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社説

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元秘書有罪―首相の「決着」はまだ先だ

 鳩山由紀夫首相の政治資金問題に、司法の裁きが下った。

 首相個人や母から提供された巨額の資金を個人献金などに偽装していたとして、首相の金庫番だった元公設第1秘書が有罪判決を受けた。ずさんな資金管理であり、当然の結論だろう。

 収支報告書への虚偽記載は5年間で約4億円にのぼる。資金の出どころは親族らであり、元秘書側は「癒着や政治腐敗を招くおそれはない」と主張したが、カネの流れを透明化して国民の監視下に置くという政治資金規正法の趣旨に反していることは言うまでもない。

 とりわけ問題とされたのは、「母からの子ども手当」と揶揄(やゆ)された毎月1500万円の資金提供だ。一切知らなかったという首相の言が仮に本当だとしても監督不行き届きは明白である。

 しかも首相は新人議員のころから政治資金の透明化を訴えていた。自らの資金管理を長年、秘書任せで何も知らなかったでは通らないのではないか。

 首相は先週、支持者らに「来週すべてが決着しますから、それ以降はご心配はいりません」と語ったが、およそ間違った認識だ。首相には、これからやるべきことがたくさんある。

 まずは使い道を明らかにしていない残りの資金を何に使ったのか、それを明らかにすることだ。

 首相は、元秘書の裁判が終わり、東京地検に押収されていた資料が返還されれば、弁護士に分析させ、結果を公にすると約束してきた。

 それなのに、先の党首討論では「資料を提出する必要はない」と発言を後退させた。

 何も私的な使い道まで示せと言っているわけではない。政治や選挙活動にかかわる支出について開示を求めているのだ。疑念を払拭(ふっしょく)するために、一日も早く実情を報告すべきである。

 企業・団体献金の禁止に向けた与野党協議はいまだ開かれていない。今国会中に実現するには、野党が条件として求めている元秘書らの証人喚問などに応じる必要がある。「国会でお決めになること」といった言い訳はもう聞きたくない。

 野党時代、政権与党の政治とカネの問題を厳しく追及してきた民主党が、いざ当事者となった時にどう振る舞うのかを国民は注視していた。

 ところが元秘書に責任をかぶせて自らはけじめをつけず、証人喚問からも逃げる。過去の多くの自民党政治家と変わらぬ姿が不信を深めた。政権交代への失望を招いた首相の責任は重い。

 首相は「政治を変えてほしいという国民の期待に応えることで責任を果たす」として辞任論を否定してきた。政策面での相次ぐ迷走を見るにつけ、その言葉もむなしく響く。

 元秘書の判決は幕引きではない。

高速料金迷走―ご都合主義で、小手先で

 またか、である。

 6月に導入予定の高速道路の新料金について、政府・民主党が決めた「見直し」方針が一夜にして覆った。当面は見直さないことにするという。

 鳩山政権の政策決定の迷走には、いい加減うんざりさせられる。米軍普天間飛行場の移設問題しかり、郵政民営化の見直ししかり。

 新料金は、高速料金割引の財源として高速道路会社に投入された税金約2.5兆円のうち、約1.4兆円を道路整備に回すために決められた。

 曜日にかかわらず、普通車2千円など、車種に応じて上限を定める。しかし、「休日上限1千円」など、現行の割引制度が廃止されるため、近距離を走る車にとっては実質値上げとなる。

 民主党がマニフェストで約束したのは高速道路の無料化だ。小沢一郎幹事長らから「無料化のはずが値上げとは」と反発の声があがった。

 鳩山内閣の支持率が30%を切るなど、民主党にとって夏の参院選は、ただでさえ強い逆風が予想される。

 これ以上、有権者の不興を買いたくないということだろう。鳩山由紀夫首相と小沢氏が出席する政府・民主党首脳会議で、小沢氏が再考を求め、いったんは見直しが決まった。

 小沢氏の「鶴の一声」で政府方針が変わる。どこかで見た光景だ。

 昨年末、財源不足で予算編成に苦しむ政府に対し、小沢氏が暫定税率廃止の見送りなどを求め、予算の骨格が決まった。あの時と同じではないか。

 民主党政権の金看板「政策決定の一元化」はこれで完全に崩れた――。そんな批判への配慮もあったのだろう。結局、前原誠司国土交通相が鳩山首相らと会談し、現時点で料金は見直さないものの、国会論議を踏まえた将来の修正に含みを残すことで一元化の建前を辛うじて守った。

 政府が一度決めたことでも、国会での議論を踏まえて柔軟に修正するということは、新しい政治のありようとしてあっていい。

 しかし、今回のケースは、政府・与党間の事前の意思疎通の悪さや、選挙対策のご都合主義ばかりが目につく。

 そもそも、割引財源を道路整備に回すよう政府に求めたのは、他ならぬ民主党だ。参院選に向けた地方対策の思惑があったに違いない。

 本来、この発想自体がおかしい。「コンクリートから人へ」という政権の理念にも反する。料金体系の整理で財源が余れば、国庫に戻すのが筋だ。

 今後、料金見直しがあるにしても、道路整備に当て込んだ財源の一部を戻し、割引範囲を少しでも拡大するという程度に終わるだろう。これも選挙目当ての小手先の修正というほかない。

 鳩山政権の統治能力に、また一つ疑問符が加わった。

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