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文部科学省に「おんぶに抱っこ」だった全国一斉のテストから、地域ごとの主体的な学力向上の取り組みへ。おととい行われた全国学力調査は、その一歩になるだろうか。
算数・数学、国語のテストを小6と中3の全員が受ける方式から、今回は選ばれた学校だけに変わった。約3割という抽出率は、都道府県ごとの学力水準が誤差なくつかめるようにと、はじき出された数字だ。
ところが競い合いと横並びの意識からだろう、全校実施を望む自治体が相次いだ。文科省から問題用紙だけを受け取った「希望参加」を合わせ、4校に3校が何らかの形で実施した。
独自採点が必要になったことや、費用負担をめぐり、不満の声も出ている。何のために学力を調べるのか。目的に合うのはどんな方式か。政府が受け持つべきことと、地方が取り組むべきことは何か。改めてその整理をしなければなるまい。
学習の成果を客観的に測り、学力の向上や授業改善につなげる。各地域の学校現場に意識の変化が現れているのは、これまでの調査の効果だろう。
その変化を根づかせるためには、教育委員会や学校がもっと主体的に取り組んでほしい。全国調査の結果はわかるまで何カ月もかかる。地域単位でテストをして分析すれば、学力状況を早くつかんで授業を組み立て直したり、先生の配置や予算配分に生かしたりできるはずだ。
全国調査が抽出に変わったことで、都道府県で独自の学力テストを計画する教委もある。文科省は問題作成や分析のノウハウを提供し、側面支援してはどうか。日本の子どもが苦手とされる「活用力」をどう測り、どう伸ばすか。現場の先生も研究してほしい。
いま、子どもをめぐる施策は激変しつつある。子ども手当の支給は学習環境や学ぶ意欲にどんな影響を及ぼすか。検討されている先生の増員を、どう学力向上につなげるのか。来春から小学校は「脱ゆとり」の教科書に切り替わる。詰め込みの弊害はないか。
そうした教育政策を検証し、新たな課題を見つけ出すために、全国での調査は必要だ。サンプル数と狙いを絞った調査を組みあわせ、時系列での学力の変化もくみ取れるようにする。文科省はそんな制度設計をしてほしい。
全国調査で上位を占める秋田県や福井県の学校には、各地から視察が相次いだ。先生たちが他県と学び合うことは、いい刺激になっている。
地域の教育力の相対的な位置を知るため、都道府県間の比較ができるような調査を5〜10年程度の間隔で実施することには、意味がありそうだ。
これまでの調査で浮かび上がった日本の教育課題を分析し、大きな方向を示す。文科省の答案も見たい。
「4年間は消費税を上げない」として、増税の検討すら避けてきた鳩山由紀夫首相の論法が通用しなくなってきた。それを正直に認め、将来の消費税引き上げと税収の使途を夏の参院選の争点にしてもらいたい。
増税を封印する根拠について首相らは昨年まで「特別会計も含めた歳出の見直しで数兆円の財源を生み出せる」などと語っていた。だが、そんな声はもはや聞かれず、増税に前向きな発言が目立ってきた。
とりわけ副総理兼財務相の菅直人氏の積極発言は重い。「増税しても、使い道を間違えなければ景気が良くなることを部下たちに検証させている」と講演で述べたのである。
仙谷由人・国家戦略相も記者会見で「歳入改革を掲げて選挙をしなければ国民に失礼になる」と語った。
増税を伴う改革に正面から取り組もうという意気込みを買いたい。
参院選を控えて、民主党内には強い反発がある。小沢一郎民主党幹事長は「半年前の国民との約束を変える方が変」だと会見で述べた。
だが、子ども手当の導入などで歳出の膨張に拍車をかけながら、将来の財源の手当てすら考えないというのでは、怠慢に過ぎる。
1994年に非自民の細川連立政権が打ち出した国民福祉税構想を実質的に主導した小沢氏には、それがよく分かっているはずだ。
増税をいつまでも封印してはいられない。医療や介護、保育などを支え、教育を充実するには財源が足りない。政府の借金は今は大半が国民の資産でまかなわれているが、やがて国内だけでは回らなくなる。
社会保障や教育の財源を確保し、財政を持続可能な状態に立て直すため、納税者に負担増を求める税制の抜本改革に取り組むことは、どんな政権にとっても逃げられない課題である。
歴代の自公政権は「歳出削減が先」「景気にマイナス」などとして、増税の先送りを続けてきた。鳩山政権もまったく同じだ。菅氏の姿勢は、その大転換につながる可能性がある。
菅氏がよって立つ考え方は、「増税しても、集めたおカネを雇用が拡大するように有効に使えば景気は良くなる」というものだ。
医療や介護、環境など需要がますます増える分野で雇用の創出を促す。そのために増税で得られる財政資金を投じる。デフレ脱却をにらんで、そういう方法を採るなら景気を失速させずにすむ可能性はあるだろう。それが財政再建の一歩にもなる。
所得税や法人税も含めた税制改革の全体像をいかに描くか。増税分をどう使うのか。政党間で競い、国民に信を問うべき大事な課題だ。それを忘れた選挙は、無責任ではあるまいか。