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支局長からの手紙:書くこと 読むこと /岡山

 「公共企業体や大小さまざまな会社、あるいは各学校などの、例の『--○○年史』という出版物を読むのが趣味である。とにかくおもしろいのだ」

 井上ひさしさんが編者になった「欲シガリマセン欲しがります」(86年新潮社)は、井上さんのこの一文から始まります。「とにかくおもしろい」たくさんの「○○年史」から、井上さんは開戦前後から敗戦前後だけを拾い上げ、この本にまとめました。

 「各種の、さまざまな団体が、この未曽有の難局をどのように生きのびたか、それをお読みいただくことで戦後史をどこからはじめるのがもっとも妥当か読者諸賢にお考えいただきたかった」。井上さんは続けます。

 「この十数年は、昭和二十年八月十五日前後をもって戦後史をスタートさせるという論者が圧倒的に多い(中略)それでは今度の戦争のせいで死んで行った方々がただの統計上の数字で処理されてしまうから困るのである。死者たちは数字ではない。現実に血を流し、苦しみに身悶(みもだ)えしながら『生きたい、生きたい』と念じつつ死んで行ったのである。死者たちのその無念さを追体験しつつ戦後日本をどう経営するかを考えようとすれば(中略)死者たちがまだ溌剌(はつらつ)たる生者であった頃(ころ)、少なくとも開戦前後からはじめる方が作法にかなっている。そこまでさかのぼってはじめて、敗戦を終戦と云いかえたり、占領軍を進駐軍とゴマカスことが、どれだけ重大な精神的疾患なのかに気づくことができるだろう」

  ◇

 「戦後史をどこからはじめるのか」と題したこの小文を読み返しても、言葉について「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく……」と念じた井上さんの世界の確かさ、人間への思いが伝わってきます。

  ◇

 さて、新人の五十嵐朋子が当支局に着任し、あちこちの取材先でお世話になっています。以下は一歩ずつ「書くこと」を始めた本人からのあいさつです。【岡山支局長・松倉展人】

  ◇

 海のない群馬で生まれ、大学時代を東京で過ごしました。海の幸のおいしさが、岡山の最初の印象です。

 記者を目指したのは韓国人の友人がきっかけです。仲の良い飲み友達でしたが、ある日、日韓の歴史問題について話し、彼女が日本に対して抱いている憤りを知りました。「戦争や歴史について考えている日本人には、一人も会ったことがない」の言葉は心に強く残り、私の知らないところで、想像もつかない思いを抱えている人がいるのだと痛感しました。そのような「死角」を埋められる仕事が記者と考えました。

 2年間就職活動をしました。1年目はさまざまな職種で数十社を受けてすべて落ち、2年目は補欠合格で滑り込みました。まずは社会に出て働けることへの感謝でいっぱいです。よろしくお願いします。【五十嵐朋子】

毎日新聞 2010年4月18日 地方版

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