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第11代将軍徳川家斉(いえなり)は、50人を超す子だくさんで知られた。膨らむ養育費、養子や嫁に出す時の持参金、大奥がらみの散財で、もともと苦しい幕府の台所は揺らいだ。以後、幕藩体制は傾いていく▼家斉が40人もの側室を愛(め)でた時代から200年。再び火の車の財政から、子ども手当が絞り出される。社会全体で子育てを応援する考えに異存はない。だが、日本に住む外国人の、海外にいる子にまで出すのは気前が良すぎないか▼兵庫県尼崎市に住む韓国人の男性が「妻の母国、タイの修道院と孤児院にいる554人と養子縁組している」と、年間で約8600万円の手当を申請した。批判派が警告していた「乱用」も、ここまでくるとすがすがしい。当然、市役所の窓口は拒んだ▼厚生労働省は「例えば孤児50人の養子を抱える外国人には支給しない」と、前もって自治体に伝えている。家斉もびっくりの、けた違いの大家族。慈善に生きる人ならば、554人の顔と名が重なるか問うてみたい▼離れていても、世話やしつけをし、仕送りしていれば支給されるという。このあいまいさは、これからも混乱のもとだ。世は聖人ばかりではなく、子どもを金づると見る親もいよう。使い道を善意に頼る現金支給より、保育所づくりなど地道な支援を急いでほしい▼家斉は50という数に縁があって、在職50年は歴代の将軍で最長だった。任に堪えない為政者がだらだらと居座った時の悲劇は、歴史が示す通りである。お人よしのリーダー、人のいい政策。どちらも国と血税を危うくする。