さらに、前提条件としている主要国の意欲的な目標が揃わなくても、一部の施策を時限を切って強引に前倒しでスタートさせようと目論む内容だ。こうした法案は決して成立させてはならないと考えている。
もちろん、省エネ、コストカットの観点から、国や企業、家計が誠実に努力して、温暖化ガス削減を進めるのは大切なことである。それ自体はそれぞれの経済主体にとっても、コスト圧縮というメリットを伴うものである。
しかし、無謀な真水目標を設定したのでは、産業の海外移転や雇用の流出、そして経済成長の阻害要因になりかねない。
そして、その兆候はすでにはっきりと表れているのである。
産業の海外移転加速を示唆する
新日鉄のブラジル高炉
中でも、最も注意するべきプロジェクトは、新日本製鉄が半世紀以上も友好関係を保ち、2006年に持ち分法適用会社にまで強化したブラジルのウジミナス製鉄所との提携強化の動きだ。
新日鉄は、これまでのような半製品の加工場だけでなく、鉄鋼業の心臓部とも言うべき高炉をブラジル国内に建設中なのだ。多量のCO2を排出する高炉は、鉄鋼の半製品にあたる鋼板を製造する施設だ。この施設で、鉄鋼の半製品と呼ばれる鋼材が製造されなければ、他のあらゆる鉄鋼関連の製造業は、スクラップを使う電炉も含めて、業として成り立たない。つまり、高炉は、鉄鋼業の中核中の中核である。
労働組合の反発を懸念してのことだろう。決して、自ら積極的に語ろうとはしないが、新日鉄は早晩、日本で必要とする鋼板をすべてブラジルで製造し、日本に持ち帰ることができる体制が整うというのである。
ブラジルは、中国、インド、ロシアと並び高い経済成長が期待される新興国の一角だ。鋼材需要も飛躍的に伸び続ける見通しで、世界経済が順調に成長を続ける限り、新日鉄はウジミナス製の鋼材をブラジル中心に現地で供給し続けるものとみられる。
とはいえ、もし、温暖化対策基本法が成立し、25%削減を迫られれば、事情は一変する。国内で高炉を維持することは不可能になりかねないのだ。それゆえ、温暖化防止法は、この種の産業の海外移転を加速するとみられている。つまり、企業が製造拠点を排出規制の緩い海外に移すため、日本国内の雇用は減るが、世界的な温暖化ガスの排出はむしろ増えるのだ。
本当に、そんな乱暴な法案が必要なのか、立ち止まって考えてみるべきである。