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社説

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中国海軍―疑念をあおってどうする

 中国海軍の艦載ヘリコプターが警戒監視中の海上自衛隊の護衛艦に繰り返し異常接近した。

 衝突の危険があったにもかかわらず、中国側は意に介していない。むしろ日本の対応を瀬踏みしているかのような態度で、受け入れがたい。こんなことが続けば、日本国民の中国への脅威感や疑心暗鬼が深まり、日中関係全体を損なうことになりかねない。

 日本政府の姿勢にも問題がある。鳩山由紀夫首相は日中首脳会談でヘリ接近問題を取り上げなかった。これでは問題にしないという誤ったシグナルを送ったことになる。極めて遺憾だ。

 活動範囲を急速に拡大させている中国海軍に、どう対処すべきか。

 今回、駆逐艦2隻、潜水艦2隻など計10隻で編成された東海艦隊の連合艦隊が東シナ海で艦載ヘリの飛行訓練をした後、10日夜、沖縄本島と宮古島の間の公海を太平洋上に抜けた。艦艇数がこれまでより多いだけでなく、潜水艦は異例の浮上航行をした。明らかな示威行為であろう。

 8日には艦載ヘリが海自の護衛艦に水平距離で約90メートルまで接近。日本側の事実関係確認の申し入れにもかかわらず、21日にも同様のことが起きた。

 しかし、中国政府は「日本側の警戒監視活動に対する必要な防衛措置だ」と反論した。また、国営新華社通信系の国際先駆導報は「海洋国家日本は中国海軍の動向に敏感で、神経質でもある」と論評。「日本は中国の軍艦が頻繁に外に出ることに慣れるべきだ」と逆に日本をいさめるかのようだ。

 今回の遠洋訓練について、中国の解放軍報は「総合防衛能力を高める、まれに見る規模、複雑な環境での訓練」と位置づける。メディアを利用し既成事実を積み重ねる「世論戦」、相手の士気を低下させる「心理戦」、法律を駆使して国際的支持を得る「法律戦」の「3戦」の訓練をするとも報じた。

 一連の事態は中国海軍の想定の範囲内で、訓練には日本の反応を試す狙いもあったと見るのが自然だ。であればなおさら、日本側の申し入れを無視した対応は認めるわけにはいくまい。まさに日本の対中外交力が問われる。

 日中は戦略的互恵関係の構築を共通目標にしている。防衛面では対話や交流の強化を通じ、地域の安定に向けて尽力することを約束。偶発的な衝突事故を避けるために、相互の連絡メカニズムの整備を目指している。

 しかし、鳩山政権は、日中政府間での危機管理や軍事問題をめぐる協議に十分力を注いでいない。

 太平洋をはじめ外洋での活動を広げる中国海軍は、世界の反発を招かないふるまいをするべきである。

 日本政府も日米安保を基軸としつつ、中国に信頼醸成づくりを迫らなければならない。

またまた新党―「第三極」への道は遠い

 これでは「選挙互助会」とみられても仕方あるまい。

 舛添要一前厚生労働相がきのう旗揚げした「新党改革」である。舛添氏以外の参院議員は、今年夏に改選期を迎える。各種世論調査で「首相にふさわしい人」のトップにあがる舛添氏の人気にあやかって生き残りを図ろうという狙いは明らかだ。

 新党は「清潔な政治」「誰もが参加できる政治」を掲げ、企業・団体献金の廃止や国会議員の定数半減などを政策の柱に据えた。ただ、幹事長に就いた荒井広幸氏は、かつて郵政民営化反対の急先鋒(きゅうせんぽう)だった。構造改革推進派の舛添氏とは水と油の関係ではないのか。理念や政策より数合わせを優先したと考えざるを得ない。

 しかも、新党は舛添氏らが荒井氏らのつくる改革クラブに入党した後に党名を変更する形でスタートした。政党助成金欲しさが透けて見える。

 有権者の政党離れに一層拍車がかかりそうな門出の風景である。知名度の高い舛添氏を担いだだけで支持を広げられるほど、有権者は甘くあるまい。

 人気者を失った自民党だが、過激な執行部批判を繰り返してきた舛添氏は党内で孤立気味だった。今のところ、さらに新党に同調する議員はいない。

 野党転落後、自民党からは鳩山邦夫、与謝野馨両氏ら閣僚経験者を含む13人が五月雨式に離党した。舛添氏で「出血」はひとまず止まったと見ていいようだ。党内には「残った者で一致協力する態勢ができた」との声もある。しかし楽観できる状況ではない。

 止血し、傷口をふさぐのは当然としても、しょせん応急処置にすぎない。衰えた足腰を鍛え直し、体力を十分に回復させるには、相当な時間がかかることを覚悟しなければならない。

 近年の自民党は安倍晋三、麻生太郎両氏など、人気優先のトップ選びで失敗を繰り返してきた。「舛添カード」喪失を痛手とみるのではなく、逆手にとるくらいのつもりで、党再生への地道な取り組みにつなげるべきである。

 政権交代後、「たちあがれ日本」「日本創新党」、そして今回の「新党改革」と、旗揚げが相次ぎ、乱立の様相を呈している。

 参院選での民主党の過半数割れを誘い、キャスチングボートを握って、あわよくば政界再編につなげたいという狙いは共通する。

 しかし、民主、自民の二大政党がくみ取れない民意の受け皿となるには、どの党も力不足である。くっきりした理念・政策や、未来を感じさせる清新さが、決定的に欠けている。

 現行制度の下では、「第三極」となるべき政党の存在意義は小さくない。その役割を果たすには相応の覚悟と、したたかな戦略がいる。でなければ、過渡期のあだ花に終わるしかない。

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