「医療の値段」である診療報酬が今月から、10年ぶりに増額改定された。
増額分の8割近くを入院医療に配分。2回目以降の外来受診にかかる再診料は、診療所の710円を20円引き下げる一方、中小病院の600円を90円引き上げ、26年ぶりに690円で一本化するなど、「病院重視」の姿勢を明確に打ち出した。
勤務医の待遇改善で、医師不足が深刻な産科、外科、救急医療などを立て直すのが狙い。額の多寡や個別配分については不十分な点もあるが、「医療崩壊」の回避は緊急、かつ最優先の課題。目指す方向性は理解できる。
再診料引き下げの「補てん」の意味合いも込めて、24時間態勢で患者の電話相談に応じる診療所向け報酬「地域医療貢献加算」(30円)も新設されたが、青森で撤廃を求める決議が出るなど診療所側の反発は根強い。
国が目指す病診連携・在宅医療の推進には診療所の協力が不可欠。医療経済面でも、病院と診療所がともに地域医療の担い手として支え合える環境整備に、なお努める必要があるだろう。
一方、患者の窓口での支払いは、3割負担の場合の試算で、月平均7・8円増。患者にとって望ましい医療に近づく負担増でなければ、納得は得られにくい。
今回、受診内容や費用の詳しい内訳を記した「明細付き領収書」の無料発行が原則義務化された。患者自身がどんな治療を受けているか、ミスや無駄はないか、チェックする習慣をつけたい。難易度の高い手術報酬やハイリスク分娩(ぶんべん)管理の加算が増額された理由や、安価なジェネリック医薬品(後発薬)で支出を抑える工夫も考えたい。1枚の領収書は、日本の医療費の使われ方をそれぞれに見つめ直すいい契機になるだろう。
診療報酬論議はあまりに専門的なため、これまで中央社会保険医療協議会(中医協)任せだった。しかし、厚労省の審議会「がん対策推進協議会」の提案書が昨年、参考資料として中医協の場で提示、議論されるなど、患者や医療現場の声を改定のプロセスに生かす試みも始まっていることは、注目に値する。
約千人の意見を集約した2011年度の提案書「みんなで作るがん政策」は早くもきのう、長妻昭厚生労働相に手渡された。2年後の次回改定に向け「がん医療の質の“見える化”」「相談支援センターと患者団体との連携」など具体的な29施策を提言しており、今後はがん以外の分野にも拡大、応用が期待される。
診療報酬は、患者が求める医療の実現を後押しできる恒常的なインセンティブ(動機づけ)。成立過程や数字を、関心を持って注視したい。