2004年12月27日掲載 | ||
落石事故続発 | ||
異常気象 予測つかず すべての山 調査困難 “点検改革”決め手なく できうる対応するしか… 行政 |
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思わぬ個所からの落石が走行中の車を直撃し死傷者を出した事故が今年、相次いだ。敦賀市の国道8号、上中町の県道でそれぞれ発生したが、いずれも国や県の点検で危険とはみなされなかった区域だけに、管理に当たる行政関係者も「予測は困難」と対応に頭を抱えている。異常気象による災害が続発する中、「どこで起こってもおかしくない」との専門家の指摘もあり、点検手法の変更など対策が急務だが、その方策を見いだしかねている。 ▼お墨付き 各都道府県では数年ごとに防災総点検として、一斉に県の管轄する路線の危険性をチェックしている。直近の総点検は一九九六年。落石事故のあった現場をみると、敦賀市の個所は「継続的な点検は必要」だが対策工事までは不要とされ、上中町の個所は監視も不要とされた。また両個所とも過去に落石があった記録もなかった。特に上中町の事故現場は”安全個所”のお墨付きを得ていた格好だ。 ▼「道路管理は適切」 敦賀市の事故で国は、事故原因や対策についての検討委員会を開催。九月末に出された報告書によると、落石の原因として、降雨による地盤の強度低下や、イノシシなどの動物がけり落とした可能性を指摘。「落石の記録がない上、雪崩防護さくは設置されており道路管理は適切」とし「落石を予想することは困難」と結論づけた。 上中町の事故でも今月初め、県が初の検討委員会を開いた。調査はこれからだが、総点検の結果では敦賀市の現場よりも、安全度は高く評価されている。また転落した岩がもともとあった場所は、敦賀市の場合は道路から約三十メートルだが、上中町では約百メートル離れた地点。県内の地質コンサルタント業者は「百メートルの高さまですべての山を詳細に調査するのは現実的に困難。事故を防ぐのは難しかったのではないか」と指摘した。
▼常識通じず 今年は福井豪雨や台風23号など、甚大な被害をもたらした災害が多発した。災害に詳しい京都大の中川一教授は「雨の降り方が変われば、これまで安全とされた場所もどうなるか分からない」と従来の常識が通用しない可能性を指摘。「地質など場所の違いを考慮し点検方法を変える必要がある。空撮写真などを参考にすることも考えられるだろう」と点検手法の改革を提案した。 国道8号を所管している国土交通省福井河川国道事務所では、九六年の総点検以降も独自に点検を重ねてきた。敦賀市での事故を受け、十月からは緊急の点検も実施している。ただすべての山を踏査することは難しく、同事務所では「現時点でできうる点検を重ねるしかない」とする。 一方、九六年の総点検で対策工事が必要とされた千カ所余りのうち、工事を終えたのは二百カ所程度。県では危険個所に対して土木事務所ごとにパトロールをしているが、今回のようにチェック漏れした個所はまだ手つかずだ。 今年の落石事故 今年六月十二日、敦賀市曙町の国道8号で、通りかかった乗用車の屋根に、そばの山から落ちてきた直径五○センチの岩が直撃。運転していた女性が頭の骨を折るなど重傷を負った。さらに十一月二十六日には、上中町熊川の国道303号を走っていたワゴン車を、山から転落してきた直径四メートルの岩が押しつぶした。乗っていた女性が死亡したほか、男女四人が重軽傷を負った。 |
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2004年12月15日掲載 | ||||
深夜の24時間スーパー | ||||
多忙な女性のオアシス 1人で、カップルで 切れ目なく 「家には夫、じっくり」 |
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こうこうと輝く照明の下、仕事帰りの女性や若い男女が、食品を一つ、また一つと買い物かごへと入れていく。時計が午前零時を回っても客足は途切れない。ここは二十四時間スーパー。二日にオープンした福井市羽水二丁目の「パワーシティ福井南ワイプラザ グルメ館」の深夜営業に密着した。そこには福井人の現代の生活ぶりが凝縮されていた。
◆ゆっくり品定め 午前一時すぎ。三交代の深夜勤務を終えた帰宅途中、「家族七人分の朝食の材料と子供たちの弁当のおかずを買おうと」来店した福井市北山町の諏訪りえさん(40)。ロールパンやレタス、キュウリを買い込み、支払いを終えると手際よく袋に詰めていく。「今からお風呂に入って寝て、朝六時には起きなくちゃいけないから」。足早に店を後にした。 「今までゆっくり買い物する時間が取れないのが悩みだった」と対照的に話したのは同市下荒井町の主婦、三好良美さん(24)。時間は午前一時四十分になっていた。目下、生後五カ月の赤ちゃんの育児に追われる日々。「日中は子供から目が離せないけど、この時間なら夫が帰っているので安心」。献立を考えながら、じっくり品定め。サーモン、ホウレンソウ、卵、離乳食用の野菜を買い求めた。 日付が変わっても、女性一人の姿は少なくない。共働き世帯率約50%と全国二位の本県。核家族化が進む中、仕事や子育てに奮闘しながら家事をこなす女性たちに、二十四時間スーパーは「本当にありがたい存在」だという。 ◆デートスポット クリスマスソングが鳴り響く店内。「”明日”のお弁当、これ作ってあげようか」「こんな調味料見たことないね」。腕を組んだり手をつないだりして、こんな会話を交わしているのは二十歳代―三十歳代の若いカップル。見渡せば一組、二組、三組…。エプロン姿の主婦らでごった返す夕暮れ時とは異空間だ。
午後十一時ごろに姿を見せた福島登志郎さん(22)、寿美さん(26)夫妻=福井市板垣町=は入浴後のスエット姿。二人とも仕事を持ち、帰宅は午後八時―同九時。「家に帰って、まったりしてるとすぐ夜中。二人で出掛けられる所なんてなかった」が「スーパーはコンビニより品物が多く選べる楽しさがある。こんな時間に一緒に買い物ができて、すごくうれしい」。 別の二十歳代の夫婦は「夫の仕事が忙しくて、日ごろデートなんてできない。でも、ここならデート感覚で買い物が楽しめる。夕食のメニューや家計の相談もできる」。午前零時半、眠そうな夫の横で妻がうれしそう。ゲームセンターで遊んだ後「今から晩ご飯」と、総菜や刺し身を買っていく今時カップルもいた。 ◆数年先は当たり前 開店一週間の午後十一時から午前九時までの来客数は三百―四百人。午前三時を過ぎると客数は落ちるが、店内から一人もいなくなることはまずない。国道8号沿いの鯖江市や武生市なども商圏に取り込み、客足は徐々に増えているという。 残業サラリーマンには「半額」シールの総菜が人気だが、メモを見ながら野菜や魚介類を大量に仕入れる飲食店主、安売り商品を買いだめする主婦の姿もあり、平均客単価は決して低くない。 都会で出店が相次いでいる二十四時間スーパー。県内では今年七月、福井市八重巻町の「ハニー新鮮館つくし野」が先駆けとなったのに続き、福井南ワイプラザは二店目となる。石黒政男店長は店内を見つめながら「顧客開拓の余地はまだまだある」と自信をみせる。「少し前は珍しかった元日営業が今や当たり前。深夜営業も数年先は現代人に不可欠な存在になるはず」と話した。 |
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2004年12月12日掲載 | ||
アラレガコ消えた | ||
漁解禁したが…台風で増水、下流へ? ”伝統”危機、養殖模索も |
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九頭竜川中流域で毎年初冬に行われるアラレガコ漁が、今年は既に解禁となっているにもかかわらず、十月の台風による増水の影響で漁のできない事態に陥っている。近年は「幻の魚」といわれるほど数が減ったが、全く姿が見えないのは極めて異例。伝統漁法や食文化を受け継ぐ点で関係者は危機感を抱いている。
■「記憶にない」 アラレガコは十二月から三月にかけて川を下り、河口の石の裏などに産卵。稚魚は河口や海岸沿いで成長し、四、五月に親魚となって遡上(そじょう)する。小さいうちは水生昆虫を食べ、体長が一○センチ以上に成長するとアユを餌にする。 アラレガコ漁は川幅が狭い九頭竜川中流域で行われ、解禁期間は十一月から一月末まで。福井市の川漁師約十人が伝統漁法を受け継いできた。 しかし、今年は十月二十日の台風23号を機にアラレガコが姿を消してしまったという。福井市舟橋新町の川漁師、松谷利夫さん(66)によると、台風前は落ちアユを捕る「威縄(いなわ)漁」の網にアラレガコが二十匹ほど掛かったものの、その後はアラレガコだけでなく、餌となる落ちアユも捕れなくなった。 松谷さんは「アラレガコは胸びれを使い石を支えに川を上下する。川の増水で石とともに一気に下流へ流されたのだろう。今シーズンの漁はとても無理。こんなことは記憶にない」と話す。ほかの漁師も漁をほぼ断念している状態だ。 ■進まぬ技術移転 国土交通省の調査では、ここ十五年間の九頭竜川でのアラレガコの漁獲量は一九九一年度の七百四十六匹をピークに、九七年度には十九匹まで落ち込んだ。二○○一年度から三年間も二十―四十匹台で低迷している。 漁獲量は一定の周期で増減があるとされるが、「七○年代は一日で千匹以上捕れた。現在の年間漁獲量は最盛期の一日分にも届かない」(松谷さん)という。生息数が大きく減ったのは確実だ。 一方、県内水面総合センターは○二年、人工授精からふ化、稚魚育成までの種苗生産と養殖技術の確立に成功した。ただ、センターから稚魚の供給を受け養殖、調理加工をしていた上志比村の温泉施設が同年に閉鎖。一匹五千円以上するアラレガコは需要と供給のバランスが取れないこともあって、多大な経費がかかる養殖の実用化に乗り出す民間業者はない。 石原孝所長は「アラレガコの稚魚を放流するとアユと競合する恐れがあり、県は養殖主体で取り組んでいる。養殖業者から要請があればノウハウを移転したい」と話す。しかし、技術自体は確立されたため、県の研究は国の補助が切れる来年度末で中断する可能性さえある。 ■繁殖活動にも懸念 「アラレガコの伝統漁法、食文化が発達しているのは全国でも九頭竜川流域のみ。このままでは伝統文化が消滅する恐れがある」と話すのは県立大生物資源学部の田原大輔助手。 下流や海に流されても海水に適応できるため激減することはないとみる。問題は、相次ぐ風水害で沿岸域の産卵場所が土砂で埋もれた場合で、繁殖活動ができず数が減少する恐れがあるという。同センターと県立大は共同で、人工養成した親魚から安定的に採卵する技術開発に取り組んでいるが、田原助手はこうした研究の継続が大切だと指摘する。 アラレガコを単なる漁業資源としてではなく、自然環境を含めた地域資源としてとらえるかどうか―。漁業関係者には、天然アラレガコの保護・増殖を図る一方、養殖を通して伝統文化を守るべきとの声もある。 アラレガコ カジカ科の魚で日本の固有種。標準和名はカマキリ、別名アユカケ。本県では「あられ」に腹面を打たせながら川を下るとの伝説からアラレガコと呼ばれる。太平洋側では岩手県以南、日本海側では秋田県以南の河川中流域に分布。県内では九頭竜川のほか耳川、北川、南川に生息する。大野市阪谷橋―福井市中角橋は流域そのものが国の天然記念物に指定されている。 |
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2004年12月8日掲載 | |||||
荒れた街路樹を救え | |||||
▼せん定し過ぎ ▼傾いたまま 県が管理マニュアル 造園、電気… 業者に協力要請 欠かせない住民の理解 |
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景観向上、歩道の安全確保、癒やしなど、暮らしの中で多様な役割を果たす街路樹。ところが樹形の乱れが放置されたり、せん定し過ぎで異様に盛り上がったこぶが無残な姿をさらすなど、荒れた状態がみられることが県内で少なくない。県は各地の地域特性に応じた維持管理法をまとめた全国でも珍しい「緑化マニュアル」を初めて作成、住民が誇りに思える街路樹づくりに本腰を入れ始めた。維持管理の鍵となる住民参加を促すための事業も積極展開しており、住民理解がどこまで広がるか注目される。 ▽景観を損ねる木 マニュアルは、県雪対策・建設技術研究所が七年がかりで行った街路樹現状調査を基にまとめられた。▽海岸部は防砂用の常緑樹、豪雪地域は落葉樹など、地域に適した樹種選定▽十分な生育空間の確保▽適正な維持管理―などが内容。 マニュアルがなかった従来は、必要以上のせん定で幹がこぶだらけになったり、地域に樹種が合わず枯死する例があった。電線近くの街路樹が、安全優先のあまり樹形お構いなしに枝を切られたり、中には幹が傾いたまま放置されたものなど、景観を逆に損ねている場所もある。
県は十一月下旬、行政関係者や造園、土木建設、電気工事などの業者を集め、マニュアルの説明会を開催。樹形に配慮した枝切りや、基準に沿ったせん定の徹底など協力を要請した。 ▽膨らむ経費 マニュアルでは維持管理のポイントに、地域住民の協力を挙げている。しかし実際の維持管理は、これまでも住民頼みなのが現状だ。 福井市のお泉水通りのイチョウ並木沿いに住む主婦(73)は、約二十年前から朝、夕の一日二回、落ち葉清掃を続ける。毎年落葉の時期には、落ち葉は一回でごみ袋二つ分にもなる。県の予算で行う清掃は年に一回程度。主婦は「私もいつまでできるか分からない。そのときにはどうなるのか」と気をもんでいる。 背景にあるのは予算不足。街路樹は本数が変わらなくても、生育に伴ってせん定量が増え、年々経費が膨らむ。街路樹約九千七百本を管理する福井市の場合、本年度の維持管理費は四千五百万円で、五年前より千三百万円増加した。しかしただでさえ不十分な上、厳しい財政の中、現状の予算がいつまで確保できるかも不透明という。 ▽広い庭があだ?
全国の都市部では、緑の少なさから、公園や道路の緑地化が推進されてきた。しかし自然が豊かで、庭付き持ち家率も高い本県は「行政も住民も、公共の緑にあまり目を向けてこなかった」(県雪対策・建設技術研究所)。住民理解は、質の高い街路樹づくりの最大の鍵といえる。 同研究所は先月、福井市で「街路樹並木観察会」を初めて開いた。フェニックス通りや県庁周辺の街路樹の役割、木の特性などを学んでもらうもの。担当者は「好評だったと思う。今後、春と秋に定期化したい」と手ごたえを得ている。 また福井土木事務所も、二○○二年度から二年間行った街路景観について住民と話し合う「フェニックス通りのまちづくりワークショップ」を来年度再開する予定だ。 県外では、宇都宮市のように街路樹の「里親制度」を導入し成功している例もある。マニュアルづくりを担当した同研究所の久保光技師は「街路樹は公園や庭木よりも厳しい条件の中で生育していかなければならない。人間の家族と同じように、将来を見越した街路樹づくりが重要」と強調している。 |
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2004年12月3日掲載 | ||
住宅用火災警報機 義務付け | ||
早期覚知、重大さ認識 逃げ遅れ死亡 抑止期待 県内関心いま一歩 |
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▽死者7割が逃げ遅れ 義務化のきっかけは昨年、十七年ぶりに全国の住宅火災死者が千人を突破したこと。福井地区消防本部予防課によると、建物火災の死者のうち、住宅火災によるものは約九割を占め、さらに住宅火災死者の死に至った経過は七割近くが「逃げ遅れ」。警報機による少しでも早い火災の覚知、避難が死者を防ぐ最重要課題といえる。 また住宅火災死者の60%は六十五歳以上。同予防課は、若年者の逃げ遅れは有毒ガスで体の自由が奪われる例が多いのに対し「高齢者は動作が緩慢だったり、状況を軽くみて大事な物を取りに戻ってしまうことが目立つ」という。警報機は早期覚知だけでなく、鳴り響く警報音で心理的に重大さを認識する効果も期待できる。 消防庁は警報機の普及により、住宅火災死者の半減を目標に置く。九七年時点で設置率94%を達成した米国では、同年の死者が約三千三百人。同22%だった七七年の約五千八百人に比べ四割以上も減っている。 ▽垣根を越えた改正 住宅用火災警報機には熱感知式、煙感知式のほか、警備会社とつながった本格的なシステムなどがある。福井地区消防本部が主に推奨するのは電池式で、その場で警報音を響かせるシンプルなタイプ。取り付けが簡単で、費用は熱感知式が一個六千―七千円、煙感知式で一万―一万二千円程度。 具体的な設置維持基準は、各市町村が二○○六年六月までに制定する条例で定められる。県内では条例制定はまだこれからで、福井市の場合は来年度中の制定を目指している。ある住宅メーカーは「問い合わせがわずかにある程度。今のところ新築で設置する顧客はまれ」という。 ただ、改正法に罰則はないとはいえ、住宅新築時は建築基準法に基づく消防の確認同意が必要で、条例制定後は警報機がない住宅は事実上建築できなくなる。既存住宅についても今後四、五年のうちに義務化になるとの見方がある。 消防は、公共建築物や商業施設、集合住宅などに強力な査察権を持っているが、一般住宅に関しては実際に火災が起きた場合などを除き立ち入り権限がなかった。同本部予防課は「大きな垣根を越えた画期的法改正」と評する。 ▽煙は秒速5メートル 住宅火災現場で、犠牲者を出さないための心得として、消防関係者には「(出火後)八分消防」との言葉がある。しかし同予防課は「火災の形態、住宅の構造や材質、住人の年齢などの条件は千差万別。何分までに逃げれば大丈夫かは一概に言えない」という。 このほど福井市で講演した独立行政法人・消防研究所の関沢愛・上席研究官は▽初期消火の限界は天井着火までとされるが、天井の状態は煙で見えないことが多い▽多くの人がまだ消せると思う状態からでも、その後三分足らずで火炎が一気に広がる(フラッシュオーバー)ケースがある―などの点を指摘。逃げるかどうかの判断の数分の遅れが、生死を分けると強調した。 また、煙が垂直方向に移動する速さは一秒間に三メートルから五メートルと、人が階段を駆け上がっても追いつかないスピード。階下の火事を二階にいる人が知るには熱を感知するより煙をとらえた方が早く、福井地区消防本部予防課は「寝室などは熱感知式で十分だが、階段、廊下は煙感知式が望ましい」とする。 同本部では「居住空間ごとに一個ずつ、一般的な住宅なら最低六、七個」の設置を勧めており、住宅一軒で取り付け費を除く費用は八万円前後。今のところ補助金などの仕組みはないが、「各地で条例化が進めば、価格が下がることも考えられる。この程度の負担で命や家財が守れるなら安いと受け止めてほしい」と話している。 |
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2004年11月30日掲載 | ||
県内不審者被害相次ぐ | ||
子供の安全 頼りは地域 福井、29地区で見守り隊 県教委、手引に登下校対策 |
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▼見守る人がいない 今年十月、武生市内で女子中学生が男にナイフで脅される事件があった。幸い中学生にけがはなかったが、不審者が凶器を使うという事態に、付近住民の不安感は強い。 小学三年の娘を持つ現場近くの主婦(32)は「私の町内は新興住宅地で共働きの核家族が目立つ。警察がパトロールしてくれているが、日ごろから見守る人が地域に少なく心配」と話した。 県教委によると今年四月から十一月十一日の間に、県内の不審者被害は四十三件。本年度をまだ四カ月以上残しながら前年度一年間より八件多い。各学校では被害が報告されるたびに、児童生徒に注意を繰り返しており、今や「フシンシャ」の言葉は小学低学年児童にも広まりつつあるようだ。 特に車に引っ張り込もうとする「連れ去り未遂」が十件あり、既に前年度一年間の五件から倍増。連れ去り未遂の発生場所は福井、鯖江、勝山、小浜各市、高浜町と県内各地に及ぶ。腕をつかまれながらなんとか逃げ出したというケースもあり、警察でも「今のところは未遂でも、いざ既遂になれば凶悪事件に発展する可能性もある」(県警生活安全部)と警戒、パトロールを強化している。 このほか暴行・傷害六件(前年度八件)、露出・わいせつ十一件(同七件)、人気のない場所に誘う声かけ四件(同十二件)など。 奈良県の女児誘拐殺人事件が全国の父母らに恐怖感を抱かせたが、県内で同様の犯罪が起こらないとはもはや言い切れない状況だ。 ▼1人を狙う 県教委は大阪府池田市の児童殺傷事件を受けて二○○一年七月、児童・生徒の安全対策として「危機管理マニュアル」を作成。この中で緊急時の情報収集・確認や一斉下校の手順など登下校対策を定めている。また平常時にも、注意が必要な場所の情報や緊急避難場所などを児童に周知徹底するよう、学校側への指導を強化してきた。 ただ奈良県の事件や、昨年五月大阪府熊取町で起きた女児不明事件などは、自宅から約百五十―二百メートルと近い場所で発生したとみられている。県内の被害もほとんどが自宅近くで一人の時に起きているという。 集団下校をしていても最後には一人になることが多いためとみられるが、県教委スポーツ保健課は「子供一人ひとりが無事に帰宅したか、学校側が確認することは人的に無理」と対策の困難さを指摘する。 県警によると今年(一―十月)の刑法犯認知件数は八千四百二十四件と前年同期比で19・8%減った。地域によるパトロール推進など、住民の意識改革を進めたのが功を奏した形。だが半面で子供の不審者による被害が増えていることは、防止対策の難しさを浮き彫りにしている。 ▼孫を守れ このような中、注目されるのは地域の取り組みだ。青少年育成福井市民会議は本年度、「登下校を見守る運動」をスタートさせた。日ごろ自宅にいる高齢者や主婦によるパトロール隊の結成を呼び掛けており、地区によって組織形態はさまざまだが、既に福井市の四十三地区中、二十九地区で何らかの見守り運動が立ち上がっている。 同市中藤小の場合は、同市民会議、地区老人クラブと連携して今年七月から、お年寄りら十人前後による危険個所のパトロールと集団下校同伴に取り組んでいる。同校ではこの徹底した対策実施以来、不審者被害は発生していない。 子供たちを守るには、窃盗などの財産を狙う犯罪対策とはまた違った、きめ細かい地域ぐるみの取り組みが求められている。毎日、中藤小児童の下校に同伴している宮崎俊雄さん(73)は「冬になるとさらに大変かもしれないが、それより孫たちが心配。地域の者が頑張らなくてはいけない」と話した。 |
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2004年11月25日掲載 | ||
”越前の味”襲った3重苦 | ||
台風 夏の高温 害虫 新ソバ大不作卸値高騰必至 JA「良くて6割減」 店主悲鳴 値上げ、数量限定も |
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■年越しそばすら… 県内一のそば産地、大野市内のあるそば店主。粉にする前、殻が付いた状態の「玄そば」の仕入れ先はJAのほか、市内の農家に栽培を委託するなど複数の独自ルートを持つ。しかし今年は「全然あかん。うちは一年分で百五十俵ほど必要だが、三分の一も集められればいいところ」。声にはやり場のない怒りがこもる。 この店主によれば、今年の新そば不足は九月の時点で分かっていた。例年なら全国一の産地、北海道の複数業者から送られてくる見本の玄そばが今年は一件もなかったからだ。「北海道のそば畑にも行った。でも、本来なら鈴なりのはずの実が、一本に五、六粒付いているだけ」の惨状だったという。 「うちは農家に直談判して何とか一年分は確保できましたが…」と語るのは丸岡町内のそば店。ところが価格は通常の二倍近くにもなる見通しで「各メニューの値上げも検討中。年越しそばの注文も断らなければならないかもしれない」。 ほかにも「一日百食や二百食の数量限定でいくしかない」「場合によっては店を閉めなければならないかも」。そば店の”悲鳴”は深刻だ。 ■過去最悪 県内の各農家からJA県経済連に今年の玄そばが集まってくるのは例年、十一月下旬から十二月末にかけて。同経済連によると今、入庫しているのは刈り取りが早い大野市産がほとんどだが、数量は昨年に比べ八割も少ない。今年全体の取扱量は「良くて昨年の六割減。十一月初旬の寒波で大不作になった一昨年を下回り、過去最悪になるのでは」と厳しい予測をしている。 不作の要因は、まず夏の高温が挙げられる。あまりの暑さに花粉を媒介する虫が少なかったため結実率が低下。そこにきて害虫の「ハスモンヨトウ」が一部で異常発生し、実を食い尽くした。さらに台風が追い打ち。開花時期に16、18号が次々に上陸し倒伏被害が出たのに続いて、十月の23号でただでさえ少ない実が次々に落下、決定的ダメージとなった。 今年の新そばの卸値を決める県玄そば振興協議会の会議は、来月一日に開かれる。関係者は「例年は一俵(四五キロ)一万五千円程度だが、今年は二万円前後になりそう」と推測。一方で、そば店主たちは「経営面を考えると二万円が限界」。二万円ラインでのせめぎ合いが予想される。 ■懸念 「価格高騰より心配なのは越前そばブランドのイメージダウン」。こう指摘するのは、同協議会会長を務める橋詰製粉所(福井市)の橋詰傳三社長(65)。 同製粉所では県産そば粉100%維持へ新そばと昨年産のブレンド粉を作ることも検討中だが「そばはとてもデリケート。一年違えば味、香り、色…すべての質が落ちる。たった一年の不作で、全国の越前そばに対する評価が変わってしまうのが怖い」と打ち明ける。 また食の安全・安心に対する懸念も。今年のそばの不作は県内に限らず全国的。このため、国内ほど農薬規制がなく安価な中国など外国産が出回る可能性もある。「納得いくそばでなければ客には出さない」とプライドの高いそば店主も多いが、「店を守ることを考えたら…」との不安があるのも事実。 県は二○○二年度から県産そばの消費拡大や食の安全・安心を目的に、年間を通じて県産100%のそば粉使用店への認証制度を創設。現在七十店が認証を受けている。今のところ「県産100%のそば粉を集められない」とする届け出はないが、県食料安全・流通対策課は「もし届け出があった場合には、消費者に誤解が生じないよう対応していきたい」と話している。 |
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2004年11月23日掲載 | ||
様変わり授業以外も参観自由 | ||
丸1日開放、1週間も 共働き保護者 歓迎 子供、教員 いい刺激 不審者の備え重要に |
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■普段の学校生活を 「いらっしゃい、いらっしゃい」 ビニール袋で作った法被を着た子供たちの威勢のいいかけ声が響く。十一月中旬、福井市旭小の二年生の教室では、生活科の授業を活用した「秋祭り」のイベントが開かれていた。輪投げや空き缶積みなどさまざまなゲームができる屋台の前で、遊びに興じているのは児童の保護者たちだ。 この日は、同小が二○○一年度から取り入れている毎月一回の学校開放日。「多くの保護者に気軽に来てほしい」(島田真保子教頭)と、開放日に今回のような趣向を凝らした行事を合わせるケースも多いが、もちろん通常の授業だけの日もある。保護者らは午前八時十五分―午後三時四十分の就業時間中、いつ来校しても構わない。 「仕事の都合に合わせて、好きな時間を選べるのがいい。それに、決められた授業だけでなく給食や掃除、休み時間など子供の普段の学校生活を見ることもできる」と話すのは、二年生の木下裕貴君(7つ)の母、恵子さん(36)。会社員の恵子さんにとって、学校開放日の導入は大歓迎。この日は仕事でたまたま外出する用事があり、帰社する途中で駆けつけた。 ■意外な相乗効果 従来の授業参観のパターンから脱却する動きはここ数年、県内の各小中学で進んでいる。旭小や北中山小(鯖江市)など毎月一回の「一日開放型」が主流だが、高椋小(丸岡町)のように「きてねみてね週間」と銘打ち、一週間丸ごと保護者の来校を受け入れる学校もある。 背景には、夫婦で仕事をもつ世帯が多いという本県ならではの事情がある。二○○○年度現在で、県内の共働き世帯は42・6%と山形県に次いで全国二位。学校側としては、多忙な保護者に参加の無理強いはできない。でも、子供の様子は見に来てほしい。その打開策として、学校開放日を導入する小中学は少なくない。 さらに「閉鎖的」と見られがちな学校のイメージを変えたいという思いも。年間四十日を開放日に充てている福井市の進明中では、保護者だけでなく地域の人たちの来校もOKだ。回覧板でスケジュールを通知し、授業や生徒総会、学校祭の様子などを広く見てもらっており、年間延べ二千人が訪れるという。 「地域に開かれた学校づくりには、まず多くの人に関心をもってもらうことが大切。それに、絶えず学外の人が出入りすることで、授業や生徒指導に携わる教員の緊張感も高まるという意外な相乗効果もある」と中村准教頭はメリットを強調する。学校の風通しをよくすることで、教員の意識改革、ひいては子供たちの教育レベル向上にもつながるというわけだ。 ■みんな顔見知りに 一方で、学校をオープンにすれば、それだけ安全面の配慮が重要になる。各校とも通常は児童生徒の登下校以外、玄関にかぎをかけ来校者にはインターホンで対応しているが、多くの人が訪れる開放日はそうはいかない。 旭小ではPTA役員が交代で玄関前に立ち来校者をチェック。高椋小は、入学時に保護者用の「たかぼこワッペン」を二枚配布し、来校のときに着用してもらう。多くの学校はネームプレートや来校時に受け付けで名前を記入してもらうことで、不審者の侵入を未然に防いでいる。 北中山小の井波康一校長は「来校者のチェックはもちろん大切。でも、最も有効な安全対策は、多くの人が学校に訪れ互いに声を掛け合い、みんなが顔見知りになること」と話す。一人でも多くの保護者、地域住民が来校することで学校が活性化され、さらには安全面の強化にも波及する。「敷居が高い」と遠慮せずに、気軽に足を運んでみては―。 |
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2004年11月16日掲載 | ||
福井市「自治会型デイホーム」丸4年 | ||
痴呆も癒やす 笑い声 高齢者に浸透 毎月4000人参加 県外から視察続々 |
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高齢者の社会的孤立感解消や心身機能維持向上を図る福井市の「自治会型デイホーム」が、二○○○年十月にスタートして丸四年。地区ごとに拠点整備が進み、今年六月には四十三全地区での導入が完了した。毎月各地で延べ二百回近くのつどいが開かれ、月平均の参加者は四千人前後に上る同市のひそかな大イベント。高齢者の楽しみとして定着、介護予防の効果を上げるほか、軽度痴呆(ちほう)の症状が改善したとの報告も届いている。同市で生まれた高齢化社会の新たな仕組みが注目を集めている。 ●笑いが一番
デイホーム拠点の一つ、豊地区の花堂町民会館には第二水曜日の午後、近くの六十五歳以上の人たち二十人ほどが集まってくる。市独自の転倒予防体操「ズンドコ体操」で体をほぐし、専任職員の指導で小物作りやレクリエーションを楽しむ。ある日のメニューはミニゲーム。ペットボトルで手作りした用具とお手玉を使い”キャッチボール”や的入れに興じた。 九十二歳の女性は「遊戯も楽しいが、みんなに会えるのがいい。家にいても寂しいし、同年配でないと話も合わない。会話して笑い合うのが一番」と笑顔。最初、いすに座っていたこの女性は、いつの間にか立ち上がって熱中していた。 飛んでくるお手玉の軌道を見極めたり、相手の胸を目掛けて飛ばすゲームは体と頭を自然に使う。ほかにもメニューは折り紙、飾り物作りなど指先を使うもの、複数の動作を同時に行うものなどが工夫されている。 ●心も体も元気に デイホームの大きな狙いは介護予防だが、健康づくり効果が痴呆症状や身体機能の改善にまで及んだ事例もある。 郊外のある公民館会場に、アルツハイマー型痴呆の六十歳代女性が通い始めたのは約三年前。当時表情が乏しく、会話にも加わらなかった。人を押しのけて座ったり、人の飲み物を取り上げるなどの行動もみられ、担当の専任職員は接し方に途方に暮れたという。 しかし一年近く通ううち、女性は積極的に話すようになり、後片付けも進んで手伝うまでになった。専任職員は「痴呆症状がある人にこれまで四人接したが、みんな徐々に改善している。ホームで会話するだけでも効果があるのでは」と話す。 中心部近くに住む七十歳代の女性は閉じこもり気味で、寝たきりになるのを心配した知人に誘われ通い始めた。最初は会場の隅にただ座っているだけ。会場内の移動にも介助を要した。表情も読み取れず、担当専任職員は「話が聞こえているのかすら分からなかった」。 しかし四年近くが過ぎたある日。この女性が一人で手押し車を持ち上げ、路線バスに乗り込む姿が見掛けられた。専任職員は「ホームのメニューにもなじみ、恐らく気持ちが明るくなって、それが体の元気につながった。私自身もデイホームのすごさに驚いている」と感激の面持ちだ。 ●前頭前野を活性化 痴呆予防に詳しい福仁会病院の村田一郎診療部長は「定期的にこうした活動に通うことで、100%ではないが、改善する人はいる」と話す。 村田部長によると前頭葉の一部「前頭前野」を中心に脳の働きが活性化したと考えられるため。前頭前野はコミュニケーション、積極性、創造性、短期記憶、複数の動作の制御などにかかわっており、デイホームのメニューが前頭前野を刺激しているという。 福井市のデイホームは県外から視察が相次ぐなど注目が高まりつつあるが、成功の要因の一つは同市に地区社協が行き渡っていること。配置した専任職員と地域ボランティアの連携を可能にし、住民を巻き込んだ事業展開につながった。市社協の平重道地域福祉課長は「デイホームは福井型事業」と指摘する。 専任職員の負担が大きいことや開催頻度の地域差、男性の参加がまだ少ないことなど課題はあるが、介護保険改革で介護予防の本格導入が検討される中、ホームの役割は今後重みを増すことになる。平課長は「これまでで基盤はできた。五年目に入ったのを機に一層のメニュー充実など次のステップをつくり上げたい」と話している。 |
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2004年11月12日掲載 | |||||
桜の堤 改修どうなる 景観重視か治水優先か 福井・足羽川 | |||||
県 両立向け本格検討へ 国 「劣化の要因、リスク大きい」 地元 「全国に誇る名所、保存を」 |
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七月の福井豪雨で堤防が決壊した福井市の足羽川で、県は五年がかりの河川改修事業に着手。「破堤なき堤防」を目指し今後、工事内容を順次具体化させていくが、焦点の一つが老木化した桜並木の扱いだ。木の根が堤防の地盤に食い込むため水防面で危険性が大きく「好ましくない」という立場の国に対し、地元では全国に誇れる”桜の名所”の保存を求める声が根強い。共存する有効な手だては見いだせるのか、行方が注目される。 ■あわや倒木
福井市中心部の足羽川左岸堤防を中心に二・二キロに及ぶ桜並木で十月二十日夜、JR鉄橋から約五十メートル下流の一本の桜が根元から傾き転倒寸前になった。台風23号による強風を受けたためだ。 そのころ川は大雨で増水。警戒水位を超え堤防上部にまで迫った。翌朝、現場を見た県や市の関係者らは「もし倒壊部分まで水が達していたら」と青ざめた。堤防上の植樹の典型的な危険例として、かねて指摘されていた「強風倒木後の増水」が現実になりかけた。 堤防上の樹木について国土交通省は否定的な姿勢だ。福井河川国道事務所の佐中康起副所長は「水防面だけでなく、いざ堤防が決壊した場合でもリスクは大きい」と指摘する。破堤時には重機による速やかな応急措置が必要となるが、資材などを運ぶ大型車両が現状では通行できない。 ■根が土をガード 腐った根の周囲に空洞ができ、桜に寄生する虫を狙ってモグラも集まりやすくなる―。堤防を劣化させる要因から、国の基準では一メートルを超える高木の植樹を禁じている。 ただ、福井大工学部の荒井克彦教授(環境防災学)は、こうした欠点の一方でプラスの面もあると説明する。山の斜面でびっしりと張った木の根は土壌に絡みつき、防災効果を発揮。堤防でも同様の機能を果たすという。 堤防の桜並木を管理する福井市森林組合・市緑化木センターの森國輝雄所長によると、実際に根は堤防の外側斜面にへばりつくように縦横に張り巡らされ、長いもので数メートル下の親水護岸付近まで達しているという。 福井豪雨時に増水した足羽川の水は、桜並木のある木田橋前後で激しく越流。それでも決壊は免れた。堤防の斜面で何カ所も根が激流に洗われた桜並木は、水が引いた後も立ち続けていた。 「鉄筋コンクリートと同じで、根が鉄筋の役割を果たした可能性があるのではないか」と語るのは、越水を目の当たりにしたセーレン常務の安本仰路さん(62)。「全国に誇る福井の数少ない景観。ぜひ保存を」と訴える。 新潟大工学部の大熊孝教授(河川工学)は「堤防上の木の存在は悩ましいが、結果として良かったのであれば否定することはない。土のうが積みやすくなる利点もある」と話す。
■折衷案も 福井震災の復興のシンボルとして足羽川に桜が植えられたのは一九五三年。五十年から八十年とされるソメイヨシノの寿命を既に超え始め、日当たりが悪い部分では枯れ枝も見られるようになった。 市は重要な観光資源として保存姿勢を鮮明にするが、河川法の下では新たな植樹は不可能。活力剤を注入するなどの延命措置もいつかは限界が訪れる。 堤防の強度は保ちつつ植樹もできる折衷案として、堤防の外側に土を盛って桜を植え直す「桜堤」という手法が考案され、本県でも日野川の一部で実施例がある。荒井教授は「山の斜面に使われる地盤強化技術を河川に応用できる可能性もある」とする。 県は今春、構造改革特区制度を利用して打開を試みた。河川課では、技術検討会を設けるなどして治水と並木保存の両立を本格的に考えていく方針だ。 |
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2004年10月28日掲載 | ||
相次ぐクマ射殺 県猟友会 狩猟自粛へ | ||
保護か駆除か対策手探り 生息数など乏しいデータ |
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里に出没するツキノワグマの射殺が県内で相次ぐ中、県猟友会は二十七日、クマの狩猟を自粛する方針を明らかにした。有害鳥獣駆除による射殺が本年度九十頭を超え、種の保護を懸念する県の意向をくんだ異例の措置。ただクマの生息頭数など、対応の裏付けとなるデータが希薄な中、手探りでの策との感は否めない。関係者が保護と駆除のはざまで、微妙なかじ取りを強いられている現状が浮かび上がる。 本年度、県内のクマ目撃情報は七百四十九件(十月十七日現在)と前年度の十二倍。うち駆除による射殺頭数も九十頭で十倍。データが残る一九七三年以降、三番目の多さとなっている。この現状を受け二十七日、県の呼び掛けで初の「県ツキノワグマ出没防止研究会」が学識経験者や奥越の自治体代表らが出席して県警本部で開かれた。
席上、来月解禁される狩猟について県猟友会から、クマは山にいる分には問題ないとして「会員にクマ猟の自粛を呼び掛けたい」との意向が示された。 クマの生息数を一定に維持するには、射殺制限の根拠となるデータが欠かせない。しかし座長を務めた高柳敦・京都大大学院講師によると、頭数を正確に把握する手法は未確立。生息頭数の増減は全国的にもはっきりしないという。 このため年間射殺頭数は、各都道府県の裁量に任されているのが現状。本県では駆除と狩猟を合わせた捕獲頭数の年ごとの推移から「県内の生息頭数は横ばい」(県自然保護課)と推測されていて、石川県などにみられる捕獲上限数は定めていない。 明快なデータがないだけに、射殺を続けても問題ないか、絶滅に向かうかの判断はつき難い。クマの生態に詳しい日本ツキノワグマ研究所(広島県廿日市市)などでは「クマは増加傾向」との見解も出している。 しかし射殺には、種の絶滅を危ぐする声も多い。九七年に県が行った生息数調査によると、県内の頭数は四百―八百頭。幅があるうえ、調査地点も県内全域を網羅していないとされるが、本年度の射殺頭数九十頭はこのうち一割強から二割強に当たる計算だ。 猟は自粛となる見込みだが、駆除による射殺は継続される。クマ出没の原因はこの日の研究会でも諸説が飛び交うのが現状。ただ県外では、ドングリ類の不作とクマ出没の因果関係を調べている地域もある。有効な対応策に近づくには、こうした努力は欠かせない。 研究会では、クマが何を食べているか、地域ごとのドングリ類の結実状況など「これまで一切やっていなかった」情報収集の必要性にようやく共通認識を持ったところだ。 ■ドングリ散布は是か非か ・生物学者 生態系へ悪影響 ・自然保護団体 エサ不足解消を クマの下山を防ごうとドングリを奥山に運ぶのは是か非か―。県外の自然保護団体が、全国から集めたドングリを県内に運び込んでいることをめぐり、この団体と県内の生物学者による”論争”が起こっている。問題はドングリが地域不特定なものであること。生物学者は「遺伝子かく乱や生態系への悪影響につながる恐れがある」と指摘。これに対し自然保護団体は「福井の出没増は人工林増によるエサ不足。放置すればクマは絶滅する」とドングリ運びの重要さを訴えている。 この団体は広葉樹植樹活動などに取り組む日本熊森協会(兵庫県西宮市)。十月上旬からドングリを募集。北海道から鹿児島まで全国から約五トンを集めた。 同協会はこれを地元・兵庫と福井、富山の三県に分配。県内では今月下旬、約一トンを獣道上に散布したという。 この活動に対し福井大教育地域科学部の保科英人助教授は「遺伝子かく乱」問題を指摘。「福井のブナには福井の地域特性に合った遺伝子がある。例えば九州から持ち込まれた種と交雑が起これば、寒さへの耐性が落ち育たなくなる恐れがある」と警告する。 さらに「ドングリの中にいる虫の種類が変わったり、冬期に個体数が自然減するはずの野ネズミやリスなどの小動物が増加する」と、生態系への悪影響も不安視する。 遺伝子かく乱の防止とドングリ内の虫駆除のため同協会は、ドングリを水に一昼夜浸したり煮沸するなどの措置を取っている。ただ同協会の森山まり子会長は「念には念を入れた措置。九州のドングリが福井で発芽する可能性は極めて低い」と話す。「そもそも福井のスギやヒノキなどの人工林はどこの種を植樹したのか。遺伝子かく乱はすでに至るところで行われている」と反論、今後も活動を続ける方針。 県は「リスクが指摘されている以上、散布を行うわけにはいかない」との見解を示している。 |
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2004年10月26日掲載 | ||
11月1日から20年ぶり新紙幣 | ||
自販機改造間に合わん 交通各社 費用数千万以上「困った」 飲料もたばこも… 1年は旧札必携? |
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二十年ぶりの新紙幣発行が十一月一日に迫ってきた。しかし県内の公共交通機関券売機、飲料やたばこなどの自販機の改造が追いつかず、発行に間に合わない情勢となっている。中でも地域交通機関は、福井鉄道、京福バスの両社が「いつまでに対応できるか見通しが立たない状況」。新紙幣は県内でも同日から流通するが、当面財布には、旧紙幣もそろえておく必要がありそうだ。 ■「おいそれとは」 新紙幣の発行は、年々増加する偽造防止が主な狙いで、実に一九八四(昭和五十九)年以来のこと。二十年前と違い、紙幣を使用する機械が増えているため、既に対応済みの金融機関以外の各業界では、機械の改造に迫られている。
特に遅れているのが、費用負担の影響が大きい地域交通機関。福井鉄道は福武線各駅の券売機計五台と車内両替機、路線バス約五十台の運賃箱両替機が対象になるが、まだ「メーカーに極力安価な方法を問い合わせている段階」。 古い型の機械が多く、部品交換だけで済みそうにないが「数百万円もする新しい機械をおいそれと買えない。いつまでにどんな対応をするか来年度中には結論を出したいが…」(同社鉄道部)。当面、機械では現行紙幣しか使えない。 京福バスも、バス約百八十台の運賃箱とターミナルの券売機三台を持つが、苦慮を続けている最中。「入れ替えなら費用は億単位、部品交換だけで済んだとしても数千万円かかる。正直困ったな、と」(同社管理部)。めどは見えていない。一方、えちぜん鉄道は券売機を持たず、対応は不要。 ■すべては無理? 地域交通機関に比べれば対応が早いJR西日本も、一日から対応できる県内の自動券売機は三分の一強にとどまる。 同金沢支社によると、県内各駅に備える自動券売機は北陸線二十一台、小浜線十台、越美北線一台の計三十二台。うち一日までに改修を終えるのは福井駅(六台)、武生駅(二台)、敦賀駅(二台)、小浜駅(二台)の主要駅のみで計十二台。残る二十台は本年度末までに順次改修する計画。「すべてを一度には難しい。石川、富山県など、管内はいずれも似たような状況」としている。 交通機関以外の自販機関係も、新札対応が行き渡るには少なくとも半年から一年がかり。 ある大手飲料メーカーは、本県などに設置する自販機のうち「本年中に30%、来年中には100%対応を済ませたい」。別の自販機管理業者も「完了までには数カ月かかる」とする。 全国で二十三万七千台を販売店にリースする日本たばこ産業(JT)の切り替え作業は、自販機メーカー側のテストのため来年一月以降にしか始められない。進ちょく予想は「販売店の意向もあるため分からない」(本社広報)。 時間貸し駐車場の精算機を県内で百台近く管理している業者も「費用負担が大きく、慎重にならざるを得ない。ニーズと新券の発行状況をみながら徐々に進めていく」として、すべての改造は難しいという。 一方、各業界とも二千円札の機械対応は今回も見送りに。「機能的に不可能ではないが、釣り銭確保などの効率が悪い」(飲料メーカー)「流通量からいっても、たばこの値段からも、需要はあまりないのでは」(JT)。新紙幣発行も、二千円札利便向上のきっかけとはならないようだ。 ■現行紙幣もちろん有効 悪徳商法に注意 新紙幣は一万円札(福沢諭吉)、五千円札(樋口一葉)、千円札(野口英世)の3種類。日本銀行福井事務所によると、1日午前6時すぎに同事務所から県内主要銀行に渡され、各支店や信金など他の金融機関に届けられる。同日の流通枚数は発行直前の今月末に決まるという。 大きさは現行とほぼ同じで、財布の買い替えは必要ない。重さも一万円札が1グラムで変わらず、1億円なら10キロになる。 新紙幣が流通しても、現行紙幣はもちろん、過去の五百円札、百円札、一円札などもごく一部の失効券を除き銀行券として有効。同事務所は「現行紙幣は今後もちゃんと使えるので、『無効になる』などと早期投資を促す悪徳商法に注意してほしい。新旧混在期はしばらく続き、入れ替わるには2年ぐらいかかるのでは」と話している。 |
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2004年10月21日掲載 | ||
高校内に携帯規制は限界 | ||
県内生徒8割所持 条件付き 半数は許可 マナー指導に切り替え |
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今や県内高校生の八割以上が持つ携帯電話。急速な普及に押される形で、条件付きで校内持ち込みを認めたり、マナーさえ守れば特にチェックを受けない”完全許可”に踏み切る高校が増えている。校内の公衆電話撤去も進み始めている中、学校関係者からは「規制しても仕方がない」との声も。一方で買春や援助交際など非行への入り口ともなりかねず、情報モラル教育の徹底が重要視されている。 ■所持禁止はゼロ 県教委によると、県立高三十校で携帯電話の校内持ち込みを完全に禁じているのは十五校。残りの半数は原則禁止の方針を示しながらも生徒の事情によって認めたり、授業中などは電源を切るよう指導した上で持ち込みを許している。
三年前には、校内外を問わず生徒の所持を認めない「全面禁止」が数校あったが、今はゼロ。県高校教育研究会が昨年行った調査では生徒所有率は全日制で80・6%、定時制で85・6%。ここ数年で約20%上昇し「もはや持ち込み禁止といってもポケットやカバンの中に持っている」(学校関係者)のが実情だ。 携帯電話の急速な普及と相まって、月の利用額が一定額を超えない学校内の公衆電話も増加。昨年から今年にかけて撤去または台数減となる学校が増えてきていることも「持ち込み可」を”後押し”する一因になっている。 坂井農は生徒の携帯電話保有率が九割を超え、昨年度から「持ち込み可」に踏み切った。生徒の三分の一が保護者の送迎で登下校する学校事情に加え、昨年四月に公衆電話が撤去され「結果的に保護者への連絡手段として認めざるを得なくなった」。規制やチェックは行わず、マナー向上意識を植え付ける指導方針に切り替えている。 逆に「持ち込み不可」の原則を貫く武生工は「今のところ禁止している以上、電話が必要」と、撤去後に学校でピンク電話を購入した。ただ、生徒会からは「持ち込みを認めてほしい」との声が出ており、対応の検討を続けているという。 ■”罰則”は多種多様 それでも「通常の学校生活に携帯電話は必要ない」との認識はすべての学校で一致。マナー違反の使用や規則を犯した際にはペナルティーを科す学校がほとんど。 福井高は保護者から誓約書を取った上で、事情によっては持ち込みを例外的に認める「許可制」を採用している。持ち込みが許されても朝礼時に担任が携帯電話を回収、帰りの会で返却する方式をとる。違反によっては一カ月間預かる厳しい措置もある。 足羽は没収した携帯電話を直接本人には返さず、保護者に取りに来てもらい反省を促す。科技は違反二回までは放課後に本人に返却するが、三回目は解約になる。試験中にメールやインターネット機能を悪用しカンニング行為を行った場合には停学処分を科す学校もある。 各学校で対応がばらつくのは、通学距離や手段など生徒事情が異なるのに加え、携帯電話には多くの個人情報が含まれていることも大きい。プライバシーにかかわるものを一律に規制するのは難しいという。 ■叫ばれる情報教育 ただ、ある学校関係者は「罰則を厳しくしても校内限定。高校生が携帯電話を持つこと自体を否定はしないが、一番怖いのは犯罪に巻き込まれないかということ」との不安を口にする。 県警少年課の調べによると昨年一年間で買春や援助交際、覚せい剤など「少年の福祉を害する犯罪」に巻き込まれた未成年者は五十人(うち女子三十四人)。今年は八月末までに十七人(同十七人)となっている。 そのすべてが携帯電話を介したものではないが、昨年九月には高校生でも誘引行為を行った場合は罰せられる「出会い系サイト規制法」が施行。各学校は、県警と連携し出会い系サイトの落とし穴を指導するなど情報モラル教育の徹底を図っている。 ただ、生徒指導部の教員たちの多くが「部屋で何をしているかは誰にも分からない」と指摘するように、携帯電話の普及で子供たちの動向が親にも学校にも見えにくくなっているのが現実。県教委は「学校と家庭両面からの情報モラル教育が、ますます重要になってくる」と気を引き締めている。 |
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2004年10月15日掲載 | ||||
地場食材の給食 安心 畑のおばあちゃん 顔浮かぶ | ||||
導入進む県内小中校 量確保、衛生に苦心 残食減る |
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地域で生産された食材を取り入れる「地場産学校給食」が県内で拡大している。県が集計中の今年六月現在の調査では、月間十品目以上の地元食材を使っている小中学校は百二十校を突破、約44%になる見込みで前年同期からほぼ倍増。安全・安心な野菜を届ける食育の生きた教材に「残食が目に見えて減った」学校もある。学校の調理師、栄養職員らが生産者グループなどと連携、季節感と郷土色豊かな食の提供に奮闘している。 ■おいしくなった 全校児童が一堂に集まれるランチルームを持つ大野市富田小(百四十二人)。配(はい)膳(ぜん)が済むと、給食係の児童数人が部屋の真ん中に進み出てマイクを握る。「のっぺい汁の里芋、ネギ、ニンジンは、麻地菜(あじさい)グループの中村さんが作ってくれました」「のっぺい汁は野菜がたくさん入っているし、体を温めてくれます」。
給食係の一人、下村優佳さん(五年)は「作る人は知っている人ばかり。給食がおいしくなった」と笑顔を見せる。 同小が校区内の生産者でつくる麻地菜グループと連携、地場産給食を導入してから四年目。県内では比較的早い取り組みだった。コメはもちろん、副食食材の三―四割が地場産で賄われている。 生産は減農薬、たい肥栽培が基本。規格外の野菜も多く、調理師にとっては厄介だ。必要量に満たないときは、別ルートでの確保も同小では調理師の仕事になる。 ■孫のためだから しかし調理師の鈴木美智子さん(52)の表情は明るい。「麻地菜グループのメンバーの多くは、お孫さんが学校にいる。『健康のためには一里四方の物を食べろ』と言いますが、おばあちゃんが孫のために作った野菜なら安心して出せる」。十センチに満たない規格外ニンジンを手に「難しさもあるが、価格も安め。いい面だけを見て取り組んでいる」と笑う。
麻地菜グループは同小の取り組みに合わせ、六十歳代の女性八人で結成した。代表の石田幸子さん(64)が毎朝、野菜を学校に運ぶ。それまで自家野菜栽培の経験しかなかった石田さんには「買ってもらえて、喜んでもらえるのが励み。子供との交流が生まれたのも楽しみ」になった。 同小の松村秀彦校長には「多くの人の手が掛かる分、温かみのある給食」と映る。「作った人の顔が浮かんでくる食事が子供の心に働き掛けている気がする。明らかに子供の残食が減った」と手応えを話す。 ■地域が育てる 県が二○○○年度に普及に乗り出して以来、地場産給食は徐々に浸透してきたが、普及へのネックは衛生管理。 県食料安全・流通対策課は「O157問題以来、管理マニュアルが厳しくなり、冷凍品、加工品の方が扱いやすい状況が生まれた」という。さらに今年は、雨の多さと暑さから「虫害との戦いだった」(石田さん)。 ただ、O157問題をきっかけに、仕上がり専用冷蔵庫などの施設充実が進んだことが、手間ひまさえ惜しまなければ生食提供を可能にしている面もある。 鯖江市北中山小では、二年前に整備された冷蔵庫を活用して地元のマルセイユメロンを夏場に提供。シンク熱湯消毒、流水三回洗浄など手間は増えるが、同小栄養職員の藤田法子さん(49)は「保護者が知らないところで作られるのではなく、地域に育ててもらう給食にしたい」と前向き。 県も「地域ぐるみの教育の素材になることが大事。普及率にあまりとらわれず、じっくり取り組みたい」としている。 ■地域間に格差 提携生産者は不足気味 県食料安全・流通対策課の昨年十一月の調査では、地場産食材の使用重量率は45・9%(コメ、加工食材などを除く)と「ほぼ全国平均並み」。ただ、全小中学校が月間十品目以上を使用する市町村は約三分の一。これに対し0%の自治体も四分の一近く存在するなど、地域間格差がある。 学校と提携している生産者は、昨年三月の県まとめで二十五グループ、六個人。増えてはいるが、絶対数は不足気味。提供食材で多いのは、日持ちしやすい芋類、玉ネギ、ニンジンがベスト3。ネギや鶏卵、葉物ではホウレンソウ、小松菜なども使用量が多く、地産地消に適した食材といえそう。コメは100%が県産米。 キュウリ、トマト、冬場のキャベツ、白菜などは使用施設は多いが、量は限定的。海岸部では、水産物を積極的に取り入れる給食センターもある。 |
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2004年10月8日掲載 | ||
県内総合病院 進む敷地内全面禁煙 | ||
玄関脇や駐車場も 「喫煙も権利」「患者を選別」 徹底へ課題も |
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県内の総合病院で、建物内にとどまらず玄関脇や駐車場でもたばこを吸えなくする「敷地内全面禁煙」が進んでいる。福井総合病院、公立丹南病院に続き、一日から県済生会病院でも実施。二○○三年五月に健康増進法が施行されて以降、受動喫煙防止の観点から学校や駅、空港のほか飲食店やプロ野球場などで規制は強まる一方。だが、長期入院患者たちの「生活の場」でもある病院には禁煙徹底の難しさもあるようだ。
●隔たり大きい主張 病院「予防可能な病気を防ぐのは病院の使命。たばこは百害あって一利なし」 患者「たばこは入院生活の唯一の気晴らし」 病院「禁煙でつらいのは最初の一、二週間。乗り切れば何も思わなくなる」 患者「灰皿を囲んでのコミュニケーションの場をなくさないで」 病院「たばこを介さなくても情報交換はできるでしょう」 患者「酒や食事が制限され、たばこまで吸えないなんて酷。本数は減らしているんですよ」 病院「入院時より元気になって退院してもらいたい。禁煙外来というものもある」 患者「禁煙外来は保険がきかずに高い。必ず隠れて吸う人が出てくる。病院内の衛生は逆に悪くなる」 病院「そんな非常識な人は一握り。病気を早く治そうと我慢している人だっているんです」 愛煙家の入院患者と施設内禁煙を行っている病院側。双方の主張の隔たりは大きい。 ●喫煙者に配慮 二年前、県内でいち早く敷地内禁煙に踏み切った福井総合病院は、ルールを守るという同意書にサインしてもらうことを入院の条件にした。今のところ実例はないが、破った場合は他病院への転院を促す厳しい内容。医師や看護師、事務職員にも減給処分を科すなど禁煙を徹底している。 ある四十代の男性入院患者は「法律まででき、世の中の流れがそうなっているんだから仕方ない。あきらめましたよ」。入院を機に二十年吸い続けたセブンスターをきっぱりとやめた。 だが、厳しすぎる規制に「患者の選別につながらないか」との不安を口にする関係者もいる。実際、敷地内禁煙にしている病院の五十代入院患者は「たばこは死ぬまでやめない。転院も考えたい」と強気。ある病院関係者は「もちろん本数を減らす努力はしてもらわないといけないが」とした上で「喫煙者も患者。どこかで”権利”を確保してあげないと…」と複雑な心境を打ち明ける。 県立や福井日赤、福井大付属などの病院では敷地内禁煙を「今後の検討課題」としつつも屋外の一角に灰皿を設置、喫煙者に配慮した患者サービスを保っている。 ●どうなる喫煙患者 とはいえ、たばこが健康に与える害は、もはや一般常識。県済生会病院の小林弘明呼吸器外科部長は「煙に含まれる物質は四千種類以上。このうち約二百種類が有害物質。発がんだけでなく薬が効きにくくなったり、全身麻酔の手術後に肺炎を起こしやすくなる」と強調。「吸えない環境をつくるだけで禁煙できる例も多い」と、今後も禁煙対策を緩める考えはない。 そんな中、喫煙者と非喫煙者が一体となって喫煙マナー向上に努めている日本愛煙家協会(大阪市、会員数約千人)は「喫煙者がある程度の社会的負担を背負うのも仕方ない時代なのかもしれない」と指摘。駅などにコイン投入式の分煙室の設置を提唱している。 だが、煙やにおいが一切外に漏れない分煙室を設置するには多額の費用がかかる。病院側も「圧倒的に少ない喫煙患者のために多くの金はかけられない」。さらに、財団法人・日本医療機能評価機構の評価基準の一つに禁煙、分煙の徹底が重要な要素として位置付けられていることを挙げ「病院の格付けを高めるものとして近年、評価を受ける病院が増えている。高評価を得るには分煙より完全禁煙」と打ち明けた。 院内禁煙は県内の全総合病院ですでに実施済みなことから、患者の健康管理や病院の信頼性の面から考えれば敷地内禁煙は今後、さらに広がりそう。一方で、どうしてもたばこをやめられない患者をどのように受け入れていくかが課題といえる。 |
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2004年10月5日掲載 | ||
クマ出没 県内相次ぐ | ||
県猟友会 捕獲”戦力”足りません 10年で会員半減、高齢化も 経験・技術重要、養成に時間 |
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クマの民家近くへの出没が相次ぎ、住民が襲われてけがを負う事件も各地で発生している。有害鳥獣捕獲の前線に立つのは県猟友会員だが、会員数はピーク時から半減しているうえ、高齢化も進み戦力不足が否めない状態。県は人員養成策に乗り出しているものの、経験がものをいう仕事だけに効果を発揮するには時間がかかる。少数の精鋭会員に過重な負担がかかる状況が当面続きそうだ。
▼必然の事故? 先月十五日、丸岡町内で、クマの目撃情報を受け捜索に駆け付けた会員が、逆に襲われ重傷を負った。道路わきの林に「この辺りにいる」と見当をつけ、まさに捜索に入ろうとした瞬間、突然現れたという。虚を突かれた不慮の事故にも見えるが、ある会員は「昔なら防げたかもしれない」と沈痛な面持ちで指摘する。 クマなど有害鳥獣が山里などに現れた際、県猟友会員が市町村の依頼を受け捕獲隊として出動する。だが、ピークの十年前に約千五百人いた会員は、その後毎年減り続け、現在約七百六十人と半減した。ピーク時は四十―五十歳が中心だったが、現在は六十―七十歳代と高齢化が進んでいる。 ある支部では、いつでも出動できる会員が十年前には五人はいたが、今は二人しか確保できない。必然的に、緊急捕獲に当たるのはいつも同じ会員。「高齢の会員には山の捜索は頼みづらい」といいながら、度々かり出される七十歳代の会員もいる。 新入会員が増えない理由には自然破壊を指摘する声がある。「コンクリート護岸などで野鳥が減った。初心者でも可能なカモ猟などがやりにくくなっている」(県猟友会関係者)。 ベテラン会員がいなくなることは、猟友会全体から経験が失われることも意味する。先の会員は「昔は先輩と一緒に山に登り、クマ猟をして少しずつコツを学んだ。クマを撃つときは、数人で陣形を組み慎重に囲まなければならない。あうんの呼吸もある」と話した。 ▼捕獲以外に手なし 県によると今年に入り四日までに、クマに襲われけがを負ったのは七件八人。捕獲頭数は三十五頭で昨年の十二頭の既に三倍。目撃情報も百七十件(九月二十四日現在)と、昨年同期の五十五件に比べ三倍に上り、今年の特異さが分かる。 特にここ数日は、山里だけでなく坂井町の兵庫小近くや松岡町役場近辺などと、平野部にまでクマが出現、住民を驚かせた。 クマ、イノシシなど有害鳥獣の農作物被害は電気柵(さく)などでかなりの効果を上げられるが、人的被害を防ぐには捕獲する以外に手はなく、人員養成は急務。県は本年度から三カ年計画の「鳥獣害のない里づくり推進事業」の中で「捕獲隊員の養成」に取り組み、狩猟免許試験の回数を増やすなど力を入れている。今庄町などでも、住民に補助金を出し狩猟免許取得を促している。 ただ捕獲隊は、銃を使う者は免許取得から五年以上が条件。おりや罠(わな)の扱いも、設置場所やえさをどこに置くかなどは高度な技術が必要とされ、捕獲隊の戦力アップは即座に達成できるものではない。 県猟友会でも会員に対する講習など、後進への技術伝達を図る考え。ただクマ、イノシシの出没は増えても野鳥は増えず、会員減にあえぐという皮肉な現実が横たわっている。 |
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2004年9月8日掲載 | ||
高卒就職者44% 3年以内に離職 | ||
解決へ企業学校家庭連携 卒業生を教諭が訪問 早期に職業意識形成 |
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若者の職離れに歯止めがかからない。高卒就職者が三年以内に離職する割合は、ここ数年44%前後で推移しており、半数近くが長続きしていない。本人の忍耐不足、高校の就職指導、企業の受け入れ体制―さまざまな要因がつきまとう早期離職を深刻な問題ととらえ、県教委は本年度「高校生就職支援検討委員会」を発足。教員やPTA、福井労働局、県内経済界が一体となり、解決への糸口を探り始めた。
■卒業後もケア 「ずいぶん社会人らしくなってきたな。仕事は慣れたか?」 福井市内の医療機器販売会社。福井商高の川崎和章教諭が、今年三月に同高を卒業した宗石将仁さん(18)に話しかけた。「先輩に良くしてもらっている。取引先の担当者の名前も、ようやく覚えました」と宗石さん。川崎教諭は、約三十分の面談で▽仕事に対するやりがい▽職場での悩み▽将来の夢―などを質問した。 宗石さんは「大学に通う同世代の人を見ると、うらやましくないと言ったらうそになる」と胸の内を明かす。それでも「(就職は)自分で決めたことだから。今は、一人で一つの病院を任せてもらうことが目標なんです」ときっぱり。元教え子の充実した仕事ぶりを確認でき、川崎教諭はほっと胸をなで下ろした。 ■目標意識の欠如 県内の高校生が就職して三年以内に仕事を辞める割合(離職率)は、一九九七年度43・7%、九八年度43・4%、九九年度44・2%、二○○○年度44・1%とここ数年、44%前後で推移している。50%を超える全国平均と比較すると低いが、半数近くが早期離職する現状は、深刻な問題であることに変わりはない。 卒業生の職場訪問は、離職防止に向け県教委が本年度から始めた。就職後のケアに重点を置いた施策で、県内の職業系、総合学科の高校十八校が対象。福井商高では十二月までに、川崎教諭ら就職指導担当の六人が手分けして、今年県内企業に就職した九十人と面談する計画だ。 若者はなぜ、早期離職するのか。七月に開かれた同検討委の会合で、高校教諭や福井労働局、経済団体の代表者ら多くの委員から指摘があったのは「目標意識の欠如」。「ただ何となく」「進学に失敗したから」などの理由で就職する生徒は長続きせず、逆に将来のビジョンを明確にしている若者は、辛抱強く仕事に取り組む傾向にある―というのが各委員の一致した見方だ。 ■離職者ゼロ それを裏付けるデータがある。啓新高に一九九八年度設置された福祉科では、○一年度に最初の卒業生を送り出して以来四年間、同科から特別養護老人ホームなどの福祉関係施設に就職した生徒は約二百人。そのうち、一人の離職者も出していない。要因として荻原昭人教頭は「同科の生徒は三年間、難関の介護福祉士の国家試験合格を目指し、現場実習などを繰り返している。漠然と、ではなく具体的な夢を現実にするために取り組む姿勢が、離職ゼロという結果に反映している」と分析している。 高校生の就職活動期間は、七月一日に企業からの求人があり、九月十六日に採用選考開始と短期間。それだけに「高校在学中、三年間じっくり時間をかけ職業意識を形成することが必要」(荻原教頭)で、来年三月をめどにまとめる同検討委の報告書にも、早い段階からの職業意識形成の重要性を盛り込む方針だ。 若者の早期離職の原因は、もちろん本人の認識の甘さによるところが大きい。しかし、学生を企業に送り出す高校の指導体制、受け入れる企業側のサポート、本人を支える家族や地域にも責任があるのは確か。各界が一体となって、早期離職問題を真剣に考える時期にきている。 |
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2004年9月6日掲載 | ||
芦増える「女性外来」 | ||
男性医師では抵抗 泌尿器科 恥ずかしい 求められる知識、経験 患者目線の医療へ一歩 |
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県内の総合病院で女性特有の症状を専門に診察する「女性外来」開設の動きが相次いでいる。今年三月、福井赤十字病院に「レディース外来」が誕生したのを皮切りに、県立病院が新棟完成を機に開設。県済生会病院も導入準備を進めている。「男性医師に診てもらうには抵抗がある」「泌尿器科の待合室は恥ずかしい」など女性患者の悩みに応える狙い。医師主導の従来の診療形態と一線を画し、患者目線の新しい医療を切り開く一歩となるか注目される。
▼受診者すでに60人 県立病院では新病棟がオープンした五月に「女性専用外来」を開設。週三回午後から約四時間、完全予約制で患者を診ている。専門で応対するのが栗山とよ子内科医長。「乳房のしこり」「顔のほてり」といった女性ならではの体調面の悩みを十三項目にわたって問診票に書き込み、診察を受け付け始めた。 これまでにない外来とあって評判を呼び、オープン以来二カ月で六十人を超える患者が受診。年齢層も十―七十代と幅広い。内容も更年期や乳腺(せん)といった婦人科系の病気から、血便や「男性医師には見せたくない部位に湿疹(しっしん)ができた」というものまである。 「当初は婦人科系の病気が多いのではないかと予想していたが、それと同じくらい精神的ストレスから起こる疾患も多い」と栗山医長。現代病といわれるうつ病や摂食障害の患者も二割近くおり、診療科を超えた複合的な疾患を抱える女性が多いことが分かった。幾つもの病院を回って最後にたどり着いたという患者も少なくないという。 ▼女性だけの世界 県済生会病院ではさらに内容を踏み込んだ「女性診療センター」を十一月ごろに開設予定。「泌尿器科などでは周囲の目が気になり待合室で順番を待つのもはばかられる」―。こうした声を受け、病院内に男性患者立ち入り禁止の一角を作る。診察は男性、女性医師が行うが、看護師や事務員などすべて女性スタッフで応対。まさに”女性だけの世界”を演出するこだわりようだ。 婦人科、乳腺科、泌尿器・尿失禁科、女性肛門科などきめ細かな診療科を設け、女性の悩みを総合的に解決する計画。笠原善郎外科部長は「患者が何を求めているのか、患者の目線に立った新しい診療形態がこれからの医療では大切な要素となってくる」と話す。 ▼医療と相談の垣根 国内初の女性専門外来は二○○一年五月に鹿児島大付属病院が開設。同年九月には千葉県立東金(とうがね)病院が続いた。「性差を考慮した治療を施すべき」という考えが広まり、同病院では今年三月までに千三百人を超える患者が受診した。 ただ、こうした人気の一方で悩みの種は、「女性」と漠然とした診療科の看板を掲げるだけに、「とにかく話を聞いてほしい」といって半ば相談に訪れるような患者も目立つことだ。 県立病院も同様で、中には「姑(しゅうとめ)とうまくいかない」と突然泣き出して人生相談を始める人も後を絶たない。患者側には治療の前段となる相談窓口との意識も強いようだ。 ▼スタッフ充実が課題 「相談だけでは根本的な病気の解決にはならない。完治してこそ価値がある」(県済生会笠原立部長)と言うように、病院側の課題も残る。 「女性」という幅広い分野を診るには、相当な知識と経験が求められる。「女性外来がしっかりと機能していくためには医療スタッフの充実が今後欠かせない」(東金病院の関係者)だ。 県内の大学関係者も「器官別に分かれた現在の医師養成のシステムを見直す必要がある」とした上で「”女性医学”という新しい医療分野の確立につながれば」と大きな期待を寄せている。 |
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2004年8月25日掲載 | ||
芦原温泉不当表示問題 | ||
旅館名非公表で波紋 県、悩んだ末「経営配慮」 利用者「誰のための調査」 他県の多くは公表、謝罪も |
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あわら市の芦原温泉で、四軒の旅館が水道水と井戸水を使用しながらホームページ(HP)などで温泉と受け止められる表示を行い、二軒が温泉法で定められた利用許可を得ずに営業していたことが、県の調査で明らかになった。しかし県は、既にHPの改善が済んでいるとして、旅館名は公表せず、利用者からは不満の声が出ている。経営への配慮か、情報開示か…。開湯百二十周年の老舗温泉地を襲った騒動は、新たな波紋を広げている。
■まずは厳重注意 「旅館名を明らかにすると、そこは温泉地から退去を余儀なくされ、経営に大きな影響が出る。このような経済状況の中で、幾つもの旅館をそこまで追い込むことはできない」。調査結果発表の会見で県生活課の梅澤順一課長は語った。 「温泉」と取られる表現をしたHPやパンフレットは何度も修正を指示。県民が正しい情報を得るための手段を取り戻し、違反の疑いのある景品表示法への対応は済ませた。同法に罰則規定はない。独自のペナルティーを科すか否か。県幹部は相当悩んだ。 結論は「イエローカード」。旅館の経営に配慮した。「次回からは、初めて発覚した旅館もレッドカード(実名公表)を切る」(同課長)という。 利用者は不正のあった旅館は知る由もないが、旅館が温泉か否かは「HPなどあらゆるところで情報を得ることができる。決して県民をないがしろにしているわけではない」と同課長は語る。 ■イメージダウン 利用者の不満は消えない。福井市内の男性会社員(45)は「旅館の行為は牛肉偽装問題と本質は同じ。うそ、偽りは許されない。芦原温泉全体のイメージが悪くなる」と話す。鯖江市の女性(54)は「県の調査は何のための、誰のためのもの? 不正を行った旅館をそこまで守る必要があるのでしょうか」。 芦原温泉の四十二施設のうち、温泉を引いているのは二十八、温泉ではない「内湯」は十四。こうした”混在状況”は同温泉に限ったことではない。「温泉地にある旅館はすべて温泉だと思っていた。過去に裏切られた人もいるのでは。どこが内湯か知らせるためにも情報を開示してほしい」と春江町の主婦(37)。 「お客から(不正があったのは)どこの旅館か尋ねられて困る」と話すのは県内のある旅行代理店。「全国的にこれだけ騒がれている中で、情報公開しないのはおかしい。忘年会シーズンを控え、独自に情報収集しないといけないのか…」と頭を悩ませる。 ■自発的に謝罪を 全国の”偽装温泉地”は、二十二日までに九県十四カ所に上った。しかしその多くは、地元の市や町、旅館組合が旅館名をHPなどで明らかにしている。静岡県弁天島温泉の旅館では自ら公表、記者会見を開き謝罪した。他県ではこうした公表を受けて県が調査に入っており、本県のように公表の判断にまで踏み込む例はかなり特異だ。 芦原温泉旅館協同組合は、加盟している十九の旅館について、問題発覚後すぐに独自の調査を行い、HPに温泉利用の許可を得ていなかった旅館を「許可申請手続中」として掲載した。しかし、不当表示を行った旅館は非加盟だとして触れていない。「旅館が自発的に名前を出し謝罪することが望ましい。それが信頼を回復する近道だ」と梅澤課長は話す。 ■対応を模索 あわら市観光協会の美濃屋征一郎会長は「疑惑を晴らす対策を今後どのように行っていくかが重要。これまで芦原温泉というイメージの中に一緒にあった、温泉旅館と料理旅館を区別していくこともやむを得ない」。 地元あわら市では、県の対応にほぼ賛同するが、四軒のうち一軒は入湯税を徴収し市に納付していたとみられ、利用者への返還問題に発展しそう。総務省は先ごろ「市は、不正のあった旅館には可能な限り還付すべき利用客を突き止めるよう指導し、過誤納分は旅館側に返還する」との見解を示している。 還付は利用者からも申請ができる。さて対象の旅館はどう知り得るのか? |
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2004年7月9日掲載 | ||
消える公園遊具 | ||
回転系、県内11基撤去 強まる「危険=排除」の流れ 遊び場の魅力 転換期 |
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大阪府高槻市の公園で回転遊具に乗っていた小学生が相次いで指を切断した事故から三カ月。事故を機に県内でも、危険があるとして使用中止となった五市町の十七基のうち十一基で撤去する方針が決まり、六月中にすべて取り外された。三年前の箱ブランコに続く一斉撤去。公園遊具に対する「危険=排除」の流れは一段と強まる一方、行政には管理責任の在り方があらためて重くのしかかっている。新たな公園環境づくりを模索する動きも出ている。
▼即時対応 全国に衝撃が走った回転遊具事故から一夜明けた四月三日。「指を突っ込んで切断するようなボルトの穴。まさかとは思うが、うちの市でもあるかもしれない。急ぎ点検を」。福井市公園課で遊具を担当する鈴木喜久治主任は、週末ながら役所に駆けつけ、市内の管理業者にげきを飛ばした。 四百三十の都市公園を抱える同市。球形のジャングルジムが回転する「グローブジャングル」など回転遊具はスリルが味わえる人気遊具の一つとあって、八十公園に八十五基設置されていた。 三年前、全国で続発した箱ブランコ事故をめぐっては、対応のズレをめぐり訴訟、賠償にまで発展した同市。今回敏感に反応した背景には「次出してはいけない」とする危機感があった。 結局、指の切断につながるような重大な問題は見つからなかったが、支柱がぐらつくなど回転系に異常があった七基については転倒などが起きた場合にリスクが大きいとして急ぎ、撤去することが決まった。 「市民の求める管理者責任の度合いは年々細かく、厳正になってきている」と鈴木主任。今後もいったん事故が起きたものについては厳正に対処していく方針を示す。 「回転遊具は、もはやどの業者も造らないだろう」。県内のあるメーカー社長は公園からまたひとつ遊具が消える事態を憂慮する。 ▼運命握る管理能力 撤去の流れは箱ブランコ、回転遊具ばかりではない。昭和の高度成長、バブル期に造られ、老朽化した遊具は多いとされ、丹生郡の神社境内では、ジャングルジム、ブランコなどが完全撤去された例もある。修繕や新調を含め迷った末の区の判断だったようだ。 金沢では雲梯(うんてい)の上を歩いていた児童が、背負っていたランドセルを引っ掛け、宙づりになって死亡した。「全国で事故が起きるたびに訴訟に発展する。こうした流れも背景にあった」と元区長。 「危険だから即取り除くといった風潮は決してよくないとは思う。しかし、それ以上に設置者となる行政や自治会に対し管理責任が重くのしかかってくる時代となった」と県都市整備課の中井義夫課長。この神社のようなケースが今後増える可能性を示唆する。 「これからはよほどきめ細かに安全管理に目が行き届く公園でないと遊具の維持、新設はできなくなっていく」とも話し、住民がボランティアで管理に積極的にかかわっていく新たな体制づくりも必要と指摘する。 ▼成長への役割とは 遊具の危険性ばかりがクローズアップされるが、日本公園施設業協会理事の上屋敷淳三さん(57)=福井市石盛町=は別の視点も投げ掛ける。「最近は外で遊ぶ機会が減り、転んで手をつけない子も増えているともいわれる。危険予知能力が低下していることも大事故が増えてきた要因の一つでは」と分析する。 公園よりゲームの魅力にひかれる現代の子供たち。一方で親たちは砂場の汚れ一つでも過敏に反応する。「遊びの中で難しいことにも挑みながら成長するのが子供の本来の姿」と上屋敷さん。安全性と両立させた遊具の開発へ努力する一方、講習会などを通して適切な使用法を子供たちに啓発していくことも設置者側の大切な役割となってきていると訴える。 一方、元保育士で福井市PTA連の中井玲子会長(46)は、心の教育が求められる時代背景を指摘し「飛んだり跳ねたりよりも、木のぬくもりに触れ発想力を養う新たな方向に遊具を転換していく、そうした時期に来てはいないか」と提案。一連の事故は、現代っ子に合った新たな公園の魅力再生へ再考を促している。 |
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2004年7月7日掲載 | ||
丸岡・山中温泉トンネル開通3カ月 | ||
県内観光に風穴 休日通行量7倍/永平寺2万人以上増 新回遊ルート誕生 魅力発信カギ |
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丸岡町と石川県山中町を結ぶ国道364号の「丸岡・山中温泉トンネル」開通から三カ月。観光をベースにした両県の交流が活発化している。休日の通行量は、以前の六―七倍。本県側の核となる永平寺への観光客も、開通直後は一気に増えた。この波は奥越などにも及びつつあり、東尋坊や白山麓(はくさんろく)までを含めた、当初の想像以上に広いエリアでの新しい回遊ルートが生まれている。夏休みシーズンを迎え、両県をまたにかけた人々の動きはさらに活発化しそうだ。 ▼遠く大野にも 「最近、山中温泉の土産袋を手にしたお客が、ちらほら目につきますね」と言うのは、大野市観光協会の職員。加賀エリアから地理的には遠い大野が、トンネル開通によって、永平寺という一大観光地を介してラインで結ばれたためだ。 山中温泉から永平寺まではこれまで、山道のため観光バスが通れず、国道8号経由で一時間あまりかかった。しかし、トンネル開通後は二十五分と半分以下に。時間短縮の効果は大きく、永平寺から勝山を経て、または永平寺有料道路から国道158号を通って大野に足を延ばす。「先日は長野からの日帰りツアーがあったのですが、金沢方面からあのトンネルを抜けて来られました。帰りは和泉村から東海北陸自動車道を使い、一日でぐるっと一回りできる」と職員は話した。
永平寺への観光客は、昨年と比べてトンネル開通後の四月は五千人、五月は一万五千人増えた。「どこも落ち込んでいる中うれしい数字。石川県からのマイカー客が目立って多い」と永平寺町観光協会。六月末まで永平寺―山中温泉間を一日六往復した直行バスは、約四千四百人を運んだ。 永平寺有料道路は十月から無料になる。「朝倉氏遺跡や大野に目が向く人がさらに増えるだろう」と関係者は続けた。 ▼回遊性の拡大 県道路建設課の調査によると、トンネル開通後のゴールデンウイーク期間中は、一日平均約四千台の車両が往来した。双方向にちょうど半々。六月に入ると、約千七百台に減ったが、それでも休日には二千六百台を数え、開通前の六―七倍にのぼる。 「四年前、温泉の北側に、小松空港や金沢方面に直結するトンネルができたんですが、それよりも比較にならないほど交通量が多い」と山中温泉観光協会の笹嶋圀雄事務局長は話す。「永平寺への直行バスは、トップシーズンの秋にはまた再開する予定です。夏場は圧倒的にマイカー客が多いので」。今後はさらに往来が激しくなるという。 勝山が近くなれば、白峰や吉野谷村などの白山麓の観光地ともつながる。夏場はアウトドアや避暑のドライブルートとして十分活用できそうだ。一方で、海水浴客向けには、三国町や加賀市などを取り巻く日本海側へのアクセスも便利。「観光に県境はない。トンネルの開通は、広域の回遊ルート、新しい観光エリアを生み出している」と笹嶋事務局長。夏場を迎え、さまざまなルートでレジャーや観光を楽しむ人たちを支える。 ▼観光地間競争 回遊性の高まりは、観光客の争奪という厳しい側面をも持ち合わせる。永平寺と山中温泉が近くなることで、宿泊客数への影響が心配された芦原温泉は、開湯百二十周年のイベント展開や営業努力もあり、平常を保っているという。それぞれの魅力をいかに発信するか、観光業者の戦いは始まったばかり。 「旅行会社は、まだまだこのトンネルの存在を知らない。今、わが温泉客でトンネルを活用しているのは、多くがここへ来てはじめて、福井の観光地が近いという地の利に気付いた人々」(笹嶋事務局長)。 町を貫く道路の南北にトンネルが抜け、「通過型観光地になるのではないか」と危機感を持った老舗の温泉地は、生き残りをかけ、潜在的なニーズの開拓をはかるため、積極的に売り込みをはかっている。同観光協会では今、新しいエリアマップを作成中だ。「南加賀」とタイトルはつくが、そこには本県の嶺北の観光地のほとんどが含まれているという。 |
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2004年6月24日掲載 |
更生担うボランティア 保護司 |
使命大きく ノウハウ生かし地域の力に 県内平均63歳 若返り、人材確保課題 |
保護司。言葉は耳にしていても、実態はあまり知られていない。罪を犯した人の社会復帰や、非行少年の更生を手助けする。全国で約五万人、県内には四百二十二人いる。法務大臣から委嘱された非常勤の国家公務員だが、全くの無給。高齢化やなり手がないなどの課題を抱える一方で、犯罪が複雑凶悪化する中、刑事政策の一翼を担うこのボランティアに課せられた役割はさらに大きくなっている。 ▼多岐にわたる任務 福井市の磯山秀子さん(49)は、保護司になって八年。現在十五―十七歳の三人の保護観察対象者を抱えている。保護観察となるのは、家庭裁判所でこの処分を受けた少年や少年院仮退院者、刑の執行猶予者など。県内では月にして四百人ほどおり、福井保護観察所が帰住地に近い担当保護司を指名している。 観察所に常駐する保護観察官と協力する形で、月に二回自宅で面接し、生活状態を確認。対象者の家に出向くことも。「すんなり来てくれるとはかぎらないし…」。気苦労はつきない。気さくな雰囲気をつくるため、ともに食事に出掛けたりもする。そうして接触を重ね、月に一回報告書を観察所に提出する。 就学や就職のバックアップも行う。「勉強を教えることも」。帰住地が更生環境として適しているかを調べるため、あらかじめ刑務所などで面会して意向を聞くことも重要な仕事のひとつだ。その合間に研修もある。 対象者とは一年以上の付き合いがほとんど。社会からはじき出された少年たちとのディープな人間ドラマに翻弄(ほんろう)されながら「めきめき立ち直ってくれると、小躍りするほどうれしい」と目を輝かせた。 ▼無給だからこそ 法務省は今年から、保護司に七十六歳定年制を設けた。約七割を占める少年事件に対応するためには、若返りが必要という判断だ。全国では今年約五千人が退任することになり、不景気や犯罪者への排除感なども手伝って、都会では特に後任探しは難航している。 二十三人が退任する本県の対策はほぼ順調。しかし「なり手を探すのは大変」と磯山さん。その上「若手の確保はなかなか」と観察所職員も漏らす。本県の平均年齢は六十三歳。ある程度生活が安定していることが条件であり、定年退職後に就任するなど、六十歳以上が圧倒的に多い。 「普通のオバさんというか、フリーの立場だからこそ、少年たちは本音が言えるのでは」と磯山さんは言う。勝山市の川崎昇さん(76)は「人の心は計るものではないので成果主義は通用しない。給料をもらったらできない仕事」と言うように、無報酬には容認の声が強い。「社会の一員としての務めだと思っている。人間的な肥やしにもなる」。市民の善意が制度を支えている。 ▼地域教育力の核に 「普通の子」が犯罪に陥る現代。社会の変化は激しく、人々の考えも犯罪も多種多様、一様な知識で臨むことはできない。川崎さんは「保護司になって十五年になるが、対応はだんだん難しくなっている」。年齢のギャップの解消だけですむ状態ではない。 「われわれが持っているさまざまな事例やノウハウを、PTAや学校などと検討し合い、皆で理解を深めていくことは、犯罪防止の上でも大切」と、川崎さんは地域との連携を訴える。勝山では、BBSという更生支援の青年ボランティア組織が復活。対象者と電子メールを交換するなど、相談相手となる人もいる。 法務省は今後、保護司に犯罪被害者へのケアなども担ってもらう考えだ。被害者心理の尊重は、加害者の真の更生につながる。犯罪者への社会の視線は厳しいだけに、立ち直りを支える更生事業の役割はさらに重要だ。待遇なども含め、保護司の役割を再確認することも必要になっている。 |
2004年6月17日掲載 | ||
子育てより、まず「親育て」 | ||
SOS見逃す、しかれない… 地域の先輩 助言 保育園「道場」に |
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虐待、不登校の増大、犯罪の低年齢化…子どもたちが抱える問題がどんどん深刻化している。そんな中、子育てならぬ「親育て」の必要性を説く声が高まっている。親になれない親。今、教育行政や関連団体などの取り組みは、多くがこの難題にぶつかっていると言っても過言ではない。
「(加害者の)子どもはきっと、何らかのサインを発していたと思う。大人たちはそれに気付きもしないし、また見ても見ぬふりなんだ」。長崎県佐世保市での小六女児による同級生殺害事件の翌日、青少年育成県民会議の澤村龍馬会長は、疲労感を漂わせながら語った。 昨年夏、同じ長崎で中学一年生が四歳児をビルから突き落として殺した。少年はエレベーターの中で「いま何時ですか」と大人たちに声をかけていた。「先月、勝山の少年らが自動車などを盗んだ事件でも、周囲は彼らの変化に気付いていたとも聞いている」 今回の佐世保市の事件の発端は、急速に進むネット社会にある。しかしそこに現実的な対策を見いだすことは不可能であり、本筋でもない。「想像をはるかに超えた新しい社会構造の中で、さまよう子どもたちを守るのはまずは親や地域=大人。大人がしっかりしなければ」と澤村会長は続けた。 「大人のための啓発録」。同県民会議がこのほど作成した、親や社会人としての心得をつづった小冊子だ。「無関心をやめ、毅然(きぜん)とした態度で」「子どもの話を聞くようにしよう」―「どれも当たり前のこと。でも、こうせなあかん時期になったんです」と澤村会長。今月にも、高校生までの子どもがいる県内の全家庭に配布することになっている。 保育園を使った、新たな動きもある。鯖江市神明四丁目にあるあおい保育園ではこのほど、園が休みの日曜日に地域の母親たちが集う場を設けた。在園中の子どもの母親を中心に、卒園してしばらくたった小中学生の母親もいれば、「誘い合ってやってきた」園とは関係のない人も。 「幼いころのSOSに気付いてやれなかった。だから高校生になって爆発。仕事も育児も完ぺきにと思うばかりに、余裕がなかったのね」という四十代の発言に、「何があったんですか」と”現役”組。おかしをほおばりながら、ざっくばらんなひとときを過ごす。 「乳幼児の時期は大切。幅広い世代が顔を合わせる中で、”先輩”の話を聞き、アドバイスをもらう機会をつくりたかった」と、中井玲子さん(福井市)は話す。中井さんは三月まで、この保育園の保育士だった。現在は福井市PTA連合会長。ここでも親育てをテーマにさまざまな取り組みを行っている。 母親という連帯感 「行政などがせっかく子育ての環境を整えても、それを受け入れる当の親の意識が高まらなければ」と中井さんは言う。「豊かな時代に育って、我慢するということを体験してこなかった今の親たちは、子どもに我慢をさせたり、しかったりすることができないんです」。保育園をベースに、母親という連帯感が、親たちの意識を守る。 「地域の親同士の信頼関係が築かれていれば、いざというときに役立つ。情報のはんらんでいっぱいいっぱいになっている人たちに、ここに来てリフレッシュしてもらうことだけでも大きい」 高校生が保育園で乳幼児と過ごす体験学習も広がりをみせている。命の大切さを学ぶとともに、早くからの親育てになるという声も。「乳幼児」という現代の子育てのキーワードを軸に、保育園が親育て支援に少なからず一役買っている。 × × × あおい保育園の「子育て相談会」は、次回は二十日午前十時―正午に開かれる。問い合わせは同保育園=電話0778(52)2231。 |
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2004年6月15日掲載 | ||
広がるか「病児保育」 | ||
子供発熱 仕事どうする… 県助成 病院を後押し 2次感染対策が「壁」 |
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幼い子供が熱を出し寝込んだとき、仕事を休まざるを得ないことが多い核家族の共働き世帯。こうしたときでも安心して仕事ができる環境を構築しようと、県は本年度、県内に一カ所しかなかった「病児保育」施設の導入拡大を促す助成制度を創設した。共働き率日本一(二〇〇〇年国勢調査)の本県だけに潜在的需要は大きいとみられ、制度創設を契機に、設置の動きが出始めている。ただ導入に当たっては、二次感染症対策など課題も多い。
▼使命感 武生市平出一丁目、四階建て病院の最上階。五十平方メートルほどの空き部屋がある。「地域の子供や母親たちのためにも、ここをうまく使えるといいのですが」。院長の妻で事務次長を務める野尻富美さん(35)は広いスペースを見ながら話した。 野尻さんは、丹南で初となる病児保育園を自らの医院に開設できないか可能性を探っている。 五歳、一歳児の子育て最中という野尻さん。「寝込んだときは、たとえ病院とはいえ、付きっきりで私が看病しないといけない。仕事ができない焦り、その苦労は身にしみて感じていた」。開設へ強い使命感を語る。 ▼追随なき5年 通園不可能な病中(急性期)の子供を診る「病児保育」。本県では、勝山市元町一丁目の診療所が一九九九年に初めて導入している。その後五年余りたつが、追随する病院はない。その背景として同診療所の深谷憲一院長(41)は経営的な不安定さを指摘する。 制度上、開設のためには幼児二人当たり看護師や保育士は一人が必要。この診療所の場合、定員は六人だが、風邪の流行などもあり入園希望はゼロから六人まで毎日ばらばら。保育士を常時雇用、園児の食事を提供し続けることは経費面で負担が大きく、赤字分は診療所の医療部門で補てんしているのが現状だ。 これまで視察に訪れた医師は何人もいたが、実態を聞いてほとんどが導入を断念している。それだけに「県の新たな事業は、背中を押されるきっかけとなった」と野尻さんは強調する。 福井市保育児童課によると、同市内では病児保育こそゼロだが、病後児保育については二病院に運営を委託。二○○二年度は両病院で千人に迫る受け入れ実績があることから「病児保育のニーズも同様に高い可能性がある」と分析。今後、開設の方向性を検討していく考えだ。 ▼なおハードルも 助成措置によって経営リスクが一定程度改善されたとはいえ、なお二の足を踏む病院は多い。理由は、病児保育に預けざるを得ない幼児のほとんどが感染症という点だ。「病院にとって二次感染は怖い。予防措置で一つ対応を誤れば、医療機関として致命傷になりかねない」と福井市内の総合病院の小児科医は話す。 県の事業化を機に導入を模索する嶺北のある施設関係者も、二次感染が出た場合の責任の所在や設備の在り方などの不安を打ち明ける。 実際に深谷院長は、隔離病室を含めた三部屋を用意、急な発病に対して院内のバックアップシステムを設けるなど、感染対策では特に神経を使い、結果的にこれも労務、経費面の大きな負担となっているという。 こうした実態から先進的とされる三重県四日市市などでは、必要経費のほぼ全額を助成。深谷院長は「そのくらいしないと、導入は本格的に進まないのではないか。またリスク回避のためには病状の変化を読み取るなど保育士の教育も欠かせず、こうした側面を後押しすることも大切では」と話し、展開を見守る。 一方、福井市PTA連の中井玲子会長(46)は「病中の子供の心は不安定。教育面を考えれば基本的に両親がみるべきで、病児保育制度は最後の選択肢であるべき」とも指摘。就労環境支援と併せ、こうした親が休みやすい社会環境づくりの推進も必要と県に求める。 病児保育 ほかの園児に感染するとして保育園が預かってくれない風邪やはしかなど発病中の乳幼児を対象に、医師や保育士が看病するシステム。核家族・共働き世帯からのニーズの高まりを背景に近年、導入が広がり、国内で現在300あるといわれている。本県では急性期を過ぎた「病後児」については数カ所が導入。病児について県は本年度、「病児デイケア施設促進事業」を創設。人件費の一部を助成するなど開設を後押ししていく。 |
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2004年6月11日掲載 | ||
2学期制でどう変わる 県内校も導入活発化 | ||
長短 授業時間増加/教育に継続性 試験時期遅い/気候合わない 世間の理解 いまだ低く |
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これまでの三学期から、一年を前期・後期に分ける二学期制の導入が全国的に進んでいる。本県でも福井市が本年度から七つの小中校をモデル校に選定し、調査研究に着手するなど二学期制へ向けた動きが活発化。どんな取り組みが行われ、学校はどう変わろうとしているのか―。
▼急増する導入校 共同通信社の調べによると、昨年度二学期制を導入した小中高校は、三十五都道府県、百二十市町村の一部またはすべてに及ぶ。割合は少ないが「本年度、この数字は一気に伸びる」と教育関係者が口をそろえるように、実施校は加速度的に増えている。お隣石川県では、金沢市などが今春一斉に導入した。 本県では、福井大付属小・中が試行三年目に入り、実質的には導入済み。福井中・高校の二校は昨年。本年度は福井市が木田、旭、森田の三小学校と明倫、成和、森田の三中学校、棗小中学校の計七校をモデル校に、二年をかけて導入後の効果や問題を検証する取り組みを始めた。その他独自に調査研究を行っている学校が各地にみられる。 ▼ゆとり工面 学力低下の不安が叫ばれる中、授業時間をいかに確保するか。二学期制は、学校週五日制導入とともに注目が高まってきた。始・終業式、試験、通知表渡しなどを減らし、その分を授業に充てることができる。 福井高では、昨年度の普通・職業系の年間授業時間は、前年より六十六時間増えた。ゴールデンウイークはまとまった休みにし、夏休みは一週間短縮、両期の間に秋休みを新設した。休日数は前年と変わらない。 「生まれた時間を弾力的に活用するために、さらに検討する必要がある」(高橋正樹校長)が、行事やボランティアを充実させ、心の教育を活発に行っている。「学期のぎりぎりまで普段のペースを保つことができ、生徒にも教員にもゆとりが生まれた」と山下和雄教務部長は話す。 新しい指導要領では、各教科の授業時間が減り、範囲が限られ試験問題がつくりにくいなどの問題があった。「二学期制は学期のスパンが長い分、継続性のある教育が行える」と話すのは、本年度から試行に踏み切った森田中の山下忠五郎校長。 ▼改革の動機付け 森田中では昨年から、教員が全国の先進校に視察に出かけるなどして研究を重ねてきた。 二学期制は、日本の気候に合わないことや、学力低下を招きやすいことなどが危惧(きぐ)されている。「私もはじめは疑問視していたが、視察を通して、デメリットはある程度克服できると分かった」と研究主任の南部三喜男教諭は話す。 ポイントのひとつに置いているのは、評価のあり方だ。絶対評価をさらに充実、これまでの倍の各教科一枚ずつの評価カードをつくり、一人ひとりの到達度や課題がすぐに分かるようにする。通知表は学期末に出すが、生徒に手渡し。保護者懇談会は学期の中間の七月と十二月に、子どもを交えて行う。それまでの反省点を踏まえ、その後の学習に生かしてもらおうとの狙いだ。「夏休みの効果もより高まる」 「授業時間の確保はもちろんだが、それよりも教員の意識改革という効果が大きい」と山下校長。二学期制導入は、学校がそれまでの教育内容を見直すきっかけ。「教員の意識改革は教育向上のバネになる。だから学力低下にはならない」と南部教諭は力を込める。 ▼幅広い検討を しかし、まだどこも試行錯誤の連続。他の学校と日程が合わず、練習試合がしにくい(森田中)、試験の時期が遅くなり、三年生が就職を決める時期に評価が足りない(福井高)などの不都合があり、その都度対策に追われている。 この春福井高が行ったアンケートでは、「何か変わったことは」との問いに、78%の生徒が「ない」と答えた。親は93%。戦前から続いた制度へのメスにも、実感や動揺は意外と少ない。 しかし、まだ世間の理解は低い。通知表を作成する負担が軽減されるなど、子どもより教員の方にメリットが大きいという指摘も。噴出する課題とともに、学校だけでなく家庭や地域がともに考える時期に入っている。 |
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2004年6月8日掲載 | ||
”ときめき”は若さの特効薬 | ||
年重ねても 恋を楽しむ にぎわう中高年出会いの場 福井市の会員制グループ まず 「生きがい」 |
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年老いても恋愛を楽しみ、はつらつと暮らしたい―。「色恋ざたとは無縁」だった中高年の意識が変わっている。北陸三県の中高年に出会いの場を提供しようと一年前に誕生したグループは、順調に運営を続けている。「老いらくの恋」「年がいもなく」という言葉はもはや消えつつある。
▼気さくに語り合い 五十も幾分か過ぎ、容姿に若干の年期を刻んだ男女が、和やかにバーベキューコンロを囲む。若者ならともかく、これが一般的にいう「お見合いパーティー」だとはだれが気付くだろう。 初めて参加したというA子さん(53)は、七年前に夫を亡くした。「必死で子どもを育て上げ、孫にもあまり手がかからなくなってふと我に返ったら、これでいいのかなあって思ってしまって…。思い切って参加したけど、違和感なくとけ込めて、今日はなんだか青春に返ったみたい」 常連のB子さん(63)は「同性のお友達が欲しかった。ご主人がいる人にはできない話もあるものね。今日はグラウンドゴルフをやったけど、とても一人じゃできない楽しみ」と、おしゃれな帽子の下の瞳を輝かせる。相手を品定め…といった独特の重い雰囲気はない。 ▼孤独と楽しみともに 福井市に事務局をおく「千祝会」。伴りょを病気で亡くしたり、離婚してひとりになった男性五十歳、女性四十五歳以上の中高年に出会いの場を提供する会員制の集まりだ。会員は本県をはじめ石川、富山に約百人。平均年齢は五九・六歳。女性が三分の二を占める。二カ月に一度ホテルで定例パーティーを開き、合間に野外活動や観劇などのレクリエーションを催して交流を深めている。 代表の田中柳子さんは、夫を亡くした自らの経験から、孤独と楽しみを分かち合おうと、この会をボランティアで立ち上げた。「ここは結婚相談所ではない」と言い切る。「生きがいづくりが一番のテーマ。頑張って働いてきた人が片隅に追いやられ、寂しく老後を送るなんて悲しい。自分の人生なんだもの、年齢は関係ないし。皆が気楽に集い会うことでそれぞれが楽しみを見いだし、さらにかけがえのないパートナーに出会えればすてきなこと」。「この世はしょせん男と女。ともに生きていくことも大事。人生のたそがれ時に、ふたりでお茶をすすりながら『いい人生だったね』と語り合えたら、どんなに素晴らしいと思いませんか」と上口尚人運営専務は話す。 ▼高齢社会見据え 都会に比べ閉鎖的な北陸では、最終的な目的である「男女の出会い」を全面に出すことははばかられた。罪悪感や偏見などの心の壁がまだまだ高いからだ。しかしそんな配慮をよそに、すでにいくつかのカップルが誕生している。C子さん(56)は、パーティーで「一目ぼれ」。急接近し、付き合いを始めた。「彼には家の事情があるので、あまり進展はないけれど。今はメールの交換が楽しい」と打ち明けた。 バツイチのD夫さん(63)は、進行中の彼女を「明るい人。この年になったら、容姿なんてどうでもいいよ」と笑った。が、結婚までは考えていないという。「たまに飯食いに行ったり、年に何回か一緒に旅行に出かけたりできたら十分。毎日一緒はもう…」。 先出のA子さん、B子さんも同様。「娘たちはここに来ることは理解してくれているけれど、私自身過去も大事にしたい。もしいい人が見つかっても、友達以上恋人未満のような関係がいい」。「そりゃあ慎重になる。一回や二回会っただけで決められないわ」。 「ちょっぴりの勇気」(田中さん)とそれへの支援が、中高年たちに元気を送り込んでいる。「気持ちの成人病をなくしたいですね。精神的に満たされれば、ボケなどの病気も防げるはず。これはある意味、福祉活動でもあるんです」と、田中さんは行政が動き出すことも願っている。「ときめき」は、若返りの何よりの特効薬だと。 千祝会事務局の連絡先は=電話0776(25)3393。 |
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2004年5月22日掲載 | ||
鯖江で「型破り」農法 | ||
耕さないで 田植え 魚汁まき、深さ足首程度 微生物を利用 環境に優しく 自生力促す |
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「農は耕すことなり」という農業の常識を覆した農法が全国で注目を集めている。「不耕起(ふこうき)栽培」。土を耕さないことで、土壌の生態系や作物自体に活力を与えようという農法。農薬や肥料に頼らないので、環境にも優しい。四十ヘクタール以上の田んぼをつくる鯖江市の藤本肇さん(56)は、この手法をベースに独自のやり方を実践・発信する本県の第一人者。藤本さんの田んぼからは、増収追求だけではない新しい農業の価値観が生まれている。 ▼新しい発想 土色の風景の中から、魚の生臭いにおい? 田植え真っ最中の藤本さんの田んぼでは、苗の移植と同時に魚汁がまかれていた。静岡県焼津港から取り寄せたカツオの汁に、他の養分を混合した液。「産廃なんですよ」
次に驚かされたのは、田んぼの浅さ。田植え機の車輪はほとんど土に埋まっていない。足首の少し上までかぶる程度。身動きがスムーズだ。 藤本さんは、五センチ程度にできるだけ浅く耕している。まったく耕さないわけではないので「半不耕起栽培」と呼ぶ。秋、収穫後には通常、耕起して稲株をひっくり返すが、ここでは行わない。また普通は水を抜いて乾燥させるが、冬場もできるだけ水をはり続ける。 「水があるので微生物が生息する。春に浅く耕せば、そのすみかや土の構造を壊さない。さらに前の年の切りワラや稲株などの有機物を深くすき込まないで表層に集中させることができるので土が肥える」と言う。微生物の力を借りて、肥料がいらない田んぼに仕上げるのだ。「魚汁は肥料ではなく、微生物のエサだと考えている」 ▼雑草も自然駆除 稲の生育法も独特だ。あまり耕さない硬い土に植えることで、稲が野生本来の力を発揮、普通より何倍も深く広く根をはり、微生物がつくったミネラルをたっぷり吸収してたくましく育つ。 一番やっかいな雑草は、米ぬかなどをまいてしのぐ。米ぬかは田んぼの泥をあめ状にし、下に潜った雑草を抑制。米ぬかを養分にして微生物がつくり出す有機酸は、それ自体に除草効果があるという。藤本さんの米づくりは、農薬や肥料を極力使わず、自然の力を最大限に引き出す。肝心の収穫量は、反あたり八俵。決して悪くない。 ▼消費者として 関西の水源・琵琶湖を抱える滋賀県は、不耕起栽培の先進地。「環境にこだわる農業」を県政運営のひとつに掲げ、この農法に取り組む農家に田植え機の助成などを行っている。「代かきをしないので泥土や農薬が流れ出さず、川や湖を汚さない。冬季湛水(たんすい)は天然のビオトープになって野鳥が集まるように。軌道に乗れば手間とコストも削減される」と県の担当職員は話す。 しかし、冬場は用水が閉じられてしまうこともあり、湛水用の水の確保は課題。ほとんどが自然水が流れる山際の土地でしか行われていない。収量アップや雑草の問題もクリアしたとは言いがたいという。 藤本さんも、試行錯誤の末に今のやり方を確立した。県内で取り組んでいる農家はわずか。そう簡単なものではない。「水の確保なども含め、皆が共同で取り組む体制づくりが必要」と語る。「一生産者だけど、一消費者でもありますから」と言う藤本さんの田んぼには、全国から関係者が視察に訪れている。 不耕起栽培 土を掘り起こしたり反転させたりしない農業の手法。古くから世界各地で行われてきたが、日本でも小規模ながら研究が進み、その効果が認められてきた。もともとは省力化やコスト削減が目的だったが、環境保全や農作物の味の向上などを伴うことが分かり、注目されている。 |
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2004年5月18日掲載 | ||
現代っ子の運動会… | ||
徒競走が消える 不公平感排除か過保護か 教師 バランスに苦慮 |
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春の運動会シーズン。地区民総出の体育大会が各地で開かれる中、花形競技であるはずの子どもたちの徒競走が年々姿を潜めている。競争をあおったり、個人の能力をあらわにしたりするという不公平感の排除が大きな理由だが、教育的に悪平等につながると心配する声も。少子化や無関心で変わりゆく運動会事情とともに、子どもたちの社会にも微妙な変化が起こっている。 ▼実力より運試し? 十六日が雨のために順延となり、二十三日から始まる福井市内の地区体育大会。今年は、三十八地区のうち九地区で小学生の徒競走が行われない。学年によって行わない学校もある。代わりに繰り広げられるのは「チビデカパンツリレー」「僕も私もレーサー」などとユニークな名前が付けられた競技。ペアで障害物に挑んだり、途中で拾う封筒の中にある指令に従ったりする「遊戯走」。ゲーム的な要素が強い。ある教師は「実力ではなく、運が伴うもの」と表現した。
円山地区では、二年前に徒競走を取りやめた。「地区体育大会は地元の体育振興会などが主体となって行っており、種目はそこから提案のあったものを学校で審議して決めている。児童の能力差がなるべく出ずに、皆が楽しめるものを考えている」と学校関係者。 「徒競走は春の地区、秋の校内体育大会ともに確実に減ってきている。地区体育大会は児童が参加する種目数が限られていることもあるが、運動会は一人ひとりの運動能力が露骨に表れてしまう場。父母や地区の人もいる前だし、あえてそれを避けようという思いが働いている」と、別の学校の体育主任教師は話す。「運動ができる子だけをたたえる場でも、できない子にコンプレックスを与える場でもない。実力がそのまま反映しない遊戯走は、運動のできない子も活躍できる」。 ▼上辺だけの平等 一方、優劣を隠すために運動会から徒競走がなくなる現状を愁う声も多い。「ますます厳しい世の中にあって、競争から目をそらさせてしまうのはどうか」とある小学生の母親。「過保護は個性を埋没させてしまう。確かに私も足が遅くて運動会は嫌いだったが、子どもなりに仕方がないと割り切っていた。そこまでする必要はないと思う」との意見も。能力を伸ばすという視点からの懸念もある。「能力が高い子どもの励みをなくすことにならないか」。 かつて中学校では、テストの成績は廊下などに張り出されたが、今は公表されていない。学力偏重の教育を是正し、先のような能力差露呈の回避を考えてのこと。通知表も、クラスの序列をみる相対評価はなくなり、個人の目標到達の度合いを測る絶対評価が導入された。「中学校までは、能力差は隠されていたのに、高校に入るといきなり順位の世界に放り込まれる。ギャップが大きすぎる」と高校生の母親は戸惑いを語った。 ▼劣等感から勤勉さ 福井大教育地域科学部の松木健一助教授は「テストの結果の公表はあまり必要ではないと思う。子どもたちは普段の生活の中で敏感に優劣を感じとっている」と話す。しかし、ある程度の競争社会の中に身を置くことの大切さは指摘。「人との能力の差が自覚できるようになるのは小学三、四年生ごろ。その自覚からこつこつ努力するという勤勉さが生まれ、劣等感を乗り越えていく。そういう意味では、今は勤勉さをなかなか身に付けにくい状態にある」。 先の体育主任教師は「徒競走を排除しようということでも、競争をなくそうということでもないのだが」と、デリケートな子どもたちが多い難しい現状を語る。「クラス全員が参加する全員リレーは行うようにし、抜いたり抜かれたりすることも大事だと考えている」。競争と公平、個性と保護。どちらのバランスもおろそかにできない。 松木助教授は「今の子どもたちは、身体や情報の入手が加速度的に発達している一方で、社会性や精神性の発達はゆっくりしている。まずはそれを社会が理解しなければ」とも呼びかけた。 |
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2004年5月11日掲載 | ||||||
福井市分別回収1年 | ||||||
違反ごみ作業員泣かせ 水滴ぽたぽた/詰め込みすぎ 頼りは市民のモラル |
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同市南江守町の収集資源センター。「燃やせるごみ」の約半分を回収する、収集車の基地だ。この日は午前八時半、十三台のトラックが一斉に出動。市内には約四千七百のステーションがある。われわれが追いかけたのは、渕三、四丁目を回る収集車。三人一組で作業に当たる。 ステーションに近づくや否や、二人の作業員が車から威勢よく降り、ごみ袋を後部から投げ込む。中のプレス機が袋をつぶして奥に押しやる仕組み。特有の鼻をつくにおいが”放射”。顔をしかめている間に、二―三十個が積み込まれていた。車を止める位置、その誘導、作業員の立つ位置、手際。すべてに無駄がない。
■ ■ ■ 作業員のリズミカルな動きがやんだと思ったら、ひとつの袋に「収集日がまちがっています」と印刷されたシールをぺたり。中にはポテトチップスの袋や弁当がらなど、対象外のごみが顔をのぞかせていた。手早い中での目配りにも驚かされた。 アパートの前では、資源ごみであるカップ麺(めん)の容器ばかりが詰まった袋が。この人の食生活は…と余計なお節介も。ほかにもレジ袋など指定の袋以外で出してあるものなど、違反ごみは取り残される。今回の「残し」は計七個。 十八カ所をなんと四十五分ほどで回り終え、約六百個のごみ袋を積んだ回収車は一路寮町のクリーンセンターへ。「燃やせるごみ」はここで降ろされ焼却される。「分別が細かくなって、ごみの量は少し減ったように思う」と和田さん。
■ ■ ■ 一方、レジ袋やトレーなどのプラスチック容器・包装は、民間業者が運営する二日市リサイクルセンターに運ばれる。最新の機器をそろえたベルトコンベヤーでの流れ作業で、ビデオカセットや建築資材のもとになる再生ペレットにされる。 しかし、選別段階ではやはり人の目や手が頼り。コンベヤーに放り込まれた資源ごみの中に、職員がまるで泳ぐように手を突っ込み、余計なものを取り除く。ガラス瓶や缶など、あるはずのない不燃物類もごろごろ。危険な作業だ。 堤彰一所長は「三―四割は不純物。汚れを落としていないものも多い」。確かに強烈な臭い。夏場のことを思うと、何もしていなくても気分が悪くなってくる。「せっかく分別回収をしても、最終的に完結させるのは市民のモラル」と堤所長。暮らしへの視線も引き締めてくれた一日だった。 |
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2004年4月18日掲載 | ||
サギ 住民 共生策見えず | ||
福井 サギ 開発で追われ宅地へ 住民 鳴き声、フン我慢限界 |
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悪臭や騒音を振りまく厄介者、サギの第一陣が今年も福井市の住宅地近くに飛来し、巣づくりを始めている。鳥インフルエンザの発生もあり、例年以上にまゆをひそめる住民たち。決定的な対策がないまま、人と鳥のにらみ合いは続く。
▼費用も深刻 木の枝をくわえて頭上を飛び交う鳥の群れ。福井市丸山連合自治会の斉藤達雄会長は「繁殖前にプレッシャーを与えると巣をつくらないと聞いて、今年は先月下旬から銃声などを発する装置を市から借りて置いてみたが…」と渋い顔。 山際の民家では洗濯物も干せないほどフンが落ち、気温が高くなる六月ごろには悪臭が漂う。耳障りな鳴き声は睡眠妨害にもなり、我慢も限界だ。「昨年伐採した場所では巣づくりしていない。地権者と話し合い対処していきたい」と続けた。 同市若杉町。泉通寺と熊野神社に挟まれた小山も、ゴイサギやアオサギ、コサギなどさまざまな種類のサギの姿で日増しに白くなっている。「鳥インフルエンザのこともあって怖い」「打ち上げ花火を上げると一時的には飛び去るが、またすぐに戻ってきてしまう。手間もお金も掛かる」と住民は困惑しきり。 ▼コロニーから移住 サギは種を超えて集団で営巣する習性を持ち、県内には三十以上の集団営巣地(コロニー)があるという。一つのコロニーに生息するサギは、二百―五百羽に上る。 丸山と若杉。二つのコロニーができたのは、三年から五年前。日本野鳥の会県支部の中林喜悦支部長によると、ともに九頭竜川の中角橋―天池橋にある大コロニーからの一部移住組だという。このコロニーは以前、上流の福井大橋付近にあったという報告もある。河川改修や公園建設などで河畔(かはん)林や餌となる魚が減るなどして、住処(すみか)を追われてやって来たらしい。 ▼変わる河川環境 九頭竜川と日野川水系では一九五五年ごろから、堤防工事や治水の川ざらいが行われている。また親水空間として、市町村が主体となって建設した大規模な河川公園は、福井市天池や松岡、南条など約十カ所に上る。 「木々の伐採には専門家の意見を聞いたり、繁殖期を避けるなど、野鳥の生態系を守る努力をしている。ただ、安全を守るために木を切ることもあるし、景観上伐採を望む声もある」とは、国土交通省福井河川国道事務所の佐中康起副所長。 ▼生息数むしろ減少 トキなど大型の鳥だけでなく、身近な小鳥も含めて野鳥は減少傾向にある。最近めっきり少なくなったとささやかれるスズメ。昔ながらの屋根瓦の家が減り、営巣できなくなっているためだ。 「サギは街中に現れて勢力を伸ばしているように見えるが、むしろ生息数は減っている」と中林支部長。河川や山林の開発、生活事情の変化による繁殖域の減少が、野鳥たちを圧迫し人間との軋轢(あつれき)を起こしている。 しかし住民の声は切実だ。「自然保護も分かるけど、私たちはどこまで我慢すればいいの」 ▼いたちごっこ 深刻なサギ被害の解決策は? 「伐採なども視野に入れて、様子を見ながら…」と、市林業水産課も歯切れが悪い。中林支部長は「少々手荒だが、繁殖期前に木々伝いにテグスを張り巡らせ、羽や足が引っ掛かるなどのダメージを与えると、他の場所に移る可能性がある」と話すが、追い払ったところで、また別の場所で被害を出せば、まさにいたちごっこ。 住処を追われたサギの被害は、決して二つの地区だけの問題ではない。野鳥の暮らし、ひいては自然とどう折り合いをつけて暮らしていくか、重い課題をはらんでいる。道半ば、模索は続く。 |
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2004年4月10日掲載 | ||
消費税総額表示から1週間 | ||
「税」見えにくく 割高感、不明確、歓迎…反応さまざま 買う側、売る側不慣れで混乱 |
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商品の価格を消費税込みの総額で示す新方式が始まって一週間あまり。消費者の反応はどうなのか。不況と価格競争の波のなかで悲喜こもごもだが、税が見えにくくなる状況が、あらためて浮き彫りになっている。
▼値上げ? と錯覚 「どうも高いように感じて、手にとるのをためらってしてしまうことがありますね。実際は同じなのに」。福井市内の主婦二十人に、総額表示導入後の率直な感想を尋ねたところ、八人が口をそろえた。「本体の値段が分かりにくいので、特にスーパーなどでは安いのか高いのか判断がつかない」。毎日の買い物でモノの値段に厳しい目を注いでいるだけに、割高感と違和感を覚えている。「新方式は三月下旬からすでに始めていたが、予想された通り買い控えがあり、店によって五―一○%売り上げがダウンしたところもある。次第に理解が得られ、回復傾向にあるが」とハニーの山田昭一常務は言う。 ガソリンスタンドの店頭にある看板を見て「高くなった」と嘆く男性もいた。周囲に「消費税の分ですよ」と諭され納得。新方式に慣れないための戸惑いがみられる。 先の主婦たちからは、「店内での表示が『税込み○○円』だったり『本体○○円、税込み△△円』と並列表記してあったり、金額のみだったりして分かりにくい」との声も強かった。並列表記には、九十八円などの値ごろ感のアピールをはじめ、割高感を防ぎたいという売り手側の思いも働いている。 ユースは「『総額表示のみが望ましい』という日本チェーンストア協会の方針に沿った表示を行っている」としている。他店ではひとつの店内だけでなく店ごとにばらつきがある。「消費者が払う額をはっきりさせるという目的からそれているのでは…」と主婦の一人はつぶやいた。 ▼お得感に満足 一方、値ごろ感を守るために、値下げを行った店は好感が持たれている。福井市大和田町にある衣料品店では「二千九百円だった定番のシャツが、今月から二千八百円に値下げした。総額が三千円を超えないようにということかな」とお客はうれしげ。 計算過程ででる一円未満の端数は、四捨五入や切り捨てなど店によって対応はさまざま。コンビニは四捨五入が大勢だが、三月末までは百十五円だった缶コーヒー類は、四月以降は百二十一円となるところ、一円安い百二十円ときりのよい価格に収めている。 ▼便乗値上げ? ガソリンは、嶺北を中心に総額表示移行と同時に一円値上げした店が多かった。三月末まで九十九円だったレギュラーガソリンは四月以降は百四円となるはずなのに、百五円と店頭で表示されている。「先の報道にもあるように、原油価格の高騰で値上げせざるを得ない状態。卸価格の引き上げに連動して、少しだけ負担いただいた。石川や富山は十二日ごろから三―四円値上げすることが決まっており、本県も近いうちに踏み切りたい」と県石油商組合は便乗値上げではないことを強調。大書きの看板が「108円」前後となり、ドライバーからため息が漏れることになりそうだ。 ▼見えない痛税 「大手電気店でレジで値札通りの金を払おうとしたら、消費税をプラスされた。値札の交換がまだすんでいなかった」という声も。買う側、売る側双方の混乱はまだ少し続きそうだ。 そんな中、この新方式によって、税金は確かに見えにくくなっている。税額はほとんどの店がレシートに記載しているものの、以前よりその負担の重さは感じにくい。現在の消費税に目隠しをした上での、さらなる税率アップの布石というのが大方の見方だ。「モニターに依頼している家計調査の項目にも消費税を加えており、税を意識することは大切。年金問題などが渦巻く中で、国民の暮らしをさらに圧迫することもあるのだから」とふくい・くらしの研究所の帰山順子事務局長は、消費者の厳しい目の必要性を示唆している。 |
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2004年4月8日掲載 | ||||
焼き鯖ずし 全国区に | ||||
大手ファミレスにも登場予定 「羽田」でブレイク百貨店、スーパーへ 各社がしのぎ 「福井」売り込みに一役 |
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肉厚の焼き鯖(さば)をすし飯に載せた本県生まれの「焼き鯖ずし」が脚光を浴びている。空港で販売される弁当「空弁」のヒットをきっかけに、各地の駅や百貨店、スーパーなどで売り出され、全国の家庭に新たな味覚を運んでいる。秋には大手ファミリーレストランのメニューに登場する予定もある。新たな福井名物の誕生だ。
▼1日に数千本 羽田空港内のあちこちにある売店の店先。目立つ表示とともに焼き鯖ずしが並ぶ。人気の立役者「みち子がお届けする若狭の浜焼き鯖寿司」と「焼さば鮨」「若狭鯖街道・焼き鯖すし」の福井発商品の三つどもえ。機内食、土産物、昼食にと買い求める客からは「お弁当のおかずとご飯を一緒に食べたような不思議な食感」「魚の生臭さがなく、子供も喜ぶ」の声。「からしじょうゆでいただくとおいしい」とはひいきにしている客室乗務員。
「みち子―」は「羽田内の一番よく売れる店で一日約七百本。全体では平均千五百本」(海の恵み)、「若狭鯖街道―」は「昨年五月ごろから販売を始め、現在は羽田で一日五百―六百本。大阪は二百五十―三百本。売り上げは順調に伸びている」(センカ)。 羽田で火が付いた人気は各地の百貨店やスーパーに広がり、通信販売なども含めて福井のさまざまな会社が参入している。「焼さば鮨」を手がける小浜海産物の上野清治社長は「一日三千本ほどを各地に出しているが、社員は未明からフル活動です」と話す。 ▼始まりは町おこし もともと本県には、ちらしずしの上に焼いた鯖の身をほぐして載せる郷土料理があった。現在の形態が生まれたのは四年前。三国町の住民らで組織する「まちづくり協議会三國湊會所21C」が、新しい三国の名産にしようとつくった。考案の中心となった中本貴久さんは「鯖が好きで、いろいろアレンジして食べているうちに思いついた。最初に販売した三国祭では、二百本を四十五分で完売した」と当時を振り返る。その後、中本さんが自社スターフーズでの製造販売を引き継いだ。 評判は口コミで広がり、同様のものが県内のスーパーなどに並ぶように。その後、若狭路博や物産展などを通して県外に徐々に知られていった。中本さんは「ここまで売れっ子になるとは…。ちょっと複雑な思いもあるけど、有名になってくれてうれしい。富山のますずしのようなブランドを目指したい」と話す。 ▼福井の文化を発信 若狭には鯖街道の歴史や浜焼き鯖、嶺北では半夏生鯖など、鯖は古くから福井人の食生活を支えてきた。スーパーでも、焼き鯖は主要な総菜の一つだ。「十分な下処理をして、くしに刺して焼く鯖の一本ぐしは、福井だけのもの。長年培ってきた鯖のおいしさが認められている。肉が敬遠される状況も追い風に」と天谷調理師専門学校の天谷祥子校長は解説。 小松空港の売店「センカ」では、近所に住む主婦が買い求める姿があった。「ここら辺では焼き鯖自体も珍しい」と、新しい味覚の発見を楽しんでいるよう。お隣の県でさえ、未知の食べ物。「隣の店でも、これまでバッテラなどをつくっていた金沢の会社が手がけたものを売り出しましたが、やっぱり本場の味には勝てないですよ」と店長は言う。 焼き鯖とすし飯の間にしょうがや大葉、しいたけを挟んで魚の生臭さや脂っこさを取ったり、食材の質にこだわったり、また食べやすさに気を配るなど、それぞれに工夫を凝らしている。素朴な伝統の味と現代のニーズをマッチさせた福井の新しい名物。パッケージに福井や若狭の文字が踊るのも、「鯖は福井」というイメージがあるからだろう。「この快進撃はまだまだ続く気配」と上野社長。食の世界を通じて「福井」が売り込まれている。 |
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2004年3月31日掲載 |
窮地の県住宅公社(下) |
揺れる存在意義 解散視野「役割終わった」 県内余剰住宅1万戸 福祉分野にニーズ 専門家は再生期待 |
存廃の窮地に立たされた県住宅供給公社。将来的な債務超過と県費による補てんの可能性も浮上してくる中、設立母体の県庁内では、「役割は終わった」との声が上がり始めている。二月末に発表された県財政構造改革プログラムでは、解散も視野に入れた取り組みが明記された。もはや再生は不可能なのか。専門家からは、社会ニーズの原点に立った新たな供給政策への転換を期待する声も出ているのだが…。 ▽解散風 「まさか盛り込まれているとは…」。二月に発表された県財政構造改革プログラム。福井市の県松本合同庁舎五階。県庁から送られてきたプログラムの内容を見た職員たちはがく然とした。 内容は「解散も視野に入れた法律改正を国に要請」―。担当した財務企画課は「今や住宅供給公社の見直しは全国的な流れ。民間に任せられるところは任せるべき」。厳しさを増す財政事情の中で、外郭団体見直しの一環として不振にあえぐ同公社も解散を含め検討せざるを得ないと説明する。 全国五十七公社の借入総額は約三兆円にも上る。特に北海道は千三百億円にも膨らみ、金融機関を相手に特定調停を申し立てる事態にまで発展するなど、全国で破たんが相次ぐ。 本県の公社の借入金は昨年度十八億円。本年度の当期損益は四千九百万円の見込みだ。一方で年間運営費は一億円以上に上り「県費を投入してまで面倒をみられる状況ではない」―こんな声が県幹部たちから漏れる。 ▽改革模索も もはや解散しか打つ手はないのか。「単に住宅を安く供給するという従来の公社の役割としては、確かに存在意義はなくなっている」。三菱総研民営化ビジネス事業部の赤川彰彦主席研究員は、全国で民間も含めた余剰住宅が六百十一万戸に達する現状を踏まえ指摘する。 本県も余剰は約一万戸。福井大大学院の桜井康宏教授(アメニティデザイン)も、これまでの同公社について「地価の安い郊外に目を向け、型にはまった団地ばかり造ってきた。基本的な戦略が既に時代に合わなくなっていた」と同様の見方だ。しかし二人とも、「解散論」ばかりが先行する現在の政策を懸念する。 赤川研究員は、超高齢化社会が進む二十一世紀は、既に国内の31%が高齢者世帯になっている現状を指摘。特養、グループホームへの需要はますます高まっている。「こうした切実な社会問題の解決へ切り込んでいけるのなら、公的な住宅供給機関に社会が求める役割はなお、あるのではないか」という。自治体の「デベロッパー」として再出発を図れる改革要素はあるとの見方だ。他県では既に、改革に乗り出した公社も出始めている。 この一つ岐阜県では、JR岐阜駅付近の再開発ビルの一角にデイサービス、医療施設などを併設させた福祉マンションの建設を計画。国の助成が適用されると、一等地ながら家賃が月額数万円程度で安心便利な住空間が百戸余り提供できるという。高齢者福祉の切り札として注目を集める。 岐阜県住宅供給公社経営課の西垣博文課長は「県内で特養入居待ちは三千三百人。需要見通しは高く、われわれの進むべき道とあらためて認識した」と意気込む。 社会は今、高齢化ばかりか、いじめ、幼児虐待などの問題に適応する地域コミュニティー再生型のまちづくりへ要望は強い。桜井教授は「さらに中心街空洞化、公共交通機関活性化対策、環境保全などまちづくりの多方面でリーダーとなる二十一世紀の街の提案型公社へ脱皮を」と期待する。 ▽まず足元 ただ現状は厳しい。県住宅供給公社の柳澤義則理事長は「今は水面下であっぷあっぷしているようなもの。解散論が起きても仕方がない状態。まずはバブルの遺産を整理することからで、それまでは本庁へは何も言えない」。瀬戸際に立つ中で、再生の一歩を踏み出せるよう今は全力で売れ残り物件の完売へ取り組むしかないとの決意だ。 桜井教授は「天下りの受け皿的な外郭団体の位置付けや縦割り行政。これら二十世紀の行政の遺産にまでメスを入れた上で土木、福祉、教育などの部局横断型でゼロから新組織を再構築する。そのくらいにならないと再建の意味はないし、存続の価値はない」とくぎを刺す。 |
2004年3月30日掲載 |
窮地の県住宅公社(上) |
旧金津 団地売れない 昨年度 ゼロ 造成地に遺跡の誤算 公社法足かせ割高に |
県住宅供給公社がバブル末期に造成した団地が売れ残っている。将来債務超過に陥る可能性があり、県庁内では解散論も浮上している。バブル崩壊の打撃をもろに受けた格好だが、背景には造成地での遺跡調査や国の法規制など大きな誤算、足かせがあった。関係者からはジレンマ、苦悩続きの実態が漏れてくる。窮地に陥った同公社の深層を追跡するとともに、今後の公社の在り方を検証する。 旧金津町内の県道沿い。山を切り崩した高台に約百五十区画の宅地が並ぶ。県住宅供給公社が造成した。販売開始は一九九四年度末。以来十年が経過したが、約六十区画、八億円相当が売れ残ったままだ。 企画したのは八七年ごろ。日本経済がバブル突入という時期だった。上がり続ける地価。当時はどの団地も完売が続き、「すぐ売れるという予測で判断した」と当時を知る関係者は語る。福井市内の地価が高騰した九○年ごろは坂井郡内へベッドタウンが拡大し、大きな需要があったという。 九二年度に用地買収に着手した。公社側の誤算が生じていったのはここからだった。 造成地には古代の集落跡が存在、文化財保護法に基づき翌年から、県埋蔵文化財調査センターによる内容把握の発掘調査が行われた。公社の当初構想では「一年程度で終わるとみられていた」(総務課)が、実際には四年を要した。この間が致命傷だったと同公社の和田龍三次長は打ち明ける。 九四年度末から終了区画ごとに順次売り始めたが、調査で時間をロスする間に近郊には次々と競合団地が完成。九五年度こそ年間二十九件が売れたものの、その後一気に住宅需要が冷え込み、販売は十件前後に低迷していった。 ▽法も足かせ さらに誤算は続いた。地方住宅供給公社法では、造成費用はすべて「原価主義」。販売価格にはね返らせることが義務付けられている。このため、億単位の調査費が坪単価に上乗せとなり、他の団地が十五万円程度で売られる中、この団地は平均二十万円と割高に。 その後も競合団地の地価が下がる中で「指をくわえて見ているしかなかったようなもの」(元幹部職員)。年を追うごとに販売が落ち込み、有効な手だてが打てないジレンマが続いたという。福井市内から遠い立地条件も重なって民間との競合に勝てず、二○○一年度は四件、昨年度はゼロにまで落ち込んだ。 国は昨年、ようやく公社法を改正し、時価価格相当での値下げ販売を可能とした。が、時既に遅し。事務局長経験者の一人は「国はバブル崩壊後の地方公社の現状を本当に見ていたのか」と苦言を呈す。 ▽助言あったが… 計画段階でこれらは見通せなかったのか。少なくとも遺跡については、携わった考古学関係者の多くから「専門知識を持った人に見てもらい慎重に進めていれば、それなりの遺構が出てくる可能性は推測できたのでは」との声が聞かれる。 遺跡の存在は県の「遺跡地図」に出ているばかりか、隣接地で八六年に行われた県道造成では複数の集落跡が確認されている。実際に発掘調査では、弥生末期から古墳時代にかけての県内最多五十七戸の住居群が出土するなど第一級の遺跡だったことが分かった。 試掘調査終了後の会議で、埋文側から「調査にかなりの年月を要し、費用も相当額が上積みされるので、昨今の経済情勢ではやめたほうがいいのでは」とのアドバイスが公社側にあったともいわれる。それでも突き進んだ。 当時を知る公社関係者の一人は「当時、県ではサンドーム福井、清水町健康の森などの造成があったが、ともに予算額が当初計画と比べ倍増していた。まだまだ県全体に拡大ムードがあった」と話す。 歴史家からは遺跡をつぶしてまで進めた宅地造成にどれほどの費用対効果があったのか疑問を投げかける声も出ている。 |
2004年3月24日掲載 |
県立歴史博物館リニューアル1年 |
入場者は倍増の7万人 多彩な企画展奏功 意識変えイメージ一新 カギはリピーター獲得 |
昨年3月にリニューアルオープンした県立歴史博物館が1年を迎えた。来館者は7万人を突破し、旧館時の倍近い数字を記録した。同館では「まずまず」と胸を張るが、正念場は2年目といわれている。県民に何回も足を運んでもらう「リピーターの獲得」を旗印に掲げ、博物館の古いイメージを払しょくしようと取り組んだ1年を検証した。 ■デートコース■ 「若い世代が来館するようになり、旧館時代と比べると客層はガラリと変わった」。岩尾洋一郎副館長はカップルが同館をデートコースに利用していることに満足している。昭和の町並みを再現したコーナーもあり、お年寄りの来場者も増えたという。 一年間の来館者は七万八百八十人。オープン当初の三月は約一万三千人が訪れ、駐車場(百二十台)が足りなくなったほど。四、五月も一万人弱と好調さは続き、十一月までは四千―六千人台で推移した。十二月は約二千人と落ち込んだが、一月は約四千人と盛り返した。一月は企画展「猿展」がヒットし、この時期としては例年の十倍以上の人が訪れた。 「例年十二月、一月は入館者が四、五百人と極端に少なくなる時期。今年も、じり貧で少なくなると予想していたのだが」と、同館職員は驚きを隠さない。 ■視覚的な効果■ 展示物には解説文をあまり付けず、モノを美しく見せる展示手法を用いた。 博物館の古いイメージを取り払い、押しつけがましい展示をやめた。モノを時系列的に置いて見せるという従来の手法を改めて、視覚的な効果に訴えた。鎌倉時代の越前焼の窯など四つの大型立体模型、昔のニュース映像が楽しめるシアター、博物館の舞台裏をのぞくオープン収蔵庫などがそうだ。 一度展示したら模様替えできない欠点を解消するため、展示ケースや壁を可動式に変更した。これまで四回の企画展などで活用、変化のある展示でリピーターの獲得を目指した。実際の聞き取り調査で、複数回足を運ぶ人が旧館に比べ増えているという。 さらに民意を企画展に反映させるため、同館を支援する「サポーターズクラブ」も立ち上げた。 ■チームプレー■ 「これは違うんじゃないか。この展示ではここに配置した方がいいと思う」。印刷物や照明・撮影方法など、ミニ企画展であっても七人の学芸員全員が意見をぶつけ合う。旧館時代にはなかった光景だ。 ある学芸員は「昔は一人で好きなようにやっていた。一匹おおかみ的な仕事だったが、今はチームプレー。昔の”タコつぼ”みたいな生活は消えた」と、意識が大きく変わったことを指摘する。 ただ、「新企画に頭を悩ませるあまり、学芸員が本来の基礎研究に手が回らず、論文を書く時間は極端に減るというジレンマもある」(笠松雅弘学芸員)。将来的に学芸員がネタ不足にならないような”仕込み”も必要なのだ。 県内には五十近い博物館があり、今月二十一日には福井市立郷土歴史博物館が新築オープンしたばかり。岩尾副館長は「昔の博物館ではだめだ。館内でファッションショーやコンサートをやるなど、いろいろ考えないと生き残っていけない」と危機意識を抱く。 東京女子大文理学部の水藤真教授(博物館学)は「一般的にこれからの博物館には遊び感覚やリラックスできる雰囲気が必要。春夏秋冬、行くたびに違った顔があると、何度も足を運ぶのではないか。学芸員の地道な努力が求められる時代」と話している。 |
2004年3月19日掲載 |
閉鎖のGS 次々”変身” |
美容室や診療所、携帯ショップ… 幹線沿い 広い駐車場 好立地生かす |
廃業に追い込まれた県内のガソリンスタンドが診療所や美容室、石材販売、携帯電話ショップなどの異業種に次々と衣替えしている。規制緩和で競争が激化、スタンドの閉鎖が相次いだ結果だ。もともと道路に面した抜群の立地条件。”変身”で新たなビジネスチャンス獲得を目指している。 福井市田原一丁目のフェニックス通り沿いのスタンド跡に昨年七月、オープンしたのは美容室「ループ」。経営する上島久代さん(33)は開店前の一カ月間、廃業したスタンドを中心に物件を探していた。その理由を「福井は車社会。給油所ならほとんどが幹線道路沿い。駐車場が広くて、お客さんが入りやすい」と説明する。 十台の駐車場。スタンド特有の平たい屋根も雨、雪よけとしてそのまま残した。近く、屋根から大きな看板をつるして、もっと目立つようにするつもりだ。 産婦人科の診療所になったのは、福井・加賀線(通称・芦原街道)沿いの宮越女性クリニック(福井市大宮四丁目)。昨年五月に開所した。宮越洋二院長(64)は「車の往来が激しいからドライバーの目に 県石油商業組合によると、ガソリンの輸入が自由化された一九九六年の規制緩和で業者間の価格競争が激化。九六年五百十八店舗あったスタンドは多い年で年間、二十店舗近く減り、昨年三月末時点で四百三十八店になった。同組合は「後継者がいなくて廃業したり、大手販売店も効率の悪い店は閉じたりした。昨年も二、三社倒産し、厳しい状況は続いている」と話す。 跡地利用で多いのは、地下燃料タンクを取り除き駐車場にするケース。ほかにも広いスペースを生かした中古車販売展示場、車検代行業、携帯電話ショップになっているところもある。同組合は「使われなくて残っているのは全体からみれば一部。立地条件がいいから何らかの形で利用されている」と説明する。 昼間は石材販売、夜は屋台ラーメンが営業しているのは福井市下江尻町のスタンド跡。「いしの良玄」を経営する良玄正士さん(52)は「かつて整備場だった場所に石を保管できるし、待合室では接客ができる。二人が借りているから賃料も安い。理想の場所」と満足げだ。 価格競争の結果、車の出入りが減って廃業に追い込まれたガソリンスタンド。今は朝早くから深夜まで明かりがともり、車ならぬ人を呼び込んでいる。 |
2004年3月12日掲載 |
鶏の処遇 悩む飼育者 |
鳥インフルエンザ被害拡大 県内処理業者に相談増 近所に配慮、愛玩用も 農林系高では実習授業中止も |
国内で鳥インフルエンザが発生して以降、県内の食鳥処理業者に鶏を処分できないかとの依頼が増えている。特に隣接する京都府での発生後、周囲の視線も厳しく、愛玩用の鳥類を仕方なく処分する人もいるという。相談が寄せられる県では「せっかくの小さな命。むやみに処分しないでほしい。近所の人たちも温かく見守って」と呼び掛けている。 「インターネットを見ていると東北の人からも不安の声が上がっている。隣接する県で飼育する私たちにとってはなおさらです」。愛玩用にチャボ七羽を飼育している高志地区の女性(46)はため息交じりに話す。 「大変だね。大丈夫?」。近所の人たちが会うたびに親切心でこう話し掛けてくる。「それが逆に、みんなが意識している裏返しだと思うと、飼育していることに非常なプレッシャーがかかってくる。もしわが家で発症してしまったら…」と複雑な胸の内を吐露。「手塩にかけて育ててきた鶏を手放すことはしたくない。消毒や網を張るなどできるだけの防備をやっていくつもり」と話す。 しかし中にはもし感染したらという恐怖に耐え切れず、手放すことを考える人も多いようだ。 ▽苦悩の末 県内にある食鳥処理業者は十一。松岡町志比堺の鳥西商店でも国内での鳥インフルエンザ発症以来、愛玩用に飼育する人たちや百羽程度を飼育する農家などから処理を依頼する相談が急増した。「多いときは一日五、六件。京都での発症以降は、ほぼ連日」と代表の西藤夫さん(64)は影響の大きさを実感する。 ただ、西さんはすべて断っている。食の安全を優先し一般飼育者からの処理は受け付けていない。「せっかく育ててきたんだから」と逆に励ましているという。福井市大畑町の県家畜保健衛生所にはこうした不安に加え、検査してもらえないかとの問い合わせも寄せられる。 「今、鶏にかかわるみんなが悩み苦しんでいるのではないだろうか」。春江町姫王で千羽以上の飼育を手掛ける中堅養鶏業者で、県の指導農業士、高間敏則さん(62)は話す。現在、業界全体で卵の出荷が鈍っている。原因は鳥インフルエンザの影響ばかりではない。年明けに発覚した卵の製造年月日偽表示事件を含め、まさに”ダブル京都渦”に見舞われている。「腐らすよりはただでもいいから引き取ってほしい」という深刻な声も出始めたという。 高間さんは「毎朝、鶏たちの元気な鳴き声を聞いて安心する。こうした日々が続いているが、養鶏仲間の所へ行くことすらためらう雰囲気も出始めた」と不安を隠さない。 ▽授業にも影響 影響は養鶏業者だけではない。農林系の三高校では生徒の授業カリキュラムとなっている鶏の管理実習が相次いで中止となっている。「生徒の安全、不安解消を最優先に考え、山口での発生以来率先して実習を取りやめた」と福井農林高の西田哲章教頭。飼育する千六百羽は当面、職員が世話を続けていく。 同様の措置を取る坂井農業高の栗田寿一主任教諭は「近くの人たちはいつも生徒たちが世話をした鶏が産んだ卵を楽しみにしていてくれた。早くこれまでの授業風景が戻ってくればいいのだが」と祈るばかりという。 苦悩する養鶏業者への対策として西川知事は早急な対応を県の関係課に指示。これまで移動制限区域三十キロ内にしかなかった低利融資制度を圏外にも拡大して適用させようと準備に着手した。 県家畜保健衛生所の永井六充次長は「今やるべきは鶏舎の消毒。それでもし発症したとしても、感染経路が分かっていない現時点では発症元の責任は問われないはず。決してそのことを恥じないでもらいたい」と飼育者にエールを送る。少なくとも今大切なことは、京都府の養鶏業者のように報告を怠り感染を拡大した悲劇を繰り返さないための連携という。 |
2004年3月11日掲載 |
卒業式祝う歌は? |
定番「仰げば尊し」1位 本社・県内77中学校調査 歌謡曲「さくら」健闘 独語、英語曲生徒作詞も |
卒業式の定番曲といえば「蛍の光」や「仰げば尊し」―。ただ、福井新聞社が分校を除く県内七十七の国公立中学校の今年の式について調査したところ、そんななじみの歌に加え、合唱曲「旅立ちの日に」を歌う学校が三十六校に達し、「仰げば尊し」に次いで二番目に多かった。歌謡曲では森山直太朗の「さくら」が健闘。生徒作詞やドイツ語の歌で祝う学校も登場し、思い出の曲は時代とともに変化しているようだ。 ▼歌詞が分かりやすい 調査は、校歌、国歌(君が代)以外に式で歌う曲目をすべて答えてもらった。(複数回答あり) 「旅立ちの日に」は一九九二年に作られた合唱曲。福井市のほか坂井郡や丹南、奥越、嶺南各地で幅広く歌われる。人気の理由を光陽中(福井市)の音楽教諭は「歌詞が分かりやすい。心に残るので生徒も一生懸命歌う」と説明する。 尚徳中(大野市)も「仰げば尊しに代わる歌。中学生の心情を表している」と絶賛。春江中では「ここ十年はこの歌」と話し、既に定番になりつつあるようだ。合唱曲ではほかに「巣立ちの歌」が人気を集め九校、「大地讃頌(だいちさんしょう)」も六校で歌われる。 「仰げば尊し」は貫録のトップだった。今年は四十二校が伝統の曲を歌い上げる。音楽教諭の間では「この歌がないと卒業式はできません」。ただ敦賀市教委は「歌詞が難しいのか、最近は減ってきている」と話す。もう一つの定番「蛍の光」は、卒業生が退場する場面で演奏曲が流れる学校は多いものの、合唱しているのは七校にとどまった。 ▼生徒投票で決定 歌謡曲では、昨年大ヒットした森山直太朗の「さくら」が人気。武生五中など五校で採用された。「僕らはきっと待ってる。君とまた会える日々を…」のフレーズから始まる抜群の知名度。松岡町出身の中村太知さんが編曲を手掛けたことでも知られる。ただ独特の高音で難易度が高いためか、生徒が希望したものの断念した学校もある。 生徒の投票でH2Oの「想い出がいっぱい」を選んだのは織田中。上志比中はスピッツの「空も飛べるはず」、勝山北部中はKiroroの「ベストフレンド」、尚徳中は岡村孝子の「夢をあきらめないで」を選んだ。それぞれの曲には学校祭や体育祭で楽しかったことなど、生徒の思い出がいっぱいだ。 ▼生徒が作詞 ドイツ語で「歓喜の歌」を歌うのは足羽中(福井市)。九九年の創立五十周年の式典で歌って以来、毎年卒業式の恒例。福井大付属中(同)でも「ハレルヤ」を英語で歌う。 開成中(大野市)は自作の歌に挑戦する。卒業生全員が二年生のときに作詞。生徒実行委員会がフレーズを選んで一つの歌詞を作り、音楽教諭が曲を付けた。タイトルは「夢があれば」。 県内中学校の卒業式はスタートの十二日をピークに十八日まで続く。県合唱連盟事務局の斉藤厚一さん(66)は「生徒たちの一生の思い出に残る大事な式。手作りの曲やヒット曲、定番の曲…。心を込めて声を合わせて歌ってほしい」とエールを送った。 |
2004年3月7日掲載 |
成年後見制 |
財産、介護ににらみ 県内申し立て過去最高 予算措置6市町 自治体意識まだ低く |
痴ほう症のお年寄りや知的障害者らの財産などを保護する成年後見制度が導入されて四月で四年になる。福井家裁への後見開始の申し立ては本年度一月までで八十一件と前年度より三十件近く増え、県内でもようやく関心が高まってきた。介護保険制度が本格化し、社会福祉サービスが行政の措置から、判断力が求められる契約へと移ったためだ。ただ身寄りのない人の申し立てを想定し、あらかじめ審判費用の予算措置をする自治体はまだ少ない。 ▼だまされる寸前 「自分一人だったらだまされていたかも…」。武生市内のお年寄り(73)が振り返る。このお年寄りは手足が震えるパーキンソン病を患っている。二千百万円相当の土地や建物のほか預金が千五百万円ある。障害者年金も月八万円ずつ入ってくる。 昨年六月、長年連れ添った妻を亡くし、独り暮らしに。財産管理を心配した市の勧めで司法書士でつくる成年後見センター・リーガルサポート福井の中野耕作支部長に後見人を依頼した。 ”事件”は独り暮らしになって三カ月後に起きた。知人の四十代女性が「家に住まわしてくれれば、身の回りの世話をしてあげる」と近づいてきた。不審に思い中野支部長が女性が来る日に依頼主の家に行き、後見人として財産を管理していることを告げると、そそくさと退散したという。 中野支部長は「女性は夫と二人で来た。一緒に住んで、預金を引き出させるつもりだったのだろう。今回の依頼人はまだしっかりしているが、痴ほうのお年寄りの中には、年金をだまし取られてしまったり、訪問販売で高価な物を買わされたりする人も少なくない」と指摘する。 ▼小遣いもチェック 福井家裁と同武生・敦賀の両支部が受理した後見開始の審判の申し立ては、制度が始まった二○○○年度は六十二件。その後、○一年度四十八件、○二年度五十四件と推移。本年度は一月までで八十件を超え過去最多になった。 この背景について、福祉現場から制度の普及を図る日本社会福祉士会県支部の福田洋一郎会長は「昨年四月から始まった支援費制度で、障害者らが施設を自由に選べるようになった」と分析。「判断能力が不十分な場合、契約内容を確認する人が必要になる」と制度について説明。 実際、福田会長は後見人として施設が入所者に対して作成した支援計画が実行されているかや職員が入所者から集める小遣いの金額や使い方もチェックしている。「身内を預かってもらっている家族は施設にお世話になっているという思いがあるから、注文や文句は言いにくい。しかし、第三者の後見人なら指摘できる」と話す。 ▼必要な市町村の準備 家裁への申し立ては本人、配偶者のほか四親等以内の親族が行う。いない場合、市町村長が申し立てることもできる。その際の費用を市町村が負担するが、○三年度当初予算で、啓発費用も含めあらかじめ予算を計上していたのは四市二町だけだった。 県高齢福祉課によると、補正予算でも対応はできるという。ただ、福田会長は「自治体の意識がまだ低いことの表れ」と指摘。中野支部長も「過疎化が進む郡部ほど独り暮らしのケースが多い。親族がいなかったり、かかわりを拒否したりして、自治体が申し立てるケースも出てくる。準備しておいてほしい」と呼び掛ける。 武生市は○三年度、申し立て費用などで五十五万円を計上。啓発活動も行っている。実際に申し立てたケースはまだないが、市社会福祉課の担当者は「高齢化社会が進んでいる。この先ずっと申し立てがないことは考えられない」と話している。 (福井家裁への申立件数はいずれも概数) |
2004年3月4日掲載 |
生体肝移植、保険対象に |
手術費大幅軽減で一般化へ 県内病院 受け皿急務 患者、ドナーの術後支援 当面は県外機関紹介 |
”新たな国民病”といわれる肝炎などの肝臓病患者に対し、今年から生体肝移植が保険対象となった。一千万円以上にも上っていた手術費が手の届く範囲になり、高額医療費に悩む患者の注目が集まりつつある。移植手術を行う県内病院は今のところないが、生体肝移植の一般化を控え、県外で手術を受けた患者や臓器提供者(ドナー)らを支える環境づくりが急務となっている。 ■手術費は2ケタ減 「肉体的なつらさと金銭的な苦痛。それがいつまで続くか分からないのが肝炎の苦しさです」 福井市内に住む五十代の女性は九年前、献血でC型肝炎が見つかった。肝硬変に進行するのを抑えるため週三回、抗ウイルス剤「インターフェロン」の注射を打ち始めた。自己負担は月四万円余り。年間約五十万円が財布から出ていく。この女性は「毎年の医療費だけで精いっぱい。費用が安くなれば、移植を考える人もいるでしょう」と打ち明ける。 肝硬変に進行した河野洋平元外相が一昨年、息子の太郎氏から移植を受けたことで注目されたC型肝炎。国内で百万―二百万人の患者がいるといわれる。生体移植の保険適用は腎臓に限られていたが、河野親子の例が追い風になり肝臓にも拡大。数百万―千五百万円前後といわれた移植手術費は、六十三万七千円に統一され三割負担の場合、患者負担は二十万円弱で済むようになった。 一月二十五日、生体肝移植をテーマに福井市内で開かれた勉強会には約六十人の肝炎患者らが集まり、移植経験者の体験談や専門医の説明に耳を傾けた。国内での肝臓移植は自費でも既に二千三百例を超え、生体肝移植は99%を占める。勉強会の発起人で、開業内科医の清水元茂医師(福井市)は「肝炎は肉体的、経済的に長年苦しむ慢性患者がほとんど。生体肝移植の希望者は今後増える」と話す。 ■実施機関、県内ゼロ 生体肝移植を実施できる県内病院は今のところない。県立、県済生会、福井赤十字、福井大医学部付属の公的病院は「ニーズは高まる」「今後検討せざるを得ない」と口をそろえる半面、「当面は実績のある県外病院に紹介するケースが続く」との見解で一致する。 日本肝臓学会評議員で肝がん撲滅運動県支部の責任者を務める田中延善・県済生会病院副院長(内科)は「生きる道が開ける意義は大きい」と保険適用を評価する一方で▽設備投資が大きい▽専門の移植チームを設ける人的余裕がない―などの理由を挙げる。福井赤十字病院の山本広幸外科部長も「専門の倫理委や院内コーディネーターの充実が不可欠だが院内合意はこれから」と説明する。 ■多すぎるハードル 生体肝移植には根本的な課題がつきまとう。福井大医学部の肝臓専門医、石田誠医師(第一外科)は「実績が伸び悩んでいる脳死移植よりも正直、身近で大きな関心事だが、生体肝移植のハードルはまだまだ多い」と打ち明ける。 専門医が第一に挙げるのはドナーの問題だ。日本移植学会は「二十歳以上で三親等以内」と定めていた条件を、昨年十月「親族六親等、姻族三親等内が原則。場合によって血縁関係のないケースや未成年でもドナーとなる」と改定。つまり”赤の他人”でもドナーとなる条件に拡大した。 生体肝移植が普及すれば「ドナーが提供を断りにくい”踏み絵”になってしまうのでは」と心配する声や「現状では臓器別の専門医が足りない」と医療体制の不備を漏らす医師もいる。移植を受けた患者は、手術後も免疫抑制剤の投与で通院が必要なケースが多い上、健康だったドナー側の危険もゼロではない。 「日本臓器移植ネットワーク」は脳死移植が中心業務で、生体肝移植に手が回らないのが現状だ。県内患者の相互支援組織づくりを目指す清水医師は「県外で移植手術を受けた後も、県内でのフォローが不可欠。移植希望者を県外病院に紹介するだけでなく、早急に院内倫理委などを立ち上げ患者やドナーを支える体制を整えてほしい」と、医療機関側の受け皿づくりを訴えている。 生体肝移植の保険適用 C型肝炎などが悪化した成人患者に対する移植が急増し、手術の成功率も高まっているため厚生労働省が今年、保険適用の対象を広げた。これまでは先天性胆道閉鎖症など一部の病気に限られていたが「肝硬変および劇症肝炎については十五歳以下の患者に限る」という年齢制限を撤廃。肝細胞がんについても、直径が五センチ以下のものが一つ、または三センチ以下が三個以内の場合に限り保険適用となった。 |
2004年3月2日掲載 |
”合併特需”膨らむ期待 |
印刷、看板業者ら 名称変更で営業強化 自治体減り競争も |
「平成の大合併」で一日、本県の「あわら市」を含む八つの新しい市が全国で誕生。市町村合併をビジネスチャンスにと当て込む県内の印刷や看板、土木、コンピューター業者の期待が膨らんでいる。名称変更に伴う名刺、封筒から建物の看板、道路の案内標識の掛け替え、さらに役所のコンピューターシステムの再構築など、あらゆる面が新しくなるためだ。ただ、合併は発注元となる自治体の減少にもつながるため、業者の中には”特需後”の仕事減少を懸念するところもある。 「小学校や図書館、公民館…。いろんな建物の看板が変わる。業界にとって影響は大きいですよ」。芦原町と金津町が合併し、「あわら市」誕生を控えた二月末、福井市内の大手看板業者アド・アートシセードの中西賢二社長が期待を込めて話した。 今年初めから庁舎や小学校の看板を「あわら市」とする注文が少しずつ増え始めた。「全体でみれば、まだ一部の建物の名称変更だけだが、これからは町境の道路に立っているシンボルタワーなど、いろいろな注文が入ってくるのでは」と中西社長はそろばんを弾く。「県内ではほかにも『越前町』や『南越前町』『福井市』などの合併話が持ち上がっているため営業を強化していきたい」と鼻息は荒い。 ▼看板変更141カ所 あわら市内では、道路標識下に取り付けられている自治体名が入った補助板や旧町境に設置されていた案内板も一日から順次変わり始めた。 県道路保全課によると、県道関係の変更は百四十一カ所。一カ月ほどかけて工事する。同課担当者は「大きな案内標識を設置すると三百万円弱。今回はそうした工事はなく、補助板の掛け替えが中心で予算は九百万円と額はそれほど大きくない」と説明しているが、業者間では「公共工事が減って仕事があまりないご時世。小さくても大歓迎」との声が出ている。 同課によると補助板掛け替えなどの工事は「越前町」と「南越前町」が誕生するとさらに三百カ所以上。「福井市」の名称が存続する福井市や鯖江市などの合併でも三百カ所ほどに上るという。 ▼苦境をチャンスに パソコンの普及で苦境が続く印刷業界にとっても朗報。あわら市内の業者には民間会社から名刺や伝票、封筒変更の依頼が舞い込み始めた。 ある業者は「今、多くの家庭は年賀状を自分で刷っている。会社でも会議用資料は自前で作るようになり、廃業する印刷業者が増えている。でも今回は昭和から平成に変わった年号変更や郵便番号の七ケタ化に続いて受注の増加が見込める」と話す。 一方「これまで複数の自治体が発行していた印刷物は合併によって一つになる。業者間の競争が激しくなるのは確実」と話すのは福井市内の印刷業者。観光パンフレットや広報紙、小学校の副読本の印刷を発注する自治体が減り、少なくなった入札に業者が殺到することが予想されるためだ。 ただ合併によって人口規模が大きくなることから、発注金額は高くなりそう。このため同社は合併を予定している自治体に足を運び事前の営業を強化している。 コンピューターシステムでも個人データの修正や会計・財務処理、電子決裁の統一、庁舎間のLAN新設が必要となり、納入業者がサポートに当たった。自治体にコンピューター管理システムを販売する丸岡町の三谷コンピュータの木田幸男北陸営業本部長は「全国では自治体が三分の一以下になる。でも、受注規模が大きくなることをチャンスとしたい」と話している。 |
2004年2月21日掲載 |
目指せ治安日本一 |
県「安全・安心」条例化へ 各市町村 防犯隊核に拠点作り 住民意識喚起がカギ |
県内での街頭犯罪の数が昨年、初めてマイナスに転じた。県警は治安回復の一歩と手ごたえをつかむ。一方県は今冬、県民総参加の防犯体制を進める条例化の作業に着手した。過去に例のない新たな組織づくりで、一気に犯罪に強い街を築こうと構想を描く。「警察任せ」ともいわれる防犯体制から脱脚し、県民一人ひとりが立ち上がる起爆剤となるのか。 ▽今年が正念場 武生市内の駐車場。車に乗ろうとした男性(20)=当時=は、ぼう然と立ちつくした。ドアは壊され、オーディオが丸ごと抜き取られていた。三年前の出来事だ。「以来新車を買う気がわかない」。今朝も大丈夫かと不安な日々が続く。 自販機荒らし、住居侵入などの街頭犯罪は一九九七年以来上昇カーブを描き続けてきた。二○○二年は七千件を突破。県警のアンケートでは、社会不安要因に上げる県民が七割に上っている。 しかし昨年は対前年比18・5%減と、ようやく減少に転じた。特に急増傾向が強かった車上狙いもほぼ横ばいになり、県警では徹底摘発などが奏功し一定の歯止めが掛かったとの見方を示す。ただ件数そのものは十年前の倍の水準。日常的な不安が払拭(ふっしょく)されたとはいえない。現に連れ去り未遂など県教委に上がってきた通学途中の児童・生徒の被害報告は昨年度の三倍増の三十件に達している。 県警の内田淳一本部長は「今年も減少が続くかどうか、それが今後の福井の治安を左右していく。いよいよ正念場の年だ」と力を込める。 ▽自主組織が威力 こうした中、地道な取り組みをしている地域もある。福井市南部の青葉台団地だ。二百七十八世帯の大型団地ながら、この二十年余、犯罪らしい犯罪は起きていない。 自治会長の毛利巌さん(71)は「自警団の活躍が大きい」と話す。同団地は約三十年前に造成。当初、泥棒が相次いだため、住民有志が集まり七九年に自警団を結成。以来、毎週夜一回ずつ欠かさず団地内をパトロール。道路で検問も実施し、付近に不審な車がいた場合はナンバーを警察に通報、検挙につながった例もある。 県警のベテラン捜査員は「泥棒は必ず下見をする。少しでも警戒の気配を察知したところは来ない」。予防策としては理にかなったものという。 ▽理論どう現実に 県が新年度着手する「安全・安心なまちづくり」で、推進の柱に位置付けるのもこの点だ。 県内有識者による懇話会が一月、西川知事へ同まちづくりの提言書を提出。これに基づいてまとめられた条例案では、青葉台のように住民の連携で隅々まで警戒の目を光らせる新組織「安全・安心センター」を各市町村に立ち上げることが柱として掲げられている。 同センターの中核組織として視野に入れるのが防犯隊。県内の隊員数は三千九百人に上り、その下にきめ細かな自警組織を立ち上げていけば、強力な防犯ネットワークができる。防犯隊が全市町村に組織されているのは全国でも本県のみで、生かし方次第では治安日本一も可能と青写真を描く。 さらに防犯カメラや防犯灯など安全システムを備えた建物、駐車場の整備指針を策定。建築許可申請に合わせて警察署長が助言するシステムを構築することで、ソフト、ハード両面から犯罪に強い街づくりが実現できるとの構想だ。 ただ防犯隊の編成は、二十市町村で消防団と掛け持ちとなっているなど市町村ごとにまちまち。「活発な消防団に比べ、防犯隊は行方不明者捜索以外は錬成大会、防犯診断など特別な年間行事をこなす程度」と嶺北の自治体の副隊長は打ち明ける。ある市の担当者は「昔は農業、商業者が隊員のほとんどだったが今は会社員も多い」。行動力が衰えつつある現状も指摘する。 さらに不景気の中で県民がどこまで高額の防犯機材を進んで導入するか。構想を実行力あるものにするには「よほど強いてこ入れと、隊員、県民への意識喚起が必要」と口をそろえ、具体化の方向性を注視する。 |
2004年2月5日掲載 |
特養に個室 続々登場 |
介護も充実、高い人気 ネックは費用増、他県で辞退も |
四人部屋が当たり前だった県内の特別養護老人ホームで個室を備えた施設が今月から続々登場する。入所者は十人前後のグループで行動。職員もグループの専従となるため、お年寄りはきめ細かい介護を受けることができるという。こうした施設は「新型特養」と呼ばれ、現在は三国町の一施設が十部屋を設けているだけだが、福井、鯖江市などで七施設が新たに着工しており、秋までに計二百七十五部屋になる。 ▼自由に部屋づくり 「隣の人に気を使わなくていいから、ゆったり過ごせる。テレビの音量も気にする必要がない」。昨年五月、増築して県内初の新型特養を導入した三国町の「白楽荘」。おばあちゃん(83)が満足げに話した。 八畳の部屋には、個室への入居を機に買い求めたお気に入りの家具や液晶テレビなどが並ぶ。部屋を自由にレイアウトできる。カーテンで仕切られていただけの以前の四人部屋とは、がらりと環境が変わった。 介護の体制も充実している。通常、部屋の担当者は決まっているものの、職員が多人数の入所者をケアするところが多い。しかし、ここでは、おばあちゃんら十人のグループに対して専任の職員が「ユニットケア」と呼ばれる介護をする。性格や健康状態、排せつのリズムなどを細かく把握してもらえ、調子を崩したときは素早い対応につながる。 県高齢福祉課によると、新型特養は春江町や大野市などでも整備が進む。三、四月には鯖江市と福井市で四人部屋を持たない全室個室の施設も完成する。 ▼厚労省の基準が背景 新型特養の建設が一気に進んだのは、厚生労働省が二○○二年八月、新しい施設は「全室個室とユニットケア」を原則にするとの基準を示したためだ。それ以前にも都市部では個室やユニットケアの考えが広まり、要望が高まっていた。 実際、県内でも人気は高い。全室個室型施設の一つ、福井市の「朝倉苑」は鹿俣町から移転するため、国道8号沿いの同市下六条町に建築が始まると、交通の利便性と同時に、個室完備を口コミで知った希望者からの問い合わせや申し込みが増えた。 運営する一乗谷友愛会の山本武生理事長は「介護制度の導入でケアの質が高まり、家庭の雰囲気に近い環境が求められている。今後、個室に慣れた世代がお年寄りになると、ますます希望者は増えるだろう」と話す。 ▼月9万の追加費用 しかし、新型特養は通常の入所費のほかに「ホテルコスト」と呼ばれる追加費用が求められる。県高齢福祉課によると、県内では三―四万円台。要介護度3のお年寄りが個室に入る場合、これまでの入居費と合わせ月八―九万円かかる計算だ。 新潟県では個室入居を断るケースがあった。お年寄り本人や家族らの所得が低い場合は負担軽減措置があるものの、四人部屋より高額になることは避けられず、家族らが重荷に感じるからだ。 担当者は「辞退したのは身元保証人が遠戚(えんせき)の人。軽減されれば年金でなんとか賄える額だったが、入院など突然の出費に備え、これまでと同じ費用で済む別の施設の四人部屋に移った」と話す。 白楽荘は現在の十部屋から今後も個室を増やす方針だが、当面はホテルコストを考え従来の四人部屋も残していく。山本俊憲施設長は「多様化するニーズに合わせ、夫婦専用の二人部屋なども準備したい」と、ますます個室の需要は増えるとみる。一乗谷友愛会の山本理事長も「今は移行期。個室は増えていくだろうが、利用者が自由に選択できるように、四人部屋や二人部屋とのすみ分けも進むだろう」と話している。 |
2004年1月30日掲載 |
県立音楽堂・パイプオルガン調整 |
音の美、0.1ミリ単位 ドイツ人2技師 大小5014本妥協許さず |
コンサートホールの”顔”といわれるパイプオルガン。福井市の県立音楽堂(ハーモニーホールふくい)で、ドイツからやって来た技師2人によってパイプの音色を調整する作業が進んでいる。パイプは電柱のような巨大なものからマッチ棒サイズのものまで5014本。「整音作業」は0.1ミリ単位でパイプの長さなどを微調整するデリケートな仕事だ。巨大なパイプオルガンの内部に入り、音づくりの”魔術師”たちの技を見た。(社会部・五十嵐靖尚) するとアルトハウスさんはおもむろに席を立ち後方に移動、席を替わりながら音を聞き出した。「微調整が必要だな」。こうつぶやき、パイプオルガンに向かった。 三月末の完成を目指し、進ちょく状況は四○%。「この空間で、最上の音色を作り出したい。ぼくたちにはできる」。世界各国で大小合わせて百体以上作り上げた経験。それを裏打ちするような自信あふれる顔がのぞく。 ◆ペアで作業◆ 本体は高さ十メートル、横幅十一メートル。重量は三十八トン、鉄骨三階建ての構造だ。設計から数えると三年がかり。ドイツで製作され、いったん分解し昨年十月に同ホールに搬入。十二月末にオルガンケースといわれる外枠が完成した。 アルトハウスさんは、ドイツの名門、カールシュッケ・オルガン製作会社の整音主任技師で、キャリア三十年のベテラン。同じ整音技師のロベルト・マテュージアックさん(36)とペアを組み、朝八時半から午後十時までみっちり仕事をこなしている。 同社はこれまでにベルリンフィルハーモニー交響楽団のコンサートホールや東京のNHKホールなどにも設置した実績がある。 ◆パイプ林立◆ 観客席から戻ってきたアルトハウスさんは、パイプオルガンの内部に入った。銀色に輝くメタルと木管の二タイプのパイプが林立する”異次元空間”。まず、音の振動をみる器具を使ってパイプの調整を始める。 マテュージアックさんがけん盤を弾いて音を出し、アルトハウスさんが聞き耳を立てる。各音階の大音量がオルガン内部に響きわたる中、設置されていたメタルのパイプを抜き出し、はさみで○・一ミリ切った。「よし」。次を調整し始めた。 ストップ(音色)数は七十あり、それらの音を積み重ねることができるのがこのパイプオルガンだ。一つのキャンバスに色を塗り重ねて絵画を仕上げるように、整音作業はハーモニーの美しさを創造しながら続けられる。 ひたすら音を聞き分けオルガンに命を吹き込むアルトハウスさん。「一つの音色だけでなく、音を重ねてもいい音にならないといけない」と、決して妥協は許さない。 まだオルガンにセットしていないパイプが保管してあるリハーサル室に向かった。ここではナイフを操りパイプを微妙にカット、次々と音づくりが繰り広げられる。 「今日は調子がよくて百五十本のパイプが仕上がった。でも一本、五時間かかったときもあった。この仕事は本当に好き。でも疲れて夜はぐったりだよ」。作業の手を止め笑顔を見せた。 |
2004年1月27日掲載 |
「えち鉄」倒木でストップ |
冬の足が…期待一転 間伐されぬ杉林、対策甘く 地域との連携切実 |
二十四日から二十五日にかけて、えちぜん鉄道勝山永平寺線の線路上に杉の木が倒れ、六十本の電車が運休する事態に追い込まれた。冬に強いはずの電車。同じ山間部を多く抱えるJR線で全く起きていない倒木被害がなぜ、えちぜん鉄道で相次いだのか。開業後初の冬を迎え、車の代替機能が期待されていただけに、関係者はショックを隠せない。 ◆警戒の矢先 枝にこんもりと雪を抱いた杉林に沿って慎重に電車が走っていく。勝山駅で積雪八○センチ。「前方の障害物には特に注意を」。二十四日朝、始発から各電車に指示が飛んだ。その直後だ。勝山市遅羽町比島を走行中の電車に杉の木が倒れかかってきた。 架線が切断され、その後も沿線で倒木が相次ぎ全面運休した。「電車を直撃することはめったにない。想定外だった」。同鉄道の島洋鉄道部長は振り返る。倒木被害は翌日も松岡町志比堺駅付近で発生。約五時間にわたって電車がストップした。倒木は二日間で計九カ所、十七本に及び約千七百人に影響が出た。 雪深い奥越の安全・確実な交通機関として期待を集め発足したえちぜん鉄道。大雪二日目の二十三日朝は平常の170%の乗車率となり、関係者も喜んだばかり。「雪に強いことを証明できたと思った直後だけに、残念」と勝山市地域交通課の山田誠一課長は声を落とした。 ◆背景に林業構造も 福井地方気象台によると、本格的に降り始めた二十二日は日中の気温が氷点下を記録し酷寒の一日だったが、翌二十三日の福井市の最高気温は二・四度、以後比較的湿った雪が降り続いた。 勝山市森林組合の近藤美章組合長(69)は「木が倒れた二日間は風も強くなく水分を含んだ重い雪がたまったのだろう」。線路沿いのほか一般道を含めると市全体では百本以上倒れたとみる。 さらに吉田郡森林組合の天谷元信組合長(73)が指摘するのは林業従事者の高齢化と減少。手入れが行き届かず木の幹が細く倒れやすくなっている。杉などの苗木は真っすぐ伸ばすために狭い間隔で植林する。その後、成長に応じて間引いて幹を太くする。しかし、近年はプラスチックや鉄など代替材の普及で、間伐材の需要は減少している。 天谷組合長は「今は細い木は売れず、所有者はわざわざ金を掛けてまで切らない。木は細いまま伸びていくばかり」と話す。 ◆対応難しい商業林 線路への倒木は京福時代にもたびたびあった。「しかし、その都度、対症療法的に乗り越えてきただけで抜本的対策が取られていなかったようだ」と背景に詳しい行政関係者は指摘する。 開業前に行われた安全改修では、線路に垂れ下がる危険のある竹は数十本切り取った。斜面の雑木も大量に伐採し、落下する危険のある石、倒木も取り除いた。今となれば唯一、対応できなかったのが杉林だった。 杉は商業林だけに電車運行に支障がない限り「切らせてくれ」とは言いづらいという。勝山永平寺線では約三キロが杉林に隣接。多くが線路に迫った状態だ。 一方、同様に大雪による運休が相次いだJR北陸線だが、本県区間で倒木による影響はなかった。森林に面した区間はえちぜん鉄道よりはるかに長い。 JR西日本金沢支社によると、毎年冬までに危険木伐採のほか、転倒防止のロープを張るなど対策を取っている。また旧国鉄時代に鉄道林として県内の北陸線沿線一・七キロの山林を購入。今も定期的に手入れしている。 ただ国土交通省鉄道局安全対策室では、こうした手厚い対策は現実的に中小の三セク鉄道には財政的に難しく「沿線地権者と協調してやっていくしかない」との見方を示す。 「倒れにくくするために山を管理するなど地域の人たちの協力も必要」と近藤組合長。県えちぜん鉄道支援課の伊藤敏幸課長も「地権者と連携すれば今回のような被害はもっと防げる」と話し今後、会社側にパトロールの強化を含めた改善策を求めていく考えを示す。 |
2004年1月23日掲載 | |
丸岡・山中温泉トンネル4月開通 | |
永平寺など沿線 広域観光で誘客期待 芦原温泉 山中の攻勢に危機感 悲喜こもごも |
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丸岡町と石川県山中町を結ぶ国道364号の「丸岡・山中温泉トンネル」が四月上旬に開通する。全国的に知名度の高い大本山永平寺を結ぶ新しい観光道路として、山中温泉は永平寺の参拝客を引き込む直通バス運行などの誘致作戦を計画。本県側は永平寺、丸岡両町が観光客増加に期待する半面、芦原温泉は危機感を隠せない。広域観光の底上げか、観光客の奪い合いか―新ルートの開通効果に早くも注目が集まっている。 ■県境がなくなる? 「開通は長年の悲願。永平寺、東尋坊、朝倉氏遺跡…福井県のメジャーな観光地が間近になることに町挙げて期待しています」 石川県最南端にある山中温泉観光協会の笹嶋國雄事務局長は力を込めて切り出した。現在の国道364号は急こう配で急カーブが連続し、大型車のすれ違いは困難。永平寺から山中温泉へは国道8号経由で一時間余りかかるが、対面二車線の直線道路ができることで「トンネル開通後は三十分未満になる」(同事務局長)。 「悲願」というだけに同温泉の出足は早かった。数年前から専門委員会で誘致策を検討。今月に入り「永平寺まで時間短縮」との大見出しを付けた宣伝チラシ三万枚を作製した。関東、関西、中京圏をはじめ本県にも配布する。さらに目玉は、同温泉旅館の利用客を対象にした直行バス。開通翌日から一日六往復する「永平寺おでかけ号」を運行する。 同協会によると、二○○二年の温泉客は約五十万人。うち五%弱が本県観光地からの流入だ。笹嶋事務局長は「芦原温泉に迷惑をかけるのではなく、両県の広域観光の底上げをしたい」としながらも、福井からの流入倍増を目標に掲げた。 ■沿線の本音は歓迎 本県側の沿線観光地も入り込み客増に期待する。永平寺町観光業協同組合では、これまで嶺北一帯の名所を紹介した観光マップを配布していたが今月、石川県の温泉地まで範囲を拡大した新しい地図に作り直した。山中温泉からのバス発着場を確保するなど受け入れ準備も整えており、同組合の高田勉専務理事は「県内観光地との連携は最優先だが正直、(誘客の)期待の方が大きい」と話す。 「たけくらべ」や「越前竹人形の里」「千古の家」などを沿線に抱える丸岡町も「丸岡にとって良い方向に行く」(商工観光課)と歓迎ムードだ。市街地にある丸岡城は、新しい観光ルートからは離れているため、客足が鈍る可能性もあるが、五月の大型連休の通行状況を分析し国道沿いに「丸岡城」をPRする案内看板設置を検討している。
■プラス要因に 一方、永平寺から約一時間の場所にある芦原温泉は危機感を隠せない。「一歩出遅れたのは否定できない。永平寺と山中が時間的に近くなることを危ぐしている」と打ち明けるのは芦原温泉観光協会の美濃屋征一郎会長。会長自身、トンネルの工事現場に数回足を運んでおり、その心配の度合いは明らかだ。 対策として関東市場の開拓、県内観光地との連携強化に向け同協会では連日の会議が続く。芦原町内の周遊バス運行やイベント広場新設のほか、名古屋行き高速バスの一部を観光目的化してもらえるよう県に要望することも検討中。八月の開湯百二十周年記念イベントに向け、三月末までには新事業の具体策を打ち出すという。 トンネル開通に加え、あわら市誕生、開湯記念と重なる今年はまさに正念場。美濃屋会長は「トンネル開通を何とかプラス要因につなげたい。芦原温泉のレベルアップが問われる」と気を引き締めている。 |
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2004年1月20日掲載 |
武生・白山地区 希少動物の宝庫保全へ |
国家事業の適用視野 動き出した里地・里山再生プロジェクト 体験空間発展に期待も |
国の重要湿地五○○選に選ばれ数々の希少動物の宝庫といわれる武生市白山地区で、里地・里山再生プロジェクトが動き出している。住民や県が保全を山間地域活性化に結びつける新しいタイプの自然活用システムを立ち上げようと、調査・研究を進める。国内でも新たな試みとして注目を集め、国家戦略として環境省が新年度着手する重要里地再生事業への適用も視野に入れる。 丘陵が連なる白山地区。谷間に面した集落内を田んぼに沿って、いく筋もの小川が流れる。 「どれもU字溝が入っていない土掘りの用水ばかり。今もこんなに残っているところがあるとは驚きだ。数々の貴重な小動物が生き残った理由が分かります」。環境省の外郭団体「里地ネットワーク」(東京)の竹田純一事務局長は、泥の中で紫色に輝く小動物を目に、感慨深げに話した。 世界的な希少種といわれるアベサンショウウオだ。県自然保護課によると、白山地区ではこのほかにもクマタカ、メダカ、ゲンゴロウなど三十二の絶滅危急種が確認されている。人間の生活空間としては、全国でも有数の豊かな生態系が残る地域として知られる。 「ただ、こうした環境も今や、かろうじて残っている段階」と両生類に詳しい長谷川巌・武生東小校長。多くは小川や田んぼに生息しているが、農業離れが進む中で干上がった休耕田は近年、増加の一途をたどる。 県は昨年十月、こうした地域の田んぼや森林の有効活用を図る中で希少種の恒久的保全につなげようと、新事業を立ち上げた。国内で実績のある同ネットワークに調査事業を委託。地元住民代表ら十二人が委員となり、長谷川校長を座長に二年後のビジョン策定を目指し調査研究を進めている。 ▽背景にトキ保全策 取り組みが始まった十一月四日、県や武生市の職員四人が兵庫県豊岡市を訪れた。目的地は天然記念物コウノトリの人工飼育で知られる県立コウノトリの郷公園。 周辺では現在、コウノトリを自然へ戻すための環境を整備。えさとなるメダカなどが田んぼの間を往来できる人工水路の整備や無農薬栽培が進む。 県自然保護課の岡本光之課長は「白山にとっても参考の一つとなっていくだろう」と話す。竹田事務局長は、新潟県・佐渡島で放鳥が計画されているトキの生息環境づくり運動の仕掛け人としても知られる。循環型農耕空間創造やトキの保全活動体験旅行など、さまざまな活動を企画展開しており、ここで培った発想と手腕に期待する。 白山地区でのこれまでの調査でも、まきでご飯や風呂を炊く民家が今もあるなど古い文化風習が数多く残っていることが分かり、里地ネットワークは「保全活動と有機的に結びつけながら佐渡のような体験空間に発展させていけたら」と構想を語る。 実際に地区中心部に近い上黒川町では、住民たちとの協議の結果、福井大の学生が小動物を研究する実習用ビオトープを設ける構想も浮上。調整が始まっている。 同町の前区長、稲葉洋さん(57)は「都会にいる若者が帰ってくる魅力ある集落に生まれ変わらせていければ」と期待を膨らませる。 ▽全国発信の好機 里地・里山保全は国レベルでも動き出している。環境省は一昨年閣議決定された「新・生物多様性国家戦略」に基づき新年度、全国の重要里地・里山四カ所を保全のモデル地区に選定する。NPOや専門家と連携しながら水路の再生や学習センター、ビオトープ整備などを伴う保全策の計画を進めている。 先行して立ち上がった本県の保全事業も、国家戦略適用を視野に入れたものだ。「やり方次第では国内の新たなモデルとなる可能性がある。白山を全国へ発信できる好機」と岡本課長。四月以降始まる候補地選定に向け働きかけを強めている。 里地・里山保全 絶滅危急種の5割が田んぼや水路など人間の生活と身近に結びついた空間に生息するといわれ、こうした地域の多様な種の保全は温室効果ガス削減と並ぶ地球環境保全の大きな課題となっている。政府は92年の地球サミットを受けた国際条約に基づき「新・生物多様性国家戦略」を策定。本県でも白山地区以外に、勝山市で市民ぐるみで森づくりを推進する団体が発足するなど、保全の動きは広がり始めている。県は今後、白山を皮切りに県内各地に保全事業を広げていく方針。 |
2004年1月15日掲載 |
福井地方気象台 予報業務24時 |
解析力と”勘”が武器 データと格闘、自然読む |
「天気予報、送信します」。県や報道機関向けにデータを送るパソコンのキーボードをたたいた瞬間、予報担当者の表情が引き締まった。福井地方気象台では、寒気団が続々と南下する冬場は大気の状態が不安定になるため、気の抜けない日々が続く。予報決定には膨大なデータの解析力、そして長年の”勘”が物をいう。24時間、目を光らせる予報担当者に密着した。(社会部・五十嵐靖尚) 同気象台は暴風や雷、大雨といった防災情報を発信する基地でもある。3階の技術課は、宇宙からの観測データなど気象庁からさまざまな情報が集結する中枢部だ。 毎朝8時半から夜勤の予報担当者との「引き継ぎ」が行われる。予報業務のバトンを受け取ったのは丹下昭彦さん(41)、吉村香さん(38)の2人。ホワイトボードにびっしり張られた天気図や資料約40枚に目をやり、これまでの概況を把握する。 引き継ぎ途中、吉村さんが屋上へ走った。朝9時の実況把握のため、視界距離と下層・中層・上層の雲の状態を各9種類にわけてチェック。「法恩寺山の山頂が見えるけど、山すそはもやがかかっている」。「視程は15キロ」などとパソコンに入力し気象庁に送った。 ● ● ● 自然の風を感じるために自転車で通勤する丹下さんは、約20年のキャリアを持つベテラン。埼玉県気象衛星通信所を皮切りに輪島、佐渡島、金沢地方気象台を経て福井へ。今春で丸3年がたつ。 「最終的な予報決定には、人の経験が決め手になる」。そのためには風向きや雲など福井独自の自然現象を早くつかむことが必要だという。地域によって現象はさまざま。だからこそ予報の奥深さがある。 一方の吉村さんは名古屋、津地方気象台を経て福井に来た。駆け出しのころ、自分が出した予想が不安になり帰宅後、NTT天気予報案内「177」に何回も電話した。自分の予報に修正が入っていないか確かめるためだった。 吉村さんは「広大な大気の中で、たった1つの違う空気があるだけで大気の流れが変わり天気は変わる。こんな自然を相手に予報が的中するのってすごい」と感じる。 ● ● ● 福井地方気象台には予報業務に当たる職員は15人いるが、常にペアを組んで予報を出す。 丹下さんと吉村さんは午前11時発表に向け作業に当たる。丹下さんが見つめたのは気象庁から送られてきた西日本の天気概況図。そこに鉛筆で等圧線を引き、今後の状況を見極める。さらに風向、風速、気温、日照など県内13カ所のアメダス観測所からのデータ、衛星画像、レーダーなどを解析していく。 すると、新潟地方気象台からコンピューターではじき出した天気予報「今日は、晴れ時々曇り」が送られてきた。「どうしようか」。しばらく悩んでいた2人は、実況と経験を重視し「晴れ」と修正した。 発表時間が迫る中、天気概況や週間天気などの分析を進める。時間ぎりぎりまで悩む。「よっしゃ」。データ入力を済ませ、丹下さんの声が響いた。1時間おきに部屋の窓を開け概況をチェックした吉村さんも安どの表情を見せた。 天気予報は2人の連携プレー。「明日から天気が崩れる。注意報に警戒しなければ」。昼食もそこそこに、寒気団が南下してきた天気図をにらみ、早速次の予報作成に取り掛かった。 |
2004年1月14日掲載 |
直通バス観光に活路 越前海岸「かに特急」 |
京阪神間運行で誘客 関東市場に照準 芦原温泉も検討 |
越前海岸と京阪神を直接結ぶ「越前かに特急バス」の運行が今冬から始まっている。シーズンに合わせ割安料金で往復。直接顧客を運ぶことで交通アクセスの不便さが解消され、降雪時のキャンセル防止につながる。空港や新幹線がない本県。芦原温泉でも能登空港が開港した石川県との格差拡大に危機感を強め、バス活用の検討を進めている。 ▼雪道でも大丈夫 水仙まつり初日の十日夕、越前町の民宿「あらき」前に大型バスが止まった。女将が出迎えると、カニ料理を目当てに家族で訪れた大阪府堺市の自営業、松本幸雄さん(57)ら六人が降り立った。 「福井は雪が降っていると思ってバスで来た。雪道に慣れてないから、車で来ようとは思わない。バスだと酒も飲める」と松本さん。午前十時半に大阪・難波を出発、五時間ほどで到着した。 「かに特急バス」は越前町と越廼村、河野村の観光協会でつくる越前海岸観光協会連合会が大阪の旅行会社と提携し、初めて企画した。十一月二十二日から毎日運行。天気が崩れ始めた十二月中旬から利用客が増え始めた。 大阪市内から越前海岸まで、車で来るとガソリン代に高速代などを含めて往復一万七千円ほど。一方「かに特急バス」は一人五千円から。三人でも割安で、運転もしなくて済む。 ▼先行くライバル 同連合会がバスでの誘客を企画したのは、一九九五(平成七)年一月の阪神大震災以降、関西方面からの観光客が落ち込んだためだ。三町村で九二年は二百二十六万人の入り込みがあったが、震災の年は百七十三万人に落ち込んだ。以後も減少傾向は続き二○○一年はついに百万人を割り込んだ。 越前町観光協会の浜本正博事務局長は「震災のほかに重油流出事故もあった。不況も重なった」と説明。しかし越前海岸が落ち込む中、同じようにカニをセールスポイントにする京都府網野町は冬季シーズン、過去十年間ずっと二十七万人前後で推移してきた。同町では七年ほど前から気の合う旅館がグループをつくって旅行会社と提携。大阪や京都、神戸などに直接バスを走らせ顧客確保へしのぎを削っていたからだ。 浜本事務局長は「競合地に先を行かれていた。越前海岸はJRで武生や福井に来てもそこから一時間。交通の便が悪い。車で来てくれるのを待っているだけでなく、呼び込まないといけない」ときっかけを語る。民宿の主人、荒木敏生さん(45)も「北陸に雪が降ったニュースが流れると、越前海岸に雪がなくてもキャンセルが相次いだ。でもバスなら安心してもらえる」と話す。 ▼和倉は空港で回復 芦原温泉観光協会は昨年八月、名古屋から勝山市の県立恐竜博物館などを通って芦原温泉に入る直通バスの路線設置を県に陳情した。新幹線で名古屋まで来る関東方面からの顧客に乗り継いでもらうためだ。美濃屋征一郎会長は「今、関西方面からは目いっぱい来てもらっている。これ以上伸びない。関東市場を狙いたい」と意気込む。 これには石川県に昨年七月、能登空港ができ関東市場へのアクセス面で格差が広がっているという思いがある。事実、和倉温泉観光協会によると、昨年一―六月は前年同月比二割減だったが、空港が開通した七月以降は回復の兆しをみせ、十一月はついに前年同月を上回った。 同協会は「一昨年は大河ドラマで好調だった。昨年前半はドラマが終わって厳しかったが空港で持ち直した」と話す。関東からの顧客は二割に達する。 芦原温泉は関東の顧客は7%弱。三―五年で15%まで伸ばすことを目標にする。美濃屋会長は「福井は空港がない。新幹線もまだ時間がかかる。バスを走らせてカバーしなければならない」と積極策を打ち出している。 |
2004年1月8日掲載 |
気比の松原 根あらわ、 福井港 道路陥没 |
海岸浸食じわり 離岸堤整備 砂確保へ 専門家 「土砂供給できるダムを」 |
県内の海岸で冬の荒波によって砂浜が削られる被害が目立っている。敦賀市の気比の松原では、砂が減って三十本近くの松の根がむき出しに。福井港(福井市、三国町)では、海岸沿いの護岸道路で陥没が二十カ所を超えている。砂浜浸食は全国規模で進み、本県の浸食面積は全国十番目とのデータもあり、専門家は「川上にダムが建設されて、山から海に流れ出る土砂が減っているため」と指摘する。県や国は波の力を弱めようと、沖合に離岸堤を設置するなど、砂の流出歯止めを図っている。 ▼最大で3メートル後退 「ここは昔、倍近い砂浜があった。でも今は冬、海がしけると松原の中にまで海水が入ってくる」。松原海岸を散歩していた近くのお年寄り(76)があらわになった松の根を見て表情を曇らせた。 気比の松原は日本三大松原の一つ。一万七千本の赤松、黒松などが生い茂る観光名所だ。夏場は海水浴場としてにぎわう。しかし近年、浜が浸食され、これに伴い根が露出する被害が目立ち始めた。管理する福井森林管理署の広友清次・次長は「根が海水にさらされて樹勢が弱まる。風で倒れてしまう松もある」と話す。 砂浜の後退も顕著だ。県港湾空港課によると、一九九○年から二○○三年まで十四カ所で定点観測したところ、最大三メートル下がっていた。 ▼▼砂かぶせ応急処置 嶺北では福井港北西の護岸道路で陥没が相次いでいる。海底の砂が削り取られたためで、国土交通省敦賀港湾事務所によると、七八年と○一年を比べると海底が二メートル深くなっていた。 土田吉昭副所長は「海底が深くなるほど波は高くなる。消波ブロックも沈下した」と説明。波返しを越えた海水は路面コンクリートのすき間から浸透、地盤の砂を浸食し陥没につながっている。 ○四年度予算の財務省原案では、離岸堤整備などが国の新規直轄事業として認められ、百七十九億円が盛られた。波を和らげ、砂回復を図る対策が取られる。 気比の松原でも対策が進み出した。県は新年度から、学識経験者らをメンバーに砂浜保全の検討委員会を設ける。景観に配慮して堤が見えないように海の中に沈む「潜堤」を設けることや、大量の砂を搬入することなどが考えられている。 直接、松を保護する応急処置は一足先に始まっている。福井森林管理署は○一年度から特に根が大きく露出している十五本に砂をかぶせている。浸食は今も進み、根が出ている松は二十八本に達し応急処置は今春も行う予定だ。 ▼▼▼15年で100ヘクタール 「昔は川から流れ出た土砂が浸食部分を補っていたが、今は流出土砂が少なくなっている」と話すのは金沢大学工学部の石田啓教授。小浜市出身で、本県ではこれまで高浜町の和田海岸の保全などに携わった。 和田海岸は和田漁港の防波堤を整備したことによって、波が変わり砂浜が逆に拡大した。しかし、「日本の海岸は基本的に浸食され、全体量では減少している」と石田教授は指摘する。 国交省も全国での浸食量を年間、百六十ヘクタールと予想している。本県の場合は、同省が七八年と九二年の地形図を比べて浸食面積を割り出したところ、十五年間で百ヘクタール少なくなっていた。全国では鳥取県の百六ヘクタールに次ぎ、北陸三県では石川県の三十八ヘクタール、富山県の二十六ヘクタールと比べて大きかった。 本県の浸食面積が突出している理由はまだ分かっていない。石田教授は全国的な話として「今は河川法によって川砂の採取は原則禁止されている。しかし、かつてはビル建設などで大量の川砂が採取されていた」と経済成長の中で砂浜が犠牲になってきた経緯を説明。今後は土砂の供給量を増やすために「たまった土砂を流し出す装置を持ったダムを造って海岸を守る必要がある」と提案している。 |
2003年12月30日掲載 |
山林や河川にポイ、後絶たず… 家庭ごみ 不法投棄 犯罪です |
モラル頼みもう限界 県警「悪質なら逮捕」 |
産業廃棄物の不法投棄が社会問題となって久しいが、県内では家庭から出た一般ごみを不法に捨てる行為が後を絶たない。家庭ごみといっても、処分を受ければ少なくとも数十万円の罰金が科せられる立派な犯罪。「自分一人が捨てても」という罪意識の低さが背景にある。摘発された人は過去五年で五十人に迫り、行政が監視を強化しているものの、もはやモラル頼みでは対応できない状態だ。県警では「悪質なケースは逮捕も辞さない」として、厳しく対処する方針を示している。 ■キリがない 「これでも少ないぐらいですよ」。福井市東部にある東山公園。市の委託で管理人を務める近くの男性(62)は、あきらめ顔で道路脇を指さした。車道から斜面を見下ろすと、青いビニールホースや洗面器などが散乱。中には、丁寧に半透明の市指定袋に入っている家庭ごみもある。 この男性は朝昼晩、見回りをしているが「拾っても拾ってもキリがない」と嘆く。管理小屋の裏には冷蔵庫や洗濯機、古タイヤ、農機具、自転車、洗濯機など粗大ごみの山。すべて今年一年間に捨てられ、男性が回収した廃棄物だ。「みんなの山を何だと思っているんでしょうか」。路肩にペットの死体を埋めに来て、線香に火を付けたまま去っていく家族も何度も見かけた。 後を絶たない不法投棄に男性は今秋、意を決して捨てられたごみ袋の一つを開けてみた。ガス料金の請求書と名前の書かれた薬袋が見つかり、写真に撮って市や警察に通報した。「ごみの中身を調べるなんて本当は嫌。でも、拾い集めるのは地元のわれわれ。厳しい処分を下してもらうしかない」と憤りを募らせる。 ■税金を投入 県廃棄物対策課に設置されている「不法投棄一一○番」への相談は年々増えている。二○○一年度は五十件、昨年度は過去最高の百十件が寄せられ、本年度も「昨年度並みのペースで増えている」(同課)という。 廃棄物処理法によると、一般ごみは市町村、産業廃棄物は県が管理することが定められている。福井市清掃清美課は一般ごみの不法投棄が急増していることを受け、今年四月からシルバー人材センターにパトロールを委託するようになった。ごみステーションを中心に市内全域に監視の目を光らせているが、その経費は年間四百三十万円に上る。 河川や公園の管理を担当するほかの課でも、不法投棄のごみ処理費は公費から支出しているという。清掃清美課の林彦実課長は「不法投棄はモラルの問題以外、何ものでもない。結局は公費を掛けて管理、処分することになってしまう」と頭を抱える。 ■5年で摘発50人に 廃棄物処理法違反の罰則は「五年以下の懲役もしくは一千万円以下の罰金」。県警生活保安課によると昨年一年間で、一般ごみの不法投棄容疑で摘発されたのは九件十二人。今年十一月末時点でも既に九件十人が摘発されており、ここ五年間では五十人に迫る勢いだ。 急増の要因について同課では、電化製品の処理費を消費者側にも求めている「家電リサイクル法」施行の影響もあるとみている。「産業廃棄物が注目されがちだが、一般ごみの不法投棄も立派な犯罪。なのに罪の意識が低すぎる。摘発されて初めて、割に合わないことに気付く人が多い」(乗竹俊雄次席)と指摘する。 昨年六月、奥越の林道に冷蔵庫やソファ、鍋やじゅうたんなど、約四百キロの家財道具や家庭ごみが捨てられた事件があった。自治体の通報で警察が捜査に乗り出し、あて名入りの封筒から五十歳代の男性容疑者を割り出した。調べに対し「捨てても大丈夫だろうと思った」と”犯行”を認めた男性はごみを運び直された上、略式起訴されて五十万円の罰金を支払うことになった。 乗竹次席は「これらの摘発例は氷山の一角」とした上で「悪質なケースはどんどん検挙していく。証拠隠滅の恐れがある場合には逮捕する」と厳しい姿勢を示している。 |
2003年12月17日掲載 |
県内スキー場試練の時 強み生かし顧客開拓 |
減少続く冬のスポーツ人口 |
高速道整備、にぎわう奥美濃 スキー、スノーボード人口がピーク時の半分近くまで落ち込んでいるといわれる中、岐阜県奥美濃エリアのスキー場だけがにぎわいを見せている。東海北陸道の開通が追い風となり、関西からの客の流れが北信越から奥美濃へ一気に向かい始めたためだ。ライバルとなる本県のスキー場への影響も少なくなく、奥越を含む中部や東日本各地のスキー場は今冬も試練のシーズンを迎える。 週末の岐阜県高鷲村。若者や家族連れを乗せた車が次々と山腹のスキー場目指し走っていく。「昨シーズンの入り込みは過去最高の四十三万人。もちろん今季もそれ以上を」。高鷲スノーパークの清水道浩広報担当は自信たっぷりに話した。 同村産業振興課によると、九八年度に九十七万人だった村内六スキー場の集客は高鷲インターが完成した翌年、百三十万人と三割アップ。その後も百二十―百三十万人で推移する。 大阪から車での所要時間は三、四時間とこれまでの半分近くに短縮。「インター付近には大型スキー場が複数固まり、選択肢の多いゾーン効果も発揮し魅力は高まっている」(大阪・23歳男性)と来場者は口をそろえる。二割ほどだった関西からの客は今や四割を超えている。 「来年度以降も愛知万博に向けて四車線化工事が進んでいく」と清水担当。追い風は強まるばかりだ。 ◆白山連峰裏側は 「国内で奥美濃の躍進はまれな輝き。今後、日本最大級のゲレンデを擁する志賀高原と肩を並べるまでに成長するかも」。奥美濃から山一つ隔てた和泉村の福井和泉スキー場の職員もこの展開を注視する。 雪不足の影響もあり、九○年代と比べ入り込みが半減のスキー場も出ている県内。福井和泉はゲレンデをスノボー向けに改造するなど若者を引き付ける地道な努力で、この数年何とかイーブンペースを続ける。 同村にも中部縦貫道油坂インターが開通しているが、九頭竜湖沿いの長いアクセスが敬遠され、期待された中京からの入り込みは5%以内と伸びていない。中部縦貫道延伸の見通しは立たず、ゲレンデの増設計画は足踏み状態が続く。「もし高速が近くにあればハイウエーカードとのパック券を出すなど新たな手が打てるのだが…」と平瀬隆行支配人。 「東海北陸道の開通後、年間三万人前後は奥美濃へ流れている」と分析するのはスキージャム勝山の桝家慎一営業課長。この二年、集客目標の三十万人を一、二万人程度割り込み「高速交通の影響の大きさを目の当たりにした」と話す。今庄365スキー場も「多少なりとも影響は出ている」(町施設管理室)とみている。中部縦貫道の県内区間は、全線開通の見通しが一向に立っていない。地域間競争は、このまま奥美濃へと軍配が上がるのだろうか。 ◆南になお勝機 県内スキー場も負けてはいない。「奥美濃は日帰りでガンガン滑るエリア。これに対しジャムには奥美濃にない本格的なリゾートホテルがある。これを前面に、ゆったり滞在型の質の高さで差別化を図れば、勝負できるはず」と桝家課長。 昨冬から女性や家族向けの施設改装やサービスに力を入れ、こうした客層は増加傾向にある。福井和泉も村内の温泉パック券発行などさまざまな試みを進める。 今後、スキージャム勝山が新市場として開拓を目指すのが四国、九州。この地域のスキー人口は東日本と違い増加傾向という。これを裏付けるように愛媛県に今冬、新スキー場が誕生する。 松山市近郊の「サレガランド・プラーナー」だ。松本源三郎支配人は「四国だけでも愛好者は約五十万人いる。この地域にとってはまだ新しいスポーツ、伸びる要素は大きい」と話す。 スキージャム勝山は既に、福岡から飛行機で、四国からはバスによるパックツアーを始めている。昨季は二千人以上の実績を上げた。今後、台湾などアジアへの展開も視野に入れる。 |
2003年12月9日掲載 | |
貴重なガン 福井が支え ラムサール条約の登録地 | |
餌求め”通勤”、飛来倍増 加賀・片野鴨池→坂井平野 | |
環境保全へ県など調査 絶滅危ぐ種にも指定されている貴重な冬の渡り鳥・ガンの坂井平野への飛来が倍増している。飛来地としてはラムサール条約にも登録されている石川県加賀市の「片野鴨池」が有名だが、同平野を訪れるガンのほとんどが同鴨池から餌(えさ)場を求めての飛来とみられ、福井の重要性が増していると関係者は指摘する。県自然保護センターは今冬、生息環境の保全へ向け、同鴨池観察館と共同で飛来状況の実態調査に乗り出した。 ●夜明けに本県へ 樹木に囲まれた丘陵の湿地。水面からもやが立ち上る。「キャン、キャン」一面を埋めていたガンの群れが夜明けとともに一斉に鳴き声を放ち、水面をけり低空で飛び立った。 「今回の群れは千羽はいたでしょう」。片野鴨池観察館チーフレンジャーの山本浩伸さんは、巨大なV字を描き旋回する群れを見ながら話した。その後も二百、三百の”編隊”が次々と飛び立っていく。いずれも行き先は坂井平野だ。 県の生息調査結果では、一九九六年に千百八十五羽だった同平野への飛来は、九九年に二千百三十八羽、二○○二年には二千五百二羽と、この数年で倍増。今冬もさらに増加傾向にある。 県自然保護センターの水谷瑞希研究員によると、このほとんどが越冬のため片野鴨池に飛来したガンが、採食のためやってくるものだという。夜明けとともに同鴨池を飛び立ち、坂井平野で稲の二番穂や落ち穂、雑草の根などを食べた後、夕方に帰っていく。越冬の十一―三月にかけ、こうした生活を繰り返す。 ガンは非常に警戒心が強い鳥で百メートル以内に人がいたり道路があったりして人の気配があるところには下りてこない。加賀平野は近年、道路などの開発が進んでいる。一方で豊かな農耕環境が残る坂井平野は餌場として重要性が増していると山本チーフは指摘する。「この貴重な鴨池が百年先も残るかどうか。福井県抜きには考えられない」。 ●県境越え連携 ガンが片野鴨池から坂井平野へ飛来することは、関係者の間では比較的古くから指摘されてきた。しかし水谷研究員によると、坂井郡内での飛来数調査が始まったのは九六年。それも最も飛来が多くなる一月中の一日だけのカウント。「冬を通して何羽が鴨池から訪れるのか、まだ詳しい実態は分からない」という。 このため昨冬から、日本野鳥の会県支部と共同で初の通年型調査に着手。さらに今冬、同鴨池観察館とも連携して池からの飛び立ちと飛来数の詳しいデータ把握に取り組み始めた。 三月までの調査結果を来年度の早い段階で報告書にまとめ、生息環境の保全に向けた指標としていく方針だ。 ●保護機運広がるか 日本野鳥の会県支部の柳町邦光副支部長によると、坂井平野の主な飛来地は九頭竜川右岸の坂井町を中心とする一帯。「以前は金津や福井市近郊まで広く見られたが、最近はえちぜん鉄道(の線路)より北東へ飛来することはほとんどなくなった」という。飛来数が増加する一方で、飛来地域は半分近くまで減少している現状もあると指摘する。 加賀と同様に道路や宅地整備が進展する中、将来に餌場をどう確保していくのか、調査の次の段階として取り組むべき課題と強調する。調査は鳥獣保護区指定も視野に入れている。 ただ、組頭五十夫同支部理事によると、飛来したガンが春先に大麦を食べる被害が一部で出るなど、農耕者にとってガンは必ずしもありがたい存在ではないという。「広い範囲を保護地域としていくためには、いかに貴重な鳥なのか、まず農耕者の理解を得ることが大切」と話す。
保護に先進的な北海道では、冬場に商品価値のない稲穂をまいたり農作被害に補償金を出したりするなどの対策が始まっている。山本チーフは「加賀と坂井の子供たちの相互訪問など交流を進め、相互のネットワーク化を図りながら県境を越えて保護機運を高めていければ」と今後の展開に期待を膨らませる。 |
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●密着編 | 2003年12月5日掲載 |
気配り目配り 女将が走る | |
年末迎えた芦原温泉 | |
真っ赤にゆで上がったカニがお膳(ぜん)に並ぶ。「ようこそ、お越しいただきました」―きらびやかな京仕立ての和服に身を包んだ女将(おかみ)は、湯上がりの客を前に手を付いた。女将が最も華やぎ緊張する瞬間だ。しかし真の仕事はここから始まる。客の接待、その合間に板場、帳場を駆け回り、従業員の動きに目を光らせる。気配り目配り。慌ただしく夜は過ぎていく。いよいよ温泉場がにぎわう忘年会シーズンを迎える。女将たちは最も多忙な月日に立ち向かっていく。芦原温泉の老舗旅館「米和」の大久保輝子さん(55)に密着した。(社会部・山内孝紀) | |
裏は”戦場”あうんの応対 「松風(の部屋)に熱かん追加」「そろそろカニ鍋の準備を」(接待さん)「もうちょっとかかる」(板長)…。週末の午後五時四十分。いよいよ「板場の戦争」といわれる時間帯に突入した。 「急がないように、分かったね」。のれんをかき分けた大久保さんは、さっと室内に目を走らせ、接待さんたちに合図を送った。よくいう「ゆっくりやれ」ではない。「客室をしっかりコントロールを」との指令だ。 客の食べ始める時間、ペースはばらばら。しかもこの時期はカニを使った料理がメーンとなり、どれも調理に手間がかかる。 ◇◆◇◆◇ 午後六時半、夕食がピークを迎える。宴会場であいさつ、酌を済ませた大久保さんは板場に”参戦”。料理運びに集中する。「あけみちゃん、浦島(の部屋)はセイコの食べ方教えないとだめよ。県外のお客さんは食べ方知らないんだから」。廊下ですれ違いざま、接待さんに声をかける。 そのときだ。「奥越の○○酒造の酒が飲みたい」。左党の客から注文が入った。酒庫の取り置きにない銘柄。 大久保さんは迷わず指示した。「酒屋さんへ走って」。その間にも新たな注文が入る。「松風でしゃぶしゃぶのつゆが足りない。それとビール二本持っていって」…。指示と小走りの連続だ。 急ぐあまり接待さんが注文の料理を間違え、慌てて引き取りに走る場面も。額に汗がにじみ始めた。「着物を着ているし、歩き通しだから、座敷がものすごく暑く感じる」 午後九時からは二次会向けに併設されるナイトクラブへ。夕食を素早く済ませ洋服に着替え、笑顔でほろ酔いの客を迎える。立ち続けの夜はなかなか終わらない。寝るのは午前一時。起床は六時過ぎだ。年末年始はこうした日々が増える。疲労続きで、寝ている間に足がつったこともある。 「気配りと体力。それが私たちの勝負。疲れた、つらい、と思っていてはこの仕事はできない」。母から女将を受け継いで二十二年。今や「当たり前」の日々になっているという。 ◇◆◇◆◇ 翌日の午後、再び客がやってきた。「雨の中ようこそ」。傘を手に玄関を飛び出した。荷物を接待さんに手渡した後、手は自然にスリッパへ動いた。「八は末広。だからいつも八足。同様に子供のころ、階段に腰をかけると客足が止まるといってよく母にしかられ、しつけられたものです」 「宿」とは屋根の下に人が百人と書く。「この冬も芦原へたくさん来てくれるといいですね」 |
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2003年12月2日掲載 |
減る 昔ながらの 喫茶店 ピーク時の6割 |
家庭用、缶コーヒー需要 増 |
品質勝負で復権狙う 県内の喫茶店が減っている。2001年はピーク時から4割減の800軒を切った。コーヒー抽出器具が普及し家庭で本格的な味が気軽に楽しめるようになったことやファミリーレストラン、ファストフード店が喫茶店の役割を兼ねるようになったためだ。そんな中、目立ってきたのは豆を自家焙煎(ばいせん)し、こだわりの味を楽しんでもらう店。長年親しまれてきた街のオアシス。復権はなるか―。 ▼にぎわうスタバ 「天井が高くて開放感がある。ファストフード店のようにカジュアルすぎてもいない」。十月下旬、福井市にオープンした大手コーヒーチェーンの「スターバックス」。県喫茶業協同組合の田中義彦営業部長(41)がコーヒーを飲みに訪れた。 全国で五百店舗を展開する人気店。本県第一号とあって大勢の女性客らでにぎわう。「街の喫茶店の客は減っているのに…。需要がまだこれだけあったのか」と驚く。 県情報政策課によると、喫茶店は一九八六年の千四百二十一軒をピークに減少の一途。九六年に千軒を切り、○一年は七百九十五軒になった。 一日、六十人入れば採算ベースに乗るといわれる喫茶店。「二十年前、JR福井駅前の店は五、六百人はざらに入った。千人を超えていた店もあった。レジの下に段ボール箱を置き、入りきらないお札を入れていたほど」と懐かしむ。 ▼缶消費は全国1位 店は減ってもレギュラーコーヒーの国内消費量は増えている。農水省によると、○二年は十五万八千六百トンで、二十年前の六万八千トンから二倍以上の伸びだ。 喫茶店やホテルなどに焙煎豆を卸す西村珈琲も家庭用の販売量を伸ばす。西村武起社長は「五年前に比べ一○%増。最近は抽出器具も安い。自分で豆を買って作れば一杯、三十―四十円。不景気もあり家で楽しむ人が増えている」。安さだけでなく、エスプレッソ用の器具や焙煎したての豆を購入する人も多いという。 「忙しいときは喫茶店に行かず缶コーヒーを飲む」=福井市内の会社員(37)=と話すように、缶コーヒーの普及も影響している。北陸コカ・コーラボトリング(本社・富山県)の北陸三県での販売数は二十年前の五倍になっている。 本格的な味を求めるニーズに合わせ商品開発にしのぎを削った。発売当初一つしかなかった種類は今や二十。コンビニ、自販機が増えて気軽に購入できることや車社会も拍車を掛け、総務省の家計調査年報では○○年と昨年の本県一世帯当たりの缶コーヒー消費はそれぞれ四千八百二十一円、四千百九十円で全国一位だ。 ▼資格取り品質向上 逆風の中、田中さんは九月にコーヒー豆製造販売業者などでつくる日本スペシャリティーコーヒー協会(事務局・東京)の認定資格を取得した。「お客さんを増やすにはクオリティーを高めるしかない」との思いからで、コーヒーの作り方などの知識を経営者に伝えていく。 「コーヒー豆は生鮮野菜と同じ。鮮度が求められる」と話すのは開業二十四年の「豆蔵」(福井市)オーナー、朝日文夫さん(46)。五年前に焙煎機を導入した。一年半かけて完成させたオリジナル豆を武器に年二千万円を売り上げる。 十月にオープンしたばかりの「カフェ・ノーツ」(同市)は機械を目立つ入り口に置き、焙煎の様子を楽しんでもらう。常連客が並ぶ雰囲気をなくそうとカウンター席も設けない。代わりに十一種類のソファをインターネットで購入し、さまざまな座り心地を楽しんでもらう。オーナーの蓑輪俊宏さん(31)は「スターバックスのような資本力はない。でも、アイデアで勝負して顧客を呼び込みたい」と意気込んでいる。 |
2003年11月27日掲載 | |
県、情報公開“けじめ” | |
3連続で敗訴 上告取り下げ | |
「古い流れにいてはだめだ」 市民オンブズマン福井などが県を相手取り勝山市森林組合の経営検査結果に対する資料を開示するよう求めた訴訟で、福井地裁は十月、情報公開条例の非公開理由に該当しないとして公開を命ずる判決を言い渡した。情報公開に関する裁判で県は、今年に入ってこれで”三連敗”。しかもこれまで断固控訴、上告していたが、春以降一件も控訴に至っていないばかりか、 ■急展開■ 池田町の産廃施設情報訴訟、敦賀ごみ処分場情報訴訟、勝山市森林組合の検査結果開示訴訟。今年四月以降、県側が敗訴した案件だ。 十月末、さらに急展開の出来事が起きた。 栗田前知事と有識者が一九九七年に行った政策対談について、相手の氏名や対談内容を非公開とした県の決定を不服として市民オンブズマン福井が起こしたいわゆる「懇談会訴訟」。オンブズ側の控訴審勝訴の末、上告審までもつれこんだが、県は突如上告を取り下げた。 「これまで考えられなかった展開だ」。過去に訴訟に関係した県職員は驚きの言葉を漏らした。 ■法制のすき間■ 懇談会訴訟について当時を知る県の幹部は振り返る。「あのときは、まず出さないことができるか、その理由を探す側面も確かにあった。しかし名前を公開した場合、次回の参加を断られたり素直な意見を提言してもらえなくなったりするのではないか。最終的にそうした判断が働いたのでは」 実際に開示された資料は全面が塗りつぶされたコピー。オンブズ側はこれを皮肉り「真っ黒訴訟」と呼んでいた。 しかし法廷では通じなかった。昨年七月、名古屋高裁金沢支部は「(参加者は)公費から謝礼を得ており、公務を遂行する県職員に準じる地位にある」と指摘。懇談相手に不利益が生じ信頼関係が失われるなどとする県の主張をことごとく退けたばかりか、「公費の支出がそれだけの価値があるのかどうか、県民の監視と批判にさらされなければならない」と厳しく指摘をした上で公開を命じた。 ただ県としても法制のはざまで難しい判断に立たされた現状はある。情報公開条例は本県では一九八六年と早い段階で制定された。これに対し国で個人情報保護法制が動き始めたのはこの一、二年だ。まだ他県の判例も少なく個人情報保護の明確なガイドラインが定まらない中、情報公開請求が先行して出され続けた。オンブズ側にすき間をつかれた感はある。 森林組合の検査結果開示訴訟。森づくり課の担当者は「全国初のケースだっただけに、開示することでデータを悪用されるケースが出ないのか、先が見えなかった」と判断に揺れた背景を話す。 「いつまでも古い流れにいてはだめだ」と懇談会訴訟の上告審取り下げにかかわった県政策推進課の東村新一課長。今後判例が出るたびに漠然としたものはなくなり、精度は高まっていくと見通す。 県立大の島田洋一教授(政治学)は県の判断をチェックする第三者機関・公文書公開審査会について「負け続けたことは、その判断基準も間違っていたことになる」と指摘。訴訟を未然に食い止めるためにも、審査機能をより強化する必要性を指摘する。 ■底流に知事の姿勢■ 全国の都道府県では既に、オンブズマンによる公開請求を待たずに宮城、三重、長野の各県が積極的な情報公開に乗り出している。改革派と呼ばれる知事の政治姿勢によるところが大きい。
知事選で「透明性」をマニフェストに盛り込んだ西川知事。県民サービス室の今冨広子室長は「今年の一連の流れも知事の姿勢が大きな底流としてある」と話す。 島田教授は「情報公開することで行政運営は常に市民の目にさらされることになる。緊張感を持った運営のためには非常に大切な制度」と強調。今後どこまで変わっていくのか。その動向は県内の市町村にも影響を与えていくと指摘する。 |
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2003年11月21日掲載 | |
国立歴博新説に揺れる弥生像 | |
本県の稲作伝来早まる? | |
若狭に北九州と同形土器 北九州から西日本各地へ稲作が伝播(でんぱ)し”ムラ”が初めて形成された弥生時代早・前期。国立歴史民俗博物館が、放射性炭素(C14)を使った土器の科学的測定の結果、弥生前期が従来の説より五百年も早い紀元前十世紀ごろになると発表した。本県でも若狭地方の土器群がこれに該当、本県の稲作の幕開けが二、三百年規模で早まる可能性が出てきた。果たして弥生の年表は書き変わることになるのか。研究者からは若狭の祖先をめぐる新たな説も飛び出す。 ●揺れる紀元前3 「感覚的に弥生前期は紀元前二、三世紀。にわかには信じがたい」(清水町教委・古川登係長)。「弥生ばかりではない。縄文の年代までもが揺れかけている」(勝山市教委・宝珍伸一郎学芸員)。県内の研究者にも衝撃は大きい。 今回、同博物館の研究チームは福岡や佐賀県内の遺跡で出土した「夜臼式」「板付式」と呼ばれる弥生早・前期の土器を測定した。この中で特に本県関係者が注目するのは「遠賀川式」ともいわれる前期の板付式土器だ。紀元前八百―四百年とのデータがはじき出され、弥生史を書き換える材料の一つとなった。 本県でも小浜市の「丸山河床遺跡」で同形式の土器が大量に見つかっており、県内で最初に稲作が伝来した決め手となる資料として同市の県立若狭歴史民俗資料館で展示・紹介されている。「C14の結果は若狭にも当てはまる可能性が出てきている」と同館の田中祐二文化財調査員。 小浜市史などではこれまで弥生の幕開けを前三世紀ごろとしており、この土器も同時期のものとみられていた。新説では前五世紀以前までさかのぼる計算だ。 ●新たな議論の出発 小浜市教委の松川雅弘文化グループリーダーは「まだ北九州のデータが示されただけであり軽々に判断できない」と慎重な見方を示すが、「若狭への稲作の伝播の速度が変化することには大きな関心を持たざるを得ない」と話す。 弥生初頭、若狭は稲作が波及した東限ともいわれ、従来の説では紀元前五百年ごろ北九州に入ってきた稲作は、その後百数十年かけて西日本に波及したとされていた。それが今回、数百年もの長い年月を要した可能性が出てきている。 弥生早期、大陸から渡ってきた弥生人たちは縄文人を追い払いながら東へ次々と農耕地域を拡大していったともいわれていたが、むしろ狩猟・採集の縄文文化と融合しながら、ゆっくり東へ稲作を広げていった―。新説からはこのような光景も描き出されてくる。 「さらに論を進めると、若狭の祖先は縄文人と弥生人の混血だったかもしれない。今回の説は過去の単純な弥生人像をくつがえす議論の出発点ともなるのでは」と県埋蔵文化財調査センターの冨山正明主任調査員。 「現代人で背が高く目が細いなど弥生人の特徴を持つ人は日本海側に多いとされる。これが血の濃さを示すのであれば、ひょっとして弥生文化の幕開けは太平洋側より山陰ルートの方が早かったのかもしれない」。今後西日本各地の土器でC14測定が行われ実年代の相関関係が分かってくれば、現代と逆転現象となるこのような結果も出てくるかもと指摘する。 ●影響は世界観にも 一方、県教委文化財保護室の山口充室長は「中国との年代観の変化にも注目すべき」と話す。 弥生前期の中国はこれまで、
「影響は若狭だけにとどまらない」と室長。弥生前期の遺跡が空白とされる嶺北地方でも、中期以降はさまざまな集落跡が確認される。そこで盛んに出てくる玉や鉄器、青銅器。「新測定の今後の展開によっては、これらの大陸からの伝来の過程を含め、東アジア交流圏の世界観が大きく揺らぎかねない」 |
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2003年11月19日掲載 |
HP 声で障害者に”接続” |
読み上げソフトに対応着々 |
NPO、聞けぬページ点検へ 目の不自由な人たちに配慮したホームページ(HP)作りが自治体などで進んでいる。パソコンに音声読み上げソフトが入っていれば、さまざまな情報を聞くことができる。しかし、こうした視覚障害者に対応したHPはまだごく一部。健常者と同じように情報を得たいという障害者は多い。より多くの人たちにHPを見ることができるようにと、民間非営利団体(NPO法人)の中には自治体HPを中心にスムーズに読み上げるかどうか点検し、基準づくりを進めるところが出てきた。 ▼世界が広がる 「卵十個百八十八円。コシヒカリ五キロ二千七百三十円。牛肉三百グラム…」。福井市の伊登利江さん(55)が「下」の方向キーを押すたびに、パソコンから音声ガイドが聞こえてくる。開いているのは生鮮食品販売のページ。お目当ての品物のところでストップし空欄に数字を記入。一週間後に商品が送られてくる。 十七年前に視力を失った。パソコンを始めたのは一年前。それまでは電話で注文していた。「受け付け時間が限られていた。パソコンだと好きなときに注文や取り消しができる。助かります」 「新聞を聞くのが日課」と話すのは県済生会病院リハビリテーションセンターの理療士、竹川三男さん(54)。仕事に役立てようと治療機器の効果などを記したページも開く。目の見えない友人の中には本をダウンロードする人もいる。「音声読み上げソフトが普及して、視覚障害者の世界は格段に広がった」と喜ぶ。 ▼ネットで右往左往 HP上の画像やイラストはイメージとして認識されている。作り手が作製時に説明文書を打ち込まないと読み上げない。このため、イメージ表示のメニュー先やリンク先を説明しないページも多く、目の不自由な人がネット上で右往左往する原因になっている。 視覚障害者らにパソコンを教える福井市のNPO「ぱそぼらねっとF」理事長、高嶋公美子さんは「文書入力はちょっとした手間でできる。でも省くと視覚障害者はページをめくれない。ネットの向こうに障害者がいることを意識してほしい」と話す。 こうした声を受けて、県のHPを管理する県情報政策課は六月から説明文を付けるよう徹底。本年度中にさらに改良する方針で、写真やイラストを多用しているトップページについては、新たに文字だけの障害者用ページを設ける案が出ている。 福井市は市側のサーバーにあらかじめ音声読み上げソフトを組み入れることを検討。ソフトを持たない障害者も聞くことができ、担当者は「ごみの出し方など知ってほしい情報はたくさんある」と説明する。 岐阜県ではこのソフトを一年前に導入した。また、神奈川県小田原市は一年半前から広報誌などの情報は文字だけのページも設けた。現在一万ページのうち二割が障害者用対応で、今後さらに増やすという。 ▼大手中心に増える 企業のHP製作や企画、広報などをする鯖江市の福嶋祐子さん(29)は「大手企業を中心にここ一、二年で目の不自由な人たちが読めるページは少しずつ増えてきた」と実感する。 自身も依頼を受けると、視覚障害者や目の弱ってきたお年寄りらに配慮したHP作りを提案する。「遠方にいる孫の写真を見るために、お年寄りがメールのやり取りをする時代。高齢化社会の中でIT弱者を意識した取り組みは進むだろう」とみる。 「ぱそぼらねっとF」は今後、目の不自由な人たちと一緒に自治体や福祉関係のHPが読みやすくできているかどうか調べ、結果をHP上で紹介する考えだ。同時に作り手にも配慮してもらおうとマニュアルを作製する。 仕事以外でもオーロラや太陽の黒点など気になることをネットで調べ、イメージを膨らませるという竹川さん。「今まで視覚障害者は知りたい情報が得られず、情報障害者といわれていた。まだ読めないページは多い。生活に密着している自治体のHPから改善してほしい」と訴える。 |