8年前、大阪のマンションで義理の娘と1歳の孫を殺害した罪に問われている被告の裁判で、最高裁判所は、「有罪とすることは著しく困難だ」と指摘し、1審の無期懲役と2審の死刑判決を取り消し、大阪地方裁判所で審理をやり直すよう命じました。これによって、被告が無罪となる可能性も出てきました。
この事件は、平成14年4月、大阪・平野区のマンションで、主婦の森まゆみさん(当時28歳)と当時1歳の長男、瞳真ちゃんが殺害され、部屋に火が付けられたもので、まゆみさんの義理の父親だった大阪刑務所の刑務官、森健充被告(52)が殺人と放火の罪に問われています。犯行を裏付ける直接的な証拠がないなかで森被告は、事件にはかかわっていないと捜査段階から一貫して無罪を主張しましたが、1審と2審は、森被告のたばこの吸い殻がマンションの階段で見つかったことなどを根拠に有罪と判断し、1審は無期懲役、2審は死刑を言い渡していました。27日の判決で最高裁判所第3小法廷の藤田宙靖裁判長は「たばこの吸い殻は、被告が犯行当日に現場に行った根拠とされたが、茶色く変色していて、事件より、かなり前に捨てられた可能性があり、審理が尽くされているとは言い難い。そのほかの証拠をあわせても、これまでに認められた証拠だけで有罪にすることは著しく困難だ」と指摘しました。そのうえで1審の無期懲役と2審の死刑を取り消し、大阪地方裁判所で審理をやり直すよう命じました。最高裁が有罪の有力な根拠とされた証拠に疑問を投げかけたことで、森被告は無罪となる可能性も出てきました。最高裁が無罪を主張する被告の死刑判決を取り消して差し戻したケースは、昭和47年に石川県で起きたタクシー運転手の殺害事件の最高裁の判決以来、21年ぶりです。こうした事件は戦後6件あり、その後、審理がやり直されて、いずれも無罪が確定しました。判決について、森被告の弁護を担当している後藤貞人弁護士は「私たちが主張してきた疑問を受け止めてくれた、すばらしい判決だ。無罪判決でないのは残念だが、1審と2審の誤った判断の核心をついていて、本人も喜んでいると思う。差し戻しの裁判では全力をあげて無罪に向けて取り組みたい」と話していました。判決について、最高検察庁は「判決の内容を十分検討したうえで、差し戻しの裁判で立証に万全を期したい」というコメントを出しました。