少し専門的な話になってしまいますが、当時ベースとなるクルマは4輪ともにストラットというサスペンション形式をとっていました。この形式は横力が直接あるいは間接的にストラット本体に入力されます。つまりストラット本体の剛性を高めることができれば、面白い結果になるのでは?と仮説した訳です。スタティックではなく、ダイナミックなクルマの動き、サスペンションの動きを想像しますと、ストラットの剛性を上げることによるメリットが見えてきます。
通常はストラットチューブの肉厚を上げたり、ブラケット部分の溶接を強化したり、大径化したりとやるのですが、重くなりますし、コストほどの体感できる効果はありません。そこで、倒立化を考えた訳です。当時、競技車両(ラリーカー/WR Car )では常識的に使われていましたので、ラリーチームをマネージメントしていたプロドライブのエンジニアが来日した際に色々聞いてみました。同時に量産担当のエンジニアにもインタビューしました。興味深いことに、両者の意見はまっ二つ。専門家による仮説の検証は失敗に終わりました。
このときプロドライブのエンジニアが話していたのは、強度的なメリットで倒立式を使うということでした。ラリーカーがジャンプし、着地したとき、不整地で過大な入力を受けたときにメリットがあるということです。しかし、強度と剛性は別のものです。強度が上がると同時に、剛性も上がりそのことによって良いフィーリングが得られるのではないか?ということに着目したのです。
しかし、それでは納得のいかなかった私は当時の社長だったK世さん(のちに会長)、取締役技術部長だったS方さん、上司だった取締役企画部長 F野さんを口説き、検証のための予算をとっていただきました。皆さん、私にだまされたフリをしてくれて、検証のためのテストをやらせてくれたのです。→K世さんのことは後日、別に書かせていただこうと思っております。
ビルシュタイン社のダンパーはポルシェ、ジャガーなど一部の高級車のOE品、あるいは純正オプションなどで、他社で採用される例がありましたが、倒立式を採用する例は殆どなかったと思います。
さあ、今度はメーカー選定です。当時倒立式を作ってくれそうなメーカーは複数ありました。最初からビルシュタインありきだったわけではありません。紆余曲折を経て、比較評価した結果、品質面、コスト面、セッティング環境、能力を考え、最終的にビルシュタイン社のものにしようとなったのです。
そこで、当時の輸入代理店だった商社の担当部長だったSさんにお会いしました。ここがSさんとの最初の出会いでした。Sさんも精力的に動いていただきました。ドイツとのやりとり、テストスケジュールの確保、量産の段取り、コスト折衝、物流折衝などなど。当時Sさんの部下でいらっしゃったNさんにもこのとき大変お世話になりました。
このときとても忙しかったと思うのですが、つらいことがあまり思い出せません。そういう意味ではとても充実していたのだと思います。 明日へつづく
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