ここから本文です。現在の位置は トップ > 地域ニュース > 大阪 > 記事です。

大阪

文字サイズ変更
はてなブックマークに登録
Yahoo!ブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

地球村に架ける橋:母語・継承語・バイリンガル教育(MHB)研究会=高賛侑 /大阪

 ◇多文化を尊重して共生社会を創造--人種間の葛藤も減少

 もしある日突然、言葉を失ったらどうする!?--それは決して架空の物語ではない。地球上の至る所で進行している現実である。

 「移民」という概念は定かではないが、世界には何億人もの移民が存在する。異国に到着した途端、現地語が分からず途方に暮れる人々。とりわけ可哀相なのが子どもたちだ。学校でいじめに遭い、母語まで忘れ、自尊心を喪失していく。

 そうした問題に取り組むため、有志が2003年に結成したのが「母語・継承語・バイリンガル教育(MHB)研究会」である。海外に住む子どもの日本語の保持・伸長、国内の外国人の民族語の継承、さらに手話を母語とするろう児のろう文化の継承を対象とする。3月26~27日に東京・桜美林大学で開催した継承語教師養成ワークショップでは百余人の会員が集まり言語教育の実践について真摯(しんし)な討論を重ねた。

 会長の中島和子さんは40年間トロント大学アジア研究科教授として日本語教育学を教えた後、名古屋外国語大学教授となり、現在はトロント大学名誉教授として日本とカナダの両方で活躍する。ちなみにカナダでは移民の母語を「ヘリテージ・ランゲージ」(遺産言語)と呼ぶが、それを最初に「継承語」と日本に紹介したのは中島さんである。

 「カナダは言語教育の宝庫です。子どもの自然習得の力を活かし、公用語の英仏語や継承語を小学校から学ぶ教育が盛んなんです」

 カナダは71年に世界で初めて多文化主義国家宣言を行った。人口3162万人(06年国勢調査)の内、英仏系と先住民以外の出自を持つ人は40%を占め、民族数は200を超える。そのため「多様性の中の統一」を国是とし、少数民族の権利を高度に保障する。

 特に言語面では、移民にとって最も切実な現地語の習得のために、子どもには学校で特別授業を行い、大人には生活費と学習の場を提供するシステムが充実している。継承語についても、多文化主義法に「英仏語以外の言語を保存し増進する」と明記し、学習環境の整備を法的に義務づける。

 たとえばオンタリオ州では、少数民族の保護者25人以上が要求すれば、学校はその民族の子らのための継承語教室を設ける。アルバータ州などでは、午前は英語、午後は各継承語を使って教科授業を行う公立小学校がある。

 その他の州でも、通常週に1回以上、学校で継承語の授業が実施されるし、各民族グループが継承語教室を開講すれば州政府が助成金を支給する。

 「カナダでは移民の多様な言語を前向きに評価し、国を豊かにする“言語資源”と位置づけています。マイノリティーの言語を維持・伸長させるのは、彼らだけでなくマジョリティーにとっても役に立つ資源だという視点なんですね」

 こうした継承語教育の結果として、国際舞台で活躍する人材が輩出され、貿易などのビジネス面でも多大な有益性が示された。継承語の学習は民族文化の理解にもつながるため、人種間の葛藤(かっとう)も減少した。

 いまやカナダだけではない。EUはすでに「欧州言語2001」宣言を出し、すべての人が「母語プラス2(地域)言語」を学ぶ複(数)言語主義を提唱する。米国でも、英語一辺倒だった過去の反省から継承語教育に力を注いでいる。

 それに引き替え、「日本では継承語教育はゼロに近い」と中島さんは指摘する。民族文化の中で言葉は最も早くなくなりやすいものです。まず継承語教育の重要性を認識し、学ぶ環境づくりをすることが大切です」

 私は以前、カナダの多文化主義研修旅行に参加したとき強烈なカルチャーショックを受けた。カナダはマイノリティーの言語や文化を法的に保障することによって人種・民族差別がほぼ解消された人権国家に変貌(へんぼう)したのである。民族的アイデンティティーを尊重してこそ共生社会を創造することができる。<ノンフィクション作家>

==============

 HP=http://www.mhb.jp/

毎日新聞 2010年4月24日 地方版

PR情報

大阪 アーカイブ一覧

 
郷土料理百選
地域体験イベント検索

おすすめ情報

注目ブランド