Catherine Arnst (BusinessWeek誌シニアライター、ニューヨーク)
米国時間2009年1月11日更新 「A Tobacco-Style Tax on Fattening Drinks」
この記事を執筆するきっかけになったのは、米海軍の元軍人で元電気工事請負業の、米ノースカロライナ州ヘンダーソンビルに住むBusinessWeek読者チャールズ・ウェーバー氏の意見だ。
ジャンクフードへの課税は肥満問題への有効な対策となるだろうか。物議を醸すこの方策は、まだ実行されたことはない。だが財政破綻の危機と肥満率の上昇に直面する中、世界各国の議会・政府が「肥満税」と呼ばれる新税の導入を真剣に検討し始めている。
とりわけ積極的なのが米ニューヨーク州のデビッド・パターソン知事で、2009年度から高カロリーの炭酸飲料や砂糖入り果汁飲料の販売価格に18%の税を課すことを提案している。これにより、4月からの新年度には4億400万ドル(約360億円)、それ以降は年間5億3900万ドル(約480億円)の歳入を確保でき、その全額を肥満対策の公衆衛生プログラムに充てるという。
パターソン知事の提案は既に清涼飲料業界から猛反対されているが、もし実現すれば、こうした大規模な課税は世界初となりそうだ。とはいえ肥満税という考え方は、英国の野党保守党のデビッド・キャメロン党首、米サンフランシスコのギャビン・ニューソム市長、フランスの税制当局、カナダやオーストラリア、アイルランドの一部地域の政治家など、様々な方面で支持が徐々に広がっている。
実際には、パターソン知事の課税案は全く前例のない試みというわけではない。米イリノイ大学シカゴ校(UIC)の保健政策研究所(IHRP)が最近行った調査によると、少なくとも全米27の州で、自動販売機での販売を中心に、砂糖菓子や炭酸飲料、焼き菓子などのジャンクフードに7〜8%の税を課している。価格1〜2ドル程度の食品ではほとんど気づかない額だ。
15年前から議論の対象に
だが景気後退で各州の財政事情が火の車となる中、炭酸飲料や健康的でない食品への大規模な課税策はより魅力的に見えるはずだ、と米エール大学のラッド食料政策・肥満対策センター所長、ケリー・D・ブラウネル教授は語る。「近頃は多数の州議会議員から相談を受ける。導入は時間の問題だろう」。
ブラウネル教授はこの件に関してあまり中立的な立場とは言えない。こうした施策を最初に提唱した人物の1人で、15年前に米ニューヨーク・タイムズ紙に寄稿した論説文で肥満税を強く訴えた。以来その案は、食料政策関係者の間で大きな論議を呼んできた。
反対派は、肥満税で低所得者層の税負担が不当に重くなり、痩せているのにたまたま炭酸飲料や砂糖菓子を好む人にとっては不公平となるうえ、肥満を引き起こす複雑な要因の解決にはつながらないと主張する。業界団体の米国飲料協会(ABA)はパターソン知事の課税策に徹底抗戦の構えで、炭酸飲料への課税は「中流家庭の税負担を増し、ニューヨーク州全体で何千人もの雇用を脅かす、理不尽な行為だ」と糾弾する。
しかし、不健康な食品・飲料の価格を引き上げて消費を抑えるという案は、2つの社会動向を背景に、少しずつ支持が広がっている。それは、肥満税に類似したたばこ税の成功と、肥満率の急増だ。肥満(体重を身長の2乗で割ったBMI=肥満度指数=が30以上)と判定される人の割合は、1995年には米成人の約14%だったが、現在は30%を超えている。
喫煙を抜いて死亡原因トップに?
米成人の実に3分の2、子供や青少年でも3分の1が軽度の肥満(BMI=25以上30未満)または完全な肥満だ。米疾病対策センター(CDC)の推計によれば、米国での肥満による直接的な医療費支出は900億ドル(約8兆円)を超える。
米民間調査機関の全米産業審議会(コンファレンスボード、CB)は昨年4月、従業員の肥満に関連して企業が被る医療費負担と損失労働時間を、年450億ドル(約4兆円)と試算している。
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