2010年4月22日0時3分
鳩山政権の普天間飛行場移設をめぐる迷走ぶりはやや度を過ぎてきた。前自民党政権もそれほどほめられたものではなかったので民主党だけを責めるわけにはいかないが、このところの混乱はひどすぎないか。解決策を持って進めているとはだれにも思えない。移転候補の噂(うわさ)になった島で、基地はいらないと叫ぶ母親、女子高生たちの声は切実であり同情を禁じえないが、その声を発するとき同じ基地を抱える沖縄の同世代の悩みは眼中にない。
混乱が増す一方なのは、この移設問題を解決するための旗印が、不鮮明だからである。鮮明にすべきは、例えば第1に我が国と極東の安全保障のための機能維持であり、第2に半世紀以上にわたり一方的に強いてきた沖縄県民への負担の軽減といった原則を掲げることである。リーダーなら基本原則を繰り返し説き、国民的議論を巻き起こすべきだ。「腹案がある」でごまかしてはいけない。
健康保険などで、強硬な反対の矢面にたってもオバマ米大統領自身が基本原則を常に国民に問いかけることを継続してきた。利害を前面に出した反対論に対しては、この基本原則によってその正当性を十分に議論し、判断できる。
「基本と原則を明確にできない、あるいはそれから逸脱した企業は早晩破綻(はたん)する」とは、ドラッカーの言葉である。企業でなくても混乱の中では、立ち返るべき基準を明示することが解決の第一歩。実はこの問題は現政権の経済政策にも共通している。成長戦略がないと言われて作られたいくつかの政策間には、基本原則の議論が不十分なため整合性がない。「生命を守る」というだけでは不鮮明である。これでは成長どころか政権維持も不可能だろう。(龍)
◇
「経済気象台」は、第一線で活躍している経済人、学者など社外筆者の執筆によるものです。