3.現状と目標

(1)成人における現状と目標
 <まとめ
(2)児童・生徒における現状と目標
  
(3)高齢者における現状と目標
 <まとめ




(1)成人における現状と目標

ア 身体活動・運動に対する意識の向上
 身体活動量を増やすためには、状況に応じて、通勤・買い物で歩くこと、階段を上がること、運動・スポーツを行なうことなど身体を動かすことを日常生活に取り入れることが必要である。この実践のためには、前段階として身体活動や運動に対する意識の向上が必要である。
 平成8年保健福祉動向調査によると「日頃から日常生活の中で、健康の維持・増進のために意識的に体を動かすなどの運動をしている」人が、男性 52.6%、女性 52.8%となっており、これは、身体活動・運動の実践とともに、「できるだけこころがけている」といった、身体活動・運動に対する意識を示している。
 身体活動・運動に対する意識が向上して、日常生活の中に身体活動を取り入れる人が増加すること目指し、男性、女性ともさらに10%の増加を目標とする。
○身体活動・運動に対する意識についての目標
「日頃から日常生活の中で、健康の維持・増進のために意識的に体を動かすなどの運動をしている人」の増加
 目標値: 男性女性とも63%
 基準値: 男性52.6%、女性52.8% (平成8年保健福祉動向調査)


イ 日常生活における歩数の増加
 日常生活において身体活動量を増やす具体的な手段は、歩行を中心とした身体活動を増加させるように心掛けることである。健康増進関連機器の中で、歩数計を実際に使用している者は20歳以上の16.7%を占め、特に中高年者では3〜4人に1人が使用しており(平成8年度健康づくりに関する意識調査)、個人が取り組む目安としても、歩数の目標値を設定することは有用である。
 身体活動量と死亡率などとの関連をみた疫学的研究の結果6)からは、「1日1万歩」の歩数を確保することが理想と考えられる(注)。日本人の歩数の現状では、1日平均で、男性8,202歩、女性7,282歩であり、1日1万歩以上歩いている者は男性29.2%、女性21.8%である(平成9年度国民栄養調査)。最近10年間の歩数の増加傾向を考慮して、当面10年間の目標として、男女とも歩数の1,000歩増加を目指し、1日平均歩数を男性9,200歩、女性8,300歩程度を目標とする。1,000歩は約10分の歩行で得られる歩数であり、距離としては600〜700mに相当する。その結果1日1万歩以上歩く者は男性37%、女性30%になると見込まれる。
 歩くことを中心とした身体活動を増加させることにより、生活習慣病の発症の数%減少が期待できる(参考資料)。

(注)1日1万歩の根拠
 海外の文献から週当たり2000kcal(1日当たり約300kcal)以上のエネルギー消費に相当する身体活動が推奨されている6)。歩行時のエネルギー消費量を求めるためのアメリカスポーツ医学協会が提示する式を用いて、体重60kgの者が、時速4km(分速70m)、歩幅70cm、で10分歩く(700m、1000歩)場合を計算すると、消費エネルギーは30kcalとなる。つまり1日当たり300kcalのエネルギー消費は、1万歩に相当する。

歩行時のエネルギー消費量を求めるためのアメリカスポーツ医学協会が提示する式11)
 水平歩行時の推定酸素摂取量(ml/kg/分)=安静時酸素摂取量(3.5ml/kg/分)+0.1×分速(m/分)
 この式によれば、体重60kgの者が、分速70mで10分間歩くと、6300mlの酸素を摂取することとなる。これに「酸素1リットル当たりのエネルギー消費量=5kcal」の関係を当てはめると、約30kcalのエネルギー消費量に相当することが求められる。
○日常生活における歩数の増加
 目標値: 男性9,200歩、女性8,300歩
 注) 1日当たり平均歩数で1,000歩、歩く時間で10分、歩行距離で600〜700m程度の増加に相当
 基準値: 男性8,202歩、女性7,282歩(平成9年度国民栄養調査)


ウ 運動習慣者の増加
 運動は、余暇時間に行なうものであり、疾病を予防し、活動的な生活を送る基礎となる体力を増加させるための基本的な身体活動である。爽快感や楽しさを伴うものであり、積極的な行動として勧められる。
 運動習慣は頻度、時間、強度、期間の4要素から定義されるものであるが、国民栄養調査では運動習慣者を「週2回以上、1回30分以上、1年以上、運動をしている者」としており、男性の28.6%、女性の24.6%である(平成9年度国民栄養調査)。最近の運動習慣者の増加傾向から、この頻度を10%増加を目指す。
 強度としては、一般に中等度の運動が勧められる。自覚的には「息が少しはずむ」程度(具体的には「健康づくりのための運動所要量策定検討委員会報告(平成元年)」参照)である。
 これまで運動経験のない人が、急に運動を始めようとすると心臓事故や整形外科的障害を起こす可能性もあるので、自分の健康状態をよく把握した上で行なう必要がある。
○運動習慣者の増加
 目標値: 男性39%、女性35%
 基準値: 男性28.6%、女性24.6%(平成9年度国民栄養調査)
 注) 運動習慣者:1回30分以上の運動を、週2回以上実施し、1年以上持続している人

エ 女性における現状
 女性における身体活動と健康との関連は基本的には男性と同じであるが、妊娠・出産、育児など女性特有の要因に加え、現状では介護の負担など身体活動が低下する社会的要因があり注意が払われるべきである。中高年の女性に多い健康問題として、骨粗鬆症と身体活動量との関連が示されている。身体活動の状況をみるとどの年代でも運動習慣率や1日の歩数において男性より低い傾向があり(国民栄養調査)、この点からも女性の身体活動量に対する取り組みが求められる。



(2)児童・生徒における現状と目標

 児童・生徒における身体活動は心身の健全な発育のために重要である。また、身体活動を通じて社会性の発達が期待できることにも注目すべきである。
 特に、小児期は健康のために良い習慣を定着させる重要な時期でもある。
 また、各種調査・報告書によると、生徒・児童における身体活動量低下、体力の低下、小児肥満の増加、テレビゲームなどの非活動的余暇時間の増加、夜型生活と生活習慣との関連などの問題点が報告されている7)

ア 児童・生徒の身体活動量
 児童・生徒の身体活動量の推移については資料が少ないが、「平成11年度我が国の文教施策」(文部省)によれば、運動を実施する児童・生徒と、しない児童・生徒の二極化が指摘されている。平成10年度体力・運動能力調査報告書によれば、体育の授業以外に運動やスポーツを週に3日以上実施している児童・生徒の割合は、10歳男子で53.8%、女子で35.0% 、13歳男子で84.8%、女子で67.4%、16歳男子で55.4%、女子で40.5%となっており、特に小学生や高校生において運動時間が不足していると考えられる。

イ 児童・生徒が非活動的に過ごす時間
 身体活動量低下の原因としては、成人同様に交通手段の発達の他、外遊びの減少や、テレビ、テレビゲームなどの非活動的に過ごす時間の増加が指摘されている。我が国のテレビ(テレビゲームも含む)視聴時間が1日3時間以上の児童・生徒の割合は、10歳男子38.7%、女子38.6%、13歳男子37.2%、女子32.2%、16歳男子25.2%、女子24.2%と報告されている。同調査は、テレビの視聴時間が長いほど体力の低い傾向があることも示している。小学生を対象にテレビなどの視聴を減らすための教育を行なった結果、テレビなどの視聴時間が減少し、肥満の予防・改善効果が得られたとする米国の介入研究結果8)が報告されている。さらに、我が国やアメリカの小児科学会では、テレビの視聴が子どもの健康に及ぼす影響に基づいて、小児に対して視聴時間を制限する勧告を行なっている9)10)

(3)高齢者における現状と目標

 現役を退いた高齢者は、社会的役割が減り自分自身の生きる目標を見出しにくくなることから、社会的な関わりが少なくなり家に引きこもりがちになりやすい。このような状況は高齢者の日常生活を非活動的にし、身体的生活機能のみならず、精神的および社会的な生活機能をも低下させる大きな要因となる。
 高齢者が身体活動量を増加させる方法としては、まず、日常生活の中であらゆる機会を通じて外出すること、ボランティアやサークルなどの地域活動を積極的に実施することである。その際、従来の町内会や伝統的な奉仕活動などの社会活動に加え、高齢社会に対応した新しい福祉活動(友愛訪問活動、福祉ボランティアなど)や知的・文化的な学習活動、趣味活動などを行なうことが望まれる。
 そのうえで、積極的な健康づくり行動としての体操、ウォーキング、軽スポーツなどの運動を定期的に実施することである。このような身体活動を行なうことによって、高齢者の生活の質を規定している日常生活動作能力(ADL)障害の発生を予防し、活動く的余命を延長させることが可能である。

ア 外出についての態度
 日常生活の中で買物や散歩などを含めた外出について、60歳以上では「自分から積極的に外出する方である」とする者は男性では59.8%、女性では59.4%である。この割合は年齢が高くなるにつれて低くなり、80歳以上では全体で46.3%となる(平成11年「高齢者の日常生活に関する意識調査」(総務庁))。今後10年間でこの割合のそれぞれ10%上昇を目指し、男女とも70%、80歳以上の全体56%とすることを目標とする。
○外出について積極的な態度をもつ者の増加
 ・ 日常生活の中で買物や散歩などを含めた外出について、「自分から積極的に外出する方である」とする者
 目標値: 男性70%、女性70%(60歳以上)うち、80歳以上の全体56%
 基準値: 男性59.8%、女性59.0%(60歳以上)うち、80歳以上の全体46.3%
(平成11年「高齢者の日常生活に関する意識調査」(総務庁))


イ 社会参加についての活動の状況
 高齢者の日常生活が非活動的な状況に陥ることのないようにするためには、生きる意欲や意志につながる「生きがい」をもつことが重要である。そして、そのためには、地域社会において人々と積極的に関わりをもとうとする意識をもち、個々人の価値観に根ざした社会参加活動を実施することが有効である。
 何等かの地域活動へ「参加している」者は、60歳以上の男性では48.3%、女性では39.7%である(平成10年「高齢者の地域社会への参加に関する意識調査」)。また、参加している活動のなかでは、体操、歩こう会、ゲートボールなどの健康・スポーツサークルが最も多く、男性21.2%、女性15.8%である。今後10年間で「何等かの地域活動へ参加している」者の割合の10%上昇を目指し、男性58%、女性50%を目標とする。
○何等かの地域活動を実施している者の増加
 目標値: 男性58%、女性50%
 基準値: 男性48.3%、女性39.7%(60歳以上)
(平成10年「高齢者の地域社会への参加に関する意識調査」(総務庁))


ウ 日常生活における歩数
 高齢者の日常生活動作能力のなかで、比較的早期から低下するのは歩行や起居などの移動動作にかかわる能力である。従って、高齢者が日常生活において歩行運動を積極的に行なうことは、日常生活動作障害に対する初期予防活動として有効である。
 70歳以上の高齢者における1日あたりの平均歩数の現状は、平成9年では男性が5,436歩、女性が4,604歩であり、平成元年からの9年間に男性では約1,200歩、女性では約1,300歩増加している。そこで、今後10年間で70歳以上の者における1日当たり歩数の男女とも1,300歩増加を目指し、1日の平均歩数を男性6,700歩、女性5,900歩程度とすることを目標とする。高齢者にとって1,300歩は約15分の歩行時間に相当し、距離としては650〜800mとなる。
○日常生活における歩数の増加
 目標値: 男性6,700歩、女性5,900歩
 注) 1日当たり平均歩数で1,300歩、歩く時間で15分、歩行距離で650〜800m程度の増加に相当
 基準値: 男性5,436歩、女性4,604歩(70歳以上)(平成9年国民栄養調査)

エ 運動習慣者
 高齢者のADL障害をより効率的かつ効果的に予防するためには運動の種類、強度、時間、頻度などの条件を踏まえ運動習慣として長期的に実施することも有効である。
 特に、高齢者の身体的な自立能力は移動動作などの下肢機能を反映する能力から低下することから、歩行運動や下肢・体幹部のストレッチングおよび筋力トレーニングなどを行なったり、種々のレジャー活動や軽スポーツなどを積極的に行なうこともまた有効である。
 運動習慣者を「週2回以上、1回30分以上、1年以上継続して実施している者」と定義した場合、70歳以上の高齢者における運動習慣者は男性が36.2%、女性が24.9%である(平成9年国民栄養調査)。今後、この増加が望まれる。