きょうのコラム「時鐘」 2010年4月27日

 誕生前のひなが内から殻をつつくのをそつ、親鳥が外から殻を破るのを啄(たく)という。合わせて「そっ啄(そったく)」という言葉が生まれ、呼吸の合うことや、機が熟す意味にもなった

いしかわ動物園で誕生した最初のトキは難産で、ひなが「はし打ち」と呼ばれるそつの行動を示したが、ふ卵器の中だから飼育係がピンセットを使って親鳥の啄を代行した。そっ啄のタイミングがずれるとひなは死ぬ

比べるのも何だが「鳩さん」の方は難産どころではなさそうだ。沖縄ばかりか鹿児島でも基地移転反対の大集会が開かれ、決着へ残り1カ月しかないのに、機が熟す気配はない。首相のいう「民意の一つの表れ」とは、何とも人を食った表現ではないか

政治とは、情熱と判断力の二つで堅い板に力を込めて、じわじわと穴をくり抜く作業である、とは名著「職業としての政治」(ウェーバー著)にある言葉である。が、堅い板に穴を開ける努力も見られない、判断力にも疑問符のつく首相である

国の内外が呼吸を合わせて堅い殻を破る政治状況にはほど遠い。ふ化を見守る国民はハラハラを通り越して、いらいらの爆発寸前だ。