羅臼町で今月、常勤医が一人もいなくなる可能性が一時生じたが、道内の他の小規模自治体も綱渡りの医師確保を迫られている。道は医師派遣の協議会を設置するなどの対策を講じているものの、十分に機能していないのが実情だ。関係者からは、新たな医師の供給制度や、過疎地の医療に求められる「総合医」の養成を望む声も上がっている。【堀井恵里子、本間浩昭】
■「恐怖感じる」
羅臼町国民健康保険診療所は、もともとは48床の入院病棟を持つ医療法上の「病院」だったが、過疎化などで08年4月から19床の「診療所」に縮小。医師、看護師の確保難から入院病棟は休止していた。町内唯一の医療機関で、09年4月から常勤医は所長のみの1人体制。その医師が今月18日で退職し、常勤医のいない自治体となる恐れもあったが、6月末までの期限付きで北広島病院前理事長の竹内實氏の赴任が決定した。
心臓の持病で2週間に1回、羅臼町国保診療所に通っている同町富士見の福家(ふけ)義秋さん(84)は「医者がいなくなるということは命にかかわることで、切実な問題。地域住民としては恐怖を感じている。今回は(休診にならず)首の皮一枚つながったが、政府は地域医療についてもっと考えてほしい」と話す。
こうした町村内「常勤医ゼロ」の危機は、羅臼町に限ったものではない。
毎日新聞社の調べでは、常設の医療機関が1カ所しかない自治体は道内で少なくとも11町村あり、羅臼のほか豊浦、陸別、浜頓別、神恵内など8町村は常勤医が1人。豊浦町国保病院は60床のベッドを抱えるが、4月から常勤医は2人から1人に減り、週2日の非常勤医師を確保しても平日のうち3日を半日休診にせざるを得なかった。神恵内村の村立診療所は昨年10月に常勤医が退職し、5カ月間非常勤医師でしのいだ末、4月から常勤医を確保したばかりだ。
■派遣調整進まず
こうした地域医療の危機に、道も無策なわけではない。自治医科大卒の道職員医師を一定期間地域に派遣したり、過疎地勤務を条件に奨学金を出すなど医師確保に取り組んでいるほか、04年には関係機関で北海道医療対策協議会(医対協)を発足させ、病院の要望を受けて札幌、旭川両医科大から必要な診療科の医師を派遣する調整をしている。
だが医対協の調整では、10年度の22人の派遣要望に対し決まったのは4人。常勤医が1人になる豊浦町など3町も現時点では派遣できていない。道地域医師確保推進室は「医師の絶対数の不足や、医師の意向と合わないことが理由」と話す。
また自治体内の医療機関数や常勤医数について、同室は「分からない」としており、実態把握でも後手に回っている。
医師不足の背景には、臨床研修医制度が04年度に始まり、出身大学を離れて大都市の一般病院での研修を希望する新人医師が増えて大学病院が人手不足となり、過疎地へ医師を送れなくなった問題が指摘されている。
竹内医師は「医師を地域に供給する制度をきちんと作るべきだ」と指摘。さらに「今の医学教育は専門医ばかり養成している。羅臼のような(広い知識が必要とされる)土地に行っても対応できない」と、十分なプライマリーケア(初期診療)能力がある総合医養成の必要性も訴えている。
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■道医療対策協議会による今年度の医師派遣調整結果
《札幌医科大から派遣》
人数 診療科
今金町国保病院 1 (内科)
八雲総合病院 1 (小児科)
長万部町立病院 1 (内科)
幌加内町国保病院 1 (内科)
合計 4
《現時点で決まらず》
松前町立松前病院 2 (内科、外科)
木古内町国保病院 2 (内科)
市立小樽病院 1 (整形外科)
黒松内国保病院 1 (内科)
市立美唄病院 2 (内科)
市立赤平総合病院 3 (内科、整形外科)
豊浦町国保病院 1 (内科)
礼文町国保診療所 1 (内科か外科)
枝幸町国保病院 1 (外科)
斜里町国保病院 1 (内科)
町立厚岸病院 2 (内科、外科)
市立根室病院 1 (消化器内科)
合計 18
毎日新聞 2010年4月23日 地方版