランス革命以降から存在したが、それが制度として徹底された形だった。

 そのため、フランスでは教育費の負担を恐れて子供を産まないという人はほとんどいない。つまり、貧困地区のアラブ系・アフリカ系移民の子供が低学歴になることは、学費の負担とは無関係だ。むしろ、社会的差別から高学歴でも就職率が低いことで、学習意欲がなくなっていることの方が問題とされている。


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