まず、積立金からの運用収入を無視しよう(なお、2009年の運用収入は2.1兆円である)。

 また、受給者・加入者は、財政検証の数字をそのまま用いることとしよう(つまり、受給者・加入者比率の変化や就業構造の変化などは考えないこととする)。そのうえで、デフレ効果だけを考えることとしよう。

 ここでは、賃金は毎年0.5%ずつ低下するとしよう。財政検証では2.5%の上昇とされているので、3%の差がある。この累積効果によって、保険料収入が、10年後には財政検証の数字の73.7%、20年後には54.4%に減少する。つまり、財政検証で示されている額に比べて、10年後には約4分の3、20年後には約半分にしかならないわけだ。

 具体的にはつぎのとおりだ。2020年における保険料収入は36.9兆円とされているが、これが27.1兆円にしかならない。つまり、9.8兆円だけ少なくなる。2030年における保険料収入は44.5兆円とされているが、これが24.2兆円にしかならない。つまり、20.3兆円だけ少なくなる。

 想定との乖離が時間に比例して拡大してゆくと近似すれば、現在から2020年までの保険料の累積減収額は49兆円に及ぶ。2030年までをとれば、203兆円の累積減収額となる。

 ところで、現在の積立金残高は、144.4兆円である。したがって不足分を積立金の取り崩しで賄ってゆくとすれば、2020年時点で積立金は3分の2程度に減少し、2030年までのどこかの時点でゼロになるはずである。つまり、厚生年金制度は今後20年間さえ継続することができず、それまでのどこかで破綻するわけだ。

 ここでの想定の場合には、2030年時点における収支は、つぎのようになる。保険料収入が24.2兆円、国庫負担が10.4兆円。これに対して、支出は52.3兆円。したがって、差し引き赤字が17.7兆円。積立金残高は、これより前にゼロになっているので、2030年より前に、支出を収入で賄えない状態になり、財政が破綻しているはずである。

 このように、「賃金が2.5%ずつ上昇」という仮定を外してしまうと、結果は財政検証とは大きく違ってくる。積立金が500兆円を超えるどころではなく、枯渇してしまうのだ。

 ところで、ここ数年の予算編成では、「埋蔵金の活用」という手法が使われた。埋蔵金は枯渇したと言われるのだが、2011年度予算は、2010年度と同じような厳しい財源問題に直面する。他方で増税はほぼ不可能だ。こうした状況を考えると、年金積立金が埋蔵金として利用され、取り崩される恐れがある。

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野口悠紀雄 [早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授]

1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。主な著書に『「超」整理法』シリーズ、『資本開国論』『モノづくり幻想が日本経済をダメにする』等がある。 野口悠紀雄ホームページ

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