県を巡る不正経理問題が8日、公金詐取事件に発展した。業者に公金をプールさせる「預け」を私的に使ったとして、県の元税務課職員2人が逮捕された事件。県警は、ほかにも私的流用がなかったか引き続き捜査を続け、事件の全容解明を急ぐ。一方、県警による家宅捜索を受け、県庁は重苦しい空気に包まれた。【松倉佑輔、木村健二、吉住遊、中島和哉】
県警捜査2課が今回逮捕容疑としたのは、04年3月~05年3月に業者に振り込ませた約4000万円。「図書券などとして手渡させ、換金して私的に流用していたという目的が当初からあった」(県警幹部)として悪質性を重視した。
発表によると、県税務課職員だった吉田伸一(58)、木村仁(50)両容疑者は、県に事務用品販売業者との架空の取引を届け出、県から文具店に約4000万円を振り込ませたとしている。すべてが遊興費に使われたわけではなく、中にはファイルなど仕事に使う文具の購入に充てられたカネもあったという。
一方、県から告訴された元職員以外には、遊興費などの私的流用は確認されていない。県警は、他の職員のケースは、単年度で使い切れなかった予算を翌年度以降に使う「経理操作」にとどまると判断したとみられる。
県の調査によると、「預け」を流用する手口は、県警の聴取を受けた後の09年1月に自殺した元県相模原土木事務所副所長(当時58歳)が告訴された元職員らに伝えたとみられるという。私的流用額は、元副所長の約5400万円を含め、4人で計約1億2000万円とされている。
4000万円は「預け金」全体の一部といい、県警では「現時点では詐欺と認定できるのはこれだけ。それ以外については捜査中」としている。捜査2課は引き続き、私的流用の額や手口について調べる。
「県政を預かる者として大変遺憾。県民のみなさんに対して率直におわびを申し上げなければならない」。旧税務課(現税制企画課、課税課、徴収対策課)に在籍した元職員2人の逮捕を受け、松沢成文知事は8日夕、険しい表情で改めて謝罪した。横浜市中区の県庁舎が家宅捜索されるのは「記録にない」(県人材課)という極めて異例の事態で、松沢知事は「本当に残念。残念でつらい思い」と繰り返した。
逮捕されたのが告訴した3人のうち2人になったことについて、松沢知事は「県としては3人が完全に犯罪をおかしているという判断で告訴をした。警察の捜査には全面的に協力していきたい」と話した。
県庁には8日午後3時45分ごろ、県警の捜査員十数人が家宅捜索に入った。4月からの県庁組織の再編で、旧税務課の業務を引き継いだ税制企画課などでは、白い手袋をした捜査員が県職員の立ち合いの下、資料を押収。慌ただしく庁内を行き来し、物々しい雰囲気が漂った。
同7時半ごろ、捜査員が資料を詰め込んだ段ボール箱約5個が県警のワゴン車に運び込まれた。記者団の取材に応じた同課の武井政二課長は「いずれありうると思っていたが、元職員が逮捕されたことは非常に残念」と語った。
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08年10月 他府県で不正経理が発覚したことを受け松沢成文知事が庁内調査の実施を指示
09年 1月 旧税務課に在籍した男性職員(当時58歳)が自殺
3月17日 県が国の統計調査事業の不適正経理が02~07年度で総額約2536万円と発表
4月20日 県が国庫補助事業の不適正経理が03~07年度で総額約2億4728万円と発表
5月 県が不適正経理の全庁調査を開始
12月21日 県が旧税務課に在籍した男性職員4人による預け金の私的流用を発表
22日 県が旧税務課に在籍した職員3人について詐欺容疑の告訴状を県警に提出
24日 県警職員による預けを県警が発表
10年 1月29日 県が預け金を私的流用したとして旧税務課に在籍した職員3人を懲戒免職に
2月 9日 県職員OBで総務部長経験者の代表監査委員が辞職
26日 県の不適正経理調査部会が、不正経理が03~09年度で総額約28億600万円との調査結果を報告
3月18日 松沢知事が特別職を含む職員1721人の処分を発表。うち懲戒処分は13人
25日 松沢知事が副知事2人を月末で辞任させると発表。事実上の更迭
29日 松沢知事が特別会計検査チームの創設などの再発防止策を発表
4月 8日 県警が旧税務課に在籍した元職員2人を詐欺容疑で逮捕
毎日新聞 2010年4月9日 地方版