日本経済新聞社、米ブルッキングス研究所、財団法人経済広報センターが26日共催したシンポジウム「オバマ政権の外交政策と日米関係」の要旨は以下の通り。
《ストローブ・タルボット・ブルッキングス研究所所長の基調講演》
ワシントンでは、日米関係の現状に深い懸念がある。同盟の将来の方向性についての懸念だ。この懸念を発生させたのは、米軍普天間基地の移設問題と中国の台頭だ。
普天間問題については、日本の新しい政権が2006年の既存の合意を置き換える明確な考えを持ち合わせていないことに米政府は不安を感じている。
1つ確かなのは、冷戦以降も不確実な状況が存在し、将来も国際情勢の変化が続くということだ。だからこそ、日米同盟を評価、維持することが重要になる。
オバマ大統領は中国について「米国と他の国の関係と同じように重要だ」と語り、「最も重要だ」とは語っていない。日米関係に影響を与えるとは一切言っていない。
北朝鮮・イランの核開発や気候変動、人民元改革などの頭の痛い問題について、中国は解決策(の担い手)になり得るし、問題の一部となる可能性もある。これらの問題について、日米は対中政策で協力すべきだ。
皮肉なことに、ワシントンの目には日本の民主党が中国やアジアに軸足を移しつつある、と映っている。東京にも米国に対して同じようなイメージを持つ人がいる。
また、日本には米国の民主党が共和党より親中的だとの印象を持つ人がいるが、これは間違いだ。日米関係の重要性については超党派のコンセンサスがある。
《パネル討論》
リチャード・ブッシュ同研究所北東アジア政策研究部長 日米が東アジアで直面している大きな安全保障上の問題は北朝鮮と中国だ。北朝鮮を希望的観測で見てはならない。現在の北朝鮮の指導部が核を放棄することはないだろう。
中国は大国として台頭してきているが、日米を圧倒して東アジアを支配しようとしないことを期待する。中国が国際社会と協力することで、より多くのことを得られるように仕向けるべきだ。
ケネス・ポラック同研究所中東政策研究部長 イランの核兵器開発疑惑が払拭(ふっしょく)されていないため、核不拡散は非常に脆弱(ぜいじゃく)な状況になっている。イランが一線を越えると、次はサウジアラビア、次はアラブ首長国連邦(UAE)となってしまう。ほかの国も(核兵器を持とうと)思うのではないか。オバマ米政権はまさにこれを恐れている。
久保文明・東大教授 鳩山由紀夫政権の安保政策で特に違和感を感じるのは対米政策だ。「緊密で対等な日米関係」を1つのスローガンにしているが、「対等」の定義が難しい。米国にとっては、日本が防衛費を増やして安全保障に貢献することを意味するだろうが、鳩山首相は全く違ったことを意味しているはずだ。
鳩山首相はかつて「駐留なき安全保障」を持論に掲げていた。首相としては封印しているようだが、間違いとは思っておらず、ただ一時的にフタを閉めている印象だ。
タルボット氏 基地のない安全保障や軍事同盟は可能なのか。長期の同盟関係は米国が不測の事態に対応できるか否かによる部分が大きい。だからこそ、海軍、空軍、地上軍など様々な資産を持つ必要がある。沖縄の海兵隊はこの地域で(実質的に)唯一の地上軍である。
ブッシュ氏 (日本の)地域社会で、米軍の施設の負の影響を感じている人たちがいることはよく理解できる。日本の指導者は、米軍のプレゼンスが日本の繁栄や安全保障につながることを説明せねばならない。
タルボット氏 米国が日本と同盟関係を60年以上維持してきたことを誇りに思う。日米安保体制なしに、民主主義、非核、経済発展の3つを実現できただろうか。北東アジアで、特に日本と韓国で民主主義が発展したのは、両国が米国と同盟関係にあることと偶然ではない。
ブッシュ氏 日本がグローバルな安全保障上の役割を果たすのなら、まずは得意なことに集中すべきだ。第二に、直面する課題に対し現実的な貢献であるべきだ。第三に米国に言われるのではなく、日本側から主導権をとるべきだ。アフガニスタンなど様々な分野で貢献できると思う。
タルボット氏 われわれの子どもたちは、世界最大の人口を持つ国家であるの中国と心地よく共存できるのだろうか。もう一つの大きな疑問は、資本主義と非民主主義を融合させようとする中国とロシアの実験が成功するかどうかだ。
冷戦終了とともに、西側諸国では自由民主主義や市場経済が国家統制主義に打ち勝ったという戦勝気分が漂った。その勝利は今日、それほど明確ではない。ロシアでは1990年代の民主改革に対する多大な失望が広がり、トップダウンの政治システムが復活した。
ブッシュ氏 私が生きているうちに中国が完全な民主体制に移ることはないだろう。
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