中本STDに聞く ホンダは、大丈夫か?
Feb 20, 2007 開幕まで1カ月を切った。スペインを中心に行なわれているシーズンオフテストのタイムをみる限り、今年のホンダは不振に見える。テスト会場のサーキットのパドックからは、マクラーレンやフェラーリ、そしてルノーやBMWザウバーの好調は伝わってくるが、「ホンダのいい話」は聞こえてこない。
2月19日に、ホンダ・レーシングの合同発表会で、中本シニアテクニカルディレクターに、胸の内を直撃した。果たしてホンダは、大丈夫か?
「一発アタックは全然意味がない」
--シーズンオフのテストが芳しくないように見えますが、状況をどうみていますか?
中本 みなさんご存じのようにタイムが出ていません。その理由は実に単純です。
--それは?
中本 クルマがよくない(笑)。いや、ラップタイムの差というのは相対的なものですからね。(ライバルチームを)観察していると、“このタイムは(燃料を少なくして重量を)軽くして出しているな”というチームもあって、そこは気にしていないですが、ルノーさんとか、ロングランばっかりやっていて、その中でのタイムなので、それを考えると、もう一頑張りしていかないと、と思っています。
--一発のアタックよりロングランを、と。
中本 一発のアタックは(今の時期は)全然意味がないと思っています。うちが一発アタックやったのは、2004年のバルセロナのテストくらいで、あとはやってません。
「フェラーリ、ルノー、マクラーレン、そしてうち」
--速くないのはどんな部分ですか?
中本 いろいろなところです(笑)。最重要課題にしているのは、ブレーキングスタビリティ(安定性)と、ストレートスピード。新車を出した直後(1月25日に発表)は、高速コーナーでオーバーステアで低速コーナーでアンダーステアとうい問題が出ていましたが、それは風洞のテスト結果から承知の上だったので気にしていなくて、その対策品を投入して、カーバランスは80%くらい解決できているかな、と。
--ブレーキのスタビリティとストレートスピードという大きな問題については、解決の糸口は見えていますか?
中本 空力でピッチング方向の変化具合を小さくしていってあげると、ブレーキングスタビリティもよくなっているし、ブリヂストン用に対策したリヤサスペンションの部品などを、逐次入れつつ改善しています。
--去年までのミシュランから今年は、特性の違うブリヂストンに変わりました。
中本 その対応策ですね。あとは、サスペンションの剛性などを含めてやっていけば、目標を達成できるんじゃないかな、と考えています。
--開幕戦に間に合いますか?
中本 やれるところは、どんどんやってますが、そこはもっともっと知恵を絞って改善していかなければならないですね。去年の後半のフェラーリみたいに、ストレートはバカッ速くて、“ビュン”、とブレーキングで入っていくようなクルマにしていかなければいけないですから。
--テストの経過から、やはりフェラーリが有力ですか?
中本 ですね。
--安定している、と。
中本 僕が言っているのはロングランペースの話ですから。ロングランペースでいくと、フェラーリが速くて、ルノーさん、マクラーレンさんがそれに続いていて、その次くらいにうちがいるかな。
--BMWザウバーはもよさそうですが。
中本 BMWは、ロングランをやらないのでわからない。5周とか6周とかのタイムですから。
--耐久信頼性に問題を持っている、という話もあります。
中本 それは解決してくるだろうし、次のバーレーンでは必ずロングランをやるでしょうから、そこでわかると思います。クルマは去年と大して変わっていないですが、けっこう速く見えますけどね。
--他では注目するチームはありますか?
中本 レッドブルが最近ロングランが速くなってきていますね。
「今年は、実力で複数のレースで勝ちたい」
--去年のハンガリーGPの勝利が実力ではない、とおっしゃっていました。
中本 今年は実力で数回、勝ちたいですね。
--いつごろに期待していいですか(笑)。
中本 まぁ、開幕戦ではないな、と(笑)。今は、まだ時間との競争ですから。コレ作ってアレ作って、と、やらなければならないリストがたくさんあるけれど、開幕に間に合うのはその中の1/3くらいですから。
--去年の6月にシニアテクニカルディレクターになってから、チームはいい動きになっていますか?
中本 私が図面を引いたりする訳ではないですが、それぞれの責任者が自由闊達に縦に横に仕事ができるようにするのが私の仕事ですが、かなり、ホンダイズムが浸透していると思います。チャレンジするし。
--スタッフが変わったのですか?
中本 外観を含めて今年のクルマは違いますが、やっているスタッフは、チーフデザイナーもチーフエアロダイロミストも同じです。作り屋も同じですが、「失敗してもいいから自由にやってごらん」というと、あぁいう失敗作ができてくるんですよ(笑)。
--でタイムが悪いんですね(笑)。
中本 冗談ともかく、HRF(ホンダレーシングF1チーム)のブラックレイは、数多くあるホンダの組織の中でも、ホンダイズムが浸透してホンダっぽく仕事していてるという意味で、一、二を争うと思います。“そこまでやるか”という勢いだし、作り屋さんたちは、新しく入れたマシン(工作機械)が、週7日1日24時間稼働していますから。「間に合わせるんだ」、と言ってね。コンポジット(組み立て)もそうだし。でも、私は、出ろ、とはいわないで、「このパーツが今あったらいいなぁ」と言うだけです(笑)。
--風洞が週7日24時間と言われますが。
中本 それをかなりの部署でやっています。
--いい流れになっている、と。
中本 いい感じだと思います。ただ、いっぱい変えたので、いいところも出てきている反面、問題点も出ている。それぞれ解析して抜き出したリストが膨大で、それをこなしていかないとクルマは速くならないことを分かって、全員が、早く作って間に合わそう、というムードになっています。
--ボディ形状が変化なく見えるのは、黒いカラーリングのせいでしょうか?
中本 どうでしょう?
--2月26日にロンドンで発表されるカラーリングは、スケッチとか見ましたか?
中本 色でクルマが速くなるわけじゃないですけど(笑)、開幕戦から頑張りますので、応援して下さい。
(Masami Yamaguchi/MYS)