2010年4月20日(火) 東奥日報 天地人



 鳩山由紀夫さんは優柔不断で何を考えているのかわからない宇宙人か。「違う。名門スタンフォード大で博士号をとった正真正銘の学者。日本の政治史上まれにみる知識人宰相だ」と元外務省主任分析官の作家佐藤優さんはいう。

 鳩山博士は、与えられた条件の中で最も効率的な態勢を築くオペレーションズ・リサーチ(OR)の専門家。ロシアの天才数学者マルコフの確率理論に基づき「どのタイミングで決断するのが最も有利か」を研究してきた。その力量を佐藤さんが「本の窓」(小学館)の連載「勉強術」で紹介している。

 第2次世界大戦で劣勢の英国がドイツを撃退したのは、自国の欠陥を修正しながら最大の力を導き出したORの勝利だった。鳩山政権の事業仕分け哲学も同じ。国家の部品の総取り換えはできないので、不具合個所を整理し、故障部品である官僚を異動させ、構造改革を進める。

 普天間問題では日米同盟を最大限に強化するという目的関数を設定する。これに沖縄の人々の反発、米国の反発、中台関係、米朝交渉、小沢問題といった制約条件を組み込んだ方程式を立て、時間とともに変化する事態をにらみながら最適解を探ろうとしている。

 「足して2で割る」永田町の算数に慣れきったジャーナリストに微分方程式は理解できないのだ、と佐藤さんはいう。だが、議論の平行線を交わらせようとするのは高等数学をもってしても難しい、と算数あたまは考えてしまう。決断の大家が解を出せずにもがいている。


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