きょうの社説 2010年4月24日

◎河北門完成 「平成の築城」推進する弾みに
 金沢城公園に河北門が復元され、菱櫓・五十間長屋と石川門に囲まれた三の丸が藩政期 の姿をほぼ取り戻した。風格ある城郭建築物が増えたことで、周囲の石垣群なども、より歴史の重みを増したように感じる。金沢城の輪郭を整えていくことは、歴史や文化を生かした地域づくりの象徴的な取り組みといえる。河北門の完成は、その意義をあらためて確認する節目でもある。

 これからは玉泉院丸跡庭園の復元など、当面の整備事業の軸足は広坂側に移ることにな るが、将来的な課題として、辰巳櫓や二の丸御殿などの復元も位置づけられており、「平成の築城」はまだ道半ばである。整備方針が定まった事業を着実に実現させるとともに、次の方向性を見いだす研究、調査についても、手を緩めず、同時並行で進めていきたい。

 2001年に完成した菱櫓・五十間長屋・橋爪門続櫓は、史実を尊重し、匠の技を結集 した城郭復元例として高い評価がなされてきた。河北門はそれに続く復元となる。戦後に鉄筋コンクリートの天守閣などが各地でつくられ、城郭復元には一部で慎重な見方もなされてきたが、本物志向の整備手法であれば、城跡の歴史的、文化財的価値を高めるという認識は、河北門の完成でさらに定着してきたのではないか。

 金沢市内では、金沢城跡をはじめ、前田家墓所や辰巳用水が国史跡になった。主計町も 国重要伝統的建造物群保存地区に選定された。卯辰山山麓寺院群や土清水塩硝蔵の調査も進んでいる。藩政期以来の手持ちの財産を文化財にする取り組みは軌道に乗ってきたが、「城下町」のかたちが整ってくれば、そのシンボルである城を城らしくする視点はますます大事になる。

 昨年度の兼六園の入園者約183万人に対し、金沢城公園は約101万人だった。兼六 園を訪れても、金沢城公園に足を運ばない人が多いということだろう。「日本三名園」の兼六園が一つの完成された空間なら、金沢城は今後も変化を続ける「進行形の文化財」といえる。それだけに、百年後も見据えた「次の一手」は極めて重要な意味を持つ。

◎相次ぐ強制起訴 制度定着を占う試金石
 兵庫県明石市の歩道橋事故に続き、尼崎JR脱線事故でも、検察審査会の議決に基づく 強制起訴がなされた。裁判員制度とともに、「民意」を生かす司法改革が本格的に動き出したが、強制起訴には、法解釈を広くとらえた刑事責任の追及に専門家の間で懸念も生じている。鳩山由紀夫首相や小沢一郎民主党幹事長の政治資金をめぐる問題でも検察審査会で審査が続くなか、2件の公判の行方は、制度の定着を占う重要な試金石となる。

 改正された検察審査会の議決制度は、検察庁が不起訴を決定しても、2回の起訴議決が あれば公訴を提起できる。日本の刑事裁判の有罪率が99%であるのは、有罪が確実な事件に絞って検察が起訴してきたからである。そこに市民感覚を反映させ、プロだけの視点を補強する狙いがある。

 発生から5年を迎える尼崎JR脱線事故では、検察が不起訴にした歴代3社長が業務上 過失致死傷罪で強制起訴された。事故の背景にはJR西日本の組織的な問題があるという遺族側の思いに添った判断である。過失責任を歴代トップにまで広げ、企業風土を問う異例の裁判となる。

 9年前の明石市の花火大会で起きた歩道橋事故では、当時の明石署副署長が今月20日 に強制起訴された。「警備計画の立案段階で事故は予見できた」と主張する遺族らが審査を申し立て、警察幹部の起訴にこぎ着けた。公訴時効の成否も争点になるとみられ、こちらも立証のハードルは高い。

 裁判を通じて真相を明らかにしたいという市民感情は十分に理解できるものである。だ が、強制起訴だからといって、有罪の可能性が高まるわけではない。公判が証拠に基づいて厳格に行われるのは当然である。

 検察が起訴を見送った事件を裁判にかけるのは容易ではない。検察官役となる指定弁護 士の立証活動も手探りの面が多い。過失責任の範囲をめぐり、判決が示す物差しは制度の方向性を大きく左右するだろう。裁判員制度と同様、公判で浮かび上がる一つ一つの課題を丁寧に検証していきたい。