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クローズアップ2010:奇策「増税で成長」 財務相、歳出拡大と財政再建両立狙う

 ◇財政審で議論

 菅直人副総理兼財務相が「増税による成長」という“奇策”を打ち出している。「増税しても歳出増で仕事や雇用が増えれば、景気に役立つ」というシナリオ。背景には、景気下支えや政権公約実行など歳出拡大を迫られる中、一段の財政悪化イメージを避けたい思惑がある。26日には「財政制度等審議会」(財務相の諮問機関、会長・吉川洋東大教授)を復活させ、このシナリオの検討を要請した。ただ、参院選を控える与党は増税論に拒否反応が強く、市場も懐疑的だ。【坂井隆之、久田宏】

 「日本経済の現状を打開するには、(増)税と財政出動を組み合わせ、お金を循環させて、仕事と雇用を生み出す方策を考えることが欠かせない」--。菅財務相は26日の財政審で、増税を財源にした国による需要創出の必要性を強調。財政審メンバーに理論的な裏付けの検討を急ぐように求めた。

 過去の消費税引き上げ論議でも、増税分を年金や介護などの社会保障充実に充て、国民の将来不安を払しょくすれば、高齢者らがお金を使いやすくなり、GDP(国内総生産)の6~7割を占める個人消費の活性化につながるとの論理が展開されたことがあった。しかし今回の菅財務相の「増税による成長論」は増税を原資にした財政支出拡大そのものが経済成長につながるという大胆な議論。消費税や環境税などの増税で吸い上げた資金を国が環境や医療、介護などの成長分野に投入すれば、新産業の拡大や雇用増を通じて経済成長が底上げされ、国民には所得や雇用機会増大、介護サービス充実など恩恵がもたらされると説く。さらに、成長率が上がることで税収も回復するという「実現すれば、バラ色シナリオ」(政府筋)。菅財務相の政策ブレーンを務める小野善康・内閣府参与(大阪大教授)の持論でもある。

 菅財務相は鳩山政権の経済政策の司令塔として、歳出継続で景気下支えしながら、先進国中最悪の財政状況に何らかの歯止めをかけるという難作業を迫られている。デフレ脱却や景気回復には「ある程度の規模の財政出動が必要」(菅財務相)だが、「債務残高を競う五輪なら日本は断トツの金メダル」(菅財務相)という財政状況の中、財政政策の対応を誤れば、国債暴落で国家破綻(はたん)の危機に陥ったギリシャの二の舞いになることも「杞憂(きゆう)ではない」(米投資会社)からだ。

 さらに、政府・与党内では参院選を前に子ども手当の満額支給などのマニフェスト(政権公約)実現など歳出拡大圧力が高まるが、財源手当てのないまま容認すれば、野党の格好の攻撃材料になりかねない。そんな状況下、「増税で成長」論は参院選挙も見据えた鳩山政権の経済政策トップとしての歳出拡大と財政危機回避の両立を図るギリギリの便法のようにも映る。

 ◇「個人消費に悪影響」市場は懐疑的

 菅財務相は「増税による成長論」の効用を必死に説くが、政府・与党内には、参院選前の増税論議への拒否反応が強い。鳩山由紀夫首相は「無駄を徹底的に排除するまで、消費税を上げる議論は国民に納得していただけない」と慎重姿勢を強調。鳩山政権の支持率が低迷し、与党内には「今、ほかの政策を差し置いて消費税増税を論議する必要性があるのか」(高嶋良充参院幹事長)との声が渦巻く。このため、消費税など本格的な増税論議が政府・与党内で進む雰囲気は乏しい。

 一方、市場も菅シナリオには懐疑的だ。BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは「(財政出動で)各産業への国の関与を高めることは、成長の源となる民間の創意工夫をかえって阻害する恐れがある。市場メカニズムに任せた方が(効率的な資金配分が行われ)経済成長に役立つ」と指摘。「政府が税金でカネを吸い上げて財政出動に回す方法は、(無駄な)ばらまきにつながりやすい」と警告する。

 みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストも「(増税による家計の可処分所得の更なる減少など)現実に想定される個人消費への悪影響を考えると、『税金と景気は直接関係ない』との菅財務相の主張に賛同する人は少ないだろう」と、増税と成長の両立論の実効性を疑問視する。

毎日新聞 2010年4月27日 東京朝刊

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