特集 第3回 (2009年7月)
インタビュー:「ミャンマーでの研究と生活の紹介」 環境情報学府 大野勝弘さん (GCOEフェロー)
Interviewer: 吉岡・武川

大野さんは現在,COEフェロー注1として環境情報研究院でマングローブ生態系を専門に研究していらっしゃいます.


■経歴を教えて下さい.

 1963年横浜市で生まれ,横浜国立大学教育学部(現在の教育人間科学部)動物形態学研究室を卒業しました.大学時代は自動車部でラリー競技に熱中し,卒業後はタイヤメーカーに就職しました.


■就職後は?

 人事部や営業部門で5年ほど勤めた後,2年半会社を休んで青年海外協力隊へ行きました.パプアニューギニアで,中学と高校が一緒になったセカンダリースクールで数学と理科を教えました.学生時代に東南アジア等を旅行して,以前から海外で若いうちに何か意味のある仕事をしたいと思っていました.その後帰国し,1年半ほど勤めたが,会社生活が肌に合わず退社しました.


■その後は何を?

 4年ほどNGOに参加しました.途中,UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)との共同事業でミャンマー駐在になり,帰還難民の救援,農村の生活改善,生計向上を担当しました.人のためにもなり,ダイレクトに成果・失敗が現れ,臨場感のある非常にやりがいに満ちた事業でした.


■ミャンマー駐在時の生活は?

 ミャンマー駐在時は,現地の家を借りて,住み込みのお手伝いさんを雇っていました.お手伝いさんのおばちゃんは英語が喋れず言葉は通じないが,「熱いな」「疲れた」など意味を理解しているかは不明だが,日本語を発するなど面白いことがたくさんありました.ただ,多くの民族,宗教が混在し非常に複雑な社会で,お手伝いのおばちゃんの旦那さんは貧しいので収入の比較的良い政府の軍隊に入ったが,結局旦那さんは帰って来なくなってしまったそうです.食事はキッコーマン醤油を持ち込んでどうにか乗り切っていました.
事業終了後,長く僻地にいて出来なかったツーリングや旅人をしていたら,収入がない,将来の当てがないことに気付き,そろそろ社会復帰することにしました.自然劣化と人の生活について勉強したいと考え,多くの人に相談した結果,2002年に環境生命学専攻・藤原一繪先生(植物生態学)の研究室に入学しました.


■大学院では具体的にどのような研究を?

 修士ではヤンゴン大学の留学生と共に,森林動態に関してミャンマーのマングローブを対象に研究しました.現地の村に滞在し,現地のNGOと行動する中で,人間と自然・生態系の相互関係などによる植物の保全・利用の方に対象が広がりました.
 博士では,人間社会について守備範囲の広い環境イノベーションマネジメント専攻の鈴木邦雄先生(現・学長)の研究室へ進学し研究を続けました.
ドクターを取得後,沖縄にある国際マングローブ生態系協会というNGOを経て,2008年1月からグローバルCOEに参加するため本学に戻って現在に至っています.


■今でも続けているミャンマーでの現地調査とは?

 年に1,2回の頻度で,ミャンマーの調査地へ出掛けています.1回の滞在期間は約3週間で手続き,移動などにより調査地まで行くのに10日ほど時間が経過してしまいます.外国人に会ったことはないが,本やBBC,VOAを聞いて英語を勉強した村のおじいさんに通訳を頼んでインタビューを実施しています.村の人々にインタビューすると,すぐ違う話になったり,何かし始めるのは当たり前で,その時はとりあえず相手が言っていることに付きあってみます.思いどおりに調査が進まないことが多く,院生時代は帰国して期間の割にデータが少ないじゃないかと言われることも多々ありました.


■現地の人達の生活は?

 調査地はガスも電気も水道も無く,マングローブから食糧,材料など多くを得ています.現地には誰でも飲めるように飲み水が置いてある光景があります.昔の日本でも見られ光景ですが,現代の日本では誰も飲まないでしょう.つまり,日本人は人を疑うように変わってしまいました.もちろん仕方のないことですが,助け合って生きていこうという考え方が現地にはあります.


■我々のイメージでは,海外は「危ない」というイメージがありますが現地での危険は?

 危険といえば動物と自然環境特有の危険はあります.川にはワニがいるし,スマトラ沖の地震では津波があったりはしました.
日本では,発展途上国は非常に危険だと思われているかもしれないが,私が経験のあるアジアの国では田舎に行けば行くほど治安は安定しています.犯罪といっても金品を狙うくらいの程度で,日本のような異常犯罪はありません.ただ,特有の政治的な現場に近づくと非常に危険で,日本人のジャーナリストが撃たれた事件などがその例です.
 ミャンマーでは,外国人に何かあっては困るので,政府から護衛が付きます.一応,その人は銃を携帯していて(本当は必要ないですが…),安全を確保してくれます.ミャンマーは,いままで訪れた国の中で最も素晴らしい国ですよ.


■普段,大学にいる時の生活は?

 研究が中心ですが,COEに関係するさまざまなプログラムの仕事もします.何か質問等があれば,総合研究棟S509までお越し下さい.


■最後に学生にメッセージをお願いします!

 世の中にはいろんな人がいて,いろんな生き方をしているということを見てはいかがでしょう?私の周りには,本当に変わった人がたくさんいますよ.


■推奨書物は?
 ・梅棹忠夫『文明の生態史観』
 生態学視点からの世界観を示した古典と云えます.
 ・サティシュ・クマール著,尾関修・尾関沢人訳『君あり,故に我あり 依存の宣言』
自然と文明の関係をガンジーなどアジアの思想をベースに語っています.


■取材後記
 私のような普通の人間から見れば,大野さんは非常に特殊な人に見えました.大野さんが途上国に魅力を感じているのは,日本には無くなりかけている人間らしさ,人間関係に魅せられているからでしょう.大野さんのような人生も一つの選択肢であることは間違いないですが,堅い人生を選んでしまうであろう自分は大野さんが少し羨ましく思えました.


注1:フェローとは,研究職に従事する者に与えられる職名.COEに関しての説明は省略.

横浜国立大学グローバルCOEに関しては,
下記HPを参照.

横浜国立大学グローバルCOE
http://gcoe.eis.ynu.ac.jp/cms/