1953年生まれ。上武大学大学院経営管理研究科教授、SBI大学院大学客員教授。言論プラットフォーム「アゴラ」を主宰。
ソフトバンクの「光の道」は第二の地デジになる
2010年04月24日14時55分 / 提供:池田信夫blog
大きな話題を呼んだのは、ソフトバンクのアクセス回線会社構想である。これは4年前にも彼らが提唱して否定された議論の焼き直しで、アクセス系(光+メタル)をNTTから「構造分離」して特殊会社にしようという話である。これについては、電力系FTTH業者の批判が的確だ:
- 全国の9割(人口比)のエリアではFTTHの整備が進んでおり、あとは各家庭への引き込み工事を行うだけ。残り1割の不採算エリアは、面積比では全国の半分。これを民間企業がすべて整備することは不可能だし、必要でもない インフラ会社が政府直轄の1社に集約されるような状況では、余剰設備を減らす施策のみが重要視され、新規顧客獲得のために100Mbpsから1Gbpsへ回線速度を上昇させるノベーションはなくなる月額1400円という価格設定の根拠に、現在の回線の敷設費用を30年単位で減価償却するといった案があるが、これでは向こう30年にわたって100Mbpsの回線を使う計算。技術的にはすでに10Gbpsも可能な状況であり、考えられない
ソフトバンクのいうように、光とメタルの二重設備になっている現状を解消する必要はある。しかし固定回線(PSTN)の維持費の大部分は電話交換機まわりの人件費にかかっているので、まず全面IP化によって交換機を撤去することが有効だ。これは私も2年前の論文で指摘し、NTT経営陣も「FTTHよりIP化が優先だ」というようになった。IP化はBTなども進めており、FCCも昨年、計画を発表した。
IP化すれば、残るのはDSLのルータ(数百万円)と銅線だけなので、維持費は大したことはない。ルータは壊れたらメーカーから買えばよいので、保守要員もいらなくなる。「銅線はさびやすく寿命が来ている」というのは嘘で、接続ポイントさえ保守すれば半永久的に使える。ドライカッパー(裸の銅線)のコストは1世帯200円/月ぐらいであり、「銅線を保守するより光に交換した方が安い」というソフトバンクの計算は間違っている。
最大の問題は、このようにメタル回線サービスを強制的に停止するには、特別立法によって光ファイバーを国策会社に集約し、FTTHのいらない客のインフラも強制的に取り替える必要があることだ。これはソフトバンクが説明資料の中でいみじくも描いているように、通信事業を地デジのように政府が統制することに他ならない。このような社会主義経済の手法は、イノベーションを阻害して日本のIT産業を壊滅させるだろう。
重要なのは、このような国営インフラではなく、FTTH、DSL、無線など多様なインフラがプラットフォーム競争を行なう環境を整備することだ。そのためにもっとも重要なのは、電波の開放である。30年後に何が最適のインフラかなんて誰にもわからない。必要なのは、FTTHとLTE、WiMAX、あるいは次世代Wi-Fiなどの多様なインフラが競争することであり、何がもっとも効率的かは市場で決めればよい。政府がやるべきなのはインフラを「計画」することではなく、帯域の制限や規制を撤廃して競争を促進することである。
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