さとうしゅういち

 厚生労働省の塩田部長(当時)が、民主党の石井一衆院議員(当時。現参院議員・党選対委員長)から電話による依頼を受け、部下で企画課長であった村木厚子さん(逮捕当時は局長、現在起訴休職中)に「きちんと対処するよう」指示を出し、村木さんが「重大な議員案件」と感じて、部下である上村係長に「何度も、強く命じ」実態の無い「凛の会」に、身体障害者低料第三種郵便物発行のための偽造証明書が作成・発行された。
 
 そして村木さんが「凛の会元会長:倉沢被告人」に偽造証明書を手渡し、「無事に案件処理できた」と塩田元部長に報告したところ、元部長はそのことを、石井議員に電話で報告。その結果、河野・倉沢両被告人が多くの企業と組んでダイレクトメールを発行、数百億円分の郵便料金を不正に浮かせるという詐欺事件につながった。
 
 以上のような理由で、村木厚子さんが起訴された「事件」の公判が2月2日、3日、4日、8日に大阪地裁で行なわれました。
 
 「容疑はでっち上げ」 村木元厚労省局長が無罪主張
 http://www.janjannews.jp/archives/2462530.html
 
 第2回公判 傍聴記 平成22年2月2日
 http://www.prop.or.jp/court/2010-02-02.html
 第3回公判 傍聴記 平成22年2月3日
 http://www.prop.or.jp/court/2010-02-03.html
 第4回公判傍聴記 平成22年2月4日
 http://www.prop.or.jp/court/2010-02-04.html
 第5回公判 傍聴記 平成22年2月8日
 http://www.prop.or.jp/court/2010-02-08.html
 
 被告人は推定無罪なのですが、わたしは、今回の事件については特に、村木さんの無罪を確信しています。それが、公判を追うごとに、より確かなものになっています。
 
 以下、特にお断りがない場合は、上記の傍聴記を基にしています。
 
 ■検事が通話記録でっちあげ、虚偽の供述に追い込む!
 
 今回の一連の公判での「圧巻」は、2月8日の公判で村木さんに指示をしたとされる塩田元部長が「事件は壮大な虚構」と証言したことです。
 
 塩田元部長は「(自分が取調べで供述した)石井議員から電話依頼を受け、倉沢から挨拶され、(部下だった)村木さんに処理を指示した、という供述を行ったのは、村木さんから受けた結果報告を石井議員に電話で報告した時の『4分数十秒にわたる電話交信記録がある』と、取調べの検事から言われたことを信じたからである」
 
 塩田部長は「石井議員からの依頼、倉沢に会ったこと、村木さんに指示したこと、すべて記憶に無いことだったが、交信記録によって「石井議員への報告」が明確になっているなら、記憶には無いが、そのような流れで厚労省内に指示が流れて行ったに違いない」と思い込んで取調べ検事(林谷検事)に証言したそうです。
 
 「検事も自分も『誇りあるプロの行政官である』という、信頼関係に基づいて供述したが、最近になって公判担当検事から『通信記録は実はありません』と言われ、ショックを受けると共に『大変な(誤った)供述をしてしまった』『村木さんを無実の罪に陥れてしまった』と気づき、今日は『実は記憶に無いことを、供述させられてしまった』ということを証言するために、法廷に来た」と証言したそうです。
 
 わたしは、部下の村木さんが逮捕されて塩田部長がなぜ逮捕されないか、さらには、石井議員が逮捕されないか、いぶかっていました。結局、事件そのものが虚構だったために、塩田部長や石井議員まで逮捕するわけには行かなかった。そういうことでしょう。村木さん一人なら陥れても大丈夫。そう高を括っていたに違いありません。
 
 ■倉沢被告人も調書をでっちあげられる
 
 3日、4日に出廷したした倉沢被告人も、自白を強要されたことを事実上暴露してしまいました。
 
 倉沢被告人は、村木さんから証明書を受け取った時「(証明書を出すのに)苦労した」とか「大変だったのよ」とか言われたという供述について、「そのようなことを言われていないと、なんど事情聴取で言っても聞き入れてもらえず、最後は体調不良にもなり、投げやりになって、サインした」と発言してしまったそうです。
 
 また「郵政公社の森代表に、村木課長が目の前で電話してくれた」という供述調書については、「村木課長に挨拶するつもりで机のそばで待っていたが、村木課長が電話中で、3分ほど待っても終わらなかったので、声をかけることなく退出した。その時、村木さんの電話の会話の断片が聞こえ、その中に森という名前があった、と事情聴取で話したら「それは郵政公社の森代表で、村木課長のダンナの知人であり、村木課長はその森に電話で審査を進める依頼をしたのだ」と検事に言われ、調書もそのようになっていたことで、あまりにもいい加減な調書のあり方があらわになりました。
 
 石井議員に議員会館のオフィスで「障害者支援組織を作ったので、認可に協力して戴きたい」と依頼し「電話しておくよ」と言ってもらい、すぐに厚労省へ行ったが、石井議員から厚生労働省に電話したかどうかの確認はしていないということです。
 
 倉沢被告人は、「『石井事務所』の名刺を出し、凛の会会長ではなく『石井事務所の者』と名乗って、社会推進室の村松係長に認可の相談をした。しかしながら、活動実績が殆ど無いなどで認可は難しいことや、規約や会員名簿など多くの書類が必要と分かり、その後は『河野被告人にまかせて自分は手伝っているふりをしていた』などと供述したが、検事から『これは政治案件なので、厚労省は大変重く受け止めて、塩田部長が村木課長に指示し、上村係長が証明書を偽造したという流れになった』と言われた。『自分はそのような厚労省内部の事情は分からないが、そんなものか』と思って調書にサインした。でも自分は塩田部長にも上村係長にも会っていない。村松係長に会った事実しかない」と証言しました。
 
 これでは、検察の「部長から課長に指示があって、証明書が発行された」というシナリオが崩れてしまいます。
 
 また、村木課長が(認可を求める倉沢被告に)不審そうな顔をし「困ったな、これは難しい」と言ったという供述調書があります。
 
 これについては、「村松係長が『これでは認可は難しい』と言ったのであって、村木課長ではない。村木課長とは、村松係長から『本件の責任者は村木課長なので挨拶しますか』と言われ、村木課長の机に行って(名刺も出さず)『石井事務所の者です。障害者組織の認可のことで伺いました。』と挨拶すると村木課長は『ああ、そうですか』と言い、それだけで自分はすぐ退出してしまった」そうです。
 
 「それでも(事件が)『政治案件』という重大な話になっている調書にサインしたのは、検事から、厚労省の関係者の方々は(被疑事実を)認めているよと言われ、また『新たな裁判員制度が導入されたので、平易な調書が必要だ』とのことだったので、納得してサインした」そうです。
 
 このような証言を倉沢被告人が続けたので、法廷内がざわめき、検事が「あなたは取調べで暴力でもふるわれたのですか!?」と聞き糺す一幕があったそうです。
 
 その時の倉沢被告人は「暴力は振るわれていませんが、テーブルを叩かれるなどがありました」というもので、「どんな時にテーブルを叩かれたのですか?」という検事の質問に対しては「証言を変えたり、言い直したり、答えを間違った時です」と返答したそうで、傍聴していた人はずっこけそうになったそうです。
 
 それにしても、倉沢被告人は小心者だと思いました。「エライ人」の虎の威を借りて、企業や官庁からうまい汁を吸おうとする人間像が証言から浮かび上がります。でも、こういう方こそ、往々にして心に隙間があり、いざというときには動揺しまくり、醜態をさらすものなのだなあ、と思いました。
 
 ■手帳を見ても証明書授受の日を思い出せない倉沢被告人
 
 なお、倉沢被告人は「公的証明書を、村木課長から直接受け取った」という証言を最後まで変えていませんでした。河野被告人(または、凛の会の黒木か木村)から「証明書ができたそうなので、厚労省に受け取りに行って欲しいと連絡があり、村木課長のところへ行くと、机の上に厚労省の封筒と、その上にB5サイズの証明書が置いてあり、それを村木課長が、ご苦労様といって手渡してくれた」という証言を倉沢被告人はしています。これを見た多くの報道関係者や、報道を見聞きした人たちが「今回の事件は、検察が描いたストーリではないか」と疑いながらも「村木厚子さん有罪説の根拠」と考えてしまっています。
 
 この「受け渡しの場面」について、倉沢被告人は非常に詳細に厚労省の部屋の様子(机の配置など)や、その部屋を自分がどのように移動して入退室したかを図面で示してみせたそうです。つい昨日、厚労省に行ったかのような詳細さだったそうです。
 
 しかし課長がこのような証明書を直接手渡すことは制度上ありえません。またアポもとらずに受け取りに来る人のために証明書を課長が机の上において待機しているというようなこともありえない。わたしも公務員ですからそれくらいのことはわかります。
 
 そこで村木さんの被告弁護人である弘中弁護士から、「誰から取りに行ってと言われたか、それはいつか、そして実際に受け取りに行ったのはいつか」などと聞かれると、聞かれる度に答えが二転三転し、「6月上旬」といいながら、弘中弁護士が倉沢被告人の手帳を見せて、6月1日から1日ずつ聞いていくと、倉沢被告は「その日には行っていない」と答え続けたそうです。
 
 ■倉沢被告人と口裏合わせをしていた検察
 
 また、倉沢被告人は弘中弁護士に「あなたは検察官と、公判について打合せしましたか?」と聞かれ「していません」と倉沢被告人が答えると、慌てて検事が「法廷で嘘を言ってはいけません。打合せをしたじゃないですか」と注意し「あ、そうです。4回打合せしました」と言い直してしまいました。
 
 「なぜ打合せていない、などと嘘をついたんですか?」と弘中弁護士に質問された倉沢被告人はついに、「打合せをするのは、悪いことなのではないかと思ったので・・・瞬間的に言ってしまいました」と答えたそうです。
 
 まさに、検察と倉沢被告人は馬脚を現してしまったのではないでしょうか?
 
 ■お粗末なり!大阪地検特捜部
 
 この間の公判の記録を拝見していると「大阪地検特捜部、お粗末」の一言です。
 
 村木さんの上司である部長と石井一議員の通話記録をでっち上げる。それをもとに、虚偽の証言を部長にさせてしまう。
 
 倉沢被告人と村木さんのやりとりがあったかのように、供述調書を、まさに「適当に」つくってしまう。そのうえ、倉沢被告人と口裏合わせをする。その口裏あわせを倉沢被告人は「悪いことではないか」と思っていた。
 
 村木さんの無罪を確信してはいました。しかし、改めて、でっち上げの実態があきらかになるにつれ、「これが、天下の大阪地検特捜部なのか?」と、恐ろしくなってきました。
 
 まさに、検察や警察に逮捕された人=悪人とアプリオリに決め付ける日本の風潮を悪用し、また倉沢被告人の「虎の威を借る体質」をうまく悪用した、暴挙といわざるを得ない。
 
 今後、国民の人権を守るためにも、この裁判、村木さんに無罪をぜひとも勝ち取ってもらわねばならない。検察は反省していただきたい。
 
 そして、わたしの所属政党の民主党も、また、選対責任者の石井さんが汚名をかぶせられています。もちろん、石井さんのためだけでなく、国民みんなの人権をでっち上げや自白強要から守るため、取調べの可視化や検察の民主化を急ぐべきです。
 
 繰り返しになりますが、一日も早く村木さんが無罪を勝ち取り、その優れた能力を国民のために活かされる事を願っています。
 

◇記者の「ブログ」「ホームページ」など
 広島瀬戸内新聞ニュース
 http://hiroseto.exblog.jp/