第7章 胸部・腹部



  1. 胸部単純撮影

     1.胸部立位正面撮影

        
    [胸部立位正面撮影]

    [胸部立位正面(PA)像]

     2.胸部正面像

     X線像の特徴としては、
     (a)左心室は左第4弓として描出される。
     (b)上大静脈は右第1弓、右心房は右第2弓として描出される。
     (c)大動脈弓は右上肺野の縦隔側にあり、気管分岐部より頭側にある。
     (d)気管分岐部は第4〜6胸椎の高さにある。
     (e)両上肺に鎖骨が重なる。
     (f)胸鎖関節はPA正面像では背面第4肋骨基始部に描出される。
       などがある。

     心臓のX線写真正面像において、その辺縁が通常見られないのは右心室である。
     胸部単純X線写真の適正濃度範囲は濃度1.2を中心として0.7〜1.8である。
     肺野の平均濃度は1.5程度である。
     毛髪線は肺葉と肺葉の間隔が陰影として描出したものである。
     横隔膜は吸気時には低位となり、肝腫大では右横隔膜が挙上する。
     肺門陰影(肺紋理)は黒い肺野に白く紋様を描く様であり、白くなるのは肺泡より密度の高い血管部分で、主なものは肺動脈と肺静脈である。
     気管支異物の診断には呼気・吸気の撮影が役立つ。
     気胸の診断には呼気撮影が役立つ。
     胸部X線写真正面像において左右の肺野の明るさに差がある場合に考えられる原因は肺や胸膜の病変、胸壁の厚さの相異、整位不良、X線束中心のずれなどである。
     シルエットサイン(silhouette sign)は、胸部単純写真の正面あるいは側面像で、縦隔の陰影が一部消失しているときに陽性とする所見である。
     エアブロンコグラム(air bronchogram、気管支空気像)は、気管支が水濃度の物質で取り込まれた状態で、病変が肺内のものであることの証明になる。

     3.胸部背臥位正面撮影

     胸部背臥位正面撮影では、立位後前像と比べて、心臓の形や大きさが横に広がり全体的に大きくなるので、正常でも心陰影は大きくなる。
     また、肺野は狭く投影され、横隔膜の位置が高くなり、胃泡は不明瞭となり、肩甲骨は肺野に重なり除去されにくい。
     病室ポータブル撮影による胸部正面は背臥位正面撮影(A→P方向)を行う。
    [胸部側面撮影]

     4.側面撮影

     側面撮影の体位は両上肢を上方へ挙上しそろえる。
     側面像では右横隔膜が上方に描出される。

     5.斜位撮影

     肺野内の病変が目的の斜位撮影では、病巣の位置により目的部描出にあった角度(45゚〜60゚)が選択される。
     心疾患のRAOでは、撮影体位は45゜斜位とする。
     第1斜位でホルツクネヒト腔が描出される。
     第2斜位で大動脈窓が描出される。
       
    [第1斜位撮影(RAO)]     [第2斜位撮影(LAO)]

     6.心臓検査

     心臓検査目的の胸部撮影では、立位正面像、左側面像、右前斜位食道造影、左前斜位撮影が通常行なわれる。
     心胸郭比(心肺係数)は立位正面の映像から求められる。

     7.胸部高圧撮影法

     胸部高圧撮影の特徴は高圧による透過力の増加によりコントラストが低下して、肋骨影や石灰化が淡くなり、肺内陰影が見えやすく、心陰影に重なった肺野の観察もできる。
     これらの理由により診断域が拡大する。
     また、骨髄線量が減少する。
     肺野とともに、縦隔陰影をよく描出させる方法には、補償フィルタの活用、高圧撮影の適用がある。
     気管支部の観察には高圧撮影を用いる。
     胸部のフィルムは肺野のみを診断する場合には、高コントラストタイプであるが、縦隔をも診断する場合には高コントラストタイプは不適となる。

     8.その他

     胸部正面・側面・斜位の体位では障害部位の除去は上肢帯の運動機能が利用される。
     同一患者の経過観察ではできる限り同じ濃度とコントラストを保つことが重要である。

  2. 肺尖撮影
     肺尖撮影法は立位正面像に見られる鎖骨に重なる肺病変を最も良く描出する撮影法で、撮影方向は背腹方向と腹背方向がある。

     1.Flaxmann法と脊椎後彎法

     Flaxmann法や脊椎後彎法は肺尖部の撮影法であり、体位は、立位で上半身を30゜後傾し、肺尖部をフィルムにつける方法である。
     上部肋骨が平行となるので肋間が広くなり、肺尖部がよく描出される。
     Flaxmann法、脊椎後彎法は鎖骨を肺野より上に描出する方法である。
    [Albers-Schonberg法]

     2.アルバース・シェンベルグ法

     アルバース・シェンベルグ(Albers-Schonberg)法は鎖骨を肺野の中に描出する方法である。
     図はアルバース・シェンベルグ法によるX線像である。
     体位は、頭部を20゜挙上させた半臥位で、中心線は頭側30゜で胸骨上縁に向けて入射する。

  3. 腹部単純撮影
     
       
    [腹部単純像]     [KUB像]


    [胸部側臥位正面像]
  4. 側臥位正面撮影法(デクビタス)
     側臥位正面撮影法が有効な疾患は胸水、腹腔内遊離ガス(消化管穿孔)、消化管閉塞である。
     側臥位正面撮影の頻度が高い部位は胸部、腹部である。
     腹部左側臥位正面撮影では、ポジショニング後、腹腔内遊離ガスが肝臓と腹膜の間に貯留するまで時間を置いて撮影する。
     右肺の胸水の確認には、検側を下にした右側臥位正面撮影を行う。
     また、少量の気胸の場合は患側を上にする。

  5. 小児胸部撮影
     呼吸は小児でも大人と同様に吸気で撮影するが、一般に深呼気、深呼吸時では撮影しない。

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    2009年4月作成