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社説

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献金事件終結―世間の常識は納得しない

 法と証拠に照らせば不起訴は妥当だが、ふつうの市民感覚からすると釈然としないものがある。

 鳩山由紀夫首相の資金管理団体をめぐる偽装献金事件で、検察審査会の議決内容を一言で言えば、そういうことになるだろう。

 首相は政治資金の管理の一切を、先に有罪判決を受けた元秘書らに任せきりにしていた。収支報告書への虚偽記載も全く知らなかった。起訴するに足る証拠はないというのが結論だ。

 一方で、議決は毎月1500万円にのぼる母からの資金提供を全く知らなかったという首相の説明に対し、「素朴な国民感情として考えがたい」と疑問を呈した。

 東京地検が首相の事情聴取を行わなかったことにも触れ、「(首相の)一方的な言い分にすぎない上申書の内容そのものに疑問を投げかける声が少なからずあった」とも付言した。

 首相は国会でも、母からの資金提供は知らなかったと繰り返し説明してきた。もし、反する事実が明らかになれば「(国会議員の)バッジを付けている資格はない」とまで言い切った。

 しかし、その後の世論調査でも、首相の対応に「納得できない」という回答は70%を超えている。検察審査会の指摘も当然だろう。

 何度説明しても国民に信用してもらえないという事実の重みを、首相はこの機会に深刻に受け止めるべきだ。

 これまでのようなやり方では到底、納得は得られまい。野党が求める元秘書らの証人喚問に応じる。場合によれば、母や鳩山家の資産管理会社の幹部にも公の場で証言してもらう。

 そうした身を切るような努力なくして、ここまで落ちた信頼を回復するのは難しい。

 現行の政治資金規正法では、会計責任者が虚偽記載をした場合、政治家本人まで責任を問われるのは、会計責任者の「選任」と「監督」双方に「相当の注意を怠ったとき」とされる。

 この点についても、検察審査会の議決は「選任さえ問題なければ監督不十分でも刑事責任に問われないというのは、世間一般の常識に合致していない」と、法改正の必要性を指摘した。

 かつて自民党旧橋本派の1億円献金隠し事件の際も、この規定が壁になって、橋本龍太郎元首相の責任が問われなかった。

 監督責任を際限なく求めることは難しいかもしれないが、政治家本人が全く不問に付されるのはおかしいという市民感覚はごく真っ当なものだろう。企業・団体献金の禁止とともに、与野党で議論を深めてほしい。首相はその先頭に立つべきだ。

 今回の議決で捜査は終結しても、首相はその政治責任から逃れることはできない。

もんじゅ再開―実用化ありき、ではなく

 1995年12月にナトリウム漏れ事故を起こして以来、ずっと止まっている高速増殖原型炉もんじゅ(福井県敦賀市)が5月に再び動き出す。

 西川一誠・福井県知事が川端達夫・文部科学相、直嶋正行・経済産業相と会談し、地域振興策や安全対策で地元の要望が受け入れられたとして運転再開を了承する意向を示した。

 政府側は「安全確保と情報公開に万全を期す」という。当然だ。日本原子力研究開発機構は「こんど事故が起きたら廃炉になる」というくらいの危機感をもって慎重に運転してほしい。

 ナトリウム漏れ事故の際には、情報隠しが大きな問題になった。14年を超える停止中にも、警報時の通報遅れや保守管理の不備が批判された。

 原子力機構は「組織をあげて体質の改善に取り組んできた」という。ならば、それを日々の行動で示していく以外に信頼回復の道はあるまい。

 もんじゅを動かさないという選択肢は現実的ではない。だからといって、実証炉へと開発を進めていいということにはならない。

 政府は、原発の使用済み燃料を再処理し、取り出したプルトニウムを再び発電に使う「核燃料サイクル」の実現をめざしている。プルトニウムを燃やしながら増やせる高速増殖炉は、その基幹施設の一つだ。

 もんじゅの次の段階として、より規模の大きな実証炉を2025年ごろにつくり、商業炉は50年ごろ――。政府は、そんな計画をもっている。

 ただ、状況は厳しい。

 すでに多くの国々が高速増殖炉の開発から撤退した。日本のほかに積極的に開発を進めているのは、中国とインド、ロシアくらいだ。

 核物質管理の面でも逆風が吹いている。今月あった核保安サミットで核テロ防止が最優先課題の一つとされた。テロリストの手に渡れば危険なプルトニウムについては、利用すること自体への風当たりも強まりつつある。

 逆に、原子力発電は二酸化炭素を出さないので地球温暖化対策に役立つという観点から、高速増殖炉の開発を推す声もあろう。だが、安全性や経済性で課題のある高速増殖炉を普通の原発と同列に評価するべきではない。

 こうした状況を踏まえると、もんじゅの運転再開と、次の実証炉の是非は切り離して考えた方がいい。

 もんじゅの建設と運転などにすでに9千億円が投じられ、今後も毎年200億円規模の予算がかかる。実証炉には、さらに巨額の投資が必要だ。お金の使い道として、例えば海水のウランを回収する技術開発の方が合理的だ、といった考え方もありえよう。

 「もんじゅの次」に踏み出すのかどうかには、時代の変化を見極めつつ判断する柔軟さを持ちたい。

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