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【社会】

弔うチンパンジー 母、死んだ子と離れず

2010年4月27日 朝刊

死後1日たった子どもを運ぶ母親のチンパンジー(京都大・霊長類研究所提供)

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 アフリカの野生チンパンジーの一つの群れで、幼い子どもが死んだ母親がその死骸(しがい)がミイラになっても持ち続ける事例が3例確認されたとする研究結果を、京都大霊長類研究所(愛知県犬山市)の松沢哲郎教授らの国際研究チームがまとめ、27日付の米科学誌に発表した。松沢教授は「死の弔いの原点みたいなものではないか」と注目している。

 松沢教授らは34年前から、アフリカ西部のギニア・ボッソウ村周辺に暮らす20頭前後の野生チンパンジーの群れを調査している。この間、1992年と2003年末に、それぞれ2歳半と1歳の子どもが死んだ子育て経験豊富な母親と、同じ03年末に2歳半の子どもを失った若い母親の、計3例の行動を観察した。

 その結果、子どもの体が動かないことは認識しているのに、子どもの死骸にたかるハエを追い払ったり、毛づくろいをしたほか、いずれも死骸がミイラになった後も巧みに背負い、運んでいた。

 持ち運びはたまたま死骸をなくすまで、最長68日間続いた。群れの他のメンバーは、死骸の悪臭を嫌がることもなく、平静に受け入れていたという。

 これまで、子どもの死骸を運ぶ霊長類の例はまれにあったが、この群れでは、子どもが死んだ3例すべてで観察された。他の野生チンパンジーの群れではないことで、松沢教授は「幼い子をなくした母親の振るまいとして、ボッソウの群れ固有の文化的な行動といえる」と話している。

 長谷川寿一東京大教授(動物行動学)の話 同じ集団の中で3例続けて、チンパンジーの母親が死後の子どもをミイラ化するまで運んだという報告はこれまでない。ただし、ミイラ化した子どもの運搬は、ニホンザルなどでも報告されており、これが文化的な行動か、あるいは人間の弔いに通じるのかについては、他の霊長類との比較も含めて、データの蓄積が待たれる。

 

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