ちょっとした表示ミスなどで食品が捨てられる「食品ロス」が相変わらず多い。健康に害がなくおいしく食べられるのに捨ててしまったらさすがにもったいない。現状を見かねた消費者団体が回収・廃棄を減らす「食のリコールガイドライン」を提案している。捨てなくてすむものなら--。無駄な廃棄を減らす知恵はないだろうか。【小島正美】
企業による食品の自主回収・廃棄は、菓子や肉製品などの食品偽装が相次いだ2007年から急に増えた。農林水産消費安全技術センターの集計では、07年の自主回収件数は前年の3倍以上の770件に膨れ上がった。翌08年は845件とさらに増え、昨年は723件と減らない。内訳は、不適切表示が361件(約50%)で最も多く、品質不良96件、基準違反など87件、異物混入53件が続く。
「廃棄は当然なのだろうか」。そんな疑問から、日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会常任理事の古谷由紀子さんらは食品産業センターのホームページに載った531件(08年6月~09年10月)の自主回収について、健康危害と法律違反の有無の観点から、四つのグループに分けた。そのうえで、回収・廃棄の必要度を独自にチェックした。古谷さんらの分析では、異臭、液もれ、賞味期限切れ販売など「健康危害がなく、法律違反もない」ケースが176件(約33%)あった。
また「健康危害は想定されないが法律違反」は185件あった。原材料の表示ミスや食品添加物の不適切な使用などだ。原材料の順番が間違って表示され、多い順の表示を義務づけたJAS法違反のチョコレートも回収され、古谷さんは「単純違反なら回収の必要はないのでは」と話す。
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食品の残留農薬はどうだろう。日本では基準値を少しでも超えれば、食品衛生法違反で販売禁止となり、回収・廃棄となる。ドイツなど西欧では残留農薬が基準値を超えても、健康への影響がないと判断されれば、回収されていないという。
米国では、ガラス破片のような異物が食品中に見つかると、米食品医薬品局(FDA)の規定で大きさが7ミリ以上だと回収義務が生じるが、それ以下なら回収されない。日本では、異物が見つかれば大半が自主回収され廃棄されている。
古谷さんらは回収するかどうかの目安を定めた「食のリコールガイドライン」の試案を作成した。回収基準のポイントは健康への害が想定されるかどうかだ。資金力のない小企業は回収で大きな打撃を受けるが「食品リコール法を制定し国が回収目安を示すのが一番いい」と消費者庁に要望する。
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単純な表示ミスでも流通業者が店頭から自主回収してしまうケースが多いが、全国消費者団体連絡会・食品安全担当の菅いずみさんは「単純な表示ミスなら買う、買わないは消費者の選択に任せてほしい」と話す。店頭で看板などを掲げ、その旨を知らせればよいという。長田三紀・東京都地域婦人団体連盟事務局次長は「消費者庁のホームページに載せることはできないか」と提案する。危険性だけでなく、回収不要なケースも分かるからだ。米国や欧州連合(EU)は事前登録者に携帯電話で配信している。「消費者庁もできるはずだ」(古谷さん)
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■食のリコールガイドラインの骨子
<1>回収の判断基準は健康危害があるかどうかで決める
<2>回収する判断の主体は事業者とする
<3>事業者は無駄な回収を防ぐため、情報開示に努め、説明責任を果たす
<4>事業者と行政はあらゆる手段を使って、消費者への情報伝達を心がけ、適切な行動を促す
<5>マスコミの活用など資金力のない企業でも回収できるような方法を考える
<6>適切な回収ができ、消費者が冷静に判断できる目安となるデータベースをつくる
(日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会の古谷由紀子さんらが提案)
毎日新聞 2010年4月22日 東京朝刊