台湾:一転再開 北京射程のミサイル開発

2010年4月25日 2時30分

 【台北・大谷麻由美】台湾の馬英九政権が、北京を射程圏内とする1000キロ以上の中距離弾道ミサイルと巡航ミサイルの開発をいったん停止に踏み切ったものの、再着手へと方針転換したことがわかった。台湾の国防・安全保障関係者の話や、国防部(国防省)高官の議会証言で明らかになった。

 ◇日米間の摩擦に危機感

 開発停止は、中台関係改善を公約とする馬政権の対中融和策の一環だが、公表されていなかった。再着手は米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題を巡る日米関係のギクシャクぶりへの台湾側の懸念や、中国の海軍力増強で有事の際に米軍の協力が得られにくい状況への危機感と受け止められている。

 台北から北京までは約1700キロの距離がある。毎日新聞に証言した複数の関係者によると、馬政権がミサイル開発を中断したのは08年5月の政権発足後まもなく。巡航ミサイル「雄風2Eブロック3」を含む1000キロ以上の射程を持つミサイルはすべて開発を停止したという。

 馬政権は当初、中国の首都・北京を射程圏とするミサイル開発で中国を刺激することは避けたい考えだった。また、開発停止の背景には沖縄海兵隊を含む在日米軍の「抑止力」があった。安全保障の問題を専門とする台湾の淡江大学国際事務・戦略研究所の王高成教授は「日米安保条約は冷戦終結後、アジア太平洋の安全を守る条約となった。条約の継続的な存在は台湾の安全にとって肯定的なものだ」と指摘する。

 一方、開発停止からの方針転換が明らかになったのは、楊念祖・国防部副部長(国防次官)が先月29日の立法院(国会)で行った答弁だった。

 楊副部長は「有効な抑止の目的を達成するため、地対地中距離ミサイルと巡航ミサイルを発展させる方向性は正しい」と述べ、開発を事実上認めた。未公表だった開発停止には触れずに、実は方針転換をしていたことが初めて明らかになった。

 楊副部長の発言は、台湾自らの抑止力を強化することで中国に圧力をかける狙いがある。関係筋は「普天間問題に代表されるように、台湾に近い沖縄にある米軍の存在や役割が変化する事態もあり得る。米軍が台湾を守る力にも制限が加わる可能性が出てきたことから、抑止力を高める方向に再転換したのではないか」とみている。

 台湾の情報機関である台湾国家安全局によると、中国側の台湾向けの短距離弾道ミサイルと巡航ミサイルは、台湾対岸の福建省を中心に約1400基。アジアの軍事情勢に詳しいカナダの軍事専門誌「漢和防務評論」4月号によると、中国は最近、福建省の竜田軍用飛行場に射程200キロの地対空ミサイルを新たに配備した。同誌は「台湾北部の海峡空域全体を封鎖することが目的」と指摘した。

 一方、台湾は中国からのミサイル攻撃や戦闘機襲来への防御策として米国製の地上配備型迎撃ミサイル「PAC2」3基や独自に開発した迎撃ミサイル「天弓」「鷹式」を配備。オバマ米政権は今年1月、米台関係維持を目的とする国内法「台湾関係法」に基づき、最新改良型の「PAC3」などの武器(総額64億ドル)を台湾に売却することを決定し、中国側が「中国内政への粗暴な干渉」と猛烈に反発した。

 同誌は「(中台の)政治情勢が過去に例がないほど改善しても、中国空軍は台湾海峡地区の防空態勢を大きく強化している」と分析している。

 ◇ことば 弾道ミサイル

 発射後、最初の数分間は加速し、その後は慣性で楕円(だえん)軌道を飛ぶ地上攻撃用ミサイル。これに対し、トマホークなど誘導を受けて自律飛行し、目標を攻撃するのは巡航ミサイルと呼ばれる。射程によって短距離、中距離、大陸間の種別があり、一般的に射程が1000~5500キロは中距離弾道ミサイルに分類される。弾道ミサイルを着弾前に迎撃して破壊するのがPAC3などのミサイル防衛システム。

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