【コラム】北工作員逮捕と検察スキャンダル(上)

 恐ろしいことだ。うっかり忘れていたが、わたしたち韓国人は、いつでも我が国に工作員を送り込み、暗殺を企てる可能性がある「テロ体制」の隣で暮らしてきた。北朝鮮政権を告発し、韓国に亡命したファン・ジャンヨプ元朝鮮労働党書記も、閉鎖社会に嫌気が差し、亡命した故イ・ハンヨン氏(金正日〈キム・ジョンイル〉総書記の妻のおい)も、厳然たる韓国の国民だ。韓国に来て、韓国人になった人々を勝手に殺害しようとする「殺人者の隣人」がそばにいるという、驚がくの事実をあらためて思い知らされた。

 ところが、何かすっきりしない。検察がスパイ逮捕を発表したタイミングが、だ。ファン氏暗殺命令を受け、韓国に送り込まれ逮捕されたスパイ二人の逮捕状が請求されたのは、20日午後だった。偶然なのか、この日は検事腐敗の実態を告発する番組の放送日だった。

 もしや、これは検察が自らの恥部をスパイ事件で「目をそらさせようとした」のではないだろうか。今、インターネットやツイッターには、「検察が(検事の不正実態を取り上げた時事番組)『PD手帳』の放送日に合わせようと頑張った」と皮肉る書き込みが相次いでいる。スパイ事件自体よりも、検察の発表時期のほうが話題になるというありさまだ。

 哨戒艦「天安」沈没の渦中に摘発された今回の件は、非常に深刻で重大な安保関連事件だ。脱北者を装った北朝鮮の工作員が簡単に韓国に入り込み、暗躍する可能性があることを示しているためだ。しかし、奇妙な発表時期が誤解を呼んだせいで、北朝鮮の対韓国工作総本部が「ファン・ジャンヨプ氏の首を取れ」と命令したというスパイ事件の深刻さは埋もれてしまっている。

 検察がわざと発表時期を『PD手帳』放送日に合わせたとは思わない。検察と公安当局は純粋に捜査に全力を挙げただろうし、逮捕状請求の時期は単なる偶然で重なっただけだと信じたい。しかし、一見したところでは誤解されてもしかたがない状況になってしまった。今年2月から進められてきたスパイ捜査が、なぜこの日に決着し、検察の恥をさらす番組が始まる数時間前に公表(逮捕状請求)されたのか、疑惑を招くには十分だった。

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

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