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【オピニオン】冷え込む米日関係 - ジャパン・バッシングならぬ「ジャパン・ディッシング」

マイケル・オースリン

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 50年以上にわたる米日同盟において、日本政府と米国政府は、互いに称賛し合ったり、非難し合ったり、無視し合ったりと、驚くほど多くのさまざまな局面を経てきた。そして互いに拒否し合っているのが、今だ。

 この米日関係のサイクルが始まったきっかけは、1970年代の「ニクソン・ショック」だ。ニクソン米大統領(当時)の中国訪問と変動為替相場制の開始によって、日本は政治的に不安定かつ経済的に弱い立場に追い込まれた。

鳩山首相 Via Bloomberg

 80年代から90代初頭にかけては、貿易摩擦が過熱化し、貿易戦争の脅威や制裁措置、保護主義の台頭によって両国関係は損なわれることとなった。日本が次の超大国と化すのではないかとのつかの間の脅威によって、『ザ・カミング・ウォーズ・ウィズ・ジャパン「第二次太平洋戦争」は不可避だ』といった、はらはらさせるような(しかし、完全に誤った認識の)タイトルの本が次々と出版された。日本人の間では、この時期は「ジャパン・バッシング(日本たたき)」の時代と呼ばれている。

 90年代に入ると、両国関係は「ジャパン・パッシング(日本外し)」の時代へと移行する。米国の強欲な視線は、日本を離れ、新たに超大国へと成長しつつある中国へと向けられるようになる。

 98年、当時のクリントン米大統領は中国を訪問し、9日間も滞在したにもかかわらず、東京には立ち寄ることさえしなかった。これによって、日本は、日本の時代が正式に終わったことをようやく理解した。政治家や世論形成者にとっては、多くの意味において、無視されていると認めることは、たたかれることよりもつらい。バッシングであれば、少なくとも反撃のチャンスはある。

 そして今、日本政府と米国政府は新たな時代に突入した。わたしは、この時代を「ジャパン・ディッシング(日本切り捨て)」と名付けたい。鳩山新政権は、自らの主要パートナーに対してさまざまな失策を犯し、一貫した政策を示すこともできず、オバマ政権から非難を買い、ますます無視されつつある。

 日本の政治エリートが、米政府の間で日本の評価がいかに下がっているかを知ったら、バッシングやパッシングの日々が懐かしく思えるかもしれない。日本は今、どちらも望ましくない選択肢から選ばざるを得ない「モートンの熊手」状態に陥っている。すなわち、米国に無視されるか、解決のしようがほとんどない問題とみなされるかの、いずれかだ。

 日本の政治家の多くは、こうした事態を招いたのは、06年に米日で交わした沖縄在日米軍の再編実施のロードマップを反故(ほご)にし、米政府が受け入れ可能な代替案を提示しない鳩山首相自身であることを理解している。さらに、オバマ大統領が鳩山首相に対する信頼感を失う上で最も決定的となったのは、鳩山首相はオバマ大統領に対して直接、問題を「解決する」と2回も約束していたことだ。

 鳩山首相は5月末までに代替案を提示するとしているが、日本でも、米国でも、誰もが満足できるような解決策を鳩山首相が突如見つけられるとは、ほとんど誰も思っていない。さらに、東アジア共同体の形成や気候変動問題で果たす日本の役割の拡大といった、鳩山首相が提唱する偉大な構想は、政治的な現実性のかけらもない。

 要するに、鳩山首相に対する信頼感はすっかりうせ、米政府高官はひそかに日本を見放す姿勢をますます強めている。米ワシントンDCで先週開催された核安全保障サミットでは、中国や韓国、シンガポール、マレーシアの各国首脳はオバマ大統領と親密で、実のある協議を行った。

 一方、鳩山首相は公式晩餐会でオバマ大統領の隣の席を確保したものの、政府高官筋によると両者の会話は順調に運ばなかった。その後、両国の官僚はいずれも良好な関係の維持を望んでいるとあわてて述べたが、オバマ政権の中には両国の関係がすぐに改善されると信じる者はほとんどいない。少なくとも鳩山首相が政権の座に就いている間は、あり得ない。

 ジャパン・ディッシングは、日本、米国、アジアのいずれにとっても好ましくない。アジア諸国は米国とその主要同盟国との関係を神経質に見守り、日米乖離(かいり)の兆しに鋭く反応している。

 一部の比較的小さな国は、鳩山首相が昨年提示した東アジア共同体構想に対して、とりわけ厳しい反応を示した。それが米国の排除を意図するものかのように見受けられたためだ。そうなれば将来的に、新たな多国間協定の合意において中国に圧倒的主導権を握られかねない。そうした事態を他のアジア諸国は警戒している。

 アジア各国が米国と日本の緊張の度合いを認識し始めていることを裏付けるかのように、わたしは先日、あるアジア主要国の首脳に直接、米国と日本の関係は実際どれほど悪化しているのかと聞かれた。

 両国関係の険悪化がこれほど気掛かりなのは、米国も日本も互いに協調する以外に現実的な解決策がないことだ。米国は、在日米軍なくして、アジア地域で確固たる軍事態勢を維持することは不可能だ。かといって、たとえ他のアジア諸国が米軍のアジア駐留をどんなに望んだとしても、代わりに米軍の受け入れを申し出る国があるとは思えない。

 そして日本はと言えば、第二次世界大戦から60年以上たった現在でも、いまだに米国以外の近隣諸国とは同盟を組めずにいる。米国との密接な関係が失われれば、日本は今以上に世界で孤立を深めかねない。それは、世界第2位の経済大国にとって健全なことではない。

 米日同盟の決裂は誰も望んでいない。だが、鳩山首相が事態を何とか一変させなければ、両国関係は確実に後方に追いやられてしまうだろう。これには、自らの政権の掌握と連立パートナーの抑制、沖縄県民との現実的な基本合意の形成を含め、政治的手腕が要求される。だが現在までのところ、鳩山首相はその手腕をまったく持ち合わせていないように見える。

 そうした政治的手腕が発揮されて初めて、鳩山首相は米政府と対等な協議ができる。だが、その時が来るまで、あるいは鳩山首相が辞任するまでは、数十年かけて築き上げられたアジアの安定と繁栄はジャパン・ディッシングによって脅かされ、既に多くの紛争に見舞われている世界にさらなる不透明さと緊張をもたらすことになりかねない。

(マイケル・オースリン氏は本紙のコラムニストで、アメリカン・エンタープライズ研究所の日本部長)

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