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【第168回】 2010年4月13日 週刊ダイヤモンド編集部
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「トヨタに残された最大のリスクについて語ろう」
企業賠償責任の専門家トム・べーカー ペンシルベニア大学教授に聞く

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―豊田社長が米議会公聴会で証言したのは効果的だったか。

 豊田社長がはるばる日本からやって来て公聴会で証言したことは、議会も米国民の多くも評価したと思う。私も評価したし、豊田氏が何を話すかに大きな関心をもった。ただ、個人的な感想としては、謝罪を繰り返すよりも、不具合の原因や情報の隠蔽など人々が最も知りたいと思っていることをもっと積極的に発言した方がよかったと思う。

―「豊田社長の謝罪は訴訟で不利になる」との指摘もあるが。

 私はそうは思わない。この訴訟でカギになるのは、トヨタが問題を知りながら対応を渋ったのかどうかということ、それにトヨタ車の市場価値の下落による損害がどのくらいになるかだ。後者の問題はトヨタの広報戦略いかんにかかっているが、その面でいえば社長が公聴会で米国人消費者に謝罪したのは非常によかったと思う。

 米国で急増している医療過誤訴訟でも最近、医師が謝罪するケースは増えている。医師が真摯に謝罪することで家族の心が癒されたり、怒りがおさまったりして裁判にプラスに作用することが少なくないからである。

―訴訟の賠償総額はどのくらいになると推定されるか。

 事故の死傷者の損害賠償責任は免れないだろうが、それでもトヨタの経営を圧迫するほどの額にはならないだろう。賠償金は死亡者一人当たり500万~700万ドルぐらいが妥当と思われるが、50人として合計数億ドル。一部に報道されている一人当たり数千万ドルというのは非常に稀なケースである。

 トヨタに対しては株価下落の損害賠償を求める株主集団訴訟も起こされている。これは米国でよくある訴訟だが、実は原告側が勝利するのは非常に難しい。トヨタのケースでも、「会社側が意図的に情報を操作・隠蔽した」などの証拠が出てこない限り、原告側が勝つのは難しいだろう。

 いまのトヨタにとって最大のリスクはやはり、トヨタ車のオーナーによる市場価値下落の損害賠償を求めた集団訴訟である。

 集団訴訟は解決まで長くかかるので、問題は2年後ぐらいに和解するタイミングがきた時、トヨタ車の評価額がどうなっているかだ。もしトヨタがうまく問題を解決して消費者の信頼を失わないようにすれば、市場価値はそれほど下がらないだろう。だからこそ、トヨタはこの問題に関するすべての情報を自主的に開示した方がよい。トヨタが隠していた情報が裁判のなかで少しずつ明らかにされるというのは最悪で、もしそうなれば消費者はけっしてトヨタを信頼しないだろう。 

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