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社説:JR歴代社長起訴 企業体質が裁かれる

 107人が死亡した05年4月のJR福知山線脱線事故で、JR西日本の井手正敬氏ら歴代社長3人が業務上過失致死傷罪で強制的に起訴されることになった。

 神戸第1検察審査会が起訴すべきだと2度にわたって議決したのは、社長が安全対策の基本方針を実行すべき最高責任者であり、JR史上最悪となった惨事の刑事責任は免れないと判断したためだ。事故の誘因に利益優先という姿勢がなかったのか。井手氏らは法廷で、経営トップとして果たした役割を説明しなければならない。

 神戸地検は昨年7月、現場カーブにATS(自動列車停止装置)を設けていれば事故を防げたとして、鉄道本部長だった山崎正夫前社長を起訴した。一方、井手氏らについて、安全対策の権限を鉄道本部長に委ねており、現場の危険を認識できなかったとの理由で不起訴にした。

 歴代社長は、社内各部署の幹部で構成する総合安全対策委員会(後に総合安全推進委員会)の委員長を務めていた。起訴議決は、新路線開業で収益拡大を図るという経営方針で、事故の9年前に急カーブに付け替えたと認定した。そのうえで、委員長を務める社長が現場にATSを整備させないまま放置した過失が事故を招いたと判断した。

 安全が最優先の公共交通機関にとって、事故防止対策を束ねる委員長の立場はお飾りではない。起訴議決は市民感覚に沿うものと言えよう。

 昨年、国土交通省航空・鉄道事故調査委員会(現・運輸安全委員会)の調査報告書がJR西幹部に漏えいした問題が発覚した。これを受け、有識者によるJR西の特別委員会は経営体質を検証し、井手氏について「閉鎖的な組織風土、上に物申さぬ文化を作った」と批判している。その経営姿勢を後継社長の2人が改めたわけではない。井手氏は民営化後の上場など一定の役割を果たしたとはいえ、公の場で事故に言及することは一度もなかった。

 JR西と遺族による脱線事故の検証も始まっている。運転ミスに対する懲罰的な日勤教育や過密ダイヤ、ATS設置などの課題を分析する。検証結果を公開し、再発防止につなげたい。

 日航ジャンボ機墜落事故や信楽高原鉄道事故など過去の大事故で経営陣が起訴されることはなかった。業務上過失致死傷罪は個人の責任しか問えず、予見可能性の立証も難しい。公判を維持する検察官役となる指定弁護士の責務は重く、検察の協力も欠かせない。

 山崎氏を含めJR西の歴代4社長が起訴される異常事態だ。裁判では、これまでの企業風土そのものが問われることになる。

毎日新聞 2010年3月29日 東京朝刊

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