阪神−中日 ウイニングボールを手にする岩瀬(左)と握手する、プロ初勝利の山内=甲子園球場で(布藤哲矢撮影)
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おめでとう壮馬−。25日の阪神戦(甲子園)は、先発の山内壮馬投手(24)が7回途中まで2失点の力投。3年目で、うれしいプロ初勝利を挙げた。ここから始まる『壮馬伝』。孝行息子の出現でチームの連敗も2でストップ。竜の夜明けは近いぜよ−。
長いトンネルを抜けると、白星が待っていた。それもチームの連敗を止めた価値ある白星。初々しい表情でヒーローインタビューに応じた山内は、開口一番、苦しい時期を支えてくれた周囲への感謝の言葉を並べた。
「2年ちょっとプロでやってきて、ようやく勝てて。やっとドラゴンズの一員になれました。裏方さんやチームの方に本当に感謝しています」
6イニング0/3を4安打2失点。今季からの新球・シュートがさえにさえた。大量援護にも支えられ、強力な阪神打線をかく乱した。3回1死二、三塁では犠飛でプロ初打点もマーク。7回先頭の桜井に四球を出したところで、右前腕部がつるアクシデントが発生し、降板してしまったのはご愛嬌(あいきょう)。「慣れないシュートを投げたせいなのか、つってしまって。緊張もあったのかもしれません」。腕をさすりながら話した。
もがいた末につかんだ白星。名城大から08年に大学・社会人ドラフト1巡目で鳴り物入りで入団したが、すぐ、壁にぶつかった。長いトンネルの入り口。150キロ近い速球とスライダーを武器にしていたが、悩むあまり、いつしか球速は140キロ前後にまで落ちた。2年間で1軍登板はわずか5度。杜若高の同級生である楽天・長谷部ら周囲は次々と初白星を挙げていく一方、取り残されている気がした。「どうすれば勝てるんだろう」。出口が見えなかった。
自分を変えたい。よりストイックに練習することを決断した。仲のいい長谷部との合同自主トレは取りやめ、昨秋はドミニカ共和国でのウインターリーグに参加。「ハングリー精神もそうですが、現地のコーチにカーブの投げ方を教えてもらって。手首の使い方ですね」。そして年明けは井端や浅尾、中田賢らとグアムで自主トレし、トップ選手の調整を学んだ。
そんな山内の姿勢に周囲も呼応する。昨秋、岩瀬がくれたヒントが大きな転機になった。「シュートを覚えてみたら」。山内はハッとした。鋭いスライダーは自身の特徴。逆に曲がるシュートがあれば、打者はもっと困るはず−。「鈴木さんや小林投手コーチ。いろんな人に握りを聞いて回りました」。そしてこの日の阪神打線を牛耳る武器にまで昇華させた。トンネルの出口を自分で見つけた。岩瀬は「助言? よく覚えてないんだけど。本人の努力のたまものだよ」と持ち上げた。
落合監督も「よく投げたんじゃないか。今まで(実績が)何もないピッチャーなんだから」と褒めた。チームのビジター試合の連敗は「7」でストップ。自分のトンネルだけでなく、チームのトンネルも出口に導いた。「とにかく1勝で満足することなく、ローテを守っていきたいです」。そう笑う山内の顔に、もう迷いはない。 (清水裕介)
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