国際・世界情勢コラム「インテリジェンスEYE」

執筆者

藤村幹雄(ジャーナリスト)

最新の記事内容

前代未聞の外務省健康管理休暇不正

2010.4.26

 第二次事業仕分けの標的となる104の独立行政法人のうち、少なくとも17法人で、職員が海外出張に出かける際、数万円から十数万円の「支度金」を支給していることが、毎日新聞(4月20日付)で暴露された。「海外出張や海外勤務は特別」という古い発想が官の世界では今も根付いている。

 外部にはなかなか分からない官僚の海外勤務の驚くべき実態は、外務省の「健康管理休暇」をめぐる不正にもみられた。


 今年1月19日、外務省はホームページ上に奇妙な「おしらせ」を掲載。エジプトなど8カ所の在外公館で、館員の健康管理休暇に関する旅費の節約が不十分だったとして、外務大臣と8カ所の大使が責任を取り、給与の10−20%を自主返納すると発表した。この発表は日経と時事通信が簡単な記事にしただけだったが、調べてみると、突っ込みどころ満載である。

 「おしらせ」によれば、昨年11月の会計検査院の指摘に基づき、外務省が内部調査をしたところ、エジプト、スーダン、マダガスカル、パナマ、イエメンなどアフリカや中東8カ国の在外公館で、昨年1−3月期に館員が健康管理休暇取得のため購入した航空運賃の規定額が「十分経済的でなかった」ことが判明。岡田外相はこの期間に大使だった8人に厳重注意し、給与の自主返納を命じたという。

 外務省の健康管理休暇制度とは、生活条件が厳しい「瘴癘(しょうれい)の地」に勤務する外交官とその家族は、健康診断や休息目的で近隣の先進国に旅行できる。アフリカの大使館員が欧州の先進国に、中南米の大使館員が北米に滞在するといった具合だ。たとえば、モンゴルの場合、休暇指定都市はデンマークのコペンハーゲン。ウランバートル=コペンハーゲン間の航空運賃を受領し、それで日本に帰国することもできる。

 外務省関係者によれば、館員は大抵、休暇指定都市には行かず、家族を連れて日本に帰国する。航空運賃は家族全員分出る上、休暇中は給与に加え、滞在費も1日4000円、家族は一人に付き1500円支給される。通常は着任半年で健康管理休暇の権利が発生し、60日間滞在できる。

 今回問題になった「旅費の節約不十分」とは、8カ国の館員がチケットを購入する際、国際航空運送協会が定める正規の高額な運賃で旅費を請求して受領しながら、実際には格安の航空券を購入し、差額を着服していたことだった。

 たとえば、カイロからロンドンまで、国際航空運送協会指定のビジネスクラスなら往復60万円だが、日本への格安航空券は早めに予約すれば10万円程度で購入できる。正規料金を請求することで、差額の50万円が外交官の懐にすっぽり入るというわけだ。

 家族4人なら、一回の健康管理休暇で200万円の蓄財ができる計算。これが長年、外交官の既得権益となっていたが、外務省の「おしらせ」は詳細に触れていない。

 健康管理休暇は生活条件のいいマレーシアやシンガポールを含め全体の3分の2の在外公館にも適用されている。8カ国以外の不正着服はないのか。「昨年1−3月期」以外に問題はないのか−など、引き続き突っ込みどころ満載である。

 最高2カ月の健康管理休暇取得、休暇手当ての支給、差額運賃着服など、いずれも民間の常識では考えられない。仕分け人はこうした外交官の不正にも切り込むべきだろう。