きょうの社説 2010年4月27日

◎トキのひな誕生 繁殖実績の積み重ねが大事
 いしかわ動物園(能美市)でトキのひなが相次いで誕生したことは、石川県が繁殖地と してトキの個体数増加に取り組む大きな一歩である。放鳥されたトキがこの春、北陸各地に飛来したこともあり、石川県では定着の期待や将来の放鳥の夢も膨らんできたが、分散飼育の目的は鳥インフルエンザなどの感染症による再絶滅のリスクを避け、個体数を安定的に増やすことにあり、繁殖実績を確実に積み上げることが何より大事である。

 佐渡では放鳥トキの産卵が確認され、自然界での繁殖が期待される段階に入った。その 一方で、順化ケージで訓練中のトキ9羽がテンに襲われて死亡するなど施設管理の甘さも問題になった。トキの野生化計画はまだ手探り状態といえ、個体を供給する分散飼育地の責任も重い。人為的な環境で育てる以上、トラブルが生じないとは限らない。いしかわ動物園は飼育環境を万全に整え、繁殖地の取り組みを軌道に乗せてほしい。

 石川県は2004年にトキの受け入れを表明して以来、近縁種の飼育・繁殖などで飼育 スタッフの技術を磨き、施設を整備してきた。1月8日から飼育を始めたトキ2ぺアは3月下旬から産卵を始め、今月25、26日と連続でひなが誕生した。ふ化まで順調にきたのは、周到な準備を進めてきた動物園の努力の成果といえる。

 環境省は2015年までに佐渡で60羽の個体群の定着を目指し、今年秋には3回目の 放鳥を予定する。群れを形成させるには、まとまった数の放鳥が必要である。2007年に最初の分散飼育地となった多摩動物公園では、繁殖させたトキを2年連続で佐渡へ移送し、一部は放鳥されている。いしかわ動物園としても、ひなを増やして順調に育て、それらが野生復帰の一翼を担うことが当面の大きな目標である。

 放鳥トキは今年、福井県や能登、加賀にも飛来し、トキの行動範囲は北陸3県に拡大し た。個体数の増加は動物園の仕事としても、佐渡での野生化事業は、すでに北陸全体を巻き込む形で広がりをみせている。今後は放鳥トキの生息域に即した広域的な保護ネットワークも必要になろう。

◎首相の不起訴確定 上申書の内容になお疑問
 鳩山由紀夫首相の資金管理団体の偽装献金事件で、鳩山首相を不起訴とした東京地検特 捜部の処分に関する東京第4検察審査会の議決は、首相が上申書で行った説明に対する国民の強い疑念を示すものである。「不起訴相当」の議決で、鳩山首相は同事件で起訴されないことが確定したが、これで一件落着と考えてはなるまい。検察審査会議決で、なお説明責任を厳しく追及されていることを認識してもらいたい。

 鳩山首相はこれまで、偽装献金事件に関する資料の公表や、母親から提供された巨額資 金の使途説明について、裁判が終われば積極的に対応する姿勢を示してきた。しかし、最近になって「個人のプライバシーにかかわる資料を提出した例はなく、基本的に提出の必要はない」などと述べて態度を翻したのは、政治指導者としてたいへん不誠実であり、国民を欺くものと言わねばならない。

 検察審査会が東京地検の不起訴処分を妥当としたのは、不起訴をを覆すに足りる証拠が ないことが大きな理由である。一般市民で構成する検察審査会の限界と、「市民感覚」だけに依拠しない常識的判断を示すものといえる。

 しかし、毎月1500万円に上る母親からの資金提供を全く知らなかったという首相の 説明については「考えがたい」とし、首相の「一方的な言い分に過ぎない」上申書の内容そのものに疑問を呈したのは、まさに国民感情としてもっともなことである。この指摘は捜査に対する国民の疑問や不信の表れでもあると検察当局は受け止める必要がある。

 今回の検察審査会議決でさらに留意したいのは、政治資金規正法上、会計責任者の「選 任および監督」の両面で注意を怠ったときでなければ政治家の刑事責任を問えない点を取り上げ、「監督責任だけで会社の上司らが責任を取らされている世間一般の常識に合致していないので改正されるべきだ」と、同法改正論議に一石を投じたことである。「政治家に都合のよい規定」という指摘もまた国民感情に合致しており、国会でしっかり議論してもらいたい。