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野生動物の幸不幸は、人間にどう見られるかでだいたい決まる。〈賢い愛敬者〉のイルカには漁をとがめる映画ができ、いっぺんにらまれた種は最悪の天敵を抱えるはめになる。どうかすると末代まで▼野生復帰に向けて訓練中のトキ9羽が殺された件で、容疑のテンが佐渡島のトキ保護センターで捕まった。「犯人」かどうか、毛のDNAを照合中という。あの惨劇で、テンは天然記念物を食い散らす乱暴者の烙印(らくいん)を押されかけている▼佐渡のテンは、林業の害になる野ウサギの天敵として本土から持ち込まれたもの。小欄はこの小動物に思いを寄せつつ、「ウサギを食べたら益獣、トキを殺せば害獣という『人の掟(おきて)』に小首をかしげていることだろう」と書いた▼本能に従う獣たちを、人の都合で善悪に分ける身勝手。自然を愛し、トキ復活に汗を流す人たちならとうに承知のことらしい。憎かろうテンにイモやリンゴを与え、動物園などの引き取り先を探しているという。温情判決である▼「害獣」といえば先般、田畑を荒らすイノシシやシカを食用にする動きを喜んだところ、「動物こそ乱開発の被害者」「傲慢(ごうまん)だ」との声が寄せられた。むろん殺生は必要の限りとすべきで、どうせ駆除するならありがたくいただこう、という趣旨である▼いっそのこと、人と動物、人と自然といった対立軸を捨ててはどうだろう。私たちは「ジグソーパズル地球」の遊び手ではなく、大きめの一片とわきまえたい。おごらない共生の視点から、人がこの星に招いた災いの出口が見えてくる。