目的はリスナーの拡大

 一方、まだ超えられていない“壁”もある。それがエリアの問題だ。今回の実験はネットを使っていながら世界中で各局の番組が聴けるというわけではない。実はIPアドレスで範囲を限定しており、関東は1都3県、関西は2府2県でしか聴取できないのだ。これには、地方のネットユーザーから落胆の声が多く聴かれた。宮澤氏は「技術的には全国、あるいは海外に同時配信するのは可能ですが、もともとラジオ局の免許はエリアごとに与えられている。地域制限をなくすには、新たなビジネススキーム作りが必要」と話す。

 例えばコストの問題。今回は「権利者側の協力を得ての実験」だが、本来はネットにコンテンツを流せば、音楽の著作権使用料などが新たに発生する。また、配信によって聴取可能なエリアが広がれば、出演者のギャランティに跳ね返る可能性もある。そのコストは広告クライアントが負担するのか、あるいは特定エリア外からの聴取に課金するのか。さらに系列の地方局との棲み分け、ローカルCMを主とするクライアントへの対策も必要だ。地域制限の撤廃には課題が多いが、実験期間である8月31日までにモバイル端末への配信も検討するなど、まずは新たなリスナーの開拓に力を入れていく。

 すでにネットでのサイマル放送を実施している米国やドイツでは、スマートフォン経由で新規リスナーの数が増えたとの結果も出ているという。大きな変革への第一歩となるのか、今後の協議会の動きに注目しておきたい。

ラジオとインターネットの広告費の推移

91年をピークに低下するラジオ広告費に対し、インターネット広告費は04年以降急増。09年はラジオ1370億円に対しネットは7069億円

試験配信の地区と放送局

配信地区 関東地区
(東京都/神奈川県/千葉県/埼玉県)
放送局 TBSラジオ/文化放送/ニッポン放送/ラジオNIKKEI/InterFM/TOKYO FM/J-WAVE
配信地区 関西地区
(大阪府/京都府/兵庫県/奈良県)
放送局 朝日放送/毎日放送/ラジオ大阪/FM COCOLO/FM802/FM OSAKA

サイマル化への周囲の反応は真っ二つ
私は地域制限の撤廃に期待しています

 サイマル放送開始を制作現場ではどう受け止めているのか。この問題について積極的に発言しているTBSラジオ『キラ☆キラ』パーソナリティの小島慶子氏に聞いた。

こじま けいこ TBSアナウンサー。レギュラー番組は『小島慶子 キラ☆キラ』(TBSラジオ)の他、『時事放談』(TBS)、『サンデー・スコープ』(BS-TBS)

 ネットでのサイマル放送の開始は、歓迎すべきことと考えています。これまでも『キラ☆キラ』ではネットを積極的に使っていて、今までラジオを聞かなかった若い層が番組をツイッターで知り、ポッドキャストで聞いてみて、本放送も楽しむように…と、ネットからラジオへと流れができつつあるんです。サイマル化は道路で例えれば、今までの車線が1車線から2〜3車線に増えるということ。新しいリスナーに私たちの放送を届けられるのはやっぱりうれしい。

 でも、周囲にはネガティブな意見の人も少なくはありません。ネットと融合することで、将来的には既存のラジオ局以外とも競合することになる。そこで、大手資本が入ってきて、ビッグネームを連れてきたらどうしよう…とか。地域制限の撤廃についても系列局やCMなど、確かに解決しなくてはいけない課題は多いでしょう。

 それでも、今は関東一都六県のTBSリスナーが、九州の漁村や例えば極地にまで広がって繋がることができるとか、ある地域で人気のパーソナリティの方と共演できるとか、新しい可能性が広がることに希望を感じています。

 もちろん、技術やビジネスモデルが変わったから、今までのリスナーをないがしろにするということではありません。熱意のある作り手としゃべり手がいれば、良い番組ができる。環境が変わっても、ラジオである限り、その基本は変わらないと信じています。

 

(文/佐々木 健二・塩塚 知也(かみゆ)・写真/勝俣 利彦)

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