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特集ワイド:普天間移設問題 識者に聞く

 鳩山由紀夫首相が「5月末に決着させる」と明言したものの、依然として迷走を続ける米軍普天間飛行場移設問題。18日の鹿児島県・徳之島に続き、25日には沖縄県読谷村で9万人もの反対集会が行われた。この事態をどう見るか。識者に聞いた。【聞き手・小松やしほ、中山裕司】

 ◇脱「属国民の呪い」を--神戸女学院大教授・内田樹さん

 普天間問題の根本にあるのは、米国が日本に基地を置いていることの本当の意味について私たちが思考停止に陥っていることだ。米国が日本に基地を置いている理由の一つは日本が米の軍事的属国だと日本人に思い知らせるためであり、もう一つは、中国、北朝鮮という「仮想敵国」との間に「適度な」緊張関係を維持することで、米国の西太平洋における影響力を保つためだ。

 米軍基地は既にあるものであり、これからもあり続けると私たちはみな思い込んでいるが、米国は90年代にフィリピンのクラーク空軍基地とスービック海軍基地から撤退した。08年には韓国内の基地を3分の1に縮小し、竜山基地の返還も決まっている。いずれも両国民からの強い抗議を受けたものだ。米国防総省は沖縄の海兵隊基地については、県外移転も問題外であるほどに軍事的重要性があると言い、日本のメディアはそれをうのみにしている。だが、その言い分と米国が東南アジア最大の軍事拠点と、北朝鮮と国境を接する国の基地を縮小したという事実の間にどう整合性があるのか。私たちに分かるのは、日本国民は韓国国民やフィリピン国民よりも米国に「侮られている」ということだ。

 普天間基地問題で、基地の国外撤退を視野に収める鳩山由紀夫首相に対しメディアは激しいバッシングを浴びせている。米国を怒らせることを彼らは病的に恐れているようだ。だが、いったい彼らはどこの国益に配慮しているのか。

 日本人は対米関係を考えるとき、対等なパートナーとして思考できない。この「属国民の呪い」から私たちはいつ解き放たれるのか。

 ◇リアリズムなき首相--ノンフィクション作家・佐野眞一さん

 敗戦の年に生まれた人がもう65歳になる分厚い歴史があるのに、沖縄をいつまでも戦争の悲劇に封じ込めていたら、歴史からしっぺ返しをくらう。密集した市街地の真ん中にある普天間はどう考えても異常だよ。もちろん米国の横暴さはひどいけど、そのまま放置してきた日本政府の無策や、見て見ぬふりしてきたおれも含めた日本人の卑劣な精神構造の問題だと思う。

 前名護市長の島袋吉和さんに17日に取材してきた。島袋さんは名護市議の時から13年間も普天間問題を動かしてきて、地に足をつけた政治のリアリズム、泥をかぶる勇気、周りを説得する言葉の重みの三つがあった。鳩山政権に欠けているのはその三つだ。

 首相がオバマ米大統領とけんかして、日米関係が決裂するかもしれないけど、それを引き受けるのが宰相でしょ。この問題に尽きると思うな。首相は八方美人で、言葉も存在も軽い。何人もの人間が米軍に陵辱され、土地を奪い取られた歴史があり、いつヘリコプターが落ちるか分からない死の危険と隣り合わせになっている沖縄のリアリズムが首相にはまったくない。

 奄美群島の徳之島を移設候補地として検討するなんて、首相も官房長官も現代史が全然頭に入っていない。戦後の琉球政府が奄美群島出身者を公職追放したことなどから、徳之島側には「今回もつけを回すのか」との思いもあり、18日の反対集会になった。

 普天間問題の迷走で、政治への不信感を国民に募らせた首相の罪はものすごく大きいと思う。今の日本の政治には希望の光をまったく感じないね。

 ◇佐世保周辺に集約を--軍事ジャーナリスト・田岡俊次さん

 普天間移転は、徳之島・沖縄・米軍のどれか一つが反対でも不可能だ。徳之島と沖縄の反対はさておき、なぜ米軍が反対か。

 沖縄の米海兵隊は14年までに大部分がグアムに移転し、残る主要部隊は第36海兵航空群(ヘリコプター部隊)と、キャンプ・シュワブの第4連隊(歩兵部隊)となる。沖縄の海兵隊は紛争や暴動、災害の際の在留米民間人の救出が主な任務で、長崎・佐世保に配備されている揚陸艦に乗艦し出動する。緊急出動のためには、歩兵▽上陸するためのヘリ▽それらを運ぶ揚陸艦--が一体となる必要があるが、現在の移転案では、3者が離れ離れとなる。例えば、朝鮮半島で紛争が起きた場合でも、時間的ロスが大きい。米側がのむわけがない。

 ではどうするか。僕は沖縄の海兵隊を佐世保周辺に集約することを提案している。ヘリ部隊を佐世保近くの海上自衛隊大村航空基地に移転させ、キャンプ・シュワブの歩兵部隊は、佐世保港約6キロの陸上自衛隊相浦駐屯地に移駐、基地を交換する。大村基地には1200メートルの滑走路があり、拡張のための環境アセスメントも終わっている。相浦の陸自は南西諸島防衛が任務なので、沖縄への移動は適した配置となる。米側も、佐世保の揚陸艦に乗るべき歩兵もヘリも近くに配備されるとなれば、歓迎するだろう。「県外移転」も果たせるし、新たな用地取得もいらないため、莫大(ばくだい)な金もかからず合理的だ。

 民主党は徳之島・沖縄案以外に腹案を持っているようには思えない。もし鳩山首相が退陣しても普天間問題は残る。どういう手を打つのか疑問だ。

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 ■人物略歴

 ◇うちだ・たつる

 1950年生まれ。神戸女学院大文学部教授(フランス現代思想)。「日本辺境論」「邪悪なものの鎮め方」など著書多数。

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 ■人物略歴

 ◇さの・しんいち

 1947年生まれ。早大卒。著書に「旅する巨人」「沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史」「鳩山一族 その金脈と血脈」など。

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 ■人物略歴

 ◇たおか・しゅんじ

 1941年生まれ。早大卒。朝日新聞編集委員を経て現職。82年、新聞協会賞。著書に「北朝鮮・中国はどれだけ恐いか」など。

毎日新聞 2010年4月28日 東京夕刊

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