「小さな町を二分する恐れもある。だが、民意を示すにはこの手段しかない」。贈賄罪で起訴された福岡県添田町の山本文男町長(84)のリコール(解職請求)に向けて19日、手続きを開始した住民団体「山本町長をリコールする会」(矢野一義代表)。メンバーたちは苦渋の表情を浮かべながら、リコールに踏み切らざるを得なかった理由を口にした。
町長逮捕後、町政の刷新を求める町議たちは3月、4分の3の賛成が必要な町長不信任案は可決できなかったが、辞職勧告決議案を議会で可決させた。だが、山本町長は「町民の意向が分かる時が来る」などと述べて辞職は否定していた。
10期39年間という町長在任の影響力は大きく、町内では町長の逮捕直後から続投を求める署名活動がスタート。「こうした署名が民意とされては困る」とのメンバー共有の思いの一方で、署名が必要なリコールに「住民に酷な選択を強いる踏み絵」との抵抗感もあった。
だが、最近も「事件は私利私欲のためでなく、疲弊衰退する町村のため」などと山本町長を擁護するビラが出回るなど町内の混乱は続いている。「町政の正常化には民意を明確にすることが必要。町長自らの辞職による出直し町長選ができない以上は、リコール手続きの住民投票しかない」と判断した。
手続き開始について町内の農業男性(62)は「町長が辞職しないのなら、当然の流れ」と評価する。
しかし「署名が役場に提出されると、署名したことが町長に知られてしまうのでは」と不安を漏らす住民もおり、リコール成立には、なお高いハードルが予測される。
一方、7月の任期満了に伴う町議選も目前に迫っている。会に参加する町議の支持者には町長擁護派も少なくない。リコール運動が選挙戦に影響するのは必至だが、ある町議は「政治とカネの問題にきちんと声を上げることが大事。失うものもあるが、得るものはもっと多い」と言い切った。
=2010/04/20付 西日本新聞朝刊=