【ブリュッセル福島良典】欧州連合(EU)の行政府・欧州委員会は29日、児童ポルノを含む未成年者への性犯罪や、人身売買に対する取り締まりや刑罰をEUレベルで強化する法案を加盟27カ国に提示した。EU域外への児童買春ツアーの客も刑事訴追するよう求めている。EUは昨年12月に発効した新基本条約「リスボン条約」の下、加盟国の権限が強かった司法分野でも統合を進める計画になっており、その先駆けとなる。
法案は、これまで加盟国ごとにばらばらだった摘発や訴追の足並みをEUレベルでそろえるのが目的。法案は(1)児童ポルノを載せたサイトにEU域内から接続できないようにする(2)児童買春ツアーの参加者をEU加盟国に帰国次第、刑事訴追する(3)成人を含めた人身売買の刑罰を最低禁固5~10年とする--などの内容。加盟国の多数決による賛成と欧州議会の承認を経てEUの法律になり、各国は、これに準拠した国内法整備を進めるよう求められる。
欧州委員会によると、欧州では、子供10人のうち推定で1~2人が性的虐待を受けているという試算がある。児童ポルノをはじめ、未成年者に対する性犯罪は増加傾向にあるという。
また、EU域内には毎年、推定で数十万人の人身売買被害者が流入している。東欧諸国がEUに加盟した結果、東欧から西欧へという域内での人身売買も目立ち始めた。
欧州委員会のマルムストローム委員(内務担当)は「児童ポルノは表現の自由にはあたらない」と述べ、加盟国に承認を促した。
EUではこれまで、加盟国によって制度や手続きの異なる警察・司法分野は政府間協力にとどまってきたが、リスボン条約では段階的にEUレベルへの統合を進めることになっている。条約によってEUの意思決定は従来、全会一致だった分野にも多数決が導入されており、今回の法案も、一部の国が反対しても多数決で承認される。
北欧や英国、イタリアなどはすでに国内から児童ポルノのサイトに接続できない措置を導入しているが、ドイツでは「効果的でない上、検閲につながりかねない」として反対論が強い。法案では、写真やビデオ映像などが規制対象で、東京都議会で規制論議が行われている漫画やアニメは含まれない。
欧州では最近、カトリック教会の聖職者による未成年者への性犯罪が相次いで明るみに出て、社会問題になっている。
毎日新聞 2010年3月30日 19時02分(最終更新 3月31日 0時08分)